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PCグラフィック、写真合成、小説の下書き。

一刻塚-(NO-13)

2009-08-19 02:17:24 | 小説・一刻塚
一刻塚-(NO-13)

山田刑事は腕の時計を見た。既に午後四時を回っていた。
山田刑事は筒井に時計を見せると首を振った。「これからじゃ無理です、六時を回ってしまいます」。
「うん、施錠して明日午前六時過ぎからにしよう」。
山田刑事は頷くとガチャッと音をさせて施錠した。そして言葉少なに引き上げた。
「ねえ啓太さん、あれは人なの?・・」麻代は猿渡の腕にしっかりつかまっていた。
「うん、たぶん行方不明になっている記者の馬場信雄とカメラマンの仁科孝司だろう。でもどうやって中に入ったんだ。回廊を見たけど扉は開いてなかったけど」。
「たぶん回廊の下の板を外して入ったんでしょう、スコップとツルハシがありました。あの二人は盗掘しに入ったんですね。バカな奴等です」。
そう冷たく死者を言う山田刑事の背中を見ていた猿渡は、冷酷な一面を見た様な気がしていた。筒井は何て言うのか黙って足を運んでいた。
「山田刑事、死んだ者は誰でも仏様だ。バカは止した方がいい」。そう言うと山田刑事の肩をポンと叩く筒井だった。
「済みませんでした。以後気を付けます」と、山田刑事は素直に詫びていた。そして、雑木林を抜けて駐車場に出ると帰った筈の大谷刑事がいた。

「筒井警部補、社に死体があった事を報告しました。直ぐに鑑識が来るそうです」
「バカ者ッ!貴様は同僚を殺す気かッ!直ぐに間違いだったと報告しろッ!」
その筒井の凄まじさは半端ではなかった。大谷刑事は蒼白すると後ずさった。

「山田刑事、すぐに報告を撤回したまえ」。山田は車のドアを開けると無線を持った。そして、大谷刑事の報告は未確認だった事を報告した。
「貴様ッ!誰の許可を得て報告した。貴様の様なワンマンな警察官は辞めてしまえ。この事は県警本部長に報告するからな。
大谷と言う刑事は自分の保身だけで同僚をいたわる心のない警察官だとな。証人は猿渡元警視正殿になって貰う」。筒井はそう言うと猿渡を見た。
エッ・・・猿渡元警視正・・・大谷はそう口にすると膝から崩れた。

「大谷さん、自分の自我だけで生きては行けないんですよ。筒井さんの言う事の方が正しい。あの二人はどうして死んだか考えなかったんですか。
迷信とか祟りで死んだのではないとしても、その可能性が少しでもあるのなら、危険な所へ同僚を呼び寄せる事は何を意味するか。それが分からない警察官は警察官としては不適格ですね」。
猿渡はそう言うと麻代を連れて宿に歩き出した。
そして三人の刑事も大谷刑事を見捨てる様に残して猿渡の後を小走りに追った。
そして宿に着くと。俺は絶対に信じないぞッ!と、大谷刑事の叫びにも似た声が薄暗くなった夕闇に響いた。猿渡は時計を見た、五時半を回っていた。

「筒井さん、もしかしたら彼は?・・・」。
「好きにさせろ、私達は言う事は言った。たとえ警視総監が話しても聴かないだろう、後は彼自身が決める事だ」と、筒井は振り向く事もなく玄関を入った。

「啓太さんどうするの?・・筒井さんの言う通り放っておいて本当にいいの」。
「俺も先輩の考えと同じだ、死にたい奴は死ねばいい。どっちにしても彼はこの先同僚を危険な目に合わせるだろう。人として警察官としては失格だからな」。
「自分もそう思いますよ、あの性格では一緒に仕事してきた山田刑事も大変だったでしょうね。その内に言われた事が彼にもきっと分かる時が来ますよ」

と、南田刑事からも言われ、返す言葉もなく麻代は猿渡の腕を取ると玄関を入った。ス~ッと涼しい空気が汗ばんだ重苦しい体を優しく包んだ。
部屋に戻ると浴衣を持って家族風呂に二人で入った。そして浴衣姿でラウンジへ。
そこには筒井と南田も浴衣で二人で待っていた。

「遅くなりました、夕食にしますか」猿渡はそう言いながら筒井の正面に座った。
「麻代さんの浴衣姿もいいね、いま篠ノ井署に電話したんだが大谷刑事は戻ってないそうだ。全くあの刑事は何を考えているんだ」。
筒井は心配そうに麻代から猿渡を見ると真っ暗な庭を見詰めた、そして不意に猿渡に視線を戻すと大きく目を見開いた。
「おい、まさか奴は」と、南田に視線を移した。麻代は筒井の背後に来た山田刑事を見ていた。
「警部補、いいじゃないですか。あれだけ話しても分からないんです、それで彼が納得するなら。もし行っていたとすれば手遅れですよ」。
筒井は驚いた様に振り返った。確かに山田の言う通りだと猿渡も小さく頷いた。

