My Life After MIT Sloan

組織と個人のグローバル化から、イノベーション、起業家育成、技術経営まで。

世界第二の経済大国は、世界に嫌われた国のままでいるつもりか

2010-10-10 14:40:46 | 7. その他ビジネス・社会

隣国が念願の本土初のノーベル賞を受賞したが、反体制の獄中の人物だったということで大問題になっている。
個人的には、ノーベル賞受賞は祝福するけれど、その是非については中立だ。
それよりも、今回の受賞に対して中国政府が国際的に見せた態度にがっくりした。

劉氏の受賞に私がニュートラルなのは、かの国の民主化はあくまで国内問題と思っているからだ。
もちろんかの国が民主化をして、本当に世界全体の平和と繁栄のためになるなら、是非進めていただきたいと思う。
しかし実際にそれとこれは別だろう。
例えば、劉氏は国内の民主化には命をささげるだろうが、彼が尖閣諸島は日本のものと思うか、炭素排出権を中国は守るべきと思うかは別だ。
民度が低い国で民主化をしても、国際的な課題が解決されないことは良くあることだ。

これはいずれ記事に書くけれど、「民主主義」が成功して世界の平和と繁栄につながるには、それなりの民度と仕組みとインフラと人材などが必要となる。

(追記10/12:「民度」は「民主主義を受け入れるための動き方・価値観」という意味で書きました。
 これは私の個人的な意見で、民主化は「民主主義」というシステムだけではなく、国家戦略、政治家などの人材、
 行政全体のスキル、人々の動き方や価値観などが無ければ成功しない、と考えているためです。
  その人々の動き方や価値観が無いということを、「民度が低い」という言葉で書きました。
 詳しくはこちらの記事をご参照ください→
 My Life After MIT Sloan-民主主義はどんな国でも成功するのか

そういうわけで受賞の是非はともかくとして、今回の受賞に対して中国政府が見せた態度は、一流国のそれとはとても思えないものだった。

中国「劉氏にノーベル賞なら悪影響」外務次官がノルウェーに警告-毎日新聞
中国、ノルウェー大使呼び抗議-NHK
劉氏を祝福、中国の脅しには乗らず-ノルウェー首相 -時事通信
(10/14追加)
中国、ノルウェーに次々制裁。ミュージカルも中止-朝日新聞
中国、ノルウェー閣僚との会談相次ぎ中止-日本経済新聞

ノーベル賞選考委員会が、ノルウェー政府とは独立した存在であるということは、先進国なら誰でも知っていることだ。
それをノルウェー政府を脅したり、通常の文化的活動にまで圧力をかけるというやり方は、余りにも野蛮ではないか。

中国、「ノーベル平和賞」のネット検索を遮断-CNN
ネット閲覧統制、外国テレビ中断も、劉氏平和賞-読売新聞

これはいつものことだが、いくら成長市場であっても、こんなあからさまな自由が通らない国でマトモな商売が出来るのかと撤退をまじめに考えた世界中の企業はどれだけいるだろうかと考える。
人口が今後増えるとはいえ、この国の成長とは本当に持続的なのだろうか。

2010年のGDPでは、ついに中国が日本を追い越し、米国についで第二位の経済大国になるといわれている。
かの国は、「世界第二位の経済大国」として、世界に尊敬される国になるという発想はこれっぽっちも無いのだろうか。

私は、海外での仕事や留学で、いろんな国の人と友人になってきたが、その際は必ず「日本はどんな国と思うか、アメリカをどう思うか、中国はどうか」を話題にしてきた。(私の個人的な関心事だからだ)

アメリカについては、軍事行動や外交政策で全く尊敬できない部分は大きいものの、
多くの技術を生み出した国であること(電話もテレビも半導体もコンピュータも携帯電話も)、
何より次々に新しい世界的企業を生み出している活力は尊敬できるという人が多い。
食べ物はおいしくないけれど、何でも手に入るのはすごい。
大きな車に乗って馬鹿みたいだけど、車があれば生活できるのはすごい、など。
なにより世界中からあれだけの人をひきつけ続けているのはすごいことだ。

第二の経済大国だった日本は、政治的には全く尊敬できないけれど、東南アジア諸国では未だに目標となる国だ。
日本が生んだ企業ブランドは世界中で愛されている。
車もテレビもデジタルカメラも日本製の品質は世界で信じられている。
日本に旅行に行った人は、食事のおいしさ、文化や歴史の深さ、人々の親切さに感動し、日本が好きだと思うようになる。
確かに政治は馬鹿みたいだけど、人や企業はいい国で尊敬できる
と世界の多くの人は思っている。

