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阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【PRL誌の重み】難波先生より

2016-02-22 13:59:54 | 難波紘二先生
【PRL誌の重み】
重力波の論文が載ったPRLという雑誌の重み付けについて、武田ブログに以下の記入があった。
<サイエンティストの性 (φρξ)=2016-02-15 16:05
 (前略)ところで、Nature誌とPRL誌についてです。30年以上前になりますが、物理系の大きい成果はPRL誌で発表されるものだったと思います。物理教室の図書室にNature誌があった記憶がなく、物理では主要な論文誌ではなかったように思います。>
 あるいは私が誤解していたのかと、PRL誌とそのインパクト・ファクター(IF)を調べたら、
https://en.wikipedia.org/wiki/Physical_Review_Letters
<Physical Review Letters (PRL), established in 1958, is a peer-reviewed, scientific journal that is published 52 times per year by the American Physical Society. As also confirmed by various measurement standards, which include the Journal Citation Reports impact factor and the journal h-index proposed by Google Scholar, many physicists and other scientists consider Physical Review Letters one of the most prestigious journals in the field of physics.[1][2]:680[3][4]>とあり、IFは7.512(2014)とあった。「物理学の領域ではもっとも評価が高い専門雑誌」というのは間違いではない、と思われる。
 ただNatureの同年のIF=41.456となっており、5.5倍の差がある。
http://www.nature.com/npg_/company_info/impact_factors.html
 私が、LIGOチームが当初「ネイチャー」への投稿を考えていて、途中からそれがPRLに変わったのでは?という疑念を抱いたのは、9/30/2015のNature誌記事を読んだからである。
http://www.nature.com/news/has-giant-ligo-experiment-seen-gravitational-waves-1.18449
 この記事によると、9/18から従来機の3倍の感度を持つ重力波検出装置の公式運転を始め、ちょうど1週間後の9/25に、13億光年離れた「ブラック・ホールの合体」による重力波を検出したということになっている。どうも話ができすぎている感じがする。
 私の勘ぐりすぎかも知れないが、これだけIFに差があると、「世紀の発見」だから知名度の高いネイチャーに発表したいと思うのが、人情ではないかと思う。しかし当のネイチャー編集部に、事前にこれだけ批判的な記事を書かれたら、投稿はあきらめざるをえないだろう。
 たとえば日本物理学会には1万8,000人の会員がいて、日本語誌1誌、英文誌2誌を刊行している。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E7%89%A9%E7%90%86%E5%AD%A6%E4%BC%9A
 仮に1000人の学会員が著者となっている論文が投稿されたとして、審査員はその論文をリジェクトできるだろうか?学会であるがゆえに、掲載拒否はできないはずだ。
 だとすると、NATURE誌が掲載を拒否すると予測できる論文をPRLに投稿するのは、アメリカの物理学者にとって当然のことではなかろうか?
 私が間違っている証拠が出て来たら、その時点で率直に謝罪したい。

 その後、2015上記「Nature」9/30号の記事を書いた同じ記者が、今年の1/12号に
<Gravitational-wave rumours in overdrive: Physicists say they've heard that the LIGO observatory may have spotted the signature of merging black holes. Davide Castelvecchi、12 January 2016>
 という追跡記事を書いている。
http://www.nature.com/news/gravitational-wave-rumours-in-overdrive-1.19161

