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小説・半日の花嫁-(NO-10-)

2011-06-23 22:18:59 | 小説・半日の花嫁
小説・半日の花嫁-(NO-10-)
「お兄ちゃん、警察からは何か言って来たの?・・・」
「何も言って来ないよ。昨日病院に行って聞いたんだけど、誰も何も見てないって。あの六人なんか責任感じちゃって落ち込んでいたよ。どうして一緒に連れて行かなかったのかって。警察だって手掛かりがなくて困っているんだ。
それと、あの村山君が病院に来て同じ事を聞いて行ったってさ、彼も何か手掛かりを探してくれているみたいだ」。
「そう、あの頼りない人が。余程要子さんに優しくしてくれた事が嬉しかったんだね。でもどうして要子さんが殺されなきゃならなかったんだろう。お兄ちゃん、要子さんの日記なんか無かったの」。
「うん、あったよ。でも気になる事なんか何も書いてなかった。仕事で困った事や俺達の将来のことなんかでさ。矢部刑事も持って行って調べたけど不審な男の名前や揉め事は何もなかったって。
病院の関係者や、俺達の事を知っていて高草山の空き地の事を知ってる人達も全員調べられて、返って迷惑を掛けてしまったよ」。
母はそんな悲しみと苦しみに耐え、敢えて明るい表情を見せる息子の顔を見て、涙を流さざるを得なかった。
母親と妹は、人一倍優しい息子や兄を労る気持ちで話題を変えた。
そんな二人の気持ちがチャイムが掻き消した。二人の刑事が訪ねて来た。
刑事は要子の仏壇に並んで座ると線香を手向け、両手を合わせて深く頭を下げた。
そして話しは要子の殺された状況をあからさまに話し始めた。しかし、二人の心配を他所に明は至極冷静に聞いていた。
「そう言った事で奥さんの周りからは妙な噂や男性の影は何一つ出ませんでした。亡くなられたから皆さん良い事ばかり話すと言う事ではなく、誰からも愛され、完璧と言っても過言ではな程奥さんは慕われ頼りにされていたと思います。
後は新田さん、ご主人にお聞きしたいんですが。誰かに恨まれるような事はありませんか。仕事柄ルポライターと言う仕事は他人のプライベートにまで入り込んでリポートする事もあります。その点で何かありませんか?・・・」。
すると、明は聞かれる事が分かっていたのか隣の部屋に行くと数冊の大学ノートを持って来るとテーブルの上にそっと置いた。
ノートは年事の年号と月別に仕事をした内容が書かれていた。二人の刑事は一冊づつ手にして一頁一頁細かく目を通していた。
「自分はいままで殺人事件を追っても被害者の遺族には一度話を聞くだけでそれ以上しつこく追い込みはしていません。
それはもっと聞きたい事は沢山ありましたよ、でも被害者の心中を考えれば出来ませんでした。だから返って遺族から電話を頂いて話してくれる方が多かったんです。
加害者の家族も同じです。編集長からはもっと突っ込んでレポートを書くように言われましたけど、自分にもポリシーがありますからね。
まさか自分がこんな立場になるとは思っても見ませんでした。殺人事件に遭われた遺族の気持ちが分かっていたつもりでしたが。想像以上に辛いです」。
「お兄ちゃん、もう良いじゃん。刑事さんもう聞かないでやってよ」。
芳美は涙で顔をクシャクシャにしながら睨みつけた。
「芳美、大丈夫だよ。犯人を捕まえて貰うには大事な事なんだから。お兄ちゃんにも良く分かっている。刑事さん達だって辛いんだよ。逆にお兄ちゃんよりもっと辛いと思う。刑事さん続けて下さい」。
「そう言って頂けると私達も救われる思いがします。それで今までの捜査で分かった事をお話しします。
奥さんは自ら病院から出ていないと言うのが捜査本部の結論です。と言うのは病院の前にあるタバコ屋のお婆さんが、椎野さんが病院から帰宅する時は毎日寄ってくれて、貴方が吸うバージニアスリムと言うタバコを必ず買って帰ると話してくれたんです」。
「はい、要子はいつもあのお婆さんの所で買って来てくれていました。だから僕はタバコは殆ど買った事がありませんでした。
それと言うのも、一度あのお婆さんが倒れて入院した事がありましてね。その時に要子が担当したんです。それで毎日具合を聞いて帰っていました。
病院が休みの時でも電話して聞いてましたから」。
「はい、その事も伺いました。それにいつも通る道沿いでもあの日に限って奥さんを誰も見掛けた人が居ないんです。
そんな事から話を総合して、椎野さんは病院から車で連れ出されたとしか考えられないと言うのが我々の結論です。
それで、現在病院関係者の協力を得て総ての車を鑑識が調べています。
NO-10

小説・半日の花嫁-(NO-9-)

2011-04-10 13:02:05 | 小説・半日の花嫁


小説・半日の花嫁-(NO-9-)

