何となく奈伽塚ミント・純情派

不覚にも連続更新ストップ。
少々夏バテ気味だったし
定期更新に切り替えかも?

そんなこんなで奈伽塚ミント

思考をも停止したときが終わりなのだと思考する

2005-02-14 23:26:53 | 雑記
 最近すっかり音沙汰無しのミントです(苦笑)


 実を言うとPC起動したのも何日かぶりのことで。現状説明をするとするならば,二元でものを語るのはあまり好きじゃないのですけれど,「暇」よりは「忙しい」わけで。付け加えるならば「躁」よりは「鬱」なのかもしれないわけで。つまるところ,積極的に更新するだけの余裕が,現実的にも精神的にもないようなのです(哀)

 まぁ,自分自身のことは主観的にも客観的にもよくよく理解しているつもりですので,躁鬱のサイクルは今に始まったことではないのも当然理解済みなのです。過去にも同じような時期(更新停止時期)が何度かあるのも周知の事実。当然理解の範疇です。ただ,理解済みだからといってそれを許容できるかというのは,(私にとっては)また別問題。サイクル周期が9:1くらいで「鬱」に傾いているのはやっぱり考えさせられてしまうのです。

 ただその思案が現状改善に向けての思案かというと,一概にそうとも言い切れず。むしろ現状維持の思案であって,現状認識のための思案であるようで。要するに私自身,現状を受け入れている節があるようなのです。

 決して現状が私が思う限りの最良だからではなくて,次善の策を選ぶというか。選んでしまっているというか。最良を追求して最善の手段を模索して結局失敗に終わるとか,現状以下の事態に陥るくらいならば,次善の現状を選んでしまうのが私の性質のようで。常に安全牌しか切れないのか,切らないのか。

 行動を起こさなければ未来は開けないと思うのですけれど,その行動で未来を閉じる方を危惧する。そんな自分で自分を厄介だと感じてしまうような――それでもそれが私であるわけで。

 と,こんな後ろ向きにしかみえないような(少なくとも私にはそうみえます)思考ばかりが最近は渦巻いていて。それがまた「鬱」の一因なんだろうなぁ,と思いつつもやっぱりアクションは起こさない私で。色々と破綻しているのかもしれないけれど,それでも私はそんな私が好きなんですよね(苦笑)

 だから結局のところ,これは誰かに向けた心情吐露なんかではなく。懺悔なんかでもなく。ただの独り言であって,独り言でしかないのだと。思考を文字に表すことで再認識したかっただけなのだと。そんなことを思ってしまう,私なのでした。



 ここで終わってしまえばいいのですけれど,あいにく私は偽善者のようで。他人の目は本質的には気にしなくとも,他人の目を気にする自分は気になるらしく。単なる利己主義者なのかもしれないですね。

 とにかく早期復活は目指します。意見が変わる事なんて茶飯事ですし,ともすれば今回のこれも,本心とは違う「鬱」から来る弱気なのかもしれないですから。ここまで言ってそれはあまりにも都合がいい思考にも思えますけれど,時にはそれも悪くはないでしょう。……そう思うことにします(笑)


 それではまたいずれ。出来ることならばその機会が早く訪れますように♪ ミントでした。

雪恋・6

2005-02-03 22:55:38 | 雑文
   0・B   ”2005年7月・2”

 彼女が僕の元を去ってから,半年余りが過ぎ去ろうとしていた。
 気がつけば冬は終わりを告げていて。年も明けて,だらだらと過ごしているうちに季節は夏になっていた。
 思えば彼女と出会ったのも夏だったように記憶している。普段は曖昧な僕の記憶だけれど,はっきりとそれは覚えていた。
 それほどに,あの出会いは印象的だった。本当はそんなありふれた言葉にしてしまいたくはないほどに,僕の中ではあの出会いは綺麗な思い出として残っている。
 彼女は,今,どこで,何をしているのだろう。
 僕はこうして夏の暑い空気に包まれながら,窓辺で空を――抜けるように青い空を見上げている。あの日の記憶を確かめるように。
 彼女は僕のことを覚えているだろうか。
 僕は半年が過ぎた今でも,忘れられないでいる。こんなにも彼女を想っている……。

 気がつけば,午睡の中に落ちていた。色々と懐かしい風景を見ていた気もするが,気のせいかもしれない。熱気のせいか体からは汗が噴き出し始める。
 そんなごくごく普通の夏の午後。突然,夏とは思えない――まるで冬から抜け出してきたかのような,一陣の冷たい風が吹いた。
 それに気づいて僕は慌てて目を覚ます。
 夏にこんな風が吹くはずはない。だけれど僕は,この風を知っている。そう,それは既視感(デジャビュ)。
 彼女と過ごしていたときは,いつもこんな風が吹いていた気がする。
 僕はそれを認識して,そして――。