「しかしだな」と、筒井は動揺を隠せないまま立ち上がった。そして、ラウンジの時計を見ると、午後六時十五分、溜め息を吐くと静かに腰を降ろした。

「大谷もバカじゃありませんから心配要りませんよ、夕食の支度が出来ていますから」。山田刑事はそう言うと「どうぞ」と、皆を食堂に案内した。
行くと、こんなに客がいたのかと猿渡達は驚いた。しかも若い女性客が八割りを占めていた。「山田さん、こんな所と言っては失礼ですが。この人達は」。
NO-13-24

一刻塚-(NO-12)

2009-08-15 15:55:09 | 小説・一刻塚
一刻塚-(NO-12)

「そんな馬鹿な、山田刑事も筒井警部補も皆さんも信じているんですか。いまは火星に探査機を飛ばせてクローンで動物でも人でも作れる科学の時代ですよ。
そんな祟りとか死霊とか非現実的な話しはナンセンスです」。若い大谷刑事はあざ笑うかの様に目は笑っていた。

「じゃあ君は夜中でも社に入れるのか。大谷君とか言ったね、どうなんだ」と、筒井は険しい目を向けた。
「ええ、平気です。入れます、そんなのある筈がありませんよ」と、笑いながら背中を向けた。山田刑事は大谷の前に立った。「大谷、強がりは止めておけ」。
「強がりなんかじゃありませんよ、自分が実証してみせます。自分は刑事です、あんな殺しをしたのは人間です。証拠を見せてやります」。
麻代は人の気配に後ろを見ると、いつ来たのか老人が険しい目をして立っていた。
「止めなさい、いま息子が話した事は本当だに。私は我が子が獣に変わるのをこの目で見て来た。悪いことは言わん止めなさい」。
「はい、そこまでおっしゃるなら止めます。でも自分は信じてませんよ」。

「勝手にしろ。大谷刑事、君は必要ないから帰ってくれ、私から署長に連絡しておく」「そんな、自分はただ自分の意見を申し上げただけです」。
「君の意見などどうでもいいんだ、真実はどうかと言う事だ。君は警察官でありながら山田さん一家の言う事を信じずに、今の態度はなんだ。
山田さん一家がさも嘘を言っていると言うのと同じだろ。警察官としては失格だ、そんな刑事に用はない、帰りたまえ」。
筒井の怒った口調に流石の猿渡も口を挟む余地はなかった。大谷刑事はいま気がついた様に肩を落としていた。

「では山田刑事、その社に案内願います」。筒井は気分を変えてそっと告げた。
「分かりました。父さん、鍵を貸して下さい。大谷君は先に署へ戻ってくれ」。
「済みませんでした、失礼します」怪訝そうに額に皺を寄せると出て行った。

同僚である山田刑事は申し訳なさそうにみんなに頭を下げた。
そうか、風変わりな刑事と言うのは大谷刑事の事を言うのかと筒井は勘違いしていた。そして、山田刑事の父親が持って来てくれた大きな鍵を受け取った山田刑事は皆を先にと促す様に外へ出た。

「山田さん、写真とかは撮ってもいいですか」猿渡は首に下げたカメラを見せた。
「はい、特に問題はありませんからどうぞ。猿渡さんは元警察官だったそうですね。今はフリーのジャーナリストだと聞きました、いい記事を書いて下さい」。
警察官?・・・麻代は初耳だった。驚いた様に猿渡を見上げた。
「参ったな、別に隠す積もりはなかったんだけどさ。前は筒井先輩の部下だった」
すると、麻代は数歩飛び出して筒井を見て睨んだ。
「今度は私か、山田刑事にも参ったな。確かに猿渡は警察官だった、それも私と同じキャリア組で出世頭の警視正殿だったんだよ」。
「エ~ッ!警視正って本当ですかッ!」今度は南田刑事が声をあげた。
「ああ本当だ、末恐ろしい程頭のいい奴でな。昇級試験なんか遊んでてもトントン拍子に上がって来やがる。なあ猿渡警視正殿」。

「止して下さい、昔の話です。いまは売れないジャーナリストですから」。そして、雑木林の中の狭い道を三十分ほど歩くと猿渡達は足を止めた。
そこには想像していた社とは掛け離れた大きな社が現れたのだった。

「山田さん、これが社ですか。神社と違うんですか」と、猿渡はカメラを構えた。
「ええ。これが一時塚を供養する為に建立された社です。四百年もつづいた社です。社の中央に相撲の土俵位の塚があります。開けますよ」。
と、階段の手前で足を止めると両手を揃え、一例すると階段を上がった。
その仕草を見た猿渡達も同じように合掌すると一例し、後につづいた。猿渡は麻代を連れて回廊を回って戻った。
すると、鍵が外されているにも拘わらず、扉を開ける事もなく筒井達は猿渡を見ていた。中で何かあった事はその様子で見て取れた。
そっと前に出ると格子から中を覗いた、中は薄暗く、周りの格子から差し込む光りに次第に目が慣れた。
そして、見えたのは山田刑事が言う様に相撲の土俵程もある、こん盛りとした塚だった。そして右に視線を向けた。唖然と格子から離れた。

「先輩、あれはもしかしたら?・・・」その言葉に麻代は格子に近付いた。
キャッ!・・・麻代は真っ青になって猿渡の胸に抱き着いた。
NO-12-22