ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【イタイイタイ病】難波先生より

2013-12-24 12:46:53 | 難波紘二先生
【イタイイタイ病】政野淳子「四大公害病」(中公新書, 2013/10)に眼を通していたら、12/19「中国」一面コラムにイタイイタイ病について書いてある。リンクしようと思ったが、「有料」となっているのでやめる。
 この新聞は割り付けが悪くて、腰紐のように長いからスキャンも止める。


 恐らく筆者は「ポーズ左翼」で、前にメチル水銀と無機水銀をごっちゃにして、「水俣病」を論じた記者だろう。
 彼の主張に反して国際条約として「水俣条約」が成立し、各国から多くの代表が水俣市に集まり、水俣病の惨禍を学ぶことができた。改名などしてはいけない。


 イタイイタイ病について、「イタイイタイ病とは、付けも付けたりである」と書いている。病名が悪いという意味だ。
 病名を変えて病気がなくなるのなら、そうしたらよかろう。しかし水俣病と同じで、すでに世界中で「Itai-Itai disease」と呼ばれ、医学教科書にも載っているものを変えられるものか。
 http://en.wikipedia.org/wiki/Itai_itai_disease


 発見者荻野昇医師の名前をとって「オギノ病」と呼ぶことも可能だろうが、避妊法の「荻野式」と間違われる恐れがある。
 この病気が「イタイイタイ病」となったのは、1955年8月に「富山新聞」の記者が「奇病<いたい、いたい病>」として報道したからだ。いわばマスコミが命名したのである。
 
 荻野は当初、栄養不良説で研究していたが、1849年にロンドンでコレラの感染ルートを解明したジョン・スノー医師と同じ手法を採用した。
 患者発生地点を白地図にプロットするという疫学的方法である。
 これで神通川流域が患者多発地帯だと判明し、上流の三井金属神岡鉱山(いまスーパーカミオカンデがあるところ)と結びついたのである。この川の東に「いたち川」があり、神通川に合流する。


 いたち川は上流が宮本輝の小説「螢川」の舞台になっているきれいな川だ。ここには鉱山がない。神通川といたち川に挿まれた平野地帯の中学生の青春を描いた小説で、同級生が神通川で水死する事件が挿まれている。
 宮本輝は父親の事業の関係で富山市に1年ほど暮らしたことがあるらしい。大阪での生活は「泥の川」に描かれている。
 最後は爺やの銀蔵に案内されて、夫の死後大阪への転居を考える母親の千代とほのかに思いを寄せる同級生の英子と連れ立って、いたち川上流の山に群生する蛍を見に行く場面だ。
 (この美事な蛍は陸生のヒメホタルではないかと思うが、作者の宮本は蛍の種類については書いていない。)


 病理解剖した患者骨から大量のカドミウムを検出し、「カドミウム原因説」を提唱したのが岡山大学理学部教授の小林純である。もと農林技官だった。日本の病理学者も平山雄のような疫学者も役に立たなかったのは情けない。


 骨のカルシウム不足は、骨軟化症、骨粗鬆症として知られていたが、まさか2価金属カルシウム不足が、同じく2価金属のカドミウム過剰と結びつくと、カルシウムを置換して骨の異常を引き起こし、特異な病態を生じるとは医学的にほとんど知られていなかった。


 荻野昇の手記「イタイイタイ病」(朝日新聞社, 1968)によると、当初は荻野医師と看護婦の符牒のようなものだった。「先生、患者が痛い、痛いだそうです」、「そうか痛い、痛いか。じゃ往診しようか」というような具合だったという。


 通称が正式病名になったものは、他にもある。
 マラリアは「Mal aria」(悪い空気)という古いラテン語がMalariaとなまったものだ。語源を見れば病名は間違っている。アノフェレス蚊がプラスモディウム原虫を媒介するために起こる伝染病がマラリアだからだ。
 (調べたかぎり、英、仏、独、伊、スペイン、ラテン語ともにMalariaが病名で、ギリシア語だけがElonosiaと違っていた。Elos(Erosではない)は「沼地」を意味し、Nosiaは「Nosos(病気)である状態」を意味している。
 「沼気(しょうき)」あるいは「瘴気」(Miasma)と呼ばれたものがこれである。)


 プリオン病のひとつニューギニアの「クルー病」もそうだ。「狂う病」ではない。身体が震え、歩行がままならなくなる状態を現地語で「クルー」と呼んでいたのが、Kuruと採音され、正規の医学用語になった。この分野でノーベル賞が2人出ている。


 らい病を意味するラテン語レプラは、もとはギリシア語でレプロスだった。ヒポクラテスの時代からそう呼ばれていた。皮膚に病変ができて「うろこ状」になることを意味する。「結節ライ」のことだろう。
 日本では病原菌の発見者ハンセンの名前をつけて、「改名」に成功したが、世界の他の国ではLeprosy, Lepre, Lepraと呼ばれている(英、仏、独)。ドイツ語では「アウスザッツAussatz(被追放者)」という言葉もまだ生きている。


 名前を変えたら良くなるというのは、一種の錯覚である。
 「言葉狩り」は人間を幸福にしない。地道にシステムを変革するしかないだろう。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 【図書の書き込み】難波先生より | トップ | 何とかしないと »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

難波紘二先生」カテゴリの最新記事