日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

この季節の楽しみ2010(18)

2010-07-18 21:57:39 | 野球
都内は梅雨明け十日の見事な快晴に恵まれ、目の覚めるような遠景の鮮明さに真夏の訪れを感じる一日でした。梅雨の長雨で滞りがちだった今年の地方大会ですが、連休初日の昨日は最後まで残った5大会が開幕し、沖縄での開幕から一ヶ月を経てついに全49大会が出揃いました。中休みの南北海道を除く48大会でこの夏最大の427試合が戦われ、今季初めて高校野球の試合結果が新聞の一面を独占しています。これだけ試合数が増えるとネタにも事欠きません。北から南へ思いつくままに眺めて行きたいと思います。

遠距離対決
この日の注目は北東北で、「弘前中央×大湊川内」「八戸水産×五所川原商」「浪岡×むつ工」(以上青森)、「一関学院×一戸」(岩手)、「横手×能代」(秋田)など直線距離でも100kmを超す遠距離対決が続出しています。意外なのは「ご近所同士の練習試合」とこのblogで酷評してきた新潟大会で、「新津南×糸魚川」「六日町×新発田商」「新津×直江津」という100km超級の遠距離対決が実現しています。南西から北東にかけての細長い県土だけに、組み合わせがはまったときは長野大会に勝るとも劣らない見応えがあります。
鹿児島の離島対決は屋久島が大島を降して8強進出を果たしました。次の相手は鹿児島南で、全国大会の出場経験こそないものの、今年を含め過去5年は1回を除いて8強以上という実力校です。今年も延長引き分け再試合を含む4試合を戦い抜いての8強進出だけに、一筋縄ではいかない相手でもあります。過去5年の公式戦の戦績は鹿児島南の25勝10敗1分に対して屋久島は13勝9敗と若干見劣りしますが、ここまでくれば多少の数字の差は関係ありません。長崎では今日の試合を最後に11校の離島勢が全て姿を消し、沖縄でも最後まで残った八重山が昨日の準決勝で散りました。両県と並ぶ離島王国の鹿児島で、離島勢の最後の戦いがどこまで続くかに注目です。
ただ、そうはいっても、健闘しながら強豪校の壁に阻まれ続けた鹿児島南も捨てがたいのは事実で、陳腐な言葉を借りれば「どちらにも勝ってほしい」という一戦になりそうです。単なる地名や数字の遊びを超えて、そんなウェットな感情が頭をもたげてくるのが自分にとっての潮時の合図です。日本列島の南端では満開の桜がいよいよ花吹雪へと変わり行くことになります。

接戦
愛媛大会がビンゴで、全6試合が9回まで戦われて最大得点が6点、両チームの総得点でも9点が最大でした。また試合数は少ないものの、全4試合の宮崎大会で最大得点が4点、両チームの総得点が最高5点、最大得点差が3点となっています。
惜しかったのは千葉大会で、全15試合の中で二桁得点したチームが一つもなく、7点差のコールドゲーム2試合以外は9回まで戦われ、8試合が1点差という結果でした。佐賀大会も前日と同様の接戦続きで、引き分け再試合となった唐津南×厳木の一戦を厳木が4-2で制したのを始め、全6試合中5試合が9回まで戦われて2点差が2試合、3点差が2試合でした。

お前らゼロか!
二日連続で該当がなかった20点差以上の零封試合がこの日は復活。ただし三重大会の1試合のみで、前半のハイペースが一転スローペースに変わりました。それより気になるのは同じ三重大会の「不戦勝」です。あけぼの学園×日生第一の一戦がそれで、あけぼの学園に故障者と病欠者が出て9人揃わなくなったための棄権とのことです。
それを聞いて思い出すのが、我が国の野球漫画史上に残る不朽の名作『キャプテン』の丸井編です。春季大会でのよもやの初戦敗退に奮起した墨谷二中が、一日3試合、全36試合の練習試合を含む猛特訓を経て地区大会を破竹の勢いで勝ち上がり、決勝戦は宿敵青葉学院と激突。リードで迎えた9回に一瞬の油断から同点に追いつかれ、試合は延長戦へともつれ込みます。青葉のエース佐野までが力尽きて倒れるという両軍死力を尽くした戦いの末、延長18回裏にイガラシの一打でついに勝利を収めた墨谷二中でしたが、この一戦で傷つき全ての戦力を失い、全国大会を棄権せざるを得なかったというのがその結末でした。
本作と初めて出会ったときには、その理不尽な結末に何ともやり切れない感情が残ったものですが、長い年月を経て振り返ると、四人のキャプテンを描いた本作の中で一番印象に残るのは、本作の象徴というべき谷口でもなければ全国制覇を果たしたイガラシでもなく、唯一全国大会で一勝もできなかった丸井の代であることに気付きます。血の出るような努力の末に全国大会への切符を勝ち取り、しかもそれを思わぬ形で手放さざるを得なかったという少し切ない結末も、他の三人のキャプテンに比べてリーダーシップや身体能力で見劣りする、しかしひときわ人間味あふれるこのキャプテンにはふさわしいものだったのかもしれません。サヨナラホームランで死闘に終止符が打たれた後、丸井とイガラシが走る余力もなく肩を落としてホームインする光景は、本作屈指の名場面の一つです。原作を全く見ずとも筋書きと名台詞がその場面の情景とともに甦る、こんな名作には生涯を通じてもそう多くは出会えないことでしょう。
思い切り脱線してしまいましたが、以上要するに、新聞の紙面ではたった三文字に過ぎない不戦勝の裏にも、言葉に尽くせぬほどの葛藤があったのだろうということです。たった一行の試合結果から遠い町の球児たちの戦いに思いを馳せる、それこそが自分にとっての高校野球の楽しみなのです。

