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トーキング・マイノリティ

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愛の勝利を ムッソリーニを愛した女 09/伊・仏

2012-09-13 21:10:20 | 映画

いくら愛しても足りなかった。何度裏切られても愛し続けた」が、この映画のコピー。ムッソリーニをめぐる女たちと言えば、この作品にも登場した正妻のラケーレよりも、彼と死を共にし、広場に逆さづりにされた愛人クラレッタ・ペタッチの方が一般には知られている。イタリアの権力者らしく女性関係が派手だったムッソリーニだが、この作品で初めて彼に全てを捧げた果て、その存在を抹殺されたイーダ・ダルセルという女がいたことを知った。この映画を紹介したサイトに載っているあらすじは次のとおり。

20世紀前半、イタリアに独裁政権を築き、歴史上ヒトラーと並び称される独裁者ベニート・ムッソリーニ(フィリッポ・ティーミ)。その陰には、イーダ(ジョヴァンナ・メッツォジョルノ)という一人の女性の存在があった。熱心な社会主義者だった若きムッソリーニと恋に落ちたイーダは、全財産を投げ打って彼の理想の実現のために尽くす。身も心もすべてを捧げたイーダは、やがて彼の子供を産む。
 だが、この時初めて、ムッソリーニがすでに家庭を持つ身だったことを知る。自分が彼の妻であり、息子がムッソリーニの長男であることを認めさせようとするイーダ。

 だが、イタリア国内でムッソリーニの支持率が急上昇していく過程で、彼女は危険人物として排除されようとしていた……。やがてファシストへと転向してゆくムッソリーニ。最愛の人から裏切られながらも人生を賭けて、信念を貫きとおすイーダの波乱に満ちた人生。歴史の闇に葬られた、愛の物語がいま明らかになる。

 映画の初め、若き日のムッソリーニが無神論をぶつシーンがある。後にファシスト党を結成する彼も、若い頃は社会主義活動家であり、社会主義者の集会で、神の存在を否定する演説をしている。wikiには無神論者・反教会主義者としての当時の彼の発言が載っている。
神など居るわけもなく、キリストはただの馬鹿で精神異常者であった事は明らかだ。
宗教を信じる人間が頼るべきは教会ではなく精神科であり、キリスト教は人を怠惰にしただけだ。

 さらにムッソリーニは、「宗教の中でも特にキリスト教が最も堕落した宗教であり、「それに比べればイスラム教はまだ合理的で優れた部分がある」と閣僚に語っている。また「教会はイタリアの癌細胞であり、いずれは引き摺り出さねばならない」とも語っていたという。だがこれらの発言は非公式な物に留まり、公ではこうした発言は控え続けていた」(wiki)とか。
 ローマ法王が長く君臨してきたイタリアにあって、カトリック教徒の支持を得ずには権力者になれないこともムッソリーニは弁えており、抜け目なく教会への懐柔政策もとっている。教会との交渉の結果、ラテラノ条約が結ばれ(1929年)、「バチカン市国」がイタリア政府から政治的に独立した区域となることを認めた。

 イーダは全財産を投げ打ってまでムッソリーニに尽くしたが、男が言葉巧みに貢がせたというよりも、女の方が自ら資金を提供したのだ。愛する人を助けたいとの想いで。まもなくイーダは息子アルビーノを産むが、そのことが返ってムッソリーニとの関係が破綻する原因になったとしか思えない。

 ムッソリーニが自分から離れることに耐え切れなくなったイーダの行動は次第に常軌を逸するようになり、彼のいる所を問わず押しかけ、付きまとうようになる。彼が仲間と部屋で会議中でも、外から大声で彼の名を呼び、幼い息子を掲げる。スキャンダルを恐れたムッソリーニにより彼女は精神病院に隔離収容されることになるが、不当な拘禁だけでなく実際に精神を病んでいたのではないか?イーダの義弟は他の男とやりなおすことを勧めたが、頑として聞き入れない。これならば、たとえムッソリーニが権力者ならずとも、破滅の道を歩んだと思う。

 哀れなのは息子のアルビーノ。認知は拒んでもムッソリーニは養育費は払っていたようだが、母の影響を受け息子も情緒不安定となり、イーダが病院に収容されて以降は天涯孤独の身でそれが進行する。息子の方もやがて政府の監視下に置かれ行動の自由を奪われた。
 イーダは1937年11月、収容先の病院で脳出血で死亡、享年57歳。アルビーノも精神病院で1942年に病死するが、26歳の若さだった。

 映画のチラシに「独裁者を愛した女の烈しい半生」の文句があった。その烈しい愛が自らを滅ぼしたように思えたのは、男に全てを捧げるまでの恋愛体験が私にはないためか?おねだりをしたがる凡人の女には全財産を投げ打つ気負いは理解できない。他人を信用せず、常に孤独だったと言われるムッソリーニだが、生涯を通じて慕う女には不自由しなかったようだ。
 この作品で伊女優ジョヴァンナ・メッツォジョルノの名を初めて知ったが、イーダ役で数々の主演女優賞を取ったのも納得できる演技だった。



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