それじゃ本日はまずスペイン更新から。
この手の記事を楽しみにしてらっしゃる方もいらっしゃると思うので・・
時間があったら技術系の記事も一本アップします。
さて、マドリッドではプラド美術館に次いで超有名なティッセン・ボルミネッサ美術館にも行ってきた。
ティッセンって、もしやドイツの製鉄コンツェルンのティッセン・クルップ(Thyssen-Krupp)の財閥関係者だろうか?
つづりも同じだし、と思い、後で調べたら本当にそうだった。
Wikipediaによると、ティッセン・ボルミネッサ男爵父子が、1920年代から親子二代で買い集めたコレクションだそうで、
個人のコレクションとしては英国王室に次いで世界第二なのだそうだ。
一体どんな金持ちなんだ、と思うでしょう?
だから、ティッセン財閥の関係者じゃないか、と思ったわけ。
ティッセンクルップってのは、ドイツでは最大の鉄鋼メーカーで、日本の新日鉄みたいなもんです。
もともとはティッセンとクルップっていう別の鉄鋼会社だったのが1999年に合併。
で、そのティッセン財閥を創業したAugust Thyssenは、かつては世界を代表する大金持ちの一人。
息子のFritz Thyssenがナチスを助けた政閥として有名。
全くの余談だけど、第二次産業革命のころに事業に成功した人って超お金持ちになった人が多いよね。
ロックフェラー(石油王)然り、カーネギー(鉄鋼王)然りね。
ビルゲイツなんか、とても敵わないほどの金持ちになった人が、当時は世界中にいたわけだ。
何故か、というと、石油、鉄鋼、化学といった重化学工業分野は、
規模の経済(Economy of scale)がどこまでも成り立ち、規模が大きいほど儲かる分野だったから。
で、一部の人たちは一人だけで成功させ、超がつく大金持ちになった。
前の株式会社の記事に関連して言えば、残りの多くは国営か(日本)、株式公開して大規模な資本を集めることによって成功。
成功した株式会社が個人の投資家に分配することで、(一部で)冨の分散が起こったわけですね。
だから、何度も言うけど、株式会社って別に社会にいろんなメリットがあるのよ。
もちろんこの重化学工業株熱が過熱して、大恐慌が起こったのだけれども。
余談終わり。
で、このティッセン・ボルミネッサ男爵ってのは、ティッセン創業者August Thyssenの次男らしい。
なるほど、超大金持ちの次男と孫のコレクションかぁ。
長男は事業を次いで(ナチスを助け)、次男は世界を代表する美術蒐集家になった、というわけですね。
そんなわけで、Banco de España駅から徒歩10分ほどで、ティッセン・ボルミネッサ美術館にたどり着く。
と、またもエロス。
Lágrimas ってのはスペイン語で「涙」のこと。
だから、Lágrimas de EROS というのは「エロスの涙」といったところか。
バルセロナのピカソ美術館の「春画とピカソ」展についで、またエロス。
スペイン人、エロス好きだね・・・。
いえ、別に私も好きですけど、美術館の特別展示がエロスばかりってのがすごいよ、うん。
早速中に入ってみました。
「エロスの涙」展は、人気殺到のため(汗)、一回で入れる定員が決まっている。
しかし流石にクリスマス・イブの神聖なときにエロスを見に来る人も少ないようで、(この日はイブだった)
すぐに入れた。
要は、色々な「エロス」の形が、どのように美術では描かれてきたか、というのを、いくつかのテーマに沿って解説している。
最初はアダムとイブ。
ルネサンスのころの作品から、20世紀の大写真家の一人であるRichard Avedonの作品で、裸身のスーパーモデルに蛇が絡まってる写真まで。
蛇ってのが、要は人間に「エロス」という知恵を授けたわけで、蛇はエロスの象徴なわけだ。
それからセイレーンと人魚姫。
セイレーンとは、ギリシャ神話の嫉妬深い水の女怪物なのだが、
その女の魅力に負けてずるずると河や湖におぼれていく男性多数、と言う話。
で、それが描かれてる絵画や写真作品が集まってる。
「美しい女性に溺れ、我を失い、全てを失ってしまうのは、昔から男が持つ恐怖のひとつ」という音声ガイドの解説。
確かに、傾国の美女とか、伊勢物語に出てくる帝の寵姫を愛して都から追放された若い男の子とか、我が国にもそういう話は尽きない。
いつもは冷静な男が、我を忘れるほど、女を愛する。
うーん、エロいね。
聖セバスチャンをテーマにした絵画と写真はちょっと驚き。
古代ローマで、キリスト教に殉教して、木に縛られ、槍で射られても死ななかった若い聖人なんだけど、
美術の世界ではGay iconとして使われてるそうな。
これがエロス?
で、有名なグイド・レーニのセバスチャンがあったんだけど、
この絵の解説の中で「日本のミシマユキオが、この絵に影響されて写真を作成し、話題になった」とか言ってて、えぇーっ!
調べたらありましたよ。
これはすごいね~、三島由紀夫。
海を越えてヨーロッパでも話題になってるなんて!