それによると<重力波検出のうわさが物理学者の間でこの数ヶ月持ちきりだったが、今年1/11になって興奮した物理学者たちのゴシップがオンラインで拡散した後、突如メディアの主要見出しとなってあふれ出した。
 そこで本誌は噂を検証して事実とフィクションを仕分けし、重力波検出について公式アナウンスが行われるのはいつかを予測したい。
■What is the gossip?
 「噂」というのは、ワシントン州とルイジアナ州にあるLIGOの重力波検出器が2つのブラック・ホールの合体により生じた重力波を捉えたというものだ。装置は2000万ドル掛けて昨年9月に改良され、運転を始めたばかりだった。
 噂は、アリゾナ州立大の天文学者Lawrence Kraussが最初にツィッターで発信した。
 これが事実なら、「ブラック・ホールそれ自体を直接観察した」というに近いだろう、とニュージャージー州プリンストン大学の相対性理論が専門Frans Pretoriusは述べた。
■ What are physicists involved in the LIGO experiment saying?
この噂について、ルイジアナ州立大のLIGOの広報担当者Gabriela Gonzálezは「まだデータ収集の段階で、初期データの分析さえ終わっていない」と述べた。装置改良後の最初のデータ収集は1/12に終了する。この4ヶ月の試運転データの公式解析は早くても2月になる。
その後装置は、検出感度のさらなる改良のため9ヶ月停止され、再開後はヨーロッパのAdvanced Virgoと共同研究に入る予定、という。
■ Could LIGO have done it already?
LIGOの検出器は現在の感度では、10Hz以上の振動をする重力波を捕らえられる程度だ。そこでもしLIGOが信号を捕捉したとすれば、ブラック・ホール合体劇の終末、つまりブラック・ホールが毎秒10回以上回転し、それが合体直前に毎秒数100回転に加速した段階のものだろう。これが生みだす信号はシミュレーションにより、可聴域の音として再現すれば、鳥のさえずりに似た音になるはずだ。
 2005年に、ブラック・ホール融合による重力波生成を初めてコンピュータでシミュレートして、重力波の形と大きさを予測したプリンストン大Pretoriusは、そういう。
■ Could a signal be a false alarm?
信号が検出されたとしても「誤報」の可能性はある。LIGOの検出器は不要な振動を除去する洗練されたシステムを内蔵しているが、たまたま2箇所で大きなダンプカーが同時期に通過したための振動のようなものを除去する必要があろう。
さらに「噂」の信号が意図的な「ドリル(不正式な修正作業)」の結果である可能性もある。LIGOの3人のチームは、システムへのアクセス権をもっており、秘密裏にミラーを動かし、天文学的に必要な現象の特徴を全部作り出すことができる。「ブラインド・インジェクション」と呼ばれる方法だ。研究者たちが「何かを検出した」と公表する直前になって、この「ブラインド」チームが、自分たちの仕業だと明らかにする。LIGOでは2007年と2010年にこういう事件が2回起こっている。
だが、アリゾナ州立大Kraussが聞いた「噂」はLIGOの装置がまだ試運転中で、信号が検出されたのは公式データ収集が開始される前で、「ブラインド・インジェクション」チームが作業開始する前だったという。
LIGOの研究者は干渉装置がアクティブで同時に「ブラインド・インジェクション」が不可能である時期があったかどうかについて、コメントを拒否した。
■ Are LIGO physicists concerned about the rumours?
ルイジアナ州立大のGonzálezはやや困惑している。「間違った期待感を公衆やメディアに与えてしまうことを懸念しています」と彼女はいう。
だがアトランタのジョージア工科大学の物理学者Cadonatiは実験をめぐる騒ぎは「活力を与えてくれる」という。「リークがかくも早く始まったという事実は、われわれがそれと折り合って生きて行くすべを学ぶ何ものかを含んでいる」と彼女は言う。「つまりわれわれの仕事について興奮が起こっているということです。」>
以上が、Nature 1/12号(2016)のニュース要約である。
 この記事の執筆者は9/30/2015と同じDavide Castelvecchi記者だった。ところが、この続報にあたるNature 2/11号には、Chris Maddaloni & Lauren Morello両記者の連名で
<LIGO announces gravitational-wave detection — in pictures:Scenes from the historic announcement in Washington DC.>という全く別の記事がニュースとなっている。
http://www.nature.com/news/ligo-announces-gravitational-wave-detection-in-pictures-1.19368
 この記事は首都ワシントンDCで行われたLIGOの公式記者会見をそのまま報じたもので、日本の「記者クラブ発表」に近い平板なものだ。同じような内容は日本メディアも報じた。記者会見の場所は「ナショナル・プレス・クラブ」とあるから、政治部の記者も多く出席したと見られる。国家プロジェクトだから、宣伝効果をねらったことはもちろんだろう。
 この記事には、元のPRL誌では小さくてはっきりしなかった、2箇所で観測されたブラック・ホール融合による重力波曲線がある (Fig.1)。これを見て不審に思ったことを書く。

