毎日カーテンを開けると、レモン色のチューリップが、揺れている。
9才の時、学校の朝礼前。
茶色いレンガの花壇に咲いた、あか・しろ・きいろのチューリップを眺めていたら、職員室から出てきた担任の先生が、トントンとつま先で地面をけって白い運動靴をなじませながら、お花越しにかがんで、「Aさんは、何色が好き?」と、尋ねられた。
隣の花壇には、パンジーがあふれていて、わたしはそれらをぐるっと見回し、一番好きな「うすむらさき」と答えた。
(今、こうやって書いていてふと、先生は、チューリップの色を聞かれたのかもしれない。と思った。
思ったけれど、その場の空気はほんとうのところわからないし、今では確かめようがないわ。。)
「Aさんにぴったりねぇ。じゃあ、先生は何色かな?」とニコニコされたので、わたしはちょっとドキッとし、ピンときた「きいろ」と言ったら、「そっかあ、せんせいはきいろかぁ!」と、パーッとチューリップが開くようにほほ笑まれ、朝礼開始のチャイムが鳴った。
ふっくらとして丸いめがねをかけた、おかっぱ髪の先生の方へ花壇を回って行きながら、わたしはなんだか満ち足りて、ほこほこしていた
レモンが木に生っているのを初めて見たのは、イタリアのソレントだった。
ナポリからフェリーでナポリ湾を南下し、港からてくてく崖の上へ坂道を上っていった。
日本からネットでホテル予約だけをして、ホテルホームページの簡単な地図を頼りに、行けばわかるさ。という行き当たりばったり南イタリア道中だったから、予想外はふつうのことで、その日も坂は思いのほか急だった。
スーツケースを引っ張っていくつ角を曲がっても、灰色の石畳はまだまだ続いていて、だんだんせつなくなってきた。
「あぁ、なんでひとりでこんなとこ来ちゃったんだろ~」と、そんな時きまって心細くなった。
次の曲がり角でひと休みして上着を脱ぎ、今来た港の写真を撮った。
ともだちにメールを送ったら、すぐに返事が届いた。
海風が汗ばんだ首筋をなでていき、あぁ、また歩かれそう。と思った。
いつだってその時は、真剣に困ったり途方に暮れていたりしているのだけど、ほんとうは迷ったり、見つけたり、あのヒンヤリしたさみしささえも感じてみたり、とにかくなんでも知ってみたかったのかもしれないと思う。
ようやく上り詰めようとする坂の向こうに、広場が見えてきた。
そこもまた想像以上に賑やかで、突然、大道具を下げて舞台に上がってしまったみたい。
カフェテラス、ピザを囲む人びと、ベンチ、盛大な陽ざし、そして。。レモンの生る木!
はぁ~。と側のベンチに腰かけて、鮮やかな果実の下の空気をた~っぷり、吸い込んだ。
通りには、レモン石鹸のお土産屋さんが連なる
ホテルのレストランからも、中庭のレモンの木が見えた。
翌朝のモーニングには、白い肌、黒い肌の中に、アジア人のカップルが一組だけいた。
彼らは、満ち足りた表情で食後のカップを置くと、中庭へ続くガラスの扉を開け、お互いの腰に手を回し合い、その木立の横を、ぴったり寄り添い帰って行った。
わたしは、カレンダーの写真で一目惚れしたアマルフィ海岸とポジターノへ向かった。
バスに乗ると、窓のすぐ先にレモンの街路樹が続いていて、濃い緑とぷっくり大きな実に触れそうだった。
アマルフィ海岸にも、
店先にレモンマン!
お土産のクロスも、レモン模様
暖かくなるのを待ちながら目にするレモン色のチューリップは、あの日の海風みたいだな、と思う。
かうんせりんぐ かふぇ さやん http://さやん.com/
9才の時、学校の朝礼前。
茶色いレンガの花壇に咲いた、あか・しろ・きいろのチューリップを眺めていたら、職員室から出てきた担任の先生が、トントンとつま先で地面をけって白い運動靴をなじませながら、お花越しにかがんで、「Aさんは、何色が好き?」と、尋ねられた。
隣の花壇には、パンジーがあふれていて、わたしはそれらをぐるっと見回し、一番好きな「うすむらさき」と答えた。
(今、こうやって書いていてふと、先生は、チューリップの色を聞かれたのかもしれない。と思った。
思ったけれど、その場の空気はほんとうのところわからないし、今では確かめようがないわ。。)
「Aさんにぴったりねぇ。じゃあ、先生は何色かな?」とニコニコされたので、わたしはちょっとドキッとし、ピンときた「きいろ」と言ったら、「そっかあ、せんせいはきいろかぁ!」と、パーッとチューリップが開くようにほほ笑まれ、朝礼開始のチャイムが鳴った。
ふっくらとして丸いめがねをかけた、おかっぱ髪の先生の方へ花壇を回って行きながら、わたしはなんだか満ち足りて、ほこほこしていた
レモンが木に生っているのを初めて見たのは、イタリアのソレントだった。
ナポリからフェリーでナポリ湾を南下し、港からてくてく崖の上へ坂道を上っていった。
日本からネットでホテル予約だけをして、ホテルホームページの簡単な地図を頼りに、行けばわかるさ。という行き当たりばったり南イタリア道中だったから、予想外はふつうのことで、その日も坂は思いのほか急だった。
スーツケースを引っ張っていくつ角を曲がっても、灰色の石畳はまだまだ続いていて、だんだんせつなくなってきた。
「あぁ、なんでひとりでこんなとこ来ちゃったんだろ~」と、そんな時きまって心細くなった。
次の曲がり角でひと休みして上着を脱ぎ、今来た港の写真を撮った。
ともだちにメールを送ったら、すぐに返事が届いた。
海風が汗ばんだ首筋をなでていき、あぁ、また歩かれそう。と思った。
いつだってその時は、真剣に困ったり途方に暮れていたりしているのだけど、ほんとうは迷ったり、見つけたり、あのヒンヤリしたさみしささえも感じてみたり、とにかくなんでも知ってみたかったのかもしれないと思う。
ようやく上り詰めようとする坂の向こうに、広場が見えてきた。
そこもまた想像以上に賑やかで、突然、大道具を下げて舞台に上がってしまったみたい。
カフェテラス、ピザを囲む人びと、ベンチ、盛大な陽ざし、そして。。レモンの生る木!
はぁ~。と側のベンチに腰かけて、鮮やかな果実の下の空気をた~っぷり、吸い込んだ。
通りには、レモン石鹸のお土産屋さんが連なる
ホテルのレストランからも、中庭のレモンの木が見えた。
翌朝のモーニングには、白い肌、黒い肌の中に、アジア人のカップルが一組だけいた。
彼らは、満ち足りた表情で食後のカップを置くと、中庭へ続くガラスの扉を開け、お互いの腰に手を回し合い、その木立の横を、ぴったり寄り添い帰って行った。
わたしは、カレンダーの写真で一目惚れしたアマルフィ海岸とポジターノへ向かった。
バスに乗ると、窓のすぐ先にレモンの街路樹が続いていて、濃い緑とぷっくり大きな実に触れそうだった。
アマルフィ海岸にも、
店先にレモンマン!
お土産のクロスも、レモン模様
暖かくなるのを待ちながら目にするレモン色のチューリップは、あの日の海風みたいだな、と思う。
かうんせりんぐ かふぇ さやん http://さやん.com/