ある宇和島市議会議員のトレーニング

阪神大震災支援で動きの悪い体に気づいてトレーニングを始め、いつのまにかトライアスリートになってしまった私。

【タトゥー】難波先生より

2017-10-02 16:18:42 | 難波紘二先生
【タトゥー】英語で “Tattoo“。刺青、入れ墨、文身のことだ。香水のブランド名にもある。江戸北町奉行・遠山金四郎は、裁判のクライマックスになるとやにわに諸肌脱ぎになり、「この文身が見えぬか」と上半身に彫られた桜吹雪の文身を被告に見せつける。事実かどうかは知らぬが、TVドラマや映画ではそうなっていた。
 縄文人に文身の文化があったことは、埴輪土器の模様や「魏志倭人伝」の記載からも知られる。「男子は皆、黥面文身す」とあるのは、顔の入れ墨は黒だったということであろう。弥生時代になると、黥面は犯罪者への刑罰として行われた。
 明治10年に来日したイサベラ・バードは北海道にアイヌ村を訪ね、アイヌの女たちが政府の禁止令で顔に入れ墨できなくなったと嘆いていることを記録している(「日本奥地紀行」東洋文庫)。

 9/28の各紙が「入れ墨は医療行為であり、医師法違反だ」として医師免許のない彫り師に対して、大阪地裁で有罪判決があった、と報じていた。切り抜いたのは丁度A4サイズに納まる「産経」と「日経」の記事だが、産経の「識者コメント」には医師・医学者のコメントが全くない。日経の識者コメントでは、二人のうち一人が林純九大名誉教授(総合診療科)で、「入れ墨は医療行為ではないが、医師免許とは別の専門資格を設けるべきだ」とコメントしている。
 入れ墨が医療かどうかは、感染源となる可能性があるかどうかでなく、「治療効果があるかどうか」で判断すべきで、それには皮膚の構造に詳しい解剖学・組織学者か、皮膚科学者のコメントが必要だ。入れ墨が医療行為なら、点滴や静脈注射も医療行為になるだろう。それなのに医師免許のないナースがどっちもやっているではないか。このダブルスタンダードを裁判長はどう考えたのだろうか?

 静脈注射では、針が静脈壁を突き抜けるから、針を抜いた後、必ず出血する。だが私は出血しない注射法を知っている。浮いた静脈のすぐ脇の表皮に針を刺し、真皮乳頭下層に針先を留めたまま静脈の真上まで針先を横滑りさせ、静脈の真上から血管内に針を刺して注射すれば良いのだ。終わったら一気に針を引き抜くと表皮が横滑りして、静脈壁の孔を塞いでしまうので、表皮から出血が起こらない。出血がないことを確認したら、後はそのまま放置してよい。綿テープも止血パッチも必要ない。
 この原理を理解して応用するには、皮膚の局所解剖学についての深い理解が必要だ。

 彫り師にどれだけ皮膚の局所解剖についての知識があるかどうかは知らない。多数の死体解剖の経験から、入れ墨には色鮮やかでクッキリしたものと、輪郭がぼけていて色が冴えないものとがある。表皮の下には真皮があり、これは上から乳頭層、乳頭下層、網状層という3層に分かれている。入れ墨の色素は皮膚の真皮乳頭層か、せめて乳頭下層に注入し、色素顆粒を固着マクロファージに食べさせないと、仕上がりがシャープで色鮮やかにならない。
 ところが真皮乳頭層は表皮の直下だから痛覚を感じる神経の端末が沢山ある。ここを刺し、色素を注入するときわめて痛い。それに耐えきれない場合は、より深い乳頭下層や網状層に墨を入れることになる。これだと反射光が皮膚表面から出る距離が長くなるから、くもりガラス越しに模様を眺めるのと同じ結果になる。

 こういうものは「文化」なのだから、マッサージ師などと同じように扱い、届け出制にする方がよいだろう。どうせ保険医療として認められないのだから、腕の良い皮膚科医が「入れ墨専門医」になることは、よほど「医者あまり」にならないと期待できない。禁止すれば「闇社会」が商売にするだけだろう。


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