【スポイト】昔は万年筆というものがあって、ゴム球のついたガラス管のスポイトを用いて、インクを補充していた。やがてスポイト内蔵型になり、ついでカートリッジ式になり、今は万年筆を使う人を見かけなくなってしまった。
スポイトはもう化学実験でしか使われていないかも知れない。
ジョロウグモの触肢が本当にスポイト構造をしているのか調べてみた。
前庭にあるジョロウグモの巣になんと4匹もオスがいた。ここのメスは大きくてひときわ色が鮮やかだ。2m位離れたところに別のやや小型のメスが巣を張っているが、あまり目立つ色ではない。クモは雌が極彩色を呈して、オスを呼ぶようだ。1匹もオスが寄ってこないのはブスだからか。
オスを観察すると、何だか頭部前端に黒い球が一対見える。(添付2)
4匹のうち2匹を35ミリフィルム用のプラスチック・ケースに採取した。そこにエタノールを少々入れてある。痲酔・固定剤である。
さてUSB顕微鏡を使おう、と思ったが前使ったのが1年も前で、操作法を忘れていた。いろいろトライして、結局旧いMAC-OSのノートパソコンに接続していたことがわかったが、MACBOOK-PROに接続しても上手く行かない。画面の前回撮影した画像フォルダーがあるので、これにソフトがあるのは間違いない。思い切ってリセットしたら、CAPTUREというソフトが起動し実体顕微鏡画像が出てきてほっとした。
体長3mmほどの小さい方のオスをまずピンセットでつまみ出して、観察した。
確かに頭の先に黒い目玉のようなものがあり、そこからくちばしのように尖った針状物が突き出している。(添付3)
これが触肢末節が変形してできた、「生殖球」と「移精針」である。この辺りになると、1mm以下になり、肉眼の解像度0.1mmに近づくので目ではよく見えない。
苦労して目を凝らし、まず脚をはずし、ついで頭胸部を離断した。こうすると脚に邪魔されず、頭部だけを拡大できる。大きさは0.5mm位になった。時計用ピンセットでやっと操作できる。顕微鏡の箱には2~200倍とあるが、実際には20倍の性能しかないことは前に確認した。
脚がなくなったので、頭部が容易に回転できるようになり、斜め前からの像を撮影できた。よく見ると薄黄色の触肢が、先端に黒いスポイトを握っているように見える。
触肢の末端がお椀状になっていて、ここに黒いスポイトがはまり込んでいるように見えるが、お椀状の部分は末節の一部で、オスでは発達過程で末節の一部がスポイトになり、残りが生殖球になるそうだ。(添付4)
生殖球の内部も、きわめて複雑かつ精密にできているらしいが、本物の実体顕微鏡がなければ、顕微解剖は無理だ。
これでオスがメスの2つある生殖口に移精針の先の細い部分を深く差し込んで、精子を注入することは納得できた。驚いたことに、生殖球(bulbus)を受ける毛が生えた黄色の碗状構造にTarsus(足根骨)という名前がついている。それに続く腕状の部分はTibia(脛骨)と呼ばれている。
オスは移精針をメスに差し込んだ後、体を前にずらして脛骨と足根骨を折り曲げれば、ちょうどスポイトのゴム球を圧迫するように、黒い生殖球に内圧がかかり、精液はメスの受精管に注入されるわけだ。
眼は単眼で、写っている範囲では上段が2個、下段が4個である。
Tarsusとかtibiaという名称は最新のシカゴ大学生物学教科書R.F.Foelix「Biology of spiders」を見ても変わっていないから、恐らく内骨格動物である人間の場合と相同の遺伝子が支配しているのであろう。
クモの交尾姿勢を見ていて、「これはミミズとあまりかわらないな」と思った。無脊椎動物の場合、交接器が体の前方ないし頭部にあるものは珍しくない。
トンボはメスの交接器官は首の後にあり、オスのそれは尻尾の先にある。バッタは雌雄とも尻のところにある。オンブバッタはその典型だ。
恐らくジョロウグモは立体網を張るので、前胸部腹側にある雌性口に対して、オスが尾部にある精液を一旦「精網」に分泌し、それを触肢が変化した生殖球に吸い取り、精針を差し込んで注入するという特殊な交接様式が成立したのではないかと思う。
日本語と英語の参考書を何冊か読んだが、「生態系を守れ」とか「自然破壊を許すな」とかの声が高いわりには、種の永続には「生殖」つまり交尾と産卵が不可欠であり、それにはオスとメスの生殖器官が合致可能なことが前提となる、という生物学の基本則が認識されていないと思う。オスとメスが合致しないと、その種は滅びるか、もし別の種のオスまたはメスのそれと合致すれば新種が誕生する。オサムシの多様化はそうして生じた。
毎年、何千何万の種が滅びているといい、「絶滅危惧種のリスト(レッドブック)」も作成されているが、あれは個体数が減少している種をリストアップしただけで、生殖機構が特殊であるか、生殖生態学的にどのような特性があるかを示したものではない。
「性の比較生物学」というような本を探して、少し勉強してみたくなった。
スポイトはもう化学実験でしか使われていないかも知れない。
ジョロウグモの触肢が本当にスポイト構造をしているのか調べてみた。
前庭にあるジョロウグモの巣になんと4匹もオスがいた。ここのメスは大きくてひときわ色が鮮やかだ。2m位離れたところに別のやや小型のメスが巣を張っているが、あまり目立つ色ではない。クモは雌が極彩色を呈して、オスを呼ぶようだ。1匹もオスが寄ってこないのはブスだからか。
オスを観察すると、何だか頭部前端に黒い球が一対見える。(添付2)

