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小説・鉄槌のスナイパー・一章・NOー(2)CG

2008-07-05 13:27:59 | 小説・鉄槌のスナイパー(第一章)
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新幹線は空席が目立ち、席に座ると早速携帯を出して静岡の知り合いの不動産屋に電話を入れた。
そして事情を話し、到着時間を知らせると快く待っていてくれると言うのだった。その嬉しかったこと、人の情を知った思いだった。
そして一時間四十分、九時前には東京へ降りた。キヨスクで駅弁とお茶を買うと下り21時25分発名古屋行きの終着ひかり293号に乗り込んだ。
すると、長野新幹線とは逆に車内は万席で座れなかった。一時間足らずの道程を立つ事にして乗降口に立った。
間もなくドアの閉まる知らせのベルが鳴ると、急いで乗り込んで来た若い女性がいた。乗り込むと同時にドアが閉まり、肩をドアにぶつけて痛そうに押さえていた。「大丈夫ですか?・・・
「はい、有難う御座います。そそっかしいものですから、大丈夫です」
そして俺を見ると恥ずかしそうにペコッと頭を下げて俯いていた。細いうなじに可愛い顔をして真っ赤になっていた。
その笑顔に私は嫌な事が一度に吹き飛んで消えてしまう程、その女性の恥ずかしそうな笑顔がステキに思えた。
学生だろうかOLだろうか、しかし、手ぶらでバックさえ持っていない。
なんでだろう。そんな事を思いながら昇降口に写る自分の姿の向こう側に走り去る景色を見て居た。
すると、ドカッと音がして振り向くと女性は床に座り込んでいた。うなだれるように俯いていた。私は心配になり近付いた。
「どうしました」?するとゆっくり顔を上げた。
真っ青な顔をして目は虚ろで病気のようだった。私はそっと額に手を充てた。すると少し熱があった。
私はコートを脱いで肩に掛け、カバンを床において座らせた。
「済みません、風邪ひいちゃったかも、済みません」。
「少し熱がありますね、大丈夫ですか、貴方はどちらまで行かれるんです」?
「はい、静岡までですから大丈夫です」。
「そうですか、自分も静岡までです。待っていて下さい、何か暖かい物でも買ってきますから」。
私は両方の車内を見た、すると一両先に車内販売のワゴンが見えた。早速向かうとホットコーヒーと弁当を買うと戻った。

「済みません、わあ~っ暖かい。お弁当まで、本当は腹ペコなんです。遠慮なく頂きます」。
そう言うと両手でカップを押さ、身体を縮めるようにして口に運んでいた。
そして私は冷たい缶コーヒーを額にそっと充ててやった。
「ほんとうに済みません、私は立花美保って言います。OLです」。
「自分は紺野京平って言います、バツ一で長野から静岡支社へ転勤です」。
「ウフッ、バツイチだなんて。でもこの時期に大変ですね」。
すると車掌が回って来た、私はポケットから切符を出して渡すと、女性は困った顔をして俯いた。私はすぐに分かった。
「済みません、急いでいたものですから彼女の切符は買ってありません、済みません静岡まで」。
私は財布から一万円を出した。
「有り難うございます、乗車券と急行券で5670円です」。車掌は切符とつり銭を渡すと次の車両に移って行った。
「立花さん、どうぞ」。
「済みません、私勤め先から逃げ出して来たんです」。
そう言って涙ぐんでいた。
私は腰を降ろし、財布から3万円を出して四つ折りにすると切符と一緒に手に握らせた。驚いたように顔を上げた。
「必ずお返しします、有り難うございます。住所を教えて下さい」。
「いいんですよ、困った時はお互い様ですからね。それに、まだ住所が分からないんです。アッハハハハ」。
「え、ウフッ・・・良かった、いい人に出会えて。じゃあ会社は」?
私は名刺を出して渡した。
「豊島樹脂工業、課長、紺野京平さんですか」?
「はい、新しい名刺はまだなんです。裏に静岡支社の電話番号がありますから。でもお金の方はいいですからね。それより身体の方は大丈夫ですか」?
「はい、もうたいぶ楽になりました。あっバック」。
「あっ、立たないでそのまま座っていて下さい」。
私は自分の彼女でもない初めて出会った女性にこんなに親近感を覚えた事はいままで一度もなかった。
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小説・鉄槌のスナイパー・一章・NOー(1)CG

