気がつけば私は歩みを止めていた。まるでそうしていれば恭一がやってくるんだと言わんばかりに。
――どれくらいそうしていただろうか? あまりにも短かったようで,それでいてとてつもなく長かったようで。
立ち止