「……帰ろっか」
「……うん」
いくらかの時が過ぎて,僕たちはもときた道を引き返し始めた。
互いに言葉はなく。けれど握った手の温もりがあった。
「……あ。雪」
麗奈の呟き。見上げれば満天の星。月が輝く冬の夜空からは,確かに白い粒が舞いおり出していた。そんな光景を目にしながら,歩を進める。
「……ねぇ。恭一」
「ん?」
「旅行,楽しみにしてるから」
「あぁ」
その言葉に頷きで返す。
――そうして夜は深けていく。僕らの事情なんてお構いなしに世界は流れていく。いつしか雪も止むだろう。
今日の僕らの出来事なんて,世界にとってはほんの瑣末なものでしかない。けれど僕にとって,今日という日は忘れられない思い出の一つとしてこの先ずっと心に残るだろう。麗奈もそう感じていてくれるといいと思う。
「――走ろう」
「え? ちょ……ちょっと,恭一?」
麗奈の手を引き走り出す。そこに明確な意味なんてない。それでも麗奈は僕の手を離さずついてきてくれる。
先のことなんて何も分からない。未来はとても不確定。またすれ違うこともあるかもしれない。迷い,悩み,立ち止まることもあるかもしれない。だから今はただこうして走り続けよう。
繊細で,鈍感で,そして不器用な僕ら。だからこの先は,決してスムーズにはいかないだろう。けど麗奈となら大丈夫。何度間違っても必ずやっていける。
今日という日のことを。今こうしてつなぐ手の温もりを。二人で共に過ごした時間を。かけがえのない今を感じながら,僕らはまた一歩先へと進む。
二人駆け抜ける冬の街が。満天の星が。降る雪が。僕らを祝福してくれているような,そんな気がする。
麗奈が傍にいるという幸せ。それをかみ締めて,笑みがこぼれる。
降り積もる雪の中。白く吐く息がとけて消えていく――。そんな冬のある一日が,終わりを告げようとしていた。 (Fin)
「……うん」
いくらかの時が過ぎて,僕たちはもときた道を引き返し始めた。
互いに言葉はなく。けれど握った手の温もりがあった。
「……あ。雪」
麗奈の呟き。見上げれば満天の星。月が輝く冬の夜空からは,確かに白い粒が舞いおり出していた。そんな光景を目にしながら,歩を進める。
「……ねぇ。恭一」
「ん?」
「旅行,楽しみにしてるから」
「あぁ」
その言葉に頷きで返す。
――そうして夜は深けていく。僕らの事情なんてお構いなしに世界は流れていく。いつしか雪も止むだろう。
今日の僕らの出来事なんて,世界にとってはほんの瑣末なものでしかない。けれど僕にとって,今日という日は忘れられない思い出の一つとしてこの先ずっと心に残るだろう。麗奈もそう感じていてくれるといいと思う。
「――走ろう」
「え? ちょ……ちょっと,恭一?」
麗奈の手を引き走り出す。そこに明確な意味なんてない。それでも麗奈は僕の手を離さずついてきてくれる。
先のことなんて何も分からない。未来はとても不確定。またすれ違うこともあるかもしれない。迷い,悩み,立ち止まることもあるかもしれない。だから今はただこうして走り続けよう。
繊細で,鈍感で,そして不器用な僕ら。だからこの先は,決してスムーズにはいかないだろう。けど麗奈となら大丈夫。何度間違っても必ずやっていける。
今日という日のことを。今こうしてつなぐ手の温もりを。二人で共に過ごした時間を。かけがえのない今を感じながら,僕らはまた一歩先へと進む。
二人駆け抜ける冬の街が。満天の星が。降る雪が。僕らを祝福してくれているような,そんな気がする。
麗奈が傍にいるという幸せ。それをかみ締めて,笑みがこぼれる。
降り積もる雪の中。白く吐く息がとけて消えていく――。そんな冬のある一日が,終わりを告げようとしていた。 (Fin)