「リュウ」

 懐かしい声がした。
「羽音!」
 振り返ればそこには思い出と違わぬ姿があった。驚きは一瞬。その微笑みがまた見られたことが,とても嬉しい。
 
 あれから,ずっと考えていた。あの時僕は,何を言おうとして何を言えなかったのか。今なら分かる。あの日,あの公園で言えなかった言葉を伝えようと思った。
「羽音,ごめんな。今更言える事じゃないかもしれないけど,僕はやっぱり君のことが――」
 羽音が慌てた様子で駆け寄ってきて僕の口をふさぐ。
「……羽音?」
 手を離した羽音は小さく首を振った。そして一言だけ。
「またね。リュウ♪」
 僕が何かを言うより早く,世界から音が消えていく。景色もゆっくりと色をなくしていく。
 羽音の口が動くのだけれど,その声も聞こえない。なんとか口の動きから言葉を読み取る。

 あ・り・が・


   0・C   ”2005年7月・3” 

「リュウ」

 懐かしい声がした。
「咲紀!」
 振り返ればそこには思い出と違わぬ姿があった。驚きは一瞬。その微笑みがまた見られたことが,とても嬉しい。
 
 あれから,ずっと考えていた。あの時僕は,何を言おうとして何を言えなかったのか。今なら分かる。あの日,あの公園で言えなかった言葉を伝えようと思った。
「咲紀,ごめんな。今更言える事じゃないかもしれないけど,僕はやっぱり君のことが――好きだ」

 ”……あれ?”
 今の今まで誰かに同じような事を言っていたように思う。思うのだが,それが誰だったのか分からない。

「私も……ごめんね。あんなこと言っちゃって,許してもらえるか分からないけど。独りになってみて分かったの。本当の自分の気持ち。――好きです,付き合ってください」
 その言葉を聞いて僕の思考は凍結した。何も考えられなくなる。咲紀が僕の返事を待っている。とにかく答えないと――。
「僕で,よければ」
 咲紀の笑顔が二倍増しくらいになったように見える。きっと僕も同じような顔をしているんだろう。

「あ,雪」
「え?」
 驚いて窓の外を見る。確かに季節はずれの雪が降っていた。
「まぁ,たまにはこういうのもいいんじゃないか」
「う~ん……。うん,そうだね」
 咲紀はしばらくこの奇妙な出来事について考えこんでいたが,結論が出ないと割り切ったのか僕の言葉に頷いていた。そのまま「綺麗だね」なんて言いながら真夏の雪を眺めている。

 僕には分かる。僕だけには分かった。きっとこれは祝福の雪だ。彼女なりに僕たちを祝ってくれているんだ。咲紀をここに連れてきてくれたのもきっと彼女なんだと思う。
 とても現実とは思えないような話かもしれない。けれど決して夢ではない。記憶が告げている。確かに彼女は存在したと。

 小さく呟く。つい先程まで話していた少女へ届けと願って。
 ありがとう。羽音。

 
 真夏には不似合いな純白の雪が降り続く。風に乗って,少女の笑い声が聞こえた気がした。 <了>


 ※この小説はトラックバック&【BF2】企画:羽音祭・パート2参加作品です。

雪恋・5

2005-02-03 22:53:40 | 雑文
   7   ”2004年12月・3”

 僕と羽音はいつか秋の日にしたように,二人並んでベンチに座った。
 ちらりと隣に目をやる。そこに咲紀がいるような錯覚がして慌てて目をそらした。
 一度はっきりと意識してしまうと,それはもう僕の意志では変えられそうもないように思えて。だから僕は正直な気持ちを羽音に告げることにした。
「羽音」
 正面を見たままに呼びかける。羽音がこちらを向く気配がした。
「今から話すこと,よく聞いてくれ」
 少し空気に戸惑いの色が混じる。見えないので分からないが,羽音の表情にも戸惑いが表れている気がした。
「僕は羽音のことが好きだ。好きなんだと思う。だからちゃんと言うよ。好きだから,言うんだ……」
 そこで一度言葉を切った。すぅ――。深く息を吸う。

 たった一言なのだけれど。この先はたった一言だけなのだけれど,その言葉を口にすることは出来ることなら避けたい。僕を好いてくれている隣の少女に,この言葉をかけることは残酷としか思えない。
 けれど僕にはその言葉しか思いつけなかったし,別の方法も思いつかなかった。
 だから,結局のところ,僕はそれを,告げるしかなかった。

