衝撃のコストカット!客室にTVは必要か
-ビジネスホテルウォーズ【1】
PRESIDENT
2013年9月16日号
著者
唐仁原俊博=文
川島英嗣(桑原氏)、岡本 凛(牧野氏)=撮影
稼働率100%超、利益率50%超……
高コスト体質であるホテル業界にあって
最高水準の利益をたたき出し続ける理由は何か。
東京オリンピック開催を見据え、
異業種が続々と参入する
驚異の高収益業界ビジネスホテルの光と闇に迫る!

1図を拡大
高収益率に加え、稼働率、宿泊者数とも高水準
企業が地方の拠点、宿泊所を撤去し、
事業所を集約する中で、ビジネスホテルの需要が増えている。
観光庁による2012年度の宿泊旅行統計調査報告を見れば、
ビジネスホテルの勢いは一目瞭然だ。
年間宿泊延べ人数は最多のビジネスホテルで約1億7,000万人、
次いで旅館の約1億600万人、シティホテル、リゾートホテルの順となっている。
そして定員稼働率はシティホテルが60%、
ビジネスホテルはわずかに及ばす57%だ。
リゾートホテルは38%、旅館に至っては23%である。
つまり、ホテル・旅館産業の中で、もはや王者ともいえるのが
ビジネスホテルなのだ。最大手のアパでは、
稼働率が100%を超え、利益率も50%を超える。
そんな高収益のビジネスモデルに異業種からも
続々と参入が始まっている。

希望社社長 桑原耕司氏
まず着目すべきは、ビジネスホテルの低コストであろう。
宴会やレストランなど高コストになりがちな
ホテル運営の不要な部分を徹底的に削った。
そんな低コスト運営の最前線にあるのが、
岐阜に本社を置き、全国に12施設を展開するウィークリー翔だ。
1泊1,900円からの激安ビジネスホテルである。
運営するのは建設会社である希望社。
社長の桑原耕司は語る。
「私たちは本来、ホテルは門外漢です。
だから不要だと思った設備は業界の常識にとらわれずに
バッサリ切り捨てることができる」

2
激安ビジネスホテルの噂を聞きつけた
われわれ取材班が実際に宿泊してみると、
苛烈なコストカットの波状攻撃に驚いた。
まず宿泊の受け付けは16時から20時半までで、
それ以降は従業員が帰宅してしまう。
チェックアウト時も誰も人がいないのでカードキーを所定の穴に入れる。
内装はコンクリートの打ちっぱなしで、風呂、トイレは共同。
アメニティは基本的に設置されておらず、
必要ならフロントや近隣の施設で購入する。
部屋はオートロック式だが、キーの閉じ込みをしてしまった場合、
自分で警備会社を呼び、自己負担で鍵を開けてもらう。
普通のビジネスホテルに慣れ親しんだ人はとまどうだろう。
しかもウィークリー翔では、館内に前月の原価表が貼り出され、
お客にも高いコスト意識を要求する。
「赤字が続けばホテルはつぶれてしまいますから、
この原価表は切実な訴えですね。
1人あたりこれだけのお金がかかっていて、
最終的なうちの利益はこれだけです、
と全部オープンにしてしまう。
お客さんと一緒に安さを支えているという感覚です」
単価を下げても稼働率さえ上げることができれば
利益は出る、と桑原社長は語る。
現在稼働率は80%台だ。90%まで上げることが当面の目標だ。
「ホテルであっても24時間稼働する必要はない。
私としては部屋に置いてあるテレビも撤去したいと実験中です」
大手が勝ち、中小は潰れる

オラガ HSC 社長 牧野知弘
こういった事例はもはや業界にとって
当たり前のことになっているのだろうか。
ホテルのコンサルタントとして活躍する牧野知弘
オラガ HSC社長に話を聞いた。
「すべてのビジネスホテルが安さだけを
至上命題にしているわけではありませんが、
以前と比較して安くなっているのは事実です。
そうは言っても、ウィークリー翔の例は極端ですね。
ただ、日によっては1,000円台で泊まれるビジネスホテルも結構あります。
通常のビジネスホテルであれば、相当削って原価が
1室あたり2,500円。通常は3,000円台でしょう。
この原価表を何割か割り増しすれば、
ビジネスホテルの原価を推測できます。
お客が増えてもホテル全体の経費はあまり増えないので、
バーゲンセールをして少しでも売り上げを
あげようとする例はたくさんあります」
ホテルの利益の指標の1つとして、
利益が売り上げに占める比率であるGOP(営業粗利益)比率がある。
牧野はビジネスホテルのGOP比率がほかの宿泊業態に比べて
圧倒的に高いことを指摘する。
「ちょっといいビジネスホテルになると
GOP比率は50%を超えます。つまり
売り上げの半分以上が利益。一方、老舗のシティホテルでは
清掃もリネンサービスもすべて自前でやる。
そういったスタッフを正社員として抱え込むと、当然経費は増える。
ですからシティホテルですとGOP比率で2割ぐらいです。
2割を切ると経営が相当苦しくなっていく」
圧倒的な利益率を誇り、他を圧倒するビジネスホテルだが、
牧野はビジネスホテル業界が
既にコモディティ化していると指摘する。
「高度経済成長を経て日本が全国的に発展する中で、
ビジネスパーソンの移動も増えました。日本は
南北に長いですから、必然的に移動距離は長くなる。
ビジネスホテルはそういった状況で誕生した。
業界の情勢はここ10年ぐらいで大きく変わりました。
コモディティ化が進めば資本力のある大手が勝ち、
体力のない者は敗れ去る。東横インや
アパホテルといった超大手が幅をきかせ、
町場の中小規模のビジネスホテル、昔ながらの旅館などは、
独自色を出さないと次々とつぶれる時代になった」
(文中敬称略)
-ビジネスホテルウォーズ【1】
PRESIDENT
2013年9月16日号
著者
唐仁原俊博=文
川島英嗣(桑原氏)、岡本 凛(牧野氏)=撮影
稼働率100%超、利益率50%超……
高コスト体質であるホテル業界にあって
最高水準の利益をたたき出し続ける理由は何か。
東京オリンピック開催を見据え、
異業種が続々と参入する
驚異の高収益業界ビジネスホテルの光と闇に迫る!