そう言うと男はポケットから封筒を出して明に差し出した。
明は受け取って封を開けるとお金が入っていた。明は男を見た。
「その時に立て替えて頂いたお金です。昨日給料と遅れていた賞与を貰ったもんですから返そうと思っていたんです。そしたら今朝のテレビで殺されたって聞いて。それで・・」。
男は腕を目に充てると声を出して泣き始めたのだった。
「そうだったのか。要子の奴誰にも優しいから。山村さん、要子に直接返してやって下さい。来てくれてありがとう」。
「はい、僕が線香をあげて良いんですか。有り難うございます。新田さん、椎野さん僕に言ったんです、もっと清潔にして頭の薄い事なんか気にしないで頑張ってればきっといつかは良い人が見付かるって。
あんなに優しい天使みたいな女性を誰が殺したんですか。犯人が憎いです」。
矢部刑事たちは唖然としなが村山を解放した。明は家に上げると要子の柩の前に連れて行った。村山は涙を流しながら柩の上に両手で封筒を置き、焼香した。
「椎名さん、有り難うございました。僕は悔しいです」。村山は震えた両手を合わせ、明と良美に挨拶して寂しそうに帰って行った。
そして午後になると信州の安曇野から、他界した父親の親戚も駆け付けた。しかし、良く言う者はいなかった。安曇野を捨てて出て行ったから、とか。
殺されるような女性と付き合うからだとか、明たちは散々言われても黙って聞いていた。そして焼香を済ませるとそそ草に帰って行った。
そんな明の隣にいた母輝子は親戚が帰ると人知れず塩を撒いた
その晩、臥せっていた要子の父親もやっと起きて来た。窶れてくぼんだ目には涙が一層哀れに思えてならない明だった。
「明君、皆さん、ご面倒をお掛けして済みません。私はどうしたら良いか分からなくなりました。こんな事がまさか自分の身に降り懸かって来ようとは夢々思いませんでした」。
フ~ッと溜め息を漏らすと肩をガックリ落とし、遺影を見ていた。
その晩、明は一睡もせずに二人の線香を絶やさず、ブツブツ何か語り掛けていた。
そんな兄を支えるように芳美は寄り添っていた。
翌日。朝から読経が流れる中、しめやかに告別式が行われた。十一時には出柩の運びとなり、要子と義母の柩は二台の霊柩車に乗せられ、葬儀場に運ばれた。
明は一人待合い室をでると、立ち登る煙突の煙りをじっと見詰めていた。

そんな兄を、芳美は待合い室の窓から見て、言い知れない胸騒ぎを覚えるのだった。
芳美が席を立つと母は娘の手を持った、そっと首を横に振って止めた。
「一人にしてあげなさい。明は一人で要子さんを見付けて来て結婚も決めたの、今度も一人で送ってやりたいのよ。明はああやって要子さんを忍んでるの」。
「うん、お兄ちゃん可哀相で」。
明は微動だもせず、じっと煙突を見つづけていた。そしてスピーカーから荼毘が終わり、集合の知らせが流れた。明は真っすぐに釜前に走った。釜から出された要子の変わり果てた姿に目を見開いて涙を流していた。
その涙が要子に落ち「ジュッ」と蒸気になって消えた。そして係の人の手でブリキの皿に入れられた。要子、僕がきっと敵を討ってやるからな。そう心に誓う明だった。
こうして葬儀はつつがなく悲しみの中で終わり、一週間が経った。
明は要子と暮らす筈だったマンションに仏壇を買うと家を出た。
警察では未だ犯人に結び付く手掛かりが掴めず苦慮していた。
そして更に時間は流れ、九月一日、突然要子の父親が明を訪ねて来た。
「明君、此れは要子が引っ越しの為に荷造りしてまだ部屋に置いてあった物です。何が入っているのか知らないが明君に渡したい」。
明は幾分顔色が良くなった義父に安心したようだった。ダンボール箱を受け取るとズッシリ重かった。
「義父さん、要子とここで数日過ごしただけです。要子は此々にベビーベットを置いてとか・・・ここに・・・」、明は声に詰まってその先は言葉にならなかった。
そして仏壇の前に座ると、じっと遺影を見詰めていた。
そんな明を見て、「明君、元気を出してくれないか。そんな明君を見たら娘も悲しむ。私も頑張るから。ではまた来ます」義父は元気を出すように涙ながらに言い聞かせた。
そして焼香を済ませると義父は部屋を見渡して帰って行った。
そして、昼になると母親と妹が食事を持ってやって来た。
「お兄ちゃん、そろそろ外へ出なきゃ駄目だよ。要子さんだってそんなお兄ちゃん見たくないって言っているよ」。
「分かっている。なあお袋、店を手伝わせてくれないかな」。NO-6-12
あれほど店は継がないと言っていた明が要子の死で気持ちが変わったようだった。そして母は黙って頷いた。
NO0-12

小説・半日の花嫁-(NO-8-)

2011-04-05 10:24:00 | 小説・半日の花嫁
小説・半日の花嫁-(NO-8-)

しかし何かがある筈なんです、何故あの場所に遺棄されたかなんです。お二人の事を良く知っている誰かなんですがね。心当たりありませんかね?・・・」。
すると何かを言いたくてならないように妹がいらついていた。そんな仕草に気付いたのか矢部刑事が芳美の顔を見た。
「妹さん、もし何かご存じでしたらどうぞ聞かせて下さい」。
「はい。お兄ちゃん、私をストーカーしてたあの男は?・・あの男だったら私達家族の事を調べていたじゃない。要子さんの事も」。
明は思い出したように顔を上げた。そして芳美を見て頷いていた。
ああ・・・と明は顔を上げた。二人の刑事は興味あり気に身を乗り出した。
「で、どんな男です。いつ頃の話ですか?・・・」。矢部刑事の声は心なしトーンが上っていた。そして芳美と明の顔を交互に見据えた。
「三ケ月ほど前の五月の始めごろです。突然店に来て私と交際して欲しいって言って来たんです。私のタイプじゃなかったし、こんな事言うと失礼ですけど、髪が薄くて身なりが汚いんです。それでハッキリお断りしたんです。
それから何回か店に来てくれて、その度に映画に誘われたりドライブに誘われたりしていたんです。それで困ってる私を見兼ねた母がお兄ちゃんに話したんです。
それで男が店に来てくれた時にハッキリ断ってくれたんです。
付き合う気はないし、汚い恰好で来ると店の客にも迷惑だから二度と来ないで欲しいって。それから暫く家の周りで見張っていて、私が買い物に行くと後ろを着けていました。
それで余りにもストーカー行為が続くものだから警察に通報したんです。
そうしたらすぐにパトカーで来てくれて、男に話していました。それからはピタッと来なくなりました。でもあんな大それたことする様には見えませんでしたけど。
でも、その男が言っていました。兄貴の女は奇麗だって、私に似ているって。その時に来てくれたお巡りさんに聞いて頂ければ男の住所は分かると思います」。
すると、矢部刑事が飯島刑事の耳元で何かを言うと席を立ち、庭に出て携帯で電話をしていた。

