吉良吉影は静かに暮らしたい

植物の心のような人生を・・・・、そんな平穏な生活こそ、わたしの目標なのです。

ピーター・ハイアムズ監督『2010年』1984年アメリカ

2018-11-09 06:15:28 | 映画・ドラマを観て考えよう

 スタンリー・キューブリックの『2001年宇宙の旅』の続篇にあたる映画です。


※ピーター・ハイアムズ監督『2010年』のポスター

 先日(11月5日(月)のBSシネマ)TV放映されたので、ご覧になった方も多いのではないかと思います。

 米ソ2つの超大国の争いが第二次キューバ危機の様相を呈している中で、合同での宇宙探査プロジェクトが発足してしまうというこの映画、理由は『お互い相手国を出し抜きたいから』です。

 アメリカは遭難した自国宇宙船ディスカバリー号の調査をソ連に行わせたくない、ソ連は先に単独調査を行ってもHAL9000のデータを解析できる技術がない、ここで両国の利害が一致してしまうワケです。このあたりの政治バランスの描き方はオモシロイ。


※キューバ危機:ソ連貨物船の上空を飛ぶ米軍偵察機

 合同調査は最初から不和を内包しています。この解決にはクルー共通の危機が必要です。

 最初のキッカケは木星大気に突入して大気との摩擦で宇宙船の減速を行うシーン(エアロキャプチャー:失敗すれば大気との摩擦で宇宙船そのものが燃え尽きてしまう)です。機動戦士ガンダムに登場する『大気圏降下用バリュート』に似た仕組に護られ、木星の上空を炎に包まれて通過するシーンは前半最大の見せ場です。


※エアロキャプチャー中のレオノフ号各部の状態を表示したモニター


※機動戦士ガンダムに登場するバリュート(バルーン・パラシュート)降下のシーン

 一行は木星の衛星イオに無人探査機を送り込みますが、そこにいる生物(らしきもの)との接触を試みるも、電磁波(らしきもの)を放射され探査機は破壊されてしまいます。
 これは何らかの警告であろうとクルーは判断し、調査船はイオ探査を諦め衛星軌道上を漂うディスカバリー号の調査に向かいます。


※木星の衛星イオの軌道上で縦回転するディスカバリー号

 回転するディスカバリー号の傍には巨大なモノリスが浮遊、接触を試みる有人探査機はイオと同様のエネルギー放射を浴びて破壊されます。宇宙の意志()は、ヒトの調査を拒む存在であるらしいのです。

 映画にはこの謎のエネルギー放射の光球が木星に向かうシーンが写っていますがイオと木星の距離42万㎞を1秒少々で到達していると思われますので、これは光の速さということになります。
 この映像からしてもこの映画はきちんと現実に即して作られていることが分かります。

 一行は回転するディスカバリー号に乗り込むのですが、このとき地球では米ソの対立が一触即発の状態で、宇宙でも『ディスカバリー号はアメリカの領土』とする諍いが起こります。


※生みの親であるチャンドラ博士によって再起動されるHAL9000

 調査の結果HAL9000は『政府によって極秘に植え付けられた「モノリスの存在を秘匿せよ」という命令により、「クルーとの協同作業」という本来の目的との板挟みになり誤作動した』との報告が行われますが、前作2001年宇宙の旅で悩んだファンにとっては、とんだ肩透かしのような種明かしでした。

 突然ボーマン船長が姿を現しはじめ、地上ではかつての妻や母親に別れを告げに現れます。フロイド博士の前にもボーマン船長が姿を現し『I was Bowman.』と自己紹介する。


※いっそのこと『我が名はレギオン。我々はたくさんいるのだ』と言ってください!

 今や、名指し難いものの一部となったボーマン船長はフロイド博士に木星からの退去を命じる。『ああっ!何で全員に言わない!皆が「フロイド博士は錯乱した」と思ったらどうするンだ!』という心配をよそに、フロイド博士の説得が功を奏し、一行は協力して木星軌道から脱出する。


※連結されたレオノフ号とディスカバリー号

 『両船を連結し、初速にディスカバリー号の燃料を使い、燃料の無くなったディスカバリー号を切り離して、レオノフ号だけが帰還する』という計画で、最適軌道を外れた脱出における燃料不足を補うアイデアだった。正常に稼働するかが心配されていたHAL9000も今度は(最終的に)自分を消滅させるこの計画を着実に遂行する。

