wowow 2020/10/7
1789年、バスティーユ襲撃で始まったフランス革命は、ロベスピエールの恐怖政治へと移り、宗教も弾圧される。そして1794年、信仰を捨てず、殉教を決意したカルメル会修道女16名がパリで断頭台の露と消えるという史実に基づいた作品。革命の恐怖から逃れようと修道女になった公爵の娘ブランシュの悲劇を中心に描かれている。
演奏:メトロポリタン歌劇場管弦楽団 指揮 ヤニック・ネゼ・セガン
演出:ジョン・デクスター
出演:
ブランシュ・ド・ラ・フォルス・・・イザベル・レナード
クロワシー夫人/修道院長・・・カリタ・マッティラ
リドワーヌ夫人/新修道院長・・・エイドリアン・ピエチョンカ
マザー・マリー/修道女長・・・カレン・カーギル
コンスタンス・・・エリン・モーリー
MET上演日:2019年5月11日
【第1幕】
1789年4月フランス革命勃発直前のパリ、公爵家の娘ブランシュは俗世間での生活に不安を覚え、父の許しを得てカルメル会の修道院に入る。
クロワーヌ夫人/修道院長は病の苦痛の中で壮絶な死を迎え、神を呪って絶命する。それをブランシュは看取る。
修道女のコンスタンス(左)は「修道院長の死は,誰かの運命を肩代わりしたのではないか」とブランシュ(右)に話す。
リドワーヌ夫人/新修道院長(左)、マーリー/修道女長(右)
クロワーヌ夫人/修道院長の葬儀の後のリドワーヌ夫人/新修道院長の就任時に歌われるアヴェ・マリア。
【第2幕】
革命の不穏な空気にブランシュの兄は,妹に修道院から家に帰るよう勧めるが、ブランシュは逡巡し、結局は家に戻らない。
革命政府は修道院に来て「司祭の追放、修道院の解散と建物の売却」を告げる。
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修道院長がパリに出かけ不在の中、修道女長マザー・マリーは,殉教の請願を秘密投票で行うことにする。16人全員が賛同。修道服を脱ぎ平服に着替えて修道院を出る。この時ブランシュは家に戻ってしまう。
別の場所に身を寄せていた16人の修道女達は、刑務所に連れてこられ、「革命裁判所の通達」を受ける。
その内容は「オワーズ県コンピエーニュの”元カルメル会修道女”は革命に反抗し、秘密裏に集まり、狂信的な信仰の書簡を交わし、自由を侵害する書を保管し、犯罪的な望みを抱いた。再び民を暴君の圧政の元におき、神の名のもとに忌まわしい陰謀を企て、流れる血のなかに自由を消し去ろうと望んだ。したがって革命裁判所は申し渡す。上記の被告達全員を死刑に処する。」であった。
信仰を捨てず、殉教を決意したカルメル会修道女16名がパリで断頭台の露と消える。断頭台に一人ずつ送られる修道女たちは〈サルヴェ・レジーナ・・・幸いあれ 天の元后〉を歌う。リドワーヌ夫人/新修道院長が歌い始め、先頭に立つ。
死刑が執行される。これまでの電子音に変え、初演当時の木製と金属とでギロチンを模したものに戻したという音は、生々しく聞こえて衝撃が大きい。
コンスタンス(左)、ブランシュ(右)
修道院から逃げ出していたブランシュは、死刑執行が若いコンスタンスで終わろうとする時、群衆の中から現れ、最後に断頭台に向かう。
【感想】
印象深い、他に類を見ないオペラである。信仰とは何か、死とは何かを極限の状態で問いかけられる暗いストーリーの悲劇。しかし、プーランクの音楽はあくまで清澄でメロディック。崇高な旋律が美しく感動的である。
演出はジョン・デクスターで、1977年MET初演時から使われている舞台。モノトーン、抽象的でシンプルな装置は修道女達の深層心理を巧みに暗示、今なおスタイリッシュな美しさを感じさせる演出である。
指揮者のヤニック・ネゼ・セガンは、最後の場面で演奏者達が涙を流していたという。頷ける話である。