「通報したのは一月前ですね?・・・」。
「はい、あのころ結婚式の話でお姉さん良く来ていましたから。あのもお姉さんも男の顔は見て知ってます。ねえ、お兄ちゃん」。
「うん、でもあの貧弱な男が考えられない。背は小さくてヒョロッとしていて、要子は165だぞ。その要子の首の骨を折るような力があの男にあるかな?・・・」。
要子、いったい誰に殺されたんだ、教えてくれ。明は壁の写真をじっと見詰めながら何度も無言で聞いていた。
すると、二人が式を挙げる筈だった結婚式場から担当のウェデングコーディネーターと支配人が弔問に来た
「この度はなんと申し上げて宜しいか。お力をお落としになりません様に。これは新婦様の」その中身はウェディングドレスだった。明は涙を必死で堪えていた涙が溢れだし、嗚咽した。そして震える手て柩を開けた。
「要子、お前のウェディングドレスが届いたぞ。いま着せてやるから」。周りにいた弔問客や親戚の涙を誘い、家の中から外に至るまで啜り泣く声に包まれた。
そんな中にいま話していた男が喪服姿で来ていたのだった。
良美はその男を見付けると矢部刑事にそっと伝えた。刑事はさりげなく近付くと声を掛けた。すると、男はおどおどしながら涙を流しているのだった。
矢部刑事は男を連れて家の裏に廻ると明を呼んだ。
「警察です、貴方はどう言う関係でこちらの葬儀に来たんです」。と矢部刑事は手帳を出して男に見せた。すると男は震え出した。
「ぼ僕は何も、ただ芳美さんのお兄さんの婚約者が殺されたって聞いたもんだから、そ、それで線香の一本もと思って、済みません」。
「それで、貴方の名前と住所は」?
「は、はい。村山芳幸26才です。住所は梅屋町三ー五ー十五、曙アパート201号室です。仕事は新聞配達してます」。
男はおどおどしながらもしっかりとした口調で答えると頭を下げた。そして良く見ると不精髭も剃って嫌な臭いもしなかった。
「貴方と椎野要子さんとはは全く関係ないでしょう」。
「はい、済みません。先月盲腸で椎野さんの病院に入院した時に、芳美さんをストーカーしてた事を知ってながら、こんな僕ににも凄く優しくしてくれたんです。それで外の患者さんに誘われて」。
要子が、明は初めて聞いた。自分に話せば不愉快な思いをさせると思って話さなかったんだと明は思った。
「新田さん、椎野さんは凄く良い人でした。僕が病院の支払いにも困ってる事を知ると払ってくれたんです。こんな優しい人を誰が殺したんでしょう」。
NO-8-10

小説・半日の花嫁-(NO-7-)

2011-03-27 18:32:22 | 小説・半日の花嫁
小説・半日の花嫁-(NO-7-)

「もう泣くな。お義母さんも要子ももう返って来ないんだ。お兄ちゃんもう泣かないぞ」。
明はそう言うと芳美の肩をグッと掴むと唇をかみ締めていた。
そして喪服に着替えると要子の実家に向かった。
すると、大勢のマスコミが道路を塞ぐ様に集まっていた。それを警備する警官、そんな中を人目を避けるように家に入った。
すると、夕べの洋服のままの父親が祭壇の前に座っていた。
明は声を掛けて隣の部屋へ連れて行った。父親の目は一晩でくぼみ、まるで別人のように面影がなかった。そして布団を敷いて寝かせた。
祭壇に戻ると線香を手向け、義母と新妻の遺影をじっと見詰める明だった。
すると、表が騒がしくなり、浜松医大から司法解剖を終えた要子の遺体が帰って来た。
明は表に出るとグッと涙を堪え、柩に入れられた新妻を迎えた。
すると、両家の菩提寺の住職が二人やって来た。
そして、読経が始まると要子の勤め先だった病院の関係者、患者で要子に世話になったと言う人達が次から次へと、手に数珠を携えて弔問に訪れた。
明は二つ並べられた柩を見ては、要子の遺影を見ながら涌き出る涙を拭おうともせず、喪服を濡らしていた。
そして午後になると私服に黒いネクタイをした矢部刑事が弔問に訪れた。
明は二人の刑事の弔問が済むのを待つと隣の部屋に移った。
「新田さん、こんな時になんですが、お話を伺わせて下さい」。
明は妹が入れてくれたお茶を飲みながら頷いた。
「まず死因からお伝えします。死因は首を骨折した為に因るものでした。ほぼ即死だったと言う事です。それ以外外傷は全くなく、暴行を受けた様子もありませんでした。
それで、昨晩は病院の勤務が終えたのが午後五時、それから同僚の看護婦さん七人と送別会を兼ねてカラオケに行く筈だったと同僚の方は話してくれました。
それがですね、待ち合わせしたカラオケハウスに六時に待ち合わせしたそうなんですが、時間になっても現れないので心配していたと言うんです。
それで、電話を何故しなかったのか伺ったんですが、要子さんは携帯が嫌いで普段は持ち歩く事がなかったからだと言うんです」
「はい、要子はそうでした。僕は仕事柄持ち歩いていますが、出来れば持ちたくないのが本音なんです。
何処へ遊びに行っても電話で呼び出されるのが本質的に嫌いなんです。その影響が要子にもありました。要子は病院の呼び出しのポケベルしか持っていませんでした」。
「そうですか。それでですね、要子さんが遺体で発見された場所は新田さんが好きな場所だったとお聞きしたんですが?・・・」。
「ええ、あの場所は焼津港の夜景が奇麗で要子を連れて良く行きました。僕の友人なら誰でも知ってる場所です。
僕は写真が趣味で夜景をバックに要子を良く撮りました。
その写真を病院の同僚にも見せていたようですから。それに要子の部屋にも、その写真もその場所で僕が撮った写真です」。
明が見上げた壁には、焼津の夜景をバックに要子の写真が大きく引き伸ばして額に入れられて飾られていた。
すると、写真を見詰める明の目からポロッと涙が流れて落ちた。
「美しい女性ですね。それでですね、要子さんが病院の通用口で見掛けられたのが最後でして、その後誰も要子さんを見掛けてないんです。
病院の関係者や患者さんに聞いても、帰りに挨拶を交わしたと言うだけでプッツリ消息を断ってるんです。スラットして背も大きい方が突然消えるなんて事は考えられません。
失礼を承知でお伺います。以前お付き合いしていたような男性はどなたかいませんか」。
「いいえ、知りません。要子は僕が初めてだと聞いています。同級生や友人の話しでも男と付き合った事はないと」。
「ええ、我々もその事はお聞きしました。要子さんは慎重な方で用心深く、今時の女性には珍しいと同僚も高校時代のクラスメートも話してくれました。ではストーカーに狙われていたような事はありませんでしたか」。
「ええ、前に一度だけ変な男に着けられたと言ってましたが、それは偶然隣の家の息子さんだったらしくて笑っていました。それ以外は何も。
要子は人に喜ばれても恨まれるような事はしていません。九月一日の大安の日には結婚式を挙げて新居で暮らす筈だった。秋には助産婦の試験があるからって張り切っていたのに、・・・どうして要子が・・・悔しいです」。と片手で顔を覆った。
刑事もその様に言葉を掛けるタイミングを思い図っていた。
「私達も調べれば調べるほど椎名さん、いえ奥さんは非の打ち所のない方です。病院の医師からも同僚の看護師さん達からも若いのに慕われていますし。
NO-7-14