伝統校
日本列島の津々浦々で藩校出自の伝統校が登場しています。北から順に挙げると上山明新館、米沢興譲館(以上山形)、会津(福島)、佐倉(千葉)、成章、明和(以上愛知)、和気閑谷(岡山)、鳥取西、豊浦(山口)といった顔ぶれです。中でも和気閑谷は延長15回引き分けという熱戦を繰り広げています。

よい地名
「朱雀×鴨沂」の直接対決が実現した京都はもちろんですが、富山の「有磯」もなかなか捨てがたいものがあります。蜃気楼で名高い富山湾を一望する氷見の町の空気をそのまま伝える校名は秀逸の一言に尽きます。今年も初戦を飾れず公式戦で5年間未勝利という結果に終わってしまいましたが、来年はその美しい字面と響きをもう少し長く楽しませてもらいたいものです。

鶯鳴かせたこともある
近畿地方で錚々たる古豪が名を連ねました。その筆頭が兵庫大会で、戦前に二度の全国制覇を果たした甲陽学院、史上最長の延長25回を戦った明石、別所、青田らを輩出した滝川に加え、市神港に洲本というかつての選抜優勝校がそろい踏みを果たしています。これらの中で全国大会へ出たのは23年前の明石が最後で、甲陽学院にいたっては実に72年のご無沙汰になっています。それでも滝川を除く4校が初戦を突破しているのはさすがです。
お隣の大阪大会では、42年前に夏の甲子園で初出場初優勝を飾った興国が初戦を突破しました。初出場初優勝といってもそれ以前に選抜大会の出場経験が5回あり、それ以降にも選手権大会に1回出場しているので、甲子園無敗神話を誇る三池工ほどのインパクトはないものの、例年4回戦、5回戦あたりまで勝ち進む実力校の一つです。この日の相手は阪南大で、元日ハム岩本の出身校として知られますが、それ以上に名高いのは前身の大鉄時代で、春夏合わせて7回の甲子園出場と1回の準優勝を誇り、土井、福本という二人の名球会選手を輩出したことでも知られています。興国は35年前、阪南大は大鉄時代の33年前がそれぞれ最後の甲子園です。
もう一つの古豪は春夏合わせて32回の甲子園出場と4回の優勝を誇る浪商改め大体大浪商です。高校野球界においては誰一人として知らぬ者のいない名門中の名門である同校も、牛島、香川の黄金バッテリーを擁して選抜準優勝、選手権4強に入った31年前を最後に長い低迷期に入り、1980年代以降の甲子園出場は8年前の選抜1回のみとなっています。近年も春期と秋期の府大会では健闘するものの、選手権大会では過去5年中2回が初戦敗退と苦戦が続いています。しかし今年は初戦を難なく勝利で飾り、次も無名校との対戦になります。順当に勝ち上がれば三戦目には興国との古豪対決が実現することになります。
広島では昨年も取り上げた呉港が初戦を突破するなど、名だたる古豪がそろい踏みを果たした一日となりました。史上初の引き分け再試合を戦った魚津(富山)、選抜勝率10割の伊野商(高知)といったチームがさりげなく登場しているところも見逃せません。

・職業高校
白眉はなんといっても全国唯一の窯業高校、愛知の瀬戸窯です。読んで字のごとし、他には何の説明も要らないでしょう。それほどまでにその土地の成り立ちを見事に表す職業高校の一つです。この他、全国4校の商船高専の一角、広島商船高専が初戦を突破しています。相手は近大福山で、村田兆治らを生んだ「福山電波工」の後身といえば野球好きには通りがよいのではないでしょうか。

今日は沖縄大会で代表一番乗りが決まり、明日からは南北海道大会が半月の中休みを経てようやく再開となります。結局今年も49大会が勢揃いすることはありませんでした。どこかで咲いてはどこかで散るところが桜前線に似ています。序盤から終盤まで様々な戦いが見られるこの三連休が自分にとっての夏の盛りになります。残りの二日間も楽しみです(ニヤリ)

★青森大会3回戦(7/17)
 弘前中央3-7大湊川内
 八戸水産2-12x五所川原商
 浪岡7-3むつ工
★岩手大会2回戦(7/17)
 一関学院2-1一戸
★秋田大会2回戦(7/17)
 横手8-1能代
★山形大会1回戦(7/17)
 上山明新館6-8鶴岡中央
 新庄東5-3米沢興譲館
★福島大会3回戦(7/17)
 帝京安積1-5会津
★千葉大会3回戦(7/17)
 佐倉1-5習志野
★新潟大会3回戦(7/17)
 六日町6-3新発田商
 新津南4-3糸魚川
 直江津0-10x新津
★富山大会1回戦(7/17)
 魚津14-0中央農
 有磯1-6上市
★愛知大会(7/17)
・1回戦
 木曽川2-9明和
 鳴海2-9成章
・2回戦
 瀬戸窯0-10大同大大同
★京都大会2回戦(7/17)
 鴨沂6-7朱雀
★大阪大会1回戦(7/17)
 花園1-4大体大浪商
 阪南大4-5興国
★兵庫大会2回戦(7/17)
 淡路2-3x市神港
 洲本2-1西脇工(延長10回)
 香寺6-7x甲陽学院(延長10回)
 滝川0-7x姫路工
 飾磨2-7明石
★岡山大会1回戦(7/17)
 倉敷古城池2-2和気閑谷(延長15回)
★広島大会1回戦(7/17)
 広島商船高専6-5近大福山
 河内0-10x呉港
★山口大会1回戦(7/17)
 豊浦11-0響
★鳥取大会1回戦(7/17)
 米子西7-2鳥取西
★鹿児島大会4回戦(7/17)
 大島0-5屋久島
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