残念ながら、私には全然エロいと思えないんだけれども、分かる方には分かるのでしょう。
生贄になるアンドロメダをテーマとした絵画と写真もたくさんあった。
ギリシャ神話で、海の怪物の生贄として、波が押し寄せる岩に裸で縛り付けられた若い女性の話は、
小学生の頃からお話として読んでいたが、それに「エロス」を感じようと思ったことは一度もなかった。
寧ろ、彼女を助けるペルセウスが、すごい、と思ったものだよ。
ま、でも、今言われて見ればたしかに状況的にエロい。
若くて美しい処女。生贄。縛られる、と。
聖セバスチャンとアンドロメダ関連には、未成年の少年少女の裸としか思えない絵画や写真の展示もあって、
こういうの訴えられないの、ヨーロッパらしいな、と思ったりした。
アメリカだったら一瞬で「児童ポルノ法」違反でしょう。
昔、ムートンのワインもそれで出荷できなかったことがあったくらいだしね。
他にも色々テーマがあって、色んな種類のエロスを堪能できる(?)仕組みになってました。
日本と違って良いのは、誰も恥ずかしがりなどせず、まじまじと顔を近づけたりしながら皆見てることだね。
「エロスの涙」は面白かったけど、ティッセン・ボルミネッサは、常設展示の方が実は圧倒的。
こっちのほうが素晴らしかった。
モネやピサロ、ルノワールなどフランス印象派も、「あ、この絵、ここにあったの」というような超有名な絵がたくさん所蔵されていた。
イギリスやアメリカ近代美術なんかもかなり多い。
常設展示の入り口はこんな感じ。
フランドルもファン・ダイクなどはこの美術館に所蔵されてる作品が最も多い、というくらい。
確かにベルギーやオランダにはあまり無かったような・・
ルーベンスも結構ある。
それから息子が集めたという、現代美術もかなりの量。
ピカソなどのスペイン現代美術だけでなく、アメリカのものもかなりあった。
ものすごい量で、じっくり見て回ったら1日かかるんじゃないかな、という量。
もう長くなってしまったんで、このくらいで終わりにするけど、常設展示が素晴らしかったんです。
こちらは私には縁の薄いブログと思っておりましたが・・・
>この手の記事を楽しみにしてらっしゃる方もいらっしゃると思うので・・
私もそうです。
>日本と違って良いのは、誰も恥ずかしがりなどせず、まじまじと顔を近づけたりしながら皆見てることだね。
現代の欧米人は、日本人から見ると(あるいは、私から見ると)、露骨にセクシュアリティーを主張しても恥じることがないですね。西欧演劇を日本人がやって、何が物足りないかというと、肉体の存在感。特にセクシュアリティーです。女性は少女のようなキャラクターになり、男性はおとなしそうに見えてしまいます。その点、欧米人は間違ったことをして「恥じる」ことはあっても、性的なことに対しての「恥じらい」は極端に少ない感じがします。むしろ、好奇心剥き出しかも。だからhigh artのヌード作品が沢山出来るのかと思ったりします。日本の場合、隠されたpopular cultureとしてのポルノが裏で極端に流行る一方で、セクシュアルな絵画を私邸や公共の建物などで愛でる伝統がなかなか根付かないのかなあと。日本のきれいな裸像って、漂白されたように清潔感漂う作品が多い感じがします。
本当はこういう旅行だのワインだのの記事を書くほうが楽しいんですよね。
だからコメントをいただけると嬉しいです。
>西欧演劇を日本人がやって、何が物足りないかというと、肉体の存在感。特にセクシュアリティーです
ああそうなのですか。
ここは余り気をつけて見た事がありませんでした。
>high artのヌード作品が沢山出来る
これは本当にそうですね。
身近にコレクターがいるので良く分かりますが、文中で取り上げたRichard Avedonにせよ、Hermut Newtonにせよ、こういうArtな作品は女性が見ても美しいと思いますもの。
翻ってみるに、日本のヌード作品にはそういうArtisticなものが少ないですね。
やっぱり、西洋はルネッサンスを通過した、つまり、人の体の美を、神にささげるものとしてより美しいものへと天昇させた、という過程を経てるのが良いのでしょうか・・
>だからコメントをいただけると嬉しいです
浅薄な感想だけですが、今後もお邪魔させていただきます。
>やっぱり、西洋はルネッサンスを通過した、つまり、人の体の美を、神にささげるものとしてより美しいものへと天昇させた、という過程を経てるのが良いのでしょうか・・
芸術の全ての分野において、西欧におけるギリシャ・ローマ文化の影響は深甚なものがありますね。人体美の解剖学的解析と賛美も古代文化の遺産でしょう。それを、おっしゃるように、ルネサンスにおいてキリスト教芸術として復活させることにより、近代のアーツの基本が形成されたのかと思います。
一方で古典古代の神話、もう一方で聖書や聖者伝などが、教会や宮殿などの公の場所で恥じることなく、いくつかの基本的な図像を描かせることを許したのも、人体を描く美術にプラスになった気がします。キリストの磔刑の像は典型的ですが、記事の中にあるような殉教のシーン(キリストの磔刑のバリエーション)やマグダラのマリア像とか。
中世のキリスト教神秘主義テキストなどを読むと、血を流すキリストの肉体との一体感を感じますが、見ようによってはとてもセクシュアルです。ローマ教会はキリストのブライドですからね。
東洋美術でも、仏像やヒンズー教の神の像などに、裸体美術の完成した形を見ることが出来るのかも知れません。