4匹のうち2匹を35ミリフィルム用のプラスチック・ケースに採取した。そこにエタノールを少々入れてある。痲酔・固定剤である。
さてUSB顕微鏡を使おう、と思ったが前使ったのが1年も前で、操作法を忘れていた。いろいろトライして、結局旧いMAC-OSのノートパソコンに接続していたことがわかったが、MACBOOK-PROに接続しても上手く行かない。画面の前回撮影した画像フォルダーがあるので、これにソフトがあるのは間違いない。思い切ってリセットしたら、CAPTUREというソフトが起動し実体顕微鏡画像が出てきてほっとした。
体長3mmほどの小さい方のオスをまずピンセットでつまみ出して、観察した。
確かに頭の先に黒い目玉のようなものがあり、そこからくちばしのように尖った針状物が突き出している。(添付3)

苦労して目を凝らし、まず脚をはずし、ついで頭胸部を離断した。こうすると脚に邪魔されず、頭部だけを拡大できる。大きさは0.5mm位になった。時計用ピンセットでやっと操作できる。顕微鏡の箱には2~200倍とあるが、実際には20倍の性能しかないことは前に確認した。
脚がなくなったので、頭部が容易に回転できるようになり、斜め前からの像を撮影できた。よく見ると薄黄色の触肢が、先端に黒いスポイトを握っているように見える。
触肢の末端がお椀状になっていて、ここに黒いスポイトがはまり込んでいるように見えるが、お椀状の部分は末節の一部で、オスでは発達過程で末節の一部がスポイトになり、残りが生殖球になるそうだ。(添付4)

生殖球の内部も、きわめて複雑かつ精密にできているらしいが、本物の実体顕微鏡がなければ、顕微解剖は無理だ。
これでオスがメスの2つある生殖口に移精針の先の細い部分を深く差し込んで、精子を注入することは納得できた。驚いたことに、生殖球(bulbus)を受ける毛が生えた黄色の碗状構造にTarsus(足根骨)という名前がついている。それに続く腕状の部分はTibia(脛骨)と呼ばれている。
オスは移精針をメスに差し込んだ後、体を前にずらして脛骨と足根骨を折り曲げれば、ちょうどスポイトのゴム球を圧迫するように、黒い生殖球に内圧がかかり、精液はメスの受精管に注入されるわけだ。
眼は単眼で、写っている範囲では上段が2個、下段が4個である。
Tarsusとかtibiaという名称は最新のシカゴ大学生物学教科書R.F.Foelix「Biology of spiders」を見ても変わっていないから、恐らく内骨格動物である人間の場合と相同の遺伝子が支配しているのであろう。
クモの交尾姿勢を見ていて、「これはミミズとあまりかわらないな」と思った。無脊椎動物の場合、交接器が体の前方ないし頭部にあるものは珍しくない。
トンボはメスの交接器官は首の後にあり、オスのそれは尻尾の先にある。バッタは雌雄とも尻のところにある。オンブバッタはその典型だ。
恐らくジョロウグモは立体網を張るので、前胸部腹側にある雌性口に対して、オスが尾部にある精液を一旦「精網」に分泌し、それを触肢が変化した生殖球に吸い取り、精針を差し込んで注入するという特殊な交接様式が成立したのではないかと思う。
日本語と英語の参考書を何冊か読んだが、「生態系を守れ」とか「自然破壊を許すな」とかの声が高いわりには、種の永続には「生殖」つまり交尾と産卵が不可欠であり、それにはオスとメスの生殖器官が合致可能なことが前提となる、という生物学の基本則が認識されていないと思う。オスとメスが合致しないと、その種は滅びるか、もし別の種のオスまたはメスのそれと合致すれば新種が誕生する。オサムシの多様化はそうして生じた。
毎年、何千何万の種が滅びているといい、「絶滅危惧種のリスト(レッドブック)」も作成されているが、あれは個体数が減少している種をリストアップしただけで、生殖機構が特殊であるか、生殖生態学的にどのような特性があるかを示したものではない。
「性の比較生物学」というような本を探して、少し勉強してみたくなった。
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