 上欄の橙色のカーブはワシントン州ハンフォードの装置が検出したカーブ、で振幅が下向けに最大となるピークから左に2つめの下向きのピークは上昇に転じると、途中で3回小さな突起を生じている。この棘はブラック・ホール合体に伴う他の3つの大ピークには認められない。
 中欄の青いカーブは、ルイジアナ州リビングストンの装置が検出した波で、同じように4つの大振動が認められるが、第一の下向きの揺れには棘がない。
 棘のあるなしは、二つの装置の片方が周囲の小さなノイズを拾ったものとして説明が可能だが、問題は下欄の両者を合成したカーブだ。ハンフォード単独データにあった最初の大振幅が戻る際の棘が3つとも消失しているではないか。これは明らかに画像が修正されていることを意味している。
 上欄と中欄には白線で「predicted(予測線)」が書いてあるが、合成図にはそれが欠けていて、理論値と実測値がどれほど一致しているのかがわからない。
 これでは当初から「噂」にスケプティカルだったCastelvecchi記者が論文を読んで、どう報じるかに期待するほかなさそうだ。
 ネットを検索したら、2014年ハーバード・スミソニアングループの「重力波検出」発表に対して、プリンストン大学の物理学者が「誤報」だとする論文をPRL誌に発表した、というAFPの記事を見つけた。発表から3ヶ月後のことだ。
http://www.afpbb.com/articles/-/3018372
 まあ、しばらくは模様眺めで行こうと思う。
 その後、NATURE 2/11号誌にDavide Castelvecchi & Alexandra Witzeの共著で、「Einstein's gravitational waves found at last(アインシュタインの重力波ついに発見)」という記事が載ったのを認めた。「君子豹変」としか言いようがない変わり身の早さだ。
http://www.nature.com/news/einstein-s-gravitational-waves-found-at-last-1.19361

 私は彼の批判を信じていたので、これには困るが、疑問はまだある。
 この記事によれば最初に重力波を検知したのは、ドイツ・ハノーバーのマックス・プランク研究所の物理学者Marco Dragoのデスクトップ・コンピュータで、CET(中央ヨーロッパ時間) 9/14/2015 11:50amのことだという。ドラゴはLIGOの研究チームに参加していたが、なぜ彼が最初の発見者になったのかがわからない。
 データがあまりにもきれいなので「これは注射(囮信号)だ!」とまで思ったという。

 不思議なことに、重力波天文台は他にもイタリア・ピサ(VIRGOの装置とドイツ・ハノーバー(GEO600)にあったが、この時期いずれも「停止中」だったという。
 重力波の振動は35Hzから始まり250Hzまで急増加し、以後急速に減衰したという。全体の持続時間は1/4秒としているから、グラフのX軸(時間軸)の0.25秒から0.45秒までの期間を意味しているのであろう。グラフ上欄の不思議な曲線(棘)についての言及はない。
 但し読者コメント欄にはすでに「FRAUD(捏造)臭い」というような批判的コメントが書き込まれている。コメントが多すぎてすぐには読めそうもない。
 本物の重力波なら、まもなく別のものが他の天文台により発見されるはずだ。気長に待とう。
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3 コメント

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図内説明の問題 (φρξ)
2016-02-22 15:10:52
 難波様。 下名コメントをフォロー下さり恐縮です。
 さて、2か所の干渉計データの比較の件です。PRLの同様の図ではHanfordデータがShifted, Invertedとされています。一方、Nature引用図(難波様メルマガ記載図)ではShiftedだけしか書かれていません。
 正しいのが、Shifted, Invertedであればご指摘の棘は重ねて表示された図でも無くなっていないように見えます。
 下名の思い違いかも知れませんが、ご確認ください。
 (流石にこのレベルの修正を何も断らずに行えば、レフェリーが指摘するのではないでしょうか。)
返信する
Unknown (Unknown)
2016-02-23 02:37:42
https://www.ligo.caltech.edu/image/ligo20160211a
を見たら、
The Hanford data have been inverted for comparison, due to the differences in orientation of the detectors at the two sites.
って書いてあるよ。


今問題になってるのはガンマ線バーストが4秒後に観測されてる事みたい。時間差は途中に通過してくるダーク何とかで説明できるにせよ、ブラックホールのコリジョンじゃ、ガンマ線は地球に届かんだろ。理論の見直しがいるんじゃないかな。知ってたら教えて、ふぁいろくっさい、さん。


それと、重力波は天文台じゃ観測できないぜ。カグラが動き出したら追試できるだろう。
返信する
20年前以降PRL退潮 (φρξ)
2016-02-23 12:25:44
難波様。やはり20年以前にはNature, Science両誌とも物理分野では重視されていなかったようですが、それ以降PRL誌の地位が後退しているようです。
御報告まで。

"Nature vs PRL"で検索しましたところ、
Rice University Professor of Physics and Astronomy Douglas Natelson氏のブログに下記の記述がありました。
http://nanoscale.blogspot.jp/2014/11/what-happened-to-prl.html

タイトル"What happened to PRL?"
<(前略)That being said, the origins of some of PRL's (possible) loss of cachet are immediately obvious. Twenty years ago, Nature and Science were not as highly regarded within the physics community as places to publish.(後略) >
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