何となく奈伽塚ミント・純情派

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少々夏バテ気味だったし
定期更新に切り替えかも?

そんなこんなで奈伽塚ミント

とある雑談から生まれた企画(4)

2004-06-18 10:58:13 | 『テーマ小説』
 <今>
「――もともと考え方が違ってたんだわ,きっと。今までこういうことがなかった方が偶然だったのね」

 麗奈の声が耳に届き,思考から現実へと引き戻された。ずいぶん長く思考していたようだが,実際には会話と会話の間。その一瞬にすぎなかったのだろう。
 麗奈は僕の返事を待っているように見えた。半ば冷めてしまっているだろう紅茶に口をつけながら,こちらの様子をうかがっている。

「――そう……だな」
 どれくらい時が流れたのだろうか? 一瞬だったのか,それとも永遠だったのか? とにかく僕が口にしたのは,そんな一言だった。

 ――それは気のせいだったろうか? 僕には麗奈が,その言葉でひどく傷ついたように見えた。

「そうよ。だからこれは出会った時から決まっていた運命。仕方のない結論よ。……別れましょう」
 一瞬の後。麗奈は笑ってそう言った。
 半ば予測していたものだったからだろうか? 僕は妙に落ち着いていられて。

 だから,それに気づいてしまった。麗奈の笑顔がどこか悲しさを秘めていることに。――そう。それはまるで,涙をこらえて無理に笑っているようだった……。

「――ううん,違うわ。別に私たち付き合っていたわけじゃないものね。別れるもなにも,もともとただの同級生。……そう。ただ少し他よりも親しかった。ただそれだけ」

 麗奈の言葉には自嘲の色が含まれているようだった。

「大分時間喰っちゃったわね」
 窓の外はいつの間にか,漆黒の闇に包まれていた。
「買ったものは全部持って帰っていいわ。恭一が全部払ったんだし。代わりにここのお金は私が払っておくから」
 そう言うと麗奈はおもむろに席を立った。
「帰るのか? 家まで送るよ」
「別にいいわ。歩いて帰れるから」
「そう……か」
 それきり顔を背けると,会計へと向かっていく。
 ――と,何か思い出したかのように立ち止まると決して振り返ることはなく一言。
「……また来年,キャンパスで会いましょう」
「あぁ」
 僕はその後ろ姿に気の利いた言葉をかけることさえできなかった。

 それきり麗奈は何も言わなかった。そのまま会計を済まし,この場から去っていった。
 僕はただ,その姿を見つめるだけだった。
「――ありがとうございました」
 店員のいやに明るい声が響く。

 そんな中,扉から出る最後の瞬間。微かに見えた麗奈の横顔は,なんだか泣いているようだった……。――(続く)
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