漫筆日記・「噂と樽」

寝言のような、アクビのような・・・

踊る死体・中村亀鶴

2016年01月29日 | テレビ 映画 演芸
先日、芝居見物に行ってきましてね、
演目が三本あって、その最後の外題(げだい)が、「らくだ」。

江戸時代のラクダは、遠い外国から来た見世物ですからね、
大きな体のくせに、のそのそしてちっとも働かない、と云うイメージがあった。

舞台となる裏長屋に住む宇之助は、あだ名が「らくだ」。
つまり、怠け者、その上、買い物してカネも払わず、たかってばかり、

だから長屋中の嫌われ者、

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フグにあたって頓死したらくだの宇之助を弔うため、
遊び人仲間の熊五郎は、大家に酒と肴の無心をしますが、

「家賃も払わなかったヤツに出せるもんか」 と断られてしまいます。

そこで熊五郎は、宇之助の遺骸を使うことを思いつき、
いやがる紙くずやの久六を使って、大家を脅し、

まんまと酒をせしめますが・・・・・・

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原作は、初代の桂文枝、上方落語の名作です。

で、この「らくだこと宇之助」を演じるのが、中村亀鶴さん。

なにしろ、外題にもなってるぐらいですからね、
幕開きから終いまで出ずっぱり、・・・・・

処が、ひと言もセリフがない。

なんとならば、
幕が開いた時には、すでにフグにあたって死んだあとだから。

つまり、亀鶴さんは、
はじめから終いまで舞台に出てるけど、それは「死体」として。 (笑)

だから、セリフの有ろうはずがない。
処がこの死体、立ったり座ったり、果ては踊ったり、寄りかかったり、

実に、よく動く。

もちろん、死体のことですからね、自分で動くのではなく、
宇之の友達、熊五郎の指図で、恐喝に使われるだけなんですけどね。

とは云え、文楽の人形じゃないんですから、
使う方の人間に使われていると見せかけて、

鶴亀さん、実は自分で動いてる。

つまり、セリフはないけど、
ケッコウ技術を要するんです、この役は。

死体ですからね、
立たされても、あっちへヨロヨロ、こっちへヨロヨロ、

文句を言う大家に寄りかかって脅すは、
座ってる因業婆あのおかみさんにのしかかって行くは、大暴れ、

そのたんびに客席は、
自分に死体がもたれかかって来たかのような悲鳴、歓声、

さらには笑いの渦。

果ては、死体がカンカンノーを踊らされる場面では、
客席から盛大な手拍子が湧いてました。

亀鶴さん、演じていて気持ちよかったと思いますよ。

それが証拠に、
芝居が終わって幕が半分閉まったあたりで、

死体のはずの亀鶴さん、
後ろから熊五郎役・愛之助さんの手首をつかんでバイバイさしてた。 (笑)

マ、千秋楽でしたからね。





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