「今日で最後にしよう」

 その言葉に羽音は何を思っただろう。相変わらず正面を見たままの僕には,羽音の表情を知ることは出来ない。けれど今はそれでいい。羽音の顔を見てしまったら咲紀を重ねてしまうだろうし,気持ちが揺れてしまうだろうから。

 僕の顔をのぞき込もうとした羽音に気づき顔を背ける。痛む心を無視して矢継ぎ早に言葉をつなぐ。
「羽音。僕は君が好きだけど,他にも好きな人がいるんだ。いた,と言った方がいいかな……。君とよく似てる人で,今も忘れる事なんて出来ない。嫌われてしまったのかもしれないけど,僕はまだ好きなんだ。君を見るたびに君にその人の姿を重ねてしまう。君のことを見てあげたいけれど,僕にはそれが出来ないんだ。それが……それが辛いんだ」
 言いながらまた瞳に涙がにじんでくるのが分かった。それを羽音には見せたくなくて。涙をこぼしたくなくて,空を見上げる。

 降り続く雪が視界いっぱいに映る。真っ白な雪。やむ気配をみせない雪のように僕の言葉も止まらない。止まっては,くれない。
「本当は何度でも会いたい。出来ることなら何度でも,何度でも会いたい。けど僕は……僕はもう君とは会えないよ……。身勝手だって分かってる。だけどだめなんだ。僕は――羽音,君じゃなくて咲紀じゃないと,だめなんだよ……」
 最後の方はもう,羽音に語りかけていると言うよりも独り言を呟いているかのようでしかなかった。

 しばらく沈黙が場を支配していた。羽音は何も言わなかったし,僕は何も言えなかった。
 突然ふ――っ,と。隣から気配が消えた。
 驚きはなかった。嫌われて当然だし,そうなるようにしたのは僕自身だ。けれど――。何だろう,この胸にぽっかりと穴が空いてしまったような感覚は。その空洞いっぱいの,この感情は。
 宙をさまよっていた視線を下へと落とす。白一色の中に僕の影だけが黒く浮かんでいる。こころなしかその影は泣いているようだった。
 ”僕の心が泣いてるのかもな”
 自嘲気味の笑みがこぼれる。

 そうして見つめていた影に誰かの影が重なった。それに気づくのが先だったかどうか。振り向く暇もなく,僕の首にその誰かの両手が回されていた。
 ”どうして……?”
 振り向かなくても分かる。羽音だ。だからこそ分からなかった。僕を嫌いになったのではなかったのか。僕から去っていったのではなかったのか。
 僕は何かを言おうとして。けれどそれは言葉にならなくて。先に,羽音の声がした。
 
「またね。リュウ♪」

 今までと変わらぬ,声だった。今まで以上に親しみが込められていたかもしれない。それと同時に。何を思ってだろう。その声には決意のようなものがこもっている気がした。

 首から手が離れる。気配が遠ざかっていく。
 何かを言わないといけない。振り返って何かを言わなければいけない。

 ”何を……言えっていうんだ……”

 僕は,振り返ることが出来なかった。
 堪えていた涙がせきを切ったように溢れ出す。
 ”羽音は,羽音じゃないか”
           ”どうしてあんなことを言ったんだ”
      ”一時の感情にまかせて……”
 想いが,頭をよぎる。
「僕は……馬鹿だ……。これじゃあ――」

 何も,変わらないじゃないか。
 その声は風に溶けていった。

 僕は咲紀を失ったときと何も変わっていない。だから今,こうして羽音までも失ってしまった。
 独りになってその大きさに気づく。独りになるまでその大きさに気づけない。鈍感な,僕。
 どうすることも出来なくて,一人きりになった公園でただ涙を流した。
 雪は,やんでいた。 <続>

雪恋・4

2005-02-03 22:52:34 | 雑文
   5   ”2004年12月”

 咲紀と別れて丸一年。再び年の瀬を迎えた今年の僕が考えるのは,夏に出会った少女,羽音のことだった。

 二度目の出会いを果たした後。あれから僕は何度か羽音に会う機会があった。つい一週間ほど前にも会ったばかりだ。
 僕の緊張は数を重ねるごとになくなっていったが,羽音の性格というかおとなしい面は相変わらずで,語り合うようなことはなかった。
 それでもどんどん親しさを増してきているのは実感しているし,羽音もそうだと思う。
 ただ,一つだけ。一つだけ気がかりがあった。羽音と会っていると時々分からなくなるのだ。僕の目は羽音を見ているのか,それとも……それとも僕は咲紀を見ているのではないか,と
 あまりにも似すぎている二人だからこそ分からなくなる。僕が羽音に会いたいと思うのは純粋な好意からではないのだろうか。僕はただ失った恋人の幻影を追い求めているだけなのか。
 僕はともすれば,自分を見失ってしまいそうだった。