1図を拡大
高収益率に加え、稼働率、宿泊者数とも高水準
企業が地方の拠点、宿泊所を撤去し、
事業所を集約する中で、ビジネスホテルの需要が増えている。
観光庁による2012年度の宿泊旅行統計調査報告を見れば、
ビジネスホテルの勢いは一目瞭然だ。
年間宿泊延べ人数は最多のビジネスホテルで約1億7,000万人、
次いで旅館の約1億600万人、シティホテル、リゾートホテルの順となっている。
そして定員稼働率はシティホテルが60%、
ビジネスホテルはわずかに及ばす57%だ。
リゾートホテルは38%、旅館に至っては23%である。
つまり、ホテル・旅館産業の中で、もはや王者ともいえるのが
ビジネスホテルなのだ。最大手のアパでは、
稼働率が100%を超え、利益率も50%を超える。
そんな高収益のビジネスモデルに異業種からも
続々と参入が始まっている。

希望社社長 桑原耕司氏
まず着目すべきは、ビジネスホテルの低コストであろう。
宴会やレストランなど高コストになりがちな
ホテル運営の不要な部分を徹底的に削った。
そんな低コスト運営の最前線にあるのが、
岐阜に本社を置き、全国に12施設を展開するウィークリー翔だ。
1泊1,900円からの激安ビジネスホテルである。
運営するのは建設会社である希望社。
社長の桑原耕司は語る。
「私たちは本来、ホテルは門外漢です。
だから不要だと思った設備は業界の常識にとらわれずに
バッサリ切り捨てることができる」

2
激安ビジネスホテルの噂を聞きつけた
われわれ取材班が実際に宿泊してみると、
苛烈なコストカットの波状攻撃に驚いた。
まず宿泊の受け付けは16時から20時半までで、
それ以降は従業員が帰宅してしまう。
チェックアウト時も誰も人がいないのでカードキーを所定の穴に入れる。
内装はコンクリートの打ちっぱなしで、風呂、トイレは共同。
アメニティは基本的に設置されておらず、
必要ならフロントや近隣の施設で購入する。
部屋はオートロック式だが、キーの閉じ込みをしてしまった場合、
自分で警備会社を呼び、自己負担で鍵を開けてもらう。
普通のビジネスホテルに慣れ親しんだ人はとまどうだろう。
しかもウィークリー翔では、館内に前月の原価表が貼り出され、
お客にも高いコスト意識を要求する。
「赤字が続けばホテルはつぶれてしまいますから、
この原価表は切実な訴えですね。
1人あたりこれだけのお金がかかっていて、
最終的なうちの利益はこれだけです、
と全部オープンにしてしまう。
お客さんと一緒に安さを支えているという感覚です」
単価を下げても稼働率さえ上げることができれば
利益は出る、と桑原社長は語る。
現在稼働率は80%台だ。90%まで上げることが当面の目標だ。
「ホテルであっても24時間稼働する必要はない。
私としては部屋に置いてあるテレビも撤去したいと実験中です」
大手が勝ち、中小は潰れる

オラガ HSC 社長 牧野知弘
こういった事例はもはや業界にとって
当たり前のことになっているのだろうか。
ホテルのコンサルタントとして活躍する牧野知弘
オラガ HSC社長に話を聞いた。
「すべてのビジネスホテルが安さだけを
至上命題にしているわけではありませんが、
以前と比較して安くなっているのは事実です。
そうは言っても、ウィークリー翔の例は極端ですね。
ただ、日によっては1,000円台で泊まれるビジネスホテルも結構あります。
通常のビジネスホテルであれば、相当削って原価が
1室あたり2,500円。通常は3,000円台でしょう。
この原価表を何割か割り増しすれば、
ビジネスホテルの原価を推測できます。
お客が増えてもホテル全体の経費はあまり増えないので、
バーゲンセールをして少しでも売り上げを
あげようとする例はたくさんあります」
ホテルの利益の指標の1つとして、
利益が売り上げに占める比率であるGOP(営業粗利益)比率がある。
牧野はビジネスホテルのGOP比率がほかの宿泊業態に比べて
圧倒的に高いことを指摘する。
「ちょっといいビジネスホテルになると
GOP比率は50%を超えます。つまり
売り上げの半分以上が利益。一方、老舗のシティホテルでは
清掃もリネンサービスもすべて自前でやる。
そういったスタッフを正社員として抱え込むと、当然経費は増える。
ですからシティホテルですとGOP比率で2割ぐらいです。
2割を切ると経営が相当苦しくなっていく」
圧倒的な利益率を誇り、他を圧倒するビジネスホテルだが、
牧野はビジネスホテル業界が
既にコモディティ化していると指摘する。
「高度経済成長を経て日本が全国的に発展する中で、
ビジネスパーソンの移動も増えました。日本は
南北に長いですから、必然的に移動距離は長くなる。
ビジネスホテルはそういった状況で誕生した。
業界の情勢はここ10年ぐらいで大きく変わりました。
コモディティ化が進めば資本力のある大手が勝ち、
体力のない者は敗れ去る。東横インや
アパホテルといった超大手が幅をきかせ、
町場の中小規模のビジネスホテル、昔ながらの旅館などは、
独自色を出さないと次々とつぶれる時代になった」
(文中敬称略)