2008-07-05 13:23:14 | 小説・鉄槌のスナイパー(第一章)
小説・鉄槌のスナイパー・一章・NOー(1)CG

鉄槌のスナイパー
97年、その年も終わろうとしていたクリスマス明けの二十七日。世間は来年の長野冬期オリンピックでスポーツ界は賑わっていた。
そんな長野市内にあるオフィースビルの一室で、私は専務に呼び出されていた、行き成り静岡に転勤を言い渡されたのだ。
断れば此の不景気で人材は豊富にあり、あっさり首をチョンされる、私は一呼吸置いて両手で辞令を受け取った。
「本当に急で申し訳ない、今回は君のようなベテランでなければ勤まらないからね、支社の腑抜け社員等を再教育し直してくれたまえ」。
帰りかけようとすると、「そうそう、まだクレー射撃はしてるのかね」。
「いいえ、時間が取れませんので」。専務はムッとしたように眼鏡を外した。
「それは嫌味かね・・・」と笑みを浮かべ「冗談だよ。では宜しく頼む」。
専務直々の要請だった。
私は営業一本でプラスチック成型の技術的な事は殆ど分からない。体裁の良い首きりの一段階だと言う事は瞬間的に察していた。
会社は若返りの為と賃金の高い四十代以上の管理職は殆どリストラされていた。私はまだ三十、まさか私の所にも来るとは思ってもみなかった事だった。
妻とは半年前に協議離婚で別れて子供も無い、身軽と言えば身軽だが、事此々に来て転勤には参った。
そして営業課に戻ると転勤の事は既に知れ渡っていた。
「課長、本当に転勤なんですか」?
今年入ったばかりの若い事務の子が涙ながらに訊いてきた。私はそれだけでも救われた感じがした。
「色々世話になったね。急いで引き継ぎをしないと」。
胸にポッカリと穴が空いたような感じでデスクを片付けていた。すると全員が来て机を取り巻いた。
「課長、こんな事許していいんですか。組み合いで抗議しましょう」。
「いや、いいんだ。気持ちは有り難いがそんな事したら会社の思うままだ。あいにく私は気楽だから選ばれたんだよ」。
すると皆んなは俯いて女子社員の啜り泣く声が流れていた。
仕事を続けるように促すと、思いを引きずるようにデスクに戻った。

そして午後から始めた片付けも済み、夕方には引き継ぎを終えた。
私物の入ったダンボール箱を抱えながら皆んなに別れを告げ、会社を出た。
すると係長の本田健が後を追って来た。
「課長、明日の晩送別会しますので来てくれますね」。
「有り難う、せっかくだけど時間がないんだ。これから引っ越しセンターに全部頼んで静岡へ行かなければならないんだ。静岡も混乱していてね、先任の所長がまだ居座っていて部屋を明け渡してくれないそうだからね。気持ちだけでいいよ」。
「そうですか、じゃあこちらに来た時に皆んなでやりましょう」。そう言うと本田は腰を深く折って戻って行った。
そしてフト見上げると営業課の窓から皆んなが手を振っていた。
釣られるように思わず手を振っていた。気が付くと何人もの通行人が足を止めて見上げていた。急に恥ずかしくなって振った手を下げた。
歩きながら脳裏に浮かんだのは妻の顔だった。もし、こんな時期にこんな辞令を聞いたら何を言われるか、そう思うとゾッとした。
そしてアパートに帰ると早速電話帳を開いて引っ越しセンターに電話した。しかし正月休みに入っていたり、忙しいと断られ続けて三軒目、どうやら引き受けて貰えた。
そして何をどう片付けて良いのか分からず、うろうろ待つ事三十分、表にトラックが止まった。するとチャイムが鳴った。開けるとブルーの揃いのつなぎを着た数人の男女が立っていた。
「お世話になります、信濃引っ越しセンターです」。と全員が一斉に頭を下げ、元気の良い声が静まり返った夕暮れの闇に響き亙った。
私は事情を話し、今夜段取りを付けて明日の午前中までには家を探して連絡を入れる約束をして片付けを初めて貰った。
私は現金と預金通帳、簡単な着替えを旅行カバンに詰め込んで鍵を責任者に預けると長野駅に向かった。
すると、スキー客や帰省の人達で駅はごった返していた。
スキーを持った客の中を避ける様に切符売り場に行くと、上りの新幹線の席はすんなりと買う事が出来た。
そして十五分後の七時0五分発上りのあさま319号に乗り込んだ。
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