 コンコン。
 思考の迷路に捕われかけた僕の耳に,遠慮がちに,しかしはっきりとその音は届いた。
 ”窓の方をノックするなんて誰だろう”
 いぶかしむ僕だったが,よく咲紀がこうして訪れていたことを思い出す。
 まさかと思いながらも慌ててカーテンを開けるとそこには――。
「リュウ♪」
「羽音」
 その声ににじんでいたのは喜びの色か,落胆の色か。知らない間に外は雪景色に変わっていた。その白い絨毯の上に羽音の笑顔があった。
「どうしたんだ。家に来るなんて初めてじゃないか」
 窓を開けて声をかけた。冷えた空気と雪が舞い込んできて思わず身震いしてしまう。
 僕のその問いには答えずに羽音は手招きをする。
 ”何だろう?”
 ぼんやりとそんなことを思いながら,ただただ羽音を見つめたままでいた。

 動こうとしない僕を羽音はどんな風に思ったのだろう。気づいた時には羽音は駆け出していた。
「ちょ,ちょっと待って!」
 はっとなって去りゆく後ろ姿に呼びかける。
 自分の鈍さに舌打ちしながらもコートを羽織り家を飛び出した。

 外に出たときには既に,羽音の姿は影も形もなくなっていた。
 ”くそっ。何してるんだ,僕は!”
 腹立たしくなって家の壁を力任せに殴りつける。屋根に積もっていたのだろう。大量の雪がどさどさと音をたてて落ちてくる。自然にその様子を目で追っていた。地面へ――といっても雪で真っ白なのだが――目を向けて僕は足跡を見つけた。
 ”羽音!”
 足跡は一組。道路に面した窓の前から続いている。間違いなく羽音のものだ。
 雪は降り続いている。時間が経てば足跡は消えてしまうだろう。そうでなくとも,誰かの足跡が混じれば見分けもつかなくなる。
 僕は急いで足跡を辿り始めた。


   6   ”2004年12月・2”

「はぁはぁ……」
 白い息がこぼれる。できすぎた結果に苦笑ももれる。
 ”幸運すぎる偶然は運命,なんてな”
 走りながら足跡がいつ途切れるか,いつ辿れなくなるかと思っていたのだが,そんな思いは杞憂だったのだろうか。運命なんてものは信じる質ではないけれど,ここまで上手く事が運ぶと今だけは信じてもいいような気さえしてくる。
 羽音の足跡を辿って僕が行き着いた先は,いつも咲紀と待ち合わせをしたあの公園だった。

 公園のほぼ中央に羽音の姿が見えた。怒っているものとばかり思っていたのだけれど,遠目にも羽音が笑っているのが分かった。
 ”もしかして,からかわれてるのかな”
 再びの苦笑いをもらしながらも羽音の方へと近づいていく。

 ”別れよう?”

「っ――!」
 唐突によみがえってきた言葉に足を止める。

 降りしきる雪。
 眼前に広がる一面の雪景色。
 目に鮮やかな白と黒のコントラスト。
 公園の中央に待っている。
 黒い少女の雪のような白い肌。
 僕は知っている。
 そう,僕はこの景色を知っている――。

 ”忘れていたのは,会話の内容だけじゃなかったんだ”
 今この景色を見なければ,忘れていたということさえ気づかぬままにいたに違いない。どうして忘れてしまっていたのだろう。いや,意図的に忘れようとしていたのだろうか。
 一年前。咲紀と最後にあった場所。咲紀に別れ話をされたのがこの場所だった。

 独り,うつむく。なぜだか顔を上げることが出来ない。視界がぐにゃぐにゃとゆがんでいる。
 ほおを何かが伝い落ちる。伝っては落ち,また伝っては落ちていく。段々とその間隔が短くなっていき,流れへと変わり――温かな誰かの手がほおをなでた。
「は,おん」
 僕の声は少しかすれていた。
 いつの間にこちらに来たのだろう。僕のほおに触れている手は,少し背伸びをするようにした羽音のものだった。その顔が少し悲しそうに見える。
 ”どうしたんだろう”
 思う僕のほおから羽音の手が離れる。ちらりと見えたその手のひらはしっとりと濡れていた。それでようやく理解する。
 ”泣いて……たのか”
 羽音が心配そうに僕の顔を見つめている。
「大丈夫だよ。ありがとう」
 少しずつだけれど,心が落ち着いていくのが分かった。僕の言葉で羽音も笑顔に戻る。
 