小説・半日の花嫁-(NO-6-)

2011-02-23 16:06:57 | 小説・半日の花嫁


小説・半日の花嫁-(NO-6-)

「新田さん、椎野さんは凄く良い人でした。僕が病院の支払いにも困ってる事を知ると払ってくれたんです。こんな優しい人を誰が殺したんでしょう」。
そう言うと男はポケットから封筒を出して明に差し出した。
明は受け取って封を開けるとお金が入っていた。明は男を見た。NO-5
「その時に立て替えて頂いたお金です。昨日給料と遅れていた賞与を貰ったもんですから返そうと思っていたんです。そしたら今朝のテレビで殺されたって聞いて。それで・・」。
男は腕を目に充てると声を出して泣き始めたのだった。
「そうだったのか。要子の奴誰にも優しいから。山村さん、要子に直接返してやって下さい。来てくれてありがとう」。
「はい、僕が線香をあげて良いんですか。有り難うございます。新田さん、椎野さん僕に言ったんです、もっと清潔にして頭の薄い事なんか気にしないで頑張ってればきっといつかは良い人が見付かるって。
あんなに優しい天使みたいな女性を誰が殺したんですか。犯人が憎いです」。
矢部刑事たちは唖然としなが村山を解放した。明は家に上げると要子の柩の前に連れて行った。村山は涙を流しながら柩の上に両手で封筒を置き、焼香した。
「椎名さん、有り難うございました。僕は悔しいです」。村山は震えた両手を合わせ、明と良美に挨拶して寂しそうに帰って行った。
そして午後になると信州の安曇野から、他界した父親の親戚も駆け付けた。しかし、良く言う者はいなかった。安曇野を捨てて出て行ったから、とか。
殺されるような女性と付き合うからだとか、明たちは散々言われても黙って聞いていた。そして焼香を済ませるとそそ草に帰って行った。
そんな明の隣にいた母輝子は親戚が帰ると人知れず塩を撒いた
その晩、臥せっていた要子の父親もやっと起きて来た。窶れてくぼんだ目には涙が一層哀れに思えてならない明だった。
「明君、皆さん、ご面倒をお掛けして済みません。私はどうしたら良いか分からなくなりました。こんな事がまさか自分の身に降り懸かって来ようとは夢々思いませんでした」。
フ~ッと溜め息を漏らすと肩をガックリ落とし、遺影を見ていた。
その晩、明は一睡もせずに二人の線香を絶やさず、ブツブツ何か語り掛けていた。
そんな兄を支えるように芳美は寄り添っていた。
翌日。朝から読経が流れる中、しめやかに告別式が行われた。

十一時には出柩の運びとなり、要子と義母の柩は二台の霊柩車に乗せられ、葬儀場に運ばれた。
明は一人待合い室をでると、立ち登る煙突の煙りをじっと見詰めていた。
そんな兄を、芳美は待合い室の窓から見て、言い知れない胸騒ぎを覚えるのだった。
芳美が席を立つと母は娘の手を持った、そっと首を横に振って止めた。
「一人にしてあげなさい。明は一人で要子さんを見付けて来て結婚も決めたの、今度も一人で送ってやりたいのよ。明はああやって要子さんを忍んでるの」。
「うん、お兄ちゃん可哀相で」。
明は微動だもせず、じっと煙突を見つづけていた。そしてスピーカーから荼毘が終わり、集合の知らせが流れた。明は真っすぐに釜前に走った。釜から出された要子の変わり果てた姿に目を見開いて涙を流していた。
その涙が要子に落ち「ジュッ」と蒸気になって消えた。そして係の人の手でブリキの皿に入れられた。要子、僕がきっと敵を討ってやるからな。そう心に誓う明だった。
こうして葬儀はつつがなく悲しみの中で終わり、一週間が経った。
明は要子と暮らす筈だったマンションに仏壇を買うと家を出た。
警察では未だ犯人に結び付く手掛かりが掴めず苦慮していた。
そして更に時間は流れ、九月一日、突然要子の父親が明を訪ねて来た。
「明君、此れは要子が引っ越しの為に荷造りしてまだ部屋に置いてあった物です。何が入っているのか知らないが明君に渡したい」。
明は幾分顔色が良くなった義父に安心したようだった。ダンボール箱を受け取るとズッシリ重かった。
「義父さん、要子とここで数日過ごしただけです。要子は此々にベビーベットを置いてとか・・・ここに・・・」、明は声に詰まってその先は言葉にならなかった。
そして仏壇の前に座ると、じっと遺影を見詰めていた。
そんな明を見て、「明君、元気を出してくれないか。そんな明君を見たら娘も悲しむ。私も頑張るから。ではまた来ます」義父は元気を出すように涙ながらに言い聞かせた。
そして焼香を済ませると義父は部屋を見渡して帰って行った。
そして、昼になると母親と妹が食事を持ってやって来た。
「お兄ちゃん、そろそろ外へ出なきゃ駄目だよ。要子さんだってそんなお兄ちゃん見たくないって言っているよ」。
「分かっている。なあお袋、店を手伝わせてくれないかな」。
NO-6-12

