ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【訂正など】難波先生より

2014-08-11 13:18:49 | 難波紘二先生
【訂正など】
① アリストテレスの格言:
 これについて『形而上学』のデッカー版(1833)ギリシア語原典PDFを広島大文学部越智貢教授(哲学・倫理学)からお送りいただいた。厚くお礼申し上げます。(以下はPDF画面→DC撮影のためモアレあり。)



 これが「形而上学(Metaphusika)」のギリシア語原文です。ご覧のように本文最初の1語は大文字、以下は小文字で書いてあります。
 ローマ字綴りへの書き換えのミスと日本語での意味については、前回に述べました。
 標題の「TON META TA PHUSIKA A」の最後のAは序数の1を意味しています。古代ローマには数記号Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ…がありましたが、古代ギリシアには数記号がなく、α、β、γ…を代わりに用いていました。
 この件について、いくつかメールや「武田ブログ」への書き込みがありましたので、まとめてお答えいたします。
 ②「はかない」:
 前に広島市で開かれたある会合で、講師が日本語の優秀性についてとうとうと述べ、「俳句など、わびさびの情緒は翻訳不可能だ」と述べたので仰天した。英国のペンギン古典文庫に、広島大湯浅信之名誉教授による「芭蕉俳句集」の英訳があるのを知らないらしい。
 小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の作品はすべて英語で書かれている。新潮文庫版の上田和夫訳『小泉八雲集』(1975)に収められた48の短篇には、すべて英語の原題が付けられている。
 司馬遼太郎の初期作品に「果心居士の幻術」(「オール読物」1961/3掲載)があるが、ハーンの小説「The Story of Kwashin Koji」は明治34(1901)年に刊行されている。
 八雲は時代設定を本能寺の変(1582)より前の天正時代に置き、信長と光秀を登場させている。新しく天下人となった光秀に呼び出された果心居士が、近江八景を描いた屏風絵中の小舟を呼び寄せ、部屋中を水浸しにして、舟に乗り移り屏風絵の中に消えて行くという結末は見事である。
 八雲作品の完成度が高いので、遼太郎はこのエピソードを使用していない。

 「儚(はかな)い」という言葉なども、日本語独特の表現かと思っていたが、『星の王子さま』(岩波書店版)の訳文をフランス語原文と付き合わせていて、<ephemere>という言葉が「はかない」と訳されているのを知った。地理学者と王子の問答で、地理学者が
 「わしたちは、花のことなんか書かないよ。花ははかないものだからね」
 というのに対して王子が、
 「はかないって、どういう意味ですか?」
 とたずねる箇所がある。
 仏英辞典でこれが英語の<ephemeral>に相当することを知り、英語同義語辞典を調べると、「short-lived、brief、momentary etc.」とある。まさに「はかない」である。
 林芙美子が村岡花子に与えた色紙にある「花のいのちは…」という、有名な文句を思い浮かべた。
http://crd.ndl.go.jp/reference/modules/d3ndlcrdentry/index.php?page=ref_view&id=1000052572

 沈復(Shen Fu)による愛妻物語『浮生六記(ふせいろっき):浮世夢のごとし』(岩波文庫, 1981))なども、「Six Records of A Floating Life」として英訳がペンギン・クラシックスに入っている。英訳の方が読みやすいが、欠点は人名、地名などの固有名詞が中国音で書かれていて、漢字がないと具体的なイメージが湧いてこない点にある。

 岩波版『浮生六記』には第5,6巻が欠けている。訳者松枝茂夫は「解説」で面白い話を紹介している。清代の18世紀末から19世紀初頭に生きた沈復は、著名な文人ではなく、その六記は写本で流布するうちに5と6が消滅してしまった。
 ところが1935年に上海の「世界書局」という出版社から、「完全本」と称する6巻本が出た。
 台湾(正字版)で1967年に、韓国(ハングル版)では1969年にこれが出版された。台湾の林語堂はこれを英訳したそうだ。もちろん北京の「人民出版社」からも1980年に略字体版が出されている。
 欠損していた第5巻は「琉球訪問記」、第6巻は「養生記」であるとされていたが、1978年になって台湾の研究者が、第5巻は1800年に清朝が琉球に送った使節団の副使の書いた『使琉球記』からの、第6巻は曾国藩(1811~72)の『曾文正公・全集』中の日記からの盗作であることを証明した。
 ペンギン版の英訳(1983刊)は、もちろん5巻と6巻をふくんでいない。

 STAP論文の盗作で大騒ぎしたが、文学の世界ではこの程度の盗作・盗用はゴロゴロしているようだ。
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