 今は,はっきりと分かる。その笑顔に僕は確かに咲紀の姿を重ねている,と。 <続>

雪恋・3

2005-02-03 22:50:14 | 雑文
   3   ”2004年9月”

 残暑もようやく終わりを告げたのか,ここ数日過ごしやすい日が続いていた。山の木々も色づき始め,街はすっかり秋らしくなってきている。
 そんな街の様子を眺めながら,僕は大通りに面した並木道を一人歩いていた。
 大型のショッピングセンターや,各種娯楽施設が建ち並ぶこの通り。週末ということもあってか道行く人々は若者中心だった。中にはカップルと思しき姿もありそれを見ていると咲紀との思い出が呼び起こされた。
 ”そういえばあそこにも,しばらく行ってなかったな……”
 思考に呼応するように足は大通りから住宅街の方へと向かう。記憶を辿るようにしながら僕は,先へ先へと歩を進めていった。

 行き着いた先はさほど大きくもない公園。これといった特徴のない場所ではあったが,僕にとっては咲紀との思い出の一つになっていた。
 僕と咲紀の家。そのちょうど中間地点くらいに位置するここは,いつも待ち合わせの場所だった。
 会うのが楽しみで楽しみで,早く着きすぎて約束の時間を待ちわびたこと。デートプランを夜遅くまで練っていて,寝坊して慌てて走ってきたこと。ずいぶんと遠い日のことになってしまった気もするが,決して忘れはしない大切な思い出。
 そんな思い出をかみ締めながら公園に足を踏み入れる――と,そこに来てようやく先客の存在に気づく。公園内に一つだけぽつんと佇むベンチ。その先客はそこに座って,どこから飛んできたものか野鳥と戯れているようだった。
 無邪気なその姿を見ていると自然に笑みがこぼれた。そのまましばしその姿に見入っていた僕は,それがどこかで会ったことのある人物だということに気づいた。それも,再会を望んでいた人物。
「……羽音?」
 その声にその人物が僕に目を向ける。その少女――咲紀によく似たその少女は,間違いなく羽音だった。
「あ――」
 羽音が小さく呟きを漏らす。僕の姿を認めたせいか,羽音の膝で休んでいた野鳥が大きな羽音を立てて飛び去ってしまった。
「ご,ごめん。つい」
 慌てて謝る僕を気遣うように羽音は笑って首を振った。
「隣,いいかな?」
 大きく頷きが返ってきたのを確認して,僕はゆっくりと歩を進めた。

「齋藤竜太。友達とかはリュウって呼んでるんだけどね」
 いざ羽音の隣に座ってみると,あれほど再会したいと思っていたはずなのに話題の一つも出てこなかった。
 漂い始める沈黙の空気を振り払いたくて――まだ自己紹介すらしていなかったことに思い当たり,とりあえず僕は名前を名乗ってみた。
「リュウ?」
「うん,そう。まぁ羽音の好きなように呼んでくれていいけど」
 その答えに羽音は急にうつむいてしまった。何事かと不安に思う僕の耳に数度,聞き取れないほど小さく「リュウ……。リュウ……。リュウ――」と繰り返す声が届いた。それは響きを確かめているような,そんな風に映った。
 やがて顔を上げた羽音は満足げな笑みをして言う。
「リュウ♪」
 その響きには確かな親しみが込められているのを感じた。


   4   ”2004年9月・2”

 ゆっくりと日が傾いていく。オレンジ色に染まり始めた公園のベンチ。
 ほんの一年ほど前までは何度も咲紀と見た夕焼け色の空が見える。今隣にいるのは咲紀ではなく羽音。ただその違いは太陽には関係もなかったようで,夕日の色は過去も今も変わりはなかった。
 羽音はというと,そんな思考など知るはずもなく,僕の体にもたれかかるようにしてすぅすぅと穏やかな寝息を立てている。

 あの後――僕が自己紹介を終えた後の会話は全くと言っていいほど弾まなかった。色々と話したいことが浮かんでは消え,また浮かんでは消える。少なからず緊張があったのかもしれない。
 それでもどうにか二言三言は口にしたのだけれど,羽音はおとなしいというか寡黙というかあまり多くを語ろうとはしなかった。ただ表情や身振り手振りで一生懸命に感情を伝えようとしてくれたので,少なくとも嫌われているとかいうことではないらしいのは分かった。
 そうしているうちに,疲れていたのか段々と羽音がうつらうつらし始め,ついには眠ってしまったというわけだった。