小説・半日の花嫁-(NO-5-)

2011-02-05 14:14:18 | 小説・半日の花嫁

小説・半日の花嫁-(NO-5-)

すると何かを言いたくてならないように妹がいらついていた。そんな仕草に気付いたのか矢部刑事が芳美の顔を見た。
「妹さん、もし何かご存じでしたらどうぞ聞かせて下さい」。
「はい。お兄ちゃん、私をストーカーしてたあの男は?・・あの男だったら私達家族の事を調べていたじゃない。要子さんの事も」。
明は思い出したように顔を上げた。そして芳美を見て頷いていた。
ああ・・・と明は顔を上げた。二人の刑事は興味あり気に身を乗り出した。
「で、どんな男です。いつ頃の話ですか?・・・」。矢部刑事の声は心なしトーンが上っていた。そして芳美と明の顔を交互に見据えた。
「三ケ月ほど前の五月の始めごろです。突然店に来て私と交際して欲しいって言って来たんです。私のタイプじゃなかったし、こんな事言うと失礼ですけど、髪が薄くて身なりが汚いんです。それでハッキリお断りしたんです。
それから何回か店に来てくれて、その度に映画に誘われたりドライブに誘われたりしていたんです。それで困ってる私を見兼ねた母がお兄ちゃんに話したんです。
それで男が店に来てくれた時にハッキリ断ってくれたんです。
付き合う気はないし、汚い恰好で来ると店の客にも迷惑だから二度と来ないで欲しいって。それから暫く家の周りで見張っていて、私が買い物に行くと後ろを着けていました。
それで余りにもストーカー行為が続くものだから警察に通報したんです。
そうしたらすぐにパトカーで来てくれて、男に話していました。それからはピタッと来なくなりました。でもあんな大それたことする様には見えませんでしたけど。
でも、その男が言っていました。兄貴の女は奇麗だって、私に似ているって。その時に来てくれたお巡りさんに聞いて頂ければ男の住所は分かると思います」。
すると、矢部刑事が飯島刑事の耳元で何かを言うと席を立ち、庭に出て携帯で電話をしていた。「通報したのは一月前ですね?・・・」。
「はい、あのころ結婚式の話でお姉さん良く来ていましたから。あのもお姉さんも男の顔は見て知ってます。ねえ、お兄ちゃん」。
「うん、でもあの貧弱な男が考えられない。背は小さくてヒョロッとしていて、要子は165だぞ。その要子の首の骨を折るような力があの男にあるかな?・・・」。

要子、いったい誰に殺されたんだ、教えてくれ。明は壁の写真をじっと見詰めながら何度も無言で聞いていた。
すると、二人が式を挙げる筈だった結婚式場から担当のウェデングコーディネーターと支配人が弔問に来た
「この度はなんと申し上げて宜しいか。お力をお落としになりません様に。これは新婦様の」その中身はウェディングドレスだった。明は涙を必死で堪えていた涙が溢れだし、嗚咽した。そして震える手て柩を開けた。
「要子、お前のウェディングドレスが届いたぞ。いま着せてやるから」。周りにいた弔問客や親戚の涙を誘い、家の中から外に至るまで啜り泣く声に包まれた。
そんな中にいま話していた男が喪服姿で来ていたのだった。
良美はその男を見付けると矢部刑事にそっと伝えた。刑事はさりげなく近付くと声を掛けた。すると、男はおどおどしながら涙を流しているのだった。
矢部刑事は男を連れて家の裏に廻ると明を呼んだ。
「警察です、貴方はどう言う関係でこちらの葬儀に来たんです」。と矢部刑事は手帳を出して男に見せた。すると男は震え出した。
「ぼ僕は何も、ただ芳美さんのお兄さんの婚約者が殺されたって聞いたもんだから、そ、それで線香の一本もと思って、済みません」。
「それで、貴方の名前と住所は」?
「は、はい。村山芳幸26才です。住所は梅屋町三ー五ー十五、曙アパート201号室です。仕事は新聞配達してます」。
男はおどおどしながらもしっかりとした口調で答えると頭を下げた。そして良く見ると不精髭も剃って嫌な臭いもしなかった。
「貴方と椎野要子さんとはは全く関係ないでしょう」。
「はい、済みません。先月盲腸で椎野さんの病院に入院した時に、芳美さんをストーカーしてた事を知ってながら、こんな僕ににも凄く優しくしてくれたんです。それで外の患者さんに誘われて」。
要子が、明は初めて聞いた。自分に話せば不愉快な思いをさせると思って話さなかったんだと明は思った。
NO-5-10

小説・半日の花嫁-(NO-4-)

2010-12-30 23:13:17 | 小説・半日の花嫁
小説・半日の花嫁-(NO-4-)

「もう泣くな。お義母さんも要子ももう返って来ないんだ。お兄ちゃんもう泣かないぞ」。
明はそう言うと芳美の肩をグッと掴むと唇をかみ締めていた。
そして喪服に着替えると要子の実家に向かった。
すると、大勢のマスコミが道路を塞ぐ様に集まっていた。それを警備する警官、そんな中を人目を避けるように家に入った。
すると、夕べの洋服のままの父親が祭壇の前に座っていた。
明は声を掛けて隣の部屋へ連れて行った。父親の目は一晩でくぼみ、まるで別人のように面影がなかった。そして布団を敷いて寝かせた。
祭壇に戻ると線香を手向け、義母と新妻の遺影をじっと見詰める明だった。
すると、表が騒がしくなり、浜松医大から司法解剖を終えた要子の遺体が帰って来た。
明は表に出るとグッと涙を堪え、柩に入れられた新妻を迎えた。
すると、両家の菩提寺の住職が二人やって来た。
そして、読経が始まると要子の勤め先だった病院の関係者、患者で要子に世話になったと言う人達が次から次へと、手に数珠を携えて弔問に訪れた。
明は二つ並べられた柩を見ては、要子の遺影を見ながら涌き出る涙を拭おうともせず、喪服を濡らしていた。
そして午後になると私服に黒いネクタイをした矢部刑事が弔問に訪れた。
明は二人の刑事の弔問が済むのを待つと隣の部屋に移った。
「新田さん、こんな時になんですが、お話を伺わせて下さい」。
明は妹が入れてくれたお茶を飲みながら頷いた。
「まず死因からお伝えします。死因は首を骨折した為に因るものでした。ほぼ即死だったと言う事です。それ以外外傷は全くなく、暴行を受けた様子もありませんでした。
それで、昨晩は病院の勤務が終えたのが午後五時、それから同僚の看護婦さん七人と送別会を兼ねてカラオケに行く筈だったと同僚の方は話してくれました。
それがですね、待ち合わせしたカラオケハウスに六時に待ち合わせしたそうなんですが、時間になっても現れないので心配していたと言うんです。