 木星には巨大な黒点が発生し、木星全体がいったん縮んだ後に爆発、猛烈な光で輝きはじめ恒星ルシファーが誕生する。この辺りは小松左京の『さよならジュピター』でミニ・ブラックホールとの衝突により木星が恒星となるストーリーと重なるものがあります。

 爆発に呑み込まれたHAL9000はボーマン船長とともに宇宙意志()の一部となる。
 地上では二つめの太陽を見た人々が『宇宙には「名指し難い存在」があること』を意識し、超大国同志の衝突は回避される。


※『これらの世界は全てあなた方のもの / ただしエウロパは除く / エウロパへの着陸を試みてはならない』
 ・・・宇宙意志(?)サマ、イオを忘れていませんかぁ?木星が恒星になってイオの生命体は絶滅なんですかぁ?


 地上にはHAL9000からの最後のメッセージが届き、恒星ルシファーの光を受けたエウロパで新しい生命が誕生していることを示唆して、この映画は終わる。


※『全ての世界を皆で利用するのだ / 平和のうちに利用するのだ』
 ・・・宇宙意志(?)サマ、これは少なくとも5ヶ国語(英・露・中・スペイン・アラビア)でお願いします。


 全体としては、①謎に満ちた前作『2001年宇宙の旅』をムリヤリ解決した強引な説明、②ラストはキリスト教的世界観に裏打ちされたようなメッセージで『めでたしめでたし』って『コレ何?』ってカンジ、③ソ連製の探査機や宇宙服ってダサダサやーん、という不満は残るものの、科学的に正確な宇宙の描写(特に船外作業)や政治的な緊張感の演出はヨカッタ、という毀誉褒貶と称賛が相半ばする出来上がりの映画となったのでした。

 ぜひ『2001年宇宙の旅』と見比べて鑑賞して欲しい映画です。

 映画に登場するコンピューターはHAL9000も、その後継機SAL9222も、自らの意識を持ち、自分が消滅することを怖れます。これは現代の技術がまだ追い付いていない部分です。SAL9222は『HAL9000修復のためのシュミレーションとして)主要部分の電源をオフにして再起動する実験を行う』ことを博士に告げられると『私は夢を見ますか?』と質問してきます。博士は『HAL9000の夢を』と言って電源を切るのです(ああっ!ここは『電気羊の夢を』と言って欲しかった!)。人工知能(AI)が人類を越えるとされる『2045年問題』後の世界なのですね、きっと。その一方でモニター画面にはブラウン管が使われ、表示される文字もゴシック体です。この辺りは実際の技術革新とのギャップが感じられて、いま見るとパラレルワールドの出来事のようです。



最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
タイムリーなー話題 (Unknown)
2018-11-12 17:53:48
https://news.goo.ne.jp/article/cinematoday/entertainment/cinematoday-N0104858.html

2010年よりも8年過ぎていますが、
思ったより文明は進化していなーい。
返信する
Re>タイムリーなー話題 (管理人)
2018-11-13 08:34:48
ご冥福をお祈りいたします。
-------☆☆☆-------
関係ない話ですが、ウイリアム・ダニエルズ(キットの声/ナイトライダー)はまだご存命のようです。
-------☆☆☆-------
人類は太陽系から外に出ることはナイんじゃないか?と思います(たぶん『ワープ航法』が開発されることはないでしょうから・・・)。
返信する
もしかして、お持ちですか? (Unknown)
2018-11-18 10:02:30
「われらはレギオン」デニス・E・テイラー著 1~3を?
(「2010年宇宙の旅」にも関係していたような?)

https://www.amazon.co.jp/%E3%82%8F%E3%82%8C%E3%82%89%E3%81%AF%E3%83%AC%E3%82%AE%E3%82%AA%E3%83%B31-AI%E6%8E%A2%E6%9F%BB%E6%A9%9F%E9%9B%86%E5%90%88%E4%BD%93-%E3%83%8F%E3%83%A4%E3%82%AB%E3%83%AF%E6%96%87%E5%BA%ABSF-%E3%83%87%E3%83%8B%E3%82%B9%E3%83%BB-%E3%83%BB%E3%83%86%E3%82%A4%E3%83%A9%E3%83%BC/dp/4150121788
返信する
買おうか迷っているところです! (管理人)
2018-11-19 08:27:14
先日、本屋さんで見つけて『どうしようか?』迷っています。主人公は不死で、最後はクローンが500体くらいデキるそうじゃありませんか。全くオキテ破りな小説みたいです。
あと、気になっているのはシルヴァン・ヌーヴェル『巨神計画』で、どっちを読むか思案中です。
返信する

コメントを投稿