ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【笄(こうがい)ビル】難波先生より

2014-12-04 19:58:00 | 難波紘二先生
【笄(こうがい)ビル】
 11/25(火)の夜9時過ぎ、夕食のため母屋に戻ろうと入り口のドアを開けると、今夜はセンサーライトに照らされて、細い紐のようなものを認めた。ゆっくりと動いている。この前のクモと同様に(今度はスケールも忘れずに入れて)フラッシュで撮影した。(写真5)
(写真5)
 背中が真っ黒で、わずかに三日月型の頭だけがやや茶色をしている。(写真6)
(写真6)
 こんな妙な動物は見たことがなかったので、研究室にとって返し、水で壁面を濡らしたガラスコップとピンセットを用意し、虫体をコップに移し、上部を透明なビニールで覆い、精密機械用の細いプラス・ドライバーで通気口を開けた。
 机の上に移し、LED読書灯で照明をあてて、よく観察してみた。
 はじめミミズ(環形動物)かと思ったが、体節がはっきりしないし、黒い色素のない腹側を見ると、血液が赤くない(ヘモグロビンがない)。よって環形動物ではない。これは透明ビニールに粘着して腹を見せているところ。(写真7)
(写真7)
 腹の中央を白っぽい条が、首から尻尾まで縦に走っている。頭の形はH.G.ウェールズの「宇宙戦争」に出てくる火星人にそっくりだ。
 頭からマッチの軸状に飛び出した眼がないし、歩いた後に粘液の軌跡もできないから、ナメクジ(軟体動物)の仲間でもない。「ヤマビルかな?」と思ったが、ヒルも環形動物だし、図鑑を見ると体長20ミリとあり、ぜんぜんサイズが違う。
 ふと、「プラナリアに形が似ているな」と思ったが、あれは顕微鏡がないと見えない水生動物(扁形動物)だ。陸生の扁形動物で大型のものを図鑑とバックスバウム(R. Buchsbaum)の「背骨のない動物(Animals without Backbones)
(Chicago U.)で調べたら、「陸生プラナリア(Land planaria = Bipalium)」というのがいた。体長が10~15センチになるという。
で、これは和名を「コウガイビル(Bipalium fuscatum, Stimpson」というらしい。「笄(こうがい)」はかんざしのことだ。
 WIKIには茶色のものが載っているが、これは米国版からの転記だろう。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B3%E3%82%A6%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%93%E3%83%AB
 ペンギン文庫版の「背骨のない動物」にはこのバイパリウムが、尻尾から出した粘液で枝からぶら下がり、クモみたいに地上に降りる図(p.152)が載っている。確かにコップのガラス壁を簡単に上り、覆いの透明ビニール袋に腹をつけて、逆さまにとぐろを巻いた。(写真8)
頭を胴の上に乗せて休んでいる。
(写真8)
 尻尾のところには大量の粘液が付着している。これは前から照明をあて、コップの底をパソコンの画面に向け、片手で撮影したもの。コップの底が凹レンズになっているから、ワードの白紙画面だったのに、上手くハーフ・シルエットにならなかった。
 本には、頭と尻尾の先端の中間に口があり、口と尻尾の前1/3のところに生殖口ある、と書いてあるが、いくらルーペで観察しても、それらしいものが見あたらなかった。あるいは粘液で隠れているのかも知れない。
 ただこれはヒル(Leech)ではない。寄生虫の条虫(サナダムシの類)でもない。昔の人がヒルと混同していたのが、和名となって残っているのではないか、と思う。非科学的な話だ。
 後日談:翌26日朝、仕事場に行って見ると、コップはもぬけの殻になっていた。(写真9)
(写真9)
 この陸生プラナリアに眼があるとは思えなかったが、試行錯誤でビニールの被い頂上部にある、空気穴の作成時にできた、テープで接着した裂け目から脱出したようだ。まるで知性があるかのような行動を、結果としてとっている。
 ベッドでいろいろ考えて、ホルマリンがないのでエタノールで虫体を固定し、USB顕微鏡を用いて顕微解剖をして、口と消化管、それに循環系がどうなっているか、調べようと思った。
 消毒には50%エタノールを用いるが、固定だからもっと低濃度でも構わない。だったら「35%果実酒用甲類焼酎」が使える、と思い紙パックを持って来たのだが、ムダになった。
 コウガイビルはどこに消えたのかわからない。仕事場の湿度は40%弱ときわめて乾燥しており、このバイパリウムは乾燥に弱い動物だから、室内のどこかで干物になっているだろう。

 話は変わるが、前回の「見慣れぬクモ」について、小野先生から「シダグモではないか」というご指摘があった。それで図鑑のシダグモの絵の頭部をUSB顕微鏡で拡大撮影してみた。
(写真10)拡大しすぎて「網点」が出ているが、8眼あるうち、前列に一対があり、中列には後列から大きな2眼が下がっているので、4眼があり、後列には大きな眼が2個あり、クモが頭を前屈していた場合には、この一対のみがフランシュに反射して写ることがわかった。
(写真10)
 クモの同定には眼の配列がきわめて重要なことを学んだ次第。小野先生、どうもご教示ありがとう存じます。
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2 コメント

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Unknown (Unknown1号)
2014-12-05 00:50:47
お忘れかもしれないが、コウガイビルについては一度、岡田先生の書評を紹介された時にコメントしました。

http://blog.goo.ne.jp/motosuke_t/e/6872343012cbe5bf1d01922ddab640eb

また、プラナリアは肉眼で見えますよ。体長はおおよそ1cm弱だと思います。


クモの分類は難しいですね。専門外のことに口を出してしまったのが間違いでした。反省。
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Unknown (花職人)
2014-12-07 03:50:15
裂け目に触れて脱出を試みたのでしょうか?それとも空気の流れを感じとって脱出したのでしょうか?
心身粘り強い生物ですね。

湿度40%は難波先生ご自身も乾燥しませんか。医者の不養生、ご自愛ください。
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