 しばらくの間僕は羽音に体を預けられるままにして,少しずつ落ちていく日を眺めたり幸せそうな羽音の寝顔を見つめたりしていたのだが,いつの間にか眠気が体を満たしていた。
 ”羽音が起きるまではどうにか――”
 そうは思ってみたが抗いがたい眠気に誘われるように目蓋はゆっくりと閉じていく。一度はぶんぶんと頭を振って意識を覚醒させようとしたのだが,再び目蓋は落ちていき無駄な努力と化してしまう。
 ”まぁ,少しくらい,なら,いい,か……”
 そう結論づけた時にはもう僕は眠りについていた。

「ん……っ」
 感じる肌寒さのせいなのかどうか。僕は目を覚ましゆっくりと覚醒していく。
 どれくらい眠ったのだろう。辺りがまだ暗闇に沈んでいないところをみると,そう長い時間だったわけではないようだ。とはいえオレンジは濃厚になり確かな時間の経過を思わせる。
 ”あれ?”
 眠ってしまう前までは感じていた重さがなくなっているのに気づく。隣に目を移すとやはり羽音の姿は消えていた。
 ”帰っちゃったか”
 諦め半分に周りを見回す――思いの外あっさりと羽音の姿は見つかった。
「羽音。起きたんだ」
 呼びかけてみたが,聞こえていないのか反応がない。もう一度呼びかけてみようとして,上空を見つめる羽音の姿に出かかった言葉を飲み込んだ。
 その姿には見覚えがあった。初めて出会った時。あの時も羽音はあんな風に空を見上げて――。

 秋の夕暮れには不似合いな,雪が舞い始めた。

 しばし呆然とする。その現象が不思議だったからではなく,その光景があまりにも綺麗だったから。降る雪の中で笑う羽音が素適すぎて。僕は目を奪われていた。多分目だけではなく,心も。
 たっぷり数分間はそうしていただろうか。ようやく僕は冷静にその状況を考えることができるようになった。
 ”不自然な季節に降る雪。居合わせるのは羽音……”
「羽音。君は一体――」
 その呟きが届いたのだろう。羽音がこちらに顔を向ける。そしてにこりと微笑みを浮かべたかと思うと,くるりと後ろを向いて走り出し――この間とは違って,立ち止まった。
「またね。リュウ♪」
 それだけ言うと,用は済んだと言わんばかりにまた走り出してしまった。

 ”またね,か”
 今日の僕は後を追うような真似はしなかった。最後の一言が,羽音も僕に会いたいと思ってくれていたように思えて。必ずまた会えると信じられたから。

 ゆっくりと公園を後にする。羽音が走り去った方とは逆方向へ進みながら僕はふと立ち止まった。
 ”そういえばあのリュウって響き……”
 羽音が「リュウ」と言うのが僕には舌足らずな感じに「リュー」と聞こえるのだった。僕はその響きで僕を呼ぶ人物をもう一人だけ知っている。
 ”咲紀,か”
 しばらく会っていない元の恋人を思い出す。顔もよく似た咲紀と羽音。
 ”けど咲紀には姉妹はいなかったはずだし”
 振り返る。羽音の姿はもう見えもしない。
「……まぁ,いっか」
 自分に言い聞かせるようにして考えるのを止めた。考えたところで何が分かるとも思えなかったし,自分が答えを求めていないことに気づいたから。

 夕暮れが薄闇へと変わっていく中,再び帰路を歩き始める。次に羽音と会う日を思い描きながら――夕飯の買い物に出てきていたことを思い出し,慌てて街へと引き返す僕がいた。 <続>

雪恋・2

2005-02-03 22:47:59 | 雑文
   1   ”2003年12月”

 年の瀬のこの時期になると,毎年のように”色々あったなぁ”なんて事を思う。
 色々に含まれること。例えば,父親が昇進して家族で祝い合ったこととか。弟の受験でどたばたしたこととか。
 いつも僕が思うのは,僕から見れば大きな,けれど世界から見ればちっぽけでしかない,そんなこと。
 友人知人は僕のことを,「どっかのおじさんみたい」なんて笑って評すけれど,僕自身が”確かにそうかもなぁ”と思っているのでそれはそれでいいだろう。
 そんな風に日常のちょっとしたことで一喜一憂したことを振り返ること。それは僕にとってはもう,当たり前とも言えることで。そうできることが素適なことだと感じている自分がいるのだから。

 ただ,今年はいつもとは違った。

 ”別れよう?”
 僕は,もう何度も繰り返されたその台詞がまた浮かんでくるのを感じて,目を閉じる。
 ほんの数日前。咲紀から聞かされたその言葉。その時は,まさか別れ話をされるなんて思ってもいなかった。
 僕はどんな受け答えをしたのだろう。……よく,覚えていない。頭が真っ白になったことまでが,はっきりとした記憶。とても大事な話をされていたはずなのに,咲紀の言葉も僕の言葉も抜け落ちてしまっている。
 そんな自分に無性に嫌気がさした。こんなことだから別れ話をされることになったのかもしれない,と思う。と同時に,だけど――とも思う。
 
 咲紀との出会いは中学に入学した時。いつの間にか親しくなって,同じ高校に進学して,気がつけばお互いがお互いを好きになって――。
 そこにはドラマや映画にあるような展開なんて全くなくて。けれど僕はそれで良かった。劇的な恋愛なんてよっぽどのことでもなければ起こらないことを知っているつもりだったし,咲紀と一緒に居られるだけで幸せだったから。
 咲紀も,同じだと思っていた。笑いあったり,ふざけあったり,時にはけんかしたりするけれど結局また笑いあったり。そんな二人の日々を幸せに感じていると思っていた。それは,僕の勝手な思いこみだったのだろうか。
 今となってはもう分からないことだ。連絡が取れるかどうかも定かではないし,もし取れたところでそんなことを訊く気にはなれないだろうから。

 ――目を開けば,一人きり。外は薄闇に包まれて,電気を消したままの部屋からは夜景が綺麗に映る。咲紀と見た時には輝いて見えたそれが,今の僕には色褪せて見えた。
 ”隣に咲紀がいないから……”
 そう訴えかけてくる感情に蓋をして,目の錯覚だと言い聞かせた。
 時刻は夕飯時。夕飯でも作ろうかと体を起こし,とりあえず電気を点けようとして――どうしようもなく無気力な自分に気づかされる。そのまま体をベッドに投げ出した。
 虚空の闇を見つめていても,頭に浮かんでくるのは咲紀のことばかり。何か別なことを考えようとするのだが,どうしてもそれしか考えられなかった。
 ”咲紀,こんなにも僕は君を想っているんだ。それなのにどうして……。咲紀――”
 精神的に疲れていたのかもしれない。いつしか僕は深い眠りに落ちていた。

 そうしてその冬は,咲紀のことばかり考えながら過ぎていった。


   2   ”2004年8月”

 咲紀と会わなくなって半年余りが過ぎた。僕がどれだけ咲紀のことを考えようとしても,いつまでもそれだけに浸るわけにはいかない。時間は容赦なく過ぎ去っていく。日々の生活に忙殺されるようにして,僕は咲紀のことから離れようとしていた。
 それは残酷なことなのかもしれない。僕は無情な人間なのかもしれない。
 僕だって,できることならば思い出と過ごしていたい。だけれどそんなことはできない。日常に生きるのなら,思い出に生きることはできないから。

 その日は猛暑だった。まだ午前中だというのに気温は30度を超え,体中汗が噴き出してくる。家で冷房の効いた部屋にでも居たいところだったが,僕は外にいた。冷蔵庫の中がほとんど空に近い状態になっていたんだから仕方がない。
 うだるような暑さに耐えながら,アスファルトの上を歩いていく。日光で熱せられているだろうアスファルトからは,煙が立ち上ってくるような気がしてくる。
 向かう先は近所のスーパー。早くほどよく冷房の効いた店内に入ってしまいたくて,少し足を速める。

 そんな時だった。僕がその姿を見つけたのは。

 肩にかかる茶色がかった髪に,雪のように白い肌。両の瞳も色素が薄いのか茶色っぽく見える。
 初めは,その少女のことを咲紀かと思った。だけれど違う。
 黒い毛糸の帽子にコートにブーツ。白いマフラーと手袋。どこからどう見ても冬服としか思えない格好をしたその少女。この暑さの中,その少女は不思議と汗一つかいていなかった。
 顔はよく似ているが咲紀ではない。僕はそう判断した。咲紀であるはずがないと思った。
 当初の目的を思い出し,足を進めようとして――その少女から目が離せなくなっている自分がいた。なぜだか分からないが,その少女を見つめ続けていた。
 
 どれくらいそうしていただろう。僕の視線に気づいたのか少女がこちらを向いた。視線と視線が交錯する。
 何か口に出そうとするのだが,上手く言葉にならない。少女も僕を見たまま何も言わない――突然その視線が上へと動く。つられるようにして僕も上を向いた。天を仰ぐような格好になる。
「……え?」
 何が起きているのか,よく分からなかった。見上げた空から降り注ぐ白い小さな物体。ゆっくりと落ちてくるそれが,僕の頬に触れた。一瞬遅れてひんやりとする。
 ”もしかして……雪?”
 明らかに雨ではないし,雹でもない。この季節にまさか,と思ったがそれ以外考えられなかった。
 ”けど,どうして――?”
 僕の視線が再び少女へと注がれる。この少女なら疑問の答えを知っているという,確信めいた思いがあった。
「……はおん」
 透明感のある澄んだ声がした。綺麗な,声だった。
「私,羽音」
 僕を見て少女は一言。急なことで,どう返したらいいか分からない。戸惑いを隠せずにいる僕を,しかし少女は気にする風もなかった。にこりと微笑みを浮かべたかと思うと,くるりと後ろを向いて走り出してしまった。
「あ,おい」
 慌てて追いかけるが,少女の足は予想外に速くなかなか距離は詰まらない。少し行くとT字路になっていて少女はそこを左へと曲がっていった。僕も数秒と間を空けずにそれに続く。が,しかし。
「あれ,いない」
 曲がった先に少女の姿はなかった。

 ”羽音……か”
 全力で走ったせいで上がった息を整えながら,羽音と名乗った少女のことを考える。何もかもが不思議で忘れられるとも思えない出来事だったが,最後の笑顔が特に強く印象に残っていた。
「また会えるかな」
 口に出して初めて,自分がまた羽音に会いたいのだと気づいた。理由はよく分からない。単なる好奇心なのかもしれないし,そうでないかもしれない。
 また会えるかどうかなんてことが今の僕に分かるはずもない。ただ,確信めいた予感があった。

 そして僕は,それが気のせいではなかったことを知ることになる。


 夏のある暑い日。僕と羽音はこうして出会った。 <続>

雪恋

2005-02-03 22:43:00 | 雑文
   0・A   ”2005年7月”

 彼女が僕の元を去ってから,半年余りが過ぎ去ろうとしていた。
 気がつけば冬は終わりを告げていて。年も明けて,だらだらと過ごしているうちに季節は夏になっていた。
 思えば彼女と出会ったのも夏だったように記憶している。普段は曖昧な僕の記憶だけれど,はっきりとそれは覚えていた。
 それほどに,あの出会いは印象的だった。本当はそんなありふれた言葉にしてしまいたくはないほどに,僕の中ではあの出会いは綺麗な思い出として残っている。
 彼女は,今,どこで,何をしているのだろう。
 僕はこうして夏の暑い空気に包まれながら,窓辺で空を――抜けるように青い空を見上げている。あの日の記憶を確かめるように。
 彼女は僕のことを覚えているだろうか。
 僕は半年が過ぎた今でも,忘れられないでいる。こんなにも彼女を想っている……。

 気がつけば,午睡の中に落ちていた。熱気のせいか体からは汗が噴き出し始める。
 そんなごくごく普通の夏の午後。突然,夏とは思えない――まるで冬から抜け出してきたかのような,一陣の冷たい風が吹いた。
 それに気づいて僕は慌てて目を覚ます。
 夏にこんな風が吹くはずはない。だけれど僕は,この風を知っている。そう,それは既視感(デジャビュ)。
 彼女と過ごしていたときは,いつもこんな風が吹いていた気がする。
 僕はそれを認識して,そして――。 <続>

【BF2】羽音祭・パート2:執筆中

2005-02-02 02:57:12 | 雑記
 こんばんは,現在カタカタ執筆中のミントです。ちなみに”カタカタ”は,タイピングの音と寒さによる震えの両方だとか違うとか。

 それはさておき。執筆内容というのがタイトルにあるとおり,現在KenさんのBlog「BLOG STATION」で作品募集中の羽音祭・パート2なわけなのですが。期日が迫っているので出来る限りのハイペースで頑張ってます。
 ちなみに〆切は明日一杯。参加予定の皆さんが果たしてどれくらいいて,終わる見通しはたっているのかどうか非常に気になります。
 私の方はと言いますと――現在中盤辺りというところ(?) 昨日の日中辺りから本格的に書き始めたので,順調にいけば終わりそうです。
 分量的には(想定通りに進めば)原稿用紙換算で20~30枚程度になるのかなぁ,なんて感じです。

 と,適当に書いてみました。他の皆さんの状況が気になって,ふと書いてみただけなので大したことは書いてないですね(苦笑)
 これからまた少し書いてから寝る予定――だけれどそのまま徹夜になりそうな予感もあって。進み具合如何なのかもしれません。

 ではではこの辺で。また次回。