それで、電話を何故しなかったのか伺ったんですが、要子さんは携帯が嫌いで普段は持ち歩く事がなかったからだと言うんです」
「はい、要子はそうでした。僕は仕事柄持ち歩いていますが、出来れば持ちたくないのが本音なんです。
何処へ遊びに行っても電話で呼び出されるのが本質的に嫌いなんです。その影響が要子にもありました。要子は病院の呼び出しのポケベルしか持っていませんでした」。
「そうですか。それでですね、要子さんが遺体で発見された場所は新田さんが好きな場所だったとお聞きしたんですが?・・・」。
「ええ、あの場所は焼津港の夜景が奇麗で要子を連れて良く行きました。僕の友人なら誰でも知ってる場所です。
僕は写真が趣味で夜景をバックに要子を良く撮りました。
その写真を病院の同僚にも見せていたようですから。それに要子の部屋にも、その写真もその場所で僕が撮った写真です」。
明が見上げた壁には、焼津の夜景をバックに要子の写真が大きく引き伸ばして額に入れられて飾られていた。
すると、写真を見詰める明の目からポロッと涙が流れて落ちた。
「美しい女性ですね。それでですね、要子さんが病院の通用口で見掛けられたのが最後でして、その後誰も要子さんを見掛けてないんです。
病院の関係者や患者さんに聞いても、帰りに挨拶を交わしたと言うだけでプッツリ消息を断ってるんです。スラットして背も大きい方が突然消えるなんて事は考えられません。
失礼を承知でお伺います。以前お付き合いしていたような男性はどなたかいませんか」。
「いいえ、知りません。要子は僕が初めてだと聞いています。同級生や友人の話しでも男と付き合った事はないと」。
「ええ、我々もその事はお聞きしました。要子さんは慎重な方で用心深く、今時の女性には珍しいと同僚も高校時代のクラスメートも話してくれました。ではストーカーに狙われていたような事はありませんでしたか」。
「ええ、前に一度だけ変な男に着けられたと言ってましたが、それは偶然隣の家の息子さんだったらしくて笑っていました。それ以外は何も。
要子は人に喜ばれても恨まれるような事はしていません。九月一日の大安の日には結婚式を挙げて新居で暮らす筈だった。秋には助産婦の試験があるからって張り切っていたのに、・・・どうして要子が・・・悔しいです」。と片手で顔を覆った。
刑事もその様に言葉を掛けるタイミングを思い図っていた。
「私達も調べれば調べるほど椎名さん、いえ奥さんは非の打ち所のない方です。病院の医師からも同僚の看護師さん達からも若いのに慕われていますし。
しかし何かがある筈なんです、何故あの場所に遺棄されたかなんです。お二人の事を良く知っている誰かなんですがね。心当たりありませんかね?・・・」。
NO-4-8

小説・半日の花嫁-(NO-3-)

