ももママの心のblog

猫が大好き。有料老人ホームで生活相談員をしています。映画が好きだけど、なかなか見られません。

バベル

2007-05-24 | 映画 は行
神は人々の言語が通じないように分かたれ、壁を作り、散り散りにされた。そこから人間の苦しみ、孤独が生まれたのだ。モロッコ、アメリカ、メキシコ、日本と4カ国3つのエピソードによる群像劇で描かれる世界は切ない孤独に満ちている。しかし、まったく希望がないわけではなく・・・

2007年 アメリカ 
2007年5月21日 TOHOシネマズ六本木
監督 アレハンドロ・ゴンザレス・イナリトゥ(21グラム)
出演 ブラッド・ピット(Mr.&Mrsスミス、トロイほか多数)、ケイト・ブランシェット(アビエイター、ロード・オブ・ザ・リング・サーガ、エリザベスほか多数)、ガエル・ガルシア・ベルナル(アマロ神父の罪)、役所広司(それでもボクはやってない、SOYURI、笑の大学ほか)、菊池凛子、マイケル・ペーニャ(ワールド・トレード・センター、ミリオン・ダラー・ベイビーほか)、エル・ファニング(I am Sam、デジャヴ)
(出演作品などは、私が観た物にかぎる)

モロッコの山羊飼いはジャッカルから山羊を守るためにライフルを買って息子たちに託した。アミフッドとユニフ兄弟は遊び気分でライフルを扱い、遠くを狙った。ユニフが撃った弾は観光客を乗せたバスにあたってスーザンに命中してしまう。彼女と夫のリチャードの間は3人目の子どもを失ったことから亀裂が入り、修復するための旅に出ていたのだ。彼らの留守中に幼い子どもたちを預かっていたメキシコ人の乳母は、息子の結婚式に出席する予定だったが彼らの帰国が遅れたために途方にくれてしまう。彼女はやむなく二人を連れて国境を越える。ヤスジロウと聾の娘のチエコの間はギクシャクしていた。ヤスジロウの妻が自殺して以来の事だった。やがて、モロッコで使われたライフルはテロリストのものではなく、彼の所有だったことが分かってくるが。

とにかく、重苦しい映画である。通じ合えない人と人の間の壁を強く意識させられる。旧約聖書で描かれているバベルの塔は、人間の慢心に対して神の怒りが人々をばらばらにするために言語を分かたれたという記事である。おごり高ぶった人間たちが力をあわせれば神に達する事ができると考え、高い塔を造り始めた。しかし、途中で言葉が通じなくなり、塔の建設は断念せざるを得なくなったのだ。それ以来、人間は方々に散らばり、違う言語を話すことになったという。アメリカ、メキシコ、モロッコそして日本。地形、気候、景色、だけでなく、言語、文化、歴史の違う人々はお互いを恐れ、壁を作って自分を守ろうとする。冷え冷えとした世界が繰り広げられるのだ。
日本のエピソードが異端に感じるが、音のない世界に生きるチエコの孤独が胸に刺すように痛い。あんな形でしか自分を受け入れてくれる人を探せない切なさは、物質的に豊かな国だからこそ更に深いものとなっているようだ。
いくつかのエピソードが交互に差し込まれ、時系列にそっていないためもあって分かりにくいと言われているが、それほどではない。最後に「なるほど」と合点が行くのだが、違和感はなく、賛否両論は分かりにくさから来ているのではないように思う。
それより言葉の通じない不信感の大きな壁が、「統一民族。統一言語」の日本人には分かりにくかったのではないか?
ブラッド・ピットはこんな役も演じられるようになったのかと、見直した。今回はハンサムなヒーローではなく、憔悴しきった夫であり、子どもたちを思う若い父親でもある。モロッコの埃まみれの砂漠の村で、死に瀕している妻の為に必死で手を尽くす無力な夫は、シャツは血まみれ、目の周りにはしわが刻まれ、切なさでいっぱいだった。ケイト・ブランシェットも、辺境に来てまで「ダイエット・コーク」を飲みたがり、不潔だという理由でグラスの氷を捨てるアメリカ人の若い妻の心境をよく映し出していた。私たちにもこんな面があるのだ。
菊池凛子の射るような眼力のある芝居が一番印象に残る。彼女のヌードが話題になっているが、整った肢体の美しさより、すさまじいまでの孤独を眼力で演じきった力量には感心する。独特の世界感のある日本の女子高生文化も、ここでは一役買っているのだろう。
切ない音楽が耳に残り、気が重いがアカデミー賞に軒並みノミネートされたほどの作品である事は裏切られない。
スーザンの命は助かって退院し、幼い子どもたちも無事。ヤスジロウとチエコの関係にも微妙な変化があった。モロッコのガイドはリチャードがいくら金を手渡そうとしても受け取らない。希望がないわけではないという終わり方が、私たちにほんの少しの温かさを残してくれた。


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4 コメント

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こんにちは♪ (ミチ)
2007-05-28 16:49:49
話題性が先行し、注目度抜群だったために思いがけないほどの賛否両論が繰り広げられていますね~。
普段映画をご覧になっていない方にはこの時系列のいじり方などが分かりにくかったという話も聞きましたが、それほどでもなかったと思います。
あとは日本パートへの嫌悪感もたくさん耳にしました。
私は嫌悪感よりもチエコの痛々しさが胸をさしました。
彼女にも光が見えて良かったと心から思います。
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こんばんは (ノラネコ)
2007-05-30 01:40:29
力作でした。
少々頭でっかちでロジック先行型のような印象も受けましたが、一生懸命人間を描こうとしていました。
賛否が渦巻く作品ですが、議論が沸騰するような上京こそ、この作品が望んだ反応なのかもしれませんね。
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どうしても (ふぴこママ)
2007-06-02 19:51:51
TBできないので、とりあえずコメントで・・・

重かったですね。
特にチエコは痛々しくて。
モロッコのガイドとラストの父娘が救いでした。

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コメントありがとうデス (ももママ)
2007-06-03 06:48:34
>ミチさん
日本パートへの嫌悪感は、チエコの振る舞いに集中するでしょうね。「障害者=かわいそうな人」という図式が知らない間にできていて、強烈に自分を表現しようとする姿が受け入れられないのかも・・・。確かに私もチエコが痛々しすぎて見ていられない気持になりました。

>ノラネコさん
頭でっかち・・・確かにそうとも言えますね。でも、こんな風に人間を描く映画は少ないので、好感が持てました。ただし、一般向けではありません。

>ふぴこママさん
やはり、TBできませんか?同じgooのblog同志なのにね~。不思議すぎです。

重い映画が苦手な人には、ちょっときつかったと思います。私は重いのは嫌いじゃないはずなのに、それでもきついなあと思いましたもの。救いがあったが良かったけど。
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