ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【晩秋】難波先生より

2013-11-18 12:13:03 | 難波紘二先生
【晩秋】暑い夏だと思っていたが、季節はようしゃなく移って行く。この間までクリが落ちていた庭に、落ち葉がたまり、ウメモドキ(右)やナンテンの赤い実(左下)が目立つようになった。(添付1)一本だけ残った野生のドングリにも枯葉が見える。




 カマキリは裏庭で沢山見かけたが、今年は卵囊を残したものは数個しかない。もう死んだかと思っていたが、仕事場入り口にあるダンボール箱を覆ったビニールシートの上で、茶色のオオカマキリが緑色のハラビロカマキリを食っているのを見かけた。(添付2)

 (はじめ雌が雄を食っているのかと思ったが、交尾の様子を見かけなかったし、後で食われた方の腹部を調べたら産卵管があり、雌だった。)

 食われている方は、羽根に白斑が目立つからハラビロカマキリは間違いないが、食っている方も体形が似ているから、これもハラビロカマキリかも知れない。手元の図鑑ではハラビロは「緑色または紫褐色」とあり、色はオオカマキリの「灰褐色~暗褐色」に一致する。恐らく「共食い」でなく、「異種食い」であろう。




 食べるところを見ると、胸節と腹節の継ぎ目の軟らかいところを、腹側からかじっている。右のカマで胸節を、左のカマで腹節をしっかりはさみ、獲物の胸と腹を折り曲げ、口元に継ぎ目の軟部組織が来るようにして、ひたすらかじっている。もう胸と腹がほとんど分離しているが、腹部の神経節が生きていることは、右第2肢が動いたため、ブレて写っていることからもわかる。




 食われている方の脚はさかんに動くが、頭やカマはぜんぜん動かない。「これは人間が魚の活き作りを食うのと同じだな」と思った。

 案外、エンドルフィが分泌されて、食われている方は痛くも何ともなく、「至福感」を味わっているのかも知れない。




 昔、初めて長期日本滞在をしたアメリカ人が、友人の薬理学者に日本文化を説明するのに、「日本人は器用で、生きた魚を調理して、心臓血管系と神経系には傷をつけないで、筋肉だけをスライスにして、その魚の上に筋肉片を「サシミ」と称して、盛って食う。魚は生きているから、口をパクパクさせるし、尻尾も動くんだ」と話すのを聞いたことがあるのを、思い出した。

 

 30分近く観察したが、何しろ戸外温は10℃以下だから寒くてかなわない。寒いので観察を打ち切り、2時間以上経ってまた出てみたら、食った方は別の場所に行っていて、「死骸」が残っていた。継ぎ目の部分はキチン質の外穀だけを残して、すっかり食われていた。ただ腹節の部分は、まだ脚に「ふんばり」があり、循環系と神経系が生きていることがわかる。(添付3)




 これが昨日、11/12(火曜日)のことで、今朝見ると、胸と腹がつながったかたちで、昨日の場所に横たわっていた。腹がまだ生きていることは脚の状態からわかる。

 頭胸部はどうだろう?と思い、指を近づけてみると、反応があった。(添付4)

 昆虫は脊椎動物と違い、内部に骨格がなく、キチン質の外骨格がある。外側が骨で、それが内臓をくるむかたちになっている。で、外骨格の名称は、人間の手足の骨の名前と同じだ。


 カマキリは上腕骨と前腕(尺骨)を折りたたんだかたちで、頭胸部と腹部がちぎれそうになっていたのだが、肘のところを支点にして、頭胸部を持ち上げ、左側のカマを開いてこちらを威嚇した。むろん頭も対象物の方に向けて、眼でしっかり見つめた。