2010-11-27 11:17:57 | 小説・半日の花嫁
小説・半日の花嫁-(NO-3-)
「はい、もうマンションも家具も何も可も買って揃えてあるんです。それを誰が要子を、それに義母さんまで死に追いやったんだ。僕は許さない」。
「椎野さん、新田さん。本当にご愁傷様です。今夜は此れで失礼します。私達も全力を挙げて捜査をしています。明日にでも話を伺いにいきます」。
二人はただ頷くばかりだった。そして刑事が帰ると、看護師が来た。死亡診断書を書く為に住所など記入して欲しいと義父である椎野博幸を呼びに来たのだ。
三人は看護師に続いて医師の部屋に向かった。
「椎野さん、残念です。急性心不全です。もう搬送された時には既に心停止の状態でして、自発呼吸はありませんでした。色々やりましたが手の施しようがありませんでした、とても残念です」。
こうして説明を聞き、死亡診断書を貰うと病院が手配した葬儀屋が到着し、義母の遺体を柩に入れて搬送した。その後を三人を乗せて実家に連れて帰った。
実家のある城東町に着くと、明の母親が知らせた椎野家の親戚が既に家を開けて準備をして待っていた。そして夜中の一時過ぎから葬儀屋が来て、通夜の支度を始めた。
一日にして娘と妻を亡くした父親は、ただ呆然と妻の柩の前に座っていた。
親戚もまた知らせを聞いて続々と駆け付けて来た、憔悴しきった父親や明には、とても声を掛けられる状態ではなかった。
「お兄ちゃん、取り合えず帰ろう。着替えて少し休まないとお兄ちゃんが参っちゃうよ。叔父様には親戚の人達がついているから帰って休みなさいって」。
「芳美有り難う。でも帰っても眠れないよ」。
「うん、分かっている。でも休まなきゃ駄目だよ。お願いだから」。
明は妹の言うがままに立ち上がると、「義父さん一度帰って来ますから」。と義父に言葉を掛け、母親に乗せられて三人で帰って行った。
母輝子はルームミラーに写る我が子、その憔悴しきった顔を見ながら声を掛ける事が怖くてならなかった。そして黙ったまま家に着いた。
「母さん、芳美、有り難う。僕は大丈夫だから」。
明は込み上げる悲しみを必死で堪えていた。そして二階に駆け上がった。
「お母さん」。
「うん、今夜はそっとしてあげなさい。芳美も大変だったわね。でもお母さんまでショックで亡くなってしまうなんてお兄ちゃん辛いわね」。
明は部屋に入ると、机の上に置かれた要子と撮った写真を見詰めて泣いていた。
夏休みに二人で行った山梨の清里高原、オルゴール館の前、大好きな乳牛を美味しそうに飲む要子の笑顔、松原湖でボートに乗って揺れるボートに怖がる顔、そんな要子の姿が走馬灯のように次から次へ浮かんでは消え、涙を流していた。
すると、冷暗室でもの言わぬ要子の姿、あの冷たい頬、一瞬に幸せを奪った犯人に明の憎しみが腹の底から込み上げていた。
いつまでも明かりが点いてる息子の部屋を母は覗いた。机の前に座り、写真を抱えて泣きながら寝入ってしまった息子の姿があった。
母は涙を流し、そっと毛布を掛けると明かりを消して部屋を出た。
すると、隣の部屋の妹の芳美が心配そうにドアを開けた。
「お母さん、お兄ちゃん大丈夫?・・・」
「うん、要子さんの写真を抱いて眠っていた。見てられないわ。明日は早いから芳美も早く寝なさい」。
「お母さん婚姻届の事知っていたの。今日婚姻届出して来たって本当なの?・・・」。
「ええ、随分前から要子さんが話していたわよ。誕生日と結婚記念日を一緒にしたいって明もそれには賛成で今日出してきたの。それなのにどうしてこんな事に・・・辛いわね」。
そう言うと母の目からポロポロと涙が流れた。そして下へ降りて行った。
芳美は真っ赤な目を細め、明かりの消えた兄の部屋を見ていた。
翌朝、明を起こしに来ると既に起きていた。
「母さん、夕べはごめん。もう大丈夫だから」。
「うん、さっき警察から電話があってね。要子さんの遺体はどちらに運んだら良いのかって言うから、ご実家の方で一緒にお葬式をする事にするって伝えたけど良いわね」。
「うん、でも名前は新田要子で出して欲しい。半日だけの花嫁だけどさ」。
輝子はその言葉に堪えていた涙がドッと溢れ、両手で顔を覆った。
そして後ろで聞いていた芳美の啜り泣く声が明に聞こえた。そしてドッサと音をさせて芳美は廊下に座り込んで泣き出した。
明は母の肩をポンッと叩くと部屋を出て、泣きじゃくる妹の肩を抱くと涙を拭いていた。「お兄ちゃんもお義姉さんも可哀相すぎる・・・」。
芳美は明に抱き着くと嗚咽して肩を震わせていた。
NO-3-8

小説・半日の花嫁-(NO-2-)

2010-10-16 12:04:06 | 小説・半日の花嫁
半日の花嫁-(NO-2-)

「明、しっかりしなさいよ。芳美、貴方一緒に行ってやってちょうだい」。母はレジに走るとレジの下の棚から財布を出して芳美に持たせた。NO-2
そして母親たちの見詰める中、明と芳美は刑事の車に乗り込み、駐車場を出て行った。
頼む、間違いであってくれ。神様、お兄さんを悲しませなで、間違いであって下さい。
明と芳美は声にはださなかったが一心に祈っていた。
そして警察に着くと遺体安置所に通された。そしてドアが開かれた。
そこは線香が手向けられいた、ベッドには真っ白な布が掛けられた遺体が横たわっていた。顔にも布が掛けられ、明は立ち止まると体が震えていた。
すると、反対に廻った刑事が両手を合わせ、布に手を掛けて捲った。
「嘘だ!・・・要子!・・・要子!おい!目を明けてくれ、おい!・・・」。
明は要子の遺体に抱き着いて揺り起こした。刑事はそんな明の肩に手を添えると要子の遺体から引き離した。
芳美は両手て顔を覆うと嗚咽し、霊安室を飛び出して行った。刑事は何も聞くこともなく、黙って明を霊安室から出した。
そして廊下の長椅子に座る芳美の隣に座らされると、明は大きく溜め息を着いた。そして二度三度と。そして両手で顔を覆うと肩を震わせて泣いた。
するとバタバタと足音ががして旅行に出ていた両親が到着した。
そして、廊下で泣いてる明の姿を見た。要子の母親は叫びながら明に駆け寄った。
「義母さん、義父さん。要子が、要子が・・・・」。
義父は声も出せないまま蒼白し、霊安室に飛び込んだ。そして母親も追って飛び込んだ。顔を見る事もなく,母親はベッドの前で倒れてしまった。
刑事たちは急いで霊安室を出ると救急車の手配に走った。そして要子の父親の啜り泣くが廊下の明や芳美の耳に届いた。
間もなく救急隊員が担架を持って走って来た。そして看護にあたった。すると救急隊員の顔色が変わった。人工呼吸を始めたのだった。
「心停止、すぐに搬送します」。すると父親は振り返って妻に寄り添った。
「明君、要子を頼みます。この上女房まで死なせたら要子に申し訳がない」。
気丈な父親は涙を堪え、救急隊員に着いて病院に向かった。
残された明は唖然と立ち尽くしていた。「こんなバカな。刑事さん、それで要子は誰に、死因はなんなんです?・・・」。
明は涙を流しながら刑事を睨みつけて聞いた。すると黙っていた。
「新田さん、椎野さんの首が折れています。詳しい事は司法解剖が終わらないと分かりません。警察は全力で犯人を探しています。協力をお願いします」。
「刑事さん、取り乱して済みませんでした。要子と来月一日に結婚する事になっていたんです。こう言う時は自分はどうしたら良いんでしょう」。
「お兄ちゃん・・・」。芳美はそう言ったきり嗚咽し、兄の胸で泣いていた。
「新田さん、御遺体は浜松の大学病院に搬送して司法解剖を行います。ともかく今は椎野さんのお母さんの所へ行ってあげて下さい。厚生病院です」。
明と芳美は警察を出ると、通りでタクシーを止めて病院に向かった。そして、車内から心配している母親に携帯を入れて事情を説明した。
「そう。義母さんが霊安室で。明、くじけちゃ駄目よ。いいわね」。
「ああ、大丈夫だよ母さん。また電話する」。と携帯を切った。
そして、間もなく病院に到着した明は集中治療室に小走りに歩いた。そしてICUの前に行くと、要子の父親は肩を落として泣いていた。
明と芳美にはその状況で直ぐに分かった。走っていた足も止まり、どう言葉を掛けて良いのか困惑しながら歩いた。
すると、要子の父は二人に気付いて顔を上げた。そして横に首を振った。
明はそっと目を閉じて頭を下げた。
「いや~っ、叔母様まで死んじゃうなんて。叔父様、どうして!・・・」。
芳美はその場で泣き崩れた。明はそっと抱き起こすと義父の隣に座らせた。
そこへ矢部刑事が駆け付けて来た。三人の様子を見て母親は助からなかった事を察した。そっと三人の所へ歩み寄った。
「椎野さん、新田さん。何と言って良いか分かりません。お気の毒です」。
義父と二人はそっと立ち上がると両手を揃え、丁寧に頭を下げた。
「明君、要子から四時ころ電話を貰ったよ。いま明さんと婚姻届を出して来たと、嬉しそうにね。それがこんな事になるなんて。女房もそれを聞いて喜んでいた。
明君、何て言って良いか私には・・・」。と両手で顔を覆って泣いていた。
要子が婚姻届けは誕生日に出したいと言う希望で今日の午後三時に出したばかりだった。
「そうでしたか、それで式は九月一日になっていたんですか」。NO-2-4

