ももママの心のblog

猫が大好き。有料老人ホームで生活相談員をしています。映画が好きだけど、なかなか見られません。

「善き人のためのソナタ」を観て

2007-12-20 | 映画 や行ら行わ行
2006年アカデミー賞の外国語映画賞を取った作品。


東ドイツにあった秘密警察「シュタージ」を題材とした作品です。シュタージは反体制をもくろむ市民を大規模に監視していました。主演は自分自身もシュタージに監視された過去を持つ東ドイツ出身のウルリッヒ・ミューエという俳優さん。


物語は、ベルリンの壁崩壊直前の1984年。忠実なシュタージの局員であるヴィースラーは、上司が文化省大臣・ヘムプフへのご機嫌取りに行くのに同行。劇場鑑賞をします。その劇の作家ドライマンは政府関係者にもウケが良く、有名女優クリスタと同棲していました。
ドライマンに目をつけたヴィースラーですが、クリスタを欲望的な視線を送っていた大臣と利害が一致。早速ドライマンの自宅に盗聴器が取り付けられ、24時間体制の監視が始まります。一方、ヘムプフ大臣は権力でプレッシャーをかけてクリスタと関係を結びます。ドライマンはそれにすぐ気がつきますが、追求せず、彼女をそっと包みます。権力に身を売ってまで今の位置を守ろうとする彼女の気持ちが分かるのです。
盗聴するヴィースラーは彼らに共鳴し始めます。ドライマンの愛とインテリジェンスに満ちた生活に、逆にヴイースラーが影響されていくのです。

そんな中、ドライマンの親しい演出家が権力側から仕事を干された挙句、自殺するという事態が起きます。ついにドライマンは東ドイツの体制を西側に暴き出そうと行動に出ます。シュピーゲル社(西ドイツの雑誌)の記者と連絡を取り、匿名で記事を書くのです。専用のタイプライターを使い、それを原稿と共に隠しますが、クリスタに隠し場所を知られてしまいます。彼女の身の安全のために巻き込みたくなかったのですが・・・。

ヴィースラーは記事を書いている事実を知りながら、報告書には書きません。しかし、ヤクに手を出しているクリスタは大臣に弱みを握られて尋問されます。しかも、ヴィースラーも盗聴しながら報告を怠っていたと見られ、その尋問をさせられる羽目に陥るのです。

クリスタは隠し場所をもらしてしまいますが、ヴィースラーが家宅捜査の先を越してタイプライターを隠します。しかし、家宅捜索官が隠し場所を知っていると分かり、クリスタはガウン姿で通りに飛び出し、車に轢かれて死んでしまいます。ヴィースラーは左遷されて地下室で郵便物を開けるだけの日々になりますが、数年後、ベルリンの壁が崩壊します。
そして、さらにその後、ドライマンは自分も監視されていて、ヴィースラーが隠してくれたので自分が助かったことを知ります。そして、新しい著書を彼にささげるのです。その題名は、クリスタと暮らしたアパートで奏でた曲「善き人のためのソナタ」という題名でした。この曲を本当に聴く人は悪人になれない・・・当時、彼はそう言っていました。そして、盗聴していたヴィースラーも、その曲を本当に聴いていたのでした。


長くなってしまいましたが、ストーリーはこんな感じ。東ドイツ末期の腐敗した社会で、盗聴する者、される者が描かれました。社会主義を信じ、それを具現化しようとする一方で、その理想とする社会とはかけ離れた権力の腐敗が行われていたことは周知の事実です。
ヴィースラーの思想的な背景は描かれていませんが、国家権力に忠実なまじめな人がられあったと思われます。しかし、実際大臣などの権力者が行っていたことは、その権力の私物化です。それを目の当たりに見て、上司もそれを知りつつ、自分の生活を守るために大臣におべっかを使うわけです。権力者やシュタージは俗物として描かれています。一方、ドライマンは精神的に豊かな知識人であり、豊かな人間性を持っている人物として描かれています。ヴィースラーに良心があれば、当然「善き人」として行動するようになるわけです。


東ドイツは恐ろしい監視国家であったということは、テレビのドキュメンタリー番組で見たことがありました。壁に耳あり、障子に目あり・・・の毎日なのです。後から知りましたが、主演のウルリッヒ・ミューエなどは妻から告発されたとのことです。愛する家族に対しても本音が言えない社会なのです。その実態は、頭では分かっていてもなぜそうなってしまったのか、そしていったいどういう具体的な実態なのか、他国人である私には分かりにくいものでした。
その上、今でも告発した者、された者、盗聴した者、された者が隣り合って暮らしていくしかないのが旧東ドイツなのです。

それを、冷静な目で描いたこの作品は胸に迫るものがあります。ほとんど表情を表に表さないウルリッヒ・ミューエの演技もすごいです。アップも多いのですが、本当にポーカーフェイスにほぼ近い。しかし、そのポーカーフェイスの奥に、プライベートが描かれていない彼の孤独や苦悩や愛がうかがいしれました。ヨーロッパ映画賞の男優賞を取っています。


ドイツは自国の暗黒面にも触れた映画を作っていますね。「白バラの祈り~ゾフィー・ショル最期の日々」は反ナチ運動を行った学生たちの物語。紅一点の彼女がビラを撒いた容疑で大学内で逮捕されたわずか4日後に処刑されます。恐怖の中、冷静に堂々と無実を訴える若いゾフィーの姿に心を動かされました。

また、「ヒトラー 最期の12日間」も観ましたが、こちらはヒトラーの秘書として彼の最後の日々を知るユンゲの手記を基にした映画でした。自分のボスのやっていることに気がつかず、国家的な悪事(そんな簡単な言葉で表現してよいのか?)に加担していることに対して無自覚であったことを後からユンゲは深く後悔しています。これは、とても普通の人間的な感覚に感じます。

私たちも今おかれている現状で、知らない間に悪事に無自覚ではないでしょうか?気がつかず、悪いことに加担していないでしょうか?情報はあふれかえっています。しかし、知るべき情報は本当にわずか。どうでも良い情報の中から、人間として知るべき情報を選別し、「善き人」として行動する人でありたいと思います。


追記:「白ばらの祈り~」は「映画さ行」、「ヒトラー最後の~」は「映画は行」にそれぞれプレビューを書いています。

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2 コメント

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自国の歴史 (えい)
2007-12-22 16:31:21
こんにちは。

ドイツ映画は自国の歴史にスポットを当てた作品が多く、
そこが同じ敗戦国でも日本とは違うところだと思います。
『4分間のピアニスト』『ヒトラーの贋札』など、
この流れは当分、続きそうですね。
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さすがですね (ももママ)
2007-12-24 13:54:38
えいさんは、色々見ていらっしゃりますね。さすがです。

日本が悪いとか劣っているとは思いませんが、ドイツの自国の歴史に対する真摯な姿勢には学ぶものがあると思います。映画にもその姿勢が現れています。人間が描かれていて、単なる反戦映画にとどまっていないところが見事ですね。
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