 まるでギロチンで切断された首が、目蓋を持ち上げて、じろっと眼を動かして見つめるようなはなしだ、これには驚いたし、いささか気味の悪い思いをした。

 カマキリの解剖図はないが、バッタのそれならある。

 読んでみると、脊椎動物のような中枢としての脳はない、腹側に梯子状に対になった神経節とそれをつなぐ神経束が咽頭から尻尾まで走っている。

 頭部には2対、胸部に3対、腹部に5対の神経節がある。




 他方、循環系は背部に大動脈に相当する血管が走っているが、人間のような心臓はなく、動脈のあちこちが膨らんで、これらが勝手に収縮している。この大動脈は頭部方向に血液がながれ、毛細血管がないので、末端がオープンに終わる「開放系」になっている。血液は頭部から流れ始めて、リンパ液と一緒になって、胸部-腹部を潅流し、尾部の「総排泄腔」の近くで、再び動脈に吸い込まれるらしい。

 軟体動物や節足動物の血液は、鉄の代わりに銅を含んでいるので、赤くない。開放血管のためリンパ液と混じるので「血液リンパ」という。殻付きカキを開くと、白っぽい液があるのは、血液リンパに大量のグリコーゲンが溶けているためだ。




 毛細血管がない代わりに、体側に「気門」という空気取り入れ口が沢山あり、気管が「細気管支、「毛細気管」と分岐し、個々の細胞のすぐ近くにまで達している。半径1ミリ以内なら、酸素の拡散によって細胞は必要とする酸素を得、不要な二酸化炭素を排出することができるから、昆虫はこの方式で生きて行ける。




 15:00頃、また見に行くと、どういうわけか頭胸部と腹部が完全に離断していた。驚いたことに、身体が二分されてもそれぞれがまだ動く。ミミズなら驚かないが、カマキリでもそうだとは知らなかった。「切断部がどうなっているか、USB顕微鏡で観察してみよう」とティシューペーパーにくるんで、仕事場に持って入り、重ねた本の上に置いて、トイレに行って戻ったら、頭胸部だけがなかった。

 驚いて付近を探したら、頭胸部が動いて包みから抜け出し、机の上に落ちていた。動くカマは左しかないのだが、それを伸び縮みさせて、横歩きするのである。

 

 バックスバウム「無脊椎動物」には、バッタを例として脳に中枢神経機能はない、と書いてあるが、カマキリは違うのかも知れないと思った。何しろUSB顕微鏡のLED照明があたると、頭胸部が動き回って観察できない。




 仕方がないので実験を兼ねて、カッターナイフで頭部を切断した。頭がなくてもカマが運動するかどうか…。切断して頭が転がった途端、カマがそいつを抱えこんだ。(添付5)

 透明性のある索状物は背側にあり、恐らく大動脈だろうと思う。これは少し切りにくかった。梯状神経は腹側にあるはずだ。

 で、頭部を切断したらカマの動きはピタリと止まった。だからカマの運動は脳でコントロールされているのだとわかった。




 頭胸部と腹部の離断面を、両側とも調べたが、ほぼ完全に食べられていて、空洞状になっていた。だから、腹部と頭胸部はその神経節により、独自に運動をしていたのである。




 節足動物(蟹、クモ、昆虫など)にある梯状神経の名残が、哺乳類の自律神経や内臓神経節だ。だから内臓は意識とは独立して、自動運動をする。

 各体節にそれぞれ神経節という「小さな脳」があるのは、環形動物であるミミズでもそうだ。だからミミズは身体が切断されても動くし、失われた部分の再生能力もある。




 しかし、ミミズの再生と脊椎動物であるトカゲの尻尾の再生は、かなり違うようだ。

トカゲでは尻尾の再生は起こるが、それは元の尻尾とは似ても似つかない。

 添付6はこの秋見つけた、再生した尻尾をもつトカゲだが、まるで鉄製の偽足を付けたように見える。中国が「肝臓」をつくる3Dプリンタを開発したとか報じられて(肝細胞をいくら三次元に積み上げても、肝臓にはならない。血管や神経などが必要だ)、世界的に再生医療ブームだ。しかし、われわれはまだ、ミミズの再生とトカゲの尻尾の再生がどう違うのかすら知らない。
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