小説・半日の花嫁-(NO-1-)

2010-10-10 12:29:08 | 小説・半日の花嫁
小説・半日の花嫁-(NO-1-)

半日の花嫁
八月二十日木曜日、その晩、新田明はライター。静岡市内で起こった主婦殺しの事件をまとめたレーポートを書き終わってベッドに入った。
新田明二十八才、彼は青山学院法学部を出て弁護士であった。が、三年前に止め、フリーのルポライターとして社会に飛び出していた。
実家は信州の安墨村にあったが、父親が事故で他界すると母輝子の実家である静岡市に妹の良美と一家三人で越して十年、市内に安曇野と言う料理屋を開いて母輝子は女将として二人の子供を大学に出した。
娘の良美と板前の川井吉雄、店員の望月芳乃の四人で店を営っていた。
仕事を終えてベッドに入ったばかりの明の所へ電話が入った。妹の良美が部屋に来た。
「兄さん、兄さんったら電話よ。警察から、早く出てよね」。
明は眠い目をこすりながら受話器を取った。「新田です?・・・」
「新田明さんですね、中央署の矢沢と言います。或事件のことでお聞きしたい事があるんですが。できれば署まで起こしいただけないでしょうか」。
勘弁してくれよ、俺はいまやっと眠ったところで。それに南署の矢部なんて刑事は聞いた事なんかないぞ。そう思いながら聞いていた。
「それでどんな事を訊きたいんですか?・・・」。
「はい、夜分恐縮ですが、お話ししたようにお越し頂けないでしょうか?・・・」。
「明日にしてくれませんか。仕事でここ二日ばかり寝てないんです」。
すると、矢部は受話器の口を押さえたのか何も聞こえなくなった。
「分かりました。では伺って良いでしょうか?・・・」
それじゃ同じだろ、そう思いながら「はい、どうぞ」。
全くもう、机の時計を見ると午後十時を少し回ったところだった。明はその電話で目が冴えてしまい、顔を洗って店に降りた。
そして、勝手に冷蔵庫からビールを出して空いている座敷に入ると栓を抜いて飲み始めた。
「お兄ちゃん、しっかり貰うわよ。はい、おつまみ」。
「うん、有り難う。後から刑事が来るって言うから通してやって」。
「分かった、それでご飯は要らないの?・・・」。
「食べる、芳美は何を食べたんだ。同じので良いからくれよ」。
「うん。じゃあ待っていてね」。芳美は頷くと調理場へ入って行った。
そして十分もすると、「お兄ちゃん来たわよ」芳美は刑事を二人案内しながら食事を持ってきた。
「夜分申し訳ありませんな。早速ですが宜しいですかな」。
瞬間、感じた。嫌なタイプだ、いったい俺に何を聞きたいと言うんだ。明は愛想笑顔を浮かべながら面倒臭くて仕方がなかった。
「ええ。食事しながらで良いですよね」。
「どうぞ。実は、一時間ほど前に高草山の焼津市側にある遊歩道の空き地に若い女性の変死体が発見されましてね、持ち物は何もなかったんですが。少し離れた茶畑の中から女性のバックが見付かったんです。
その中には運転免許証がありまして、城東町の椎野要子さん二十一歳である事が判明したんです」。
明はその名前を聞いた瞬間、持っていた箸を落とした。そして目に涙を浮かべながら刑事の目を睨みつけた。
「嘘だ!、要子が死ぬ分けないだろ、冗談は止めてくれ!・・・」明の怒鳴る声に母と妹は何事かと座敷に走って来た。
「お兄ちゃん、なに!・・・何があったの?・・・」
「明、どうしたの。そんなに大きな声を出して。刑事さん」。すると、来ていた常連の客たちが心配そうに部屋を覗きに来ていた。
「お袋、要子が死んだって言うんだ。俺は夕方病院で会って来たんだぞ。それがどうして高草山で死ななきゃならないんだ」。
すると、母輝子と芳美の顔から血の気が引いて青ざめていた。そして客達も明と椎野要子との関係は誰もが知っていた。
「それでですね、御両親が旅行と言う事で先程連絡が取れまして、こちらへ向かわれています。出来ましたら婚約者でる貴方に確認に来て頂きたいんです。外にも色々とお聞きしたい事もありますので」。
「お兄ちゃんと要子さんは来月結婚するんだよ。刑事さん、本当に要子さんなんですか。何かの間違いじゃないんですか?・・・」
刑事は黙ったままだった。明はそっと立ち上がると靴を履いた。
「刑事さん、乗せてって下さい。僕はビールを飲んでしまいましたから」。
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