しかし、「中国はいい国だ」「好きな国だ」「尊敬できる」などの言葉を聴いたことは、中国人以外では今まで一度も無い。
それも、直接中国の横暴ぶりの被害を受けている周辺諸国だけでなく、遠くアメリカやヨーロッパ、アフリカの人間まで中国を「嫌う」のは何故なのか、考えたことがあるのだろうか。

先日の排出権討議では、中国は自らが「途上国である」として、先進国並みの排出権制限受け入れを拒否した。
今後は自身が経済大国として、世界一のCO2排出をするようになるというのに。

メコン川流域では、中国が上流にダムを作りすぎて、下流のラオス、タイ、カンボジア、ベトナムの農業経済に大きな打撃を与えている。

アメリカもヨーロッパも多くの人は、「中国の製品は信頼出来ない」と思っている。
日本で冷凍餃子事件が起こったのと同様、米国では中国製の食品や製品への毒物混入が何度も事件になっている。
例えば、中国製のペットフードで犬や猫が死んだり、歯磨き粉に毒物が混入していたり、
プラスチックのおもちゃに毒物が入ってたりが大きな事件になった。
EUもことあるごとに中国政府に警告を出しているが、殆ど回答を得られないことが話題になっている。

中国に知的財産権を侵害されているのは、日本のメーカーだけではない。
アメリカの最大のメディア企業であるディズニーは、キャラクターの使用で常に中国と係争しているし、
映画産業は常に中国の海賊版と戦っている。

アフリカの某旧フランス宗主国出身の留学生の友人は、中国がODAを投入して橋や道路を建設しているが、工事の末端労働者からレストランまで全て中国から運んできて、地元に全く金が落ちないことを嘆いていた。
結果、道路は出来るけれど、莫大な農地や鉱山が中国に買われてしまっていると。

世界においてはこういうことに続けて、今回のノーベル賞報道だったわけだ。

「ノブレス・オブリージュ」とまでは言わないが、せめて世界第二の経済大国にふさわしい、
紳士的な国際対応と世界から少しは尊敬されるような行動をとってほしい。
それで、世界中から優秀な企業や人をひきつけられるような国でなければ、成長など持続的にはならないだろう

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34 Comments

コメント日が  古い順  |   新しい順
中国の行方 (tel20000)
2010-10-10 15:16:12
共産党の一党支配が続く限り、簡単に経済力にふさわしい振る舞いをするとは思えないが、大中華思想をもつ国として、周辺国に対してもう少し鷹揚にできないものかと思う。
実際、政治も経済も儲かれば(発展すれば)何でもありという感が否めず、後の歴史家が現在の状況をどのように評価するのかといった、大国にふさわしい大局をもったリーダーがこの国に出現するのだろうか。もはや文革のような時代には戻ることはないとは思うが、最近の動きを見る限り、危うさを秘めており、体制を維持することに汲々としているように思える。
今の経済成長もいずれ鈍化していくことが想定されるなか、世界とどのように付き合っていけるのか。また、周りの世界との価値観を共有することができるのか。次世代を担うリーダーの出現を待っているだけでは難しい。歴史的なつながりも深い隣国である日本として、大国同士、堂々と渡りあってほしいと思う。
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時限爆弾 (かも)
2010-10-10 17:40:49
私は少し違う視点で見ています。
今回の事件は、彼の国の体制崩壊の引き金を引いたのだと思います。
一党独裁という支配体制と、思想の弾圧を国家の、第一義の原理としている国家が、実はその体制を維持するために、凡そあり得ない理不尽で無茶苦茶な国家運営をしている。その事をノーベル委員会は指摘しました。
 この授賞を受け容れることは、取りも直さず、反国家指導者を解放することであり、国家を転覆させる狂気を野に放つことになります。
 もし、この授賞を隠蔽し続けて隠し通せば、やがて其れは、ネットを通じて広く国民に知れ渡り、取り返しのつかない不信感を国民のあいだに醸成することになるでしょう。其れは、第二の天安門となって必ずや暴発するに違いありません。
 中国政府にとって、進も戻るも出来ない時限爆弾の導火線に火をつけてしまったのかもしれません。
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コメント返信 (Lilac)
2010-10-10 18:22:38
@Tel20000さん
大国にふさわしいリーダーが出現するのか、というのは全くそうですね。
自国の短期的な利益のためのみに走ることを許すと、長期的な利益にならないことに気づくリーダーがいればよいのにと思います。

@かもさん
その見方は面白いかもしれません。
今後の行く手に注目ですね

コメントですが、名前が無いコメントは内容によらず掲載しないのでご了承ください。
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ノーベル平和賞 (golconda)
2010-10-10 18:38:56
スウェーデン王立科学アカデミーが担当するノーベル物理・化学賞等とは異なり、平和賞はノルウェー国会が任命する委員会が決めます。ですので、それなりにノルウェーの政治意志が反映されると考えられるのが妥当でしょうね。
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Unknown (student)
2010-10-10 20:20:59
 私は中国出身という立場から述べたいと思います。
 私が思うに、今回の事件自体は政権に対して大した影響は及ぼさないだろうと思います。なぜなら、大部分の人は私の感覚では、政治問題に関心が無いからです。むしろ、今は皆が経済面に関心が行っている状況だと感じます。
 だからと言って中国に政治的なリスクが無いとは言えません。
 理由としては、今中国では環境問題、貧富の格差、不動産のバブル、民族問題等非常に深刻な問題を抱えており、どれも正直言って当分は解決しないでしょう。そして、それらは現に大きな対立を引き起こしております。
 今のところ、経済が大きく成長しているので全体として政府をゆるがすほどにはなっていませんが、今後に経済が減速した時にはそれらの問題が一気に吹き上がり、日米のバブル崩壊より政治面ではるかに大きな問題が起こると考えられます。まさにその時に中国は本格的に変化するだろうと思います。
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とはいえ、量の持つ強さというのは・・・ (t2)
2010-10-10 20:35:44
これまで、ずっと続いてきた中国のガキ大将のような振る舞いで、国内外で色々と物議をかもすような言動を続けてきたものの、やはり世界の20近い人口をベースにした生産能力、資源は侮れないと思います。彼ががどう行動し、どういった振る舞いをしようとも、それらを織り込んだ上で、世界の発展に活かすことを考えるべきなんでしょうね。CO2排出権制御、大気汚染、水質汚濁といった世界への影響のあることについては圧力をかけるべきでしょうが、今回のような件については、色々といいたいことはあってもあえて口出しすることはないのかなと思います。
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そうなんですか~。 (松本孝行)
2010-10-10 20:41:34
中国は歴史も長いですし、三国志ファンとかが「中国はなんだかんだで好き」とか言うものかと思っていました。
アフリカなんかもかなりお金突っ込んでるって聞いてますし、そういう部分でも尊敬されてるのかな?と思ってましたけど、アフリカからも「好き」とか言われていないのは驚きです。

う~ん、中国ってなんで嫌われるのかなぁ…
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テレビ:高柳健次郎 (ysjournal)
2010-10-10 21:08:35
Lilacさん
先日、アメリカ人の友人とテレビは日本人の発明ではないかと、変な所で愛国心を発揮してしまいました。(同時的に発明されているようで、諸説あるようですが。アメリカ人が最初に特許の申請をしている。)

失礼致しました。
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コメント有難うございます (Lilac)
2010-10-10 23:00:30
@golcondaさん
なるほど、有難うございます。
ただノルウェー政府も今回の件では、「ノーベル賞選考委員会の判断は政府とは独立している」と宣言してます。
そうすると、どこまでその「建前」をどこまで尊重して、紳士的に反論できるか、という話だと思いました。
中国政府が抗議するにしても、ノルウェー政府を脅すのではなく、ノーベル賞選考委員会にはっきり声明を出すほうが筋が通ったかなと、先進国的には・・。

@Studentさん
おっしゃるとおり、成長を続けている間は良いが、それが何らかの原因で止まった場合に臣下が問われるのでしょうね。
多くの人が、とまるわけがないと思ってるわけですが、それって日本のバブル期やリーマンショック以前のアメリカに良く似ています。

@T2さん
全くそうで、この力をどう世界を良い方向に持っていくのに活用すべきか、という考え方が重要だと思います。

@松本さん
ええ、アフリカ諸国の国民は(特に留学をするようなある程度インテリ階級の子供たちは)、中国のニュースをよく読んでます。
その上で実際に何が起こっているかを把握しています。
脅しの戦略で行っても中国の国際的立場は下がるだけなのですけどね。

@YSJournalさん
そうでしたか。高柳アンテナはテレビのアンテナ技術の基本になったものでしたよね。
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Unknown (Unknown)
2010-10-11 01:43:33
八木アンテナです
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