僕たちはどこで間違ってしまったのだろう? 麗奈の去った店内で一人。そんなことを考えていた。
選択肢はきっと無数にあって,その中の一つの道を僕らは進んできた。もし他の道を進んでいたら――。そうしていたらきっと今頃は――。
そこでふと,テーブルの向かい側を見やる。
――当然のように無人のその席。つい先程までは麗奈がいたその席。今では誰もいないその空間を眺めていると,何故だか寂しさを覚えた。その寂しさという想いは,僕の胸の奥底。僕という一人の人間の根底を強烈に,猛烈に,痛烈に揺さぶった。僕の中で一番大切な,欠けることの許されないネジが外れかかっているようだった。
「あぁ,そうか」
その瞬間に。その瞬間になってようやく。僕は外れ落ちそうなネジに気づいた。今,自分が失いかけているものの大切さを知った。
――そう。いつの間にか僕は,麗奈をこんなにも必要としていたんだ。
どうすればいい? なんてこと,考えるまでもなく分かっていた。
麗奈が店を出てからどれくらい経ったのだろう? 急がないと今度こそ手遅れになる。
一本のネジが抜け落ちてしまったなら,拾い上げてはめ直してやればいい。たとえすぐに見つからなくて,拾い上げられなくても。その時にはゆっくり時間をかけて探せばいい。
――だけどこればかりはそうはいかない。失くしたら二度と見つけられない。一度抜け落ちてしまったら,はめ直すこともできずに全てが崩壊してしまう。
言葉ってものはあまりにも脆く,儚く,曖昧で。突然天空より現れては天空の彼方に消えていく。消えた後には当然影も形もなく,その存在そのものがあやふやで。
だけど今。僕は麗奈にその言葉で伝えたい。伝えなくちゃいけない。そのあやふやな存在に『想い』という形を乗せて。
僕は街に飛び出した。麗奈のもとへと駆け出した――。――(続く)(6)へ
選択肢はきっと無数にあって,その中の一つの道を僕らは進んできた。もし他の道を進んでいたら――。そうしていたらきっと今頃は――。
そこでふと,テーブルの向かい側を見やる。
――当然のように無人のその席。つい先程までは麗奈がいたその席。今では誰もいないその空間を眺めていると,何故だか寂しさを覚えた。その寂しさという想いは,僕の胸の奥底。僕という一人の人間の根底を強烈に,猛烈に,痛烈に揺さぶった。僕の中で一番大切な,欠けることの許されないネジが外れかかっているようだった。
「あぁ,そうか」
その瞬間に。その瞬間になってようやく。僕は外れ落ちそうなネジに気づいた。今,自分が失いかけているものの大切さを知った。
――そう。いつの間にか僕は,麗奈をこんなにも必要としていたんだ。
どうすればいい? なんてこと,考えるまでもなく分かっていた。
麗奈が店を出てからどれくらい経ったのだろう? 急がないと今度こそ手遅れになる。
一本のネジが抜け落ちてしまったなら,拾い上げてはめ直してやればいい。たとえすぐに見つからなくて,拾い上げられなくても。その時にはゆっくり時間をかけて探せばいい。
――だけどこればかりはそうはいかない。失くしたら二度と見つけられない。一度抜け落ちてしまったら,はめ直すこともできずに全てが崩壊してしまう。
言葉ってものはあまりにも脆く,儚く,曖昧で。突然天空より現れては天空の彼方に消えていく。消えた後には当然影も形もなく,その存在そのものがあやふやで。
だけど今。僕は麗奈にその言葉で伝えたい。伝えなくちゃいけない。そのあやふやな存在に『想い』という形を乗せて。
僕は街に飛び出した。麗奈のもとへと駆け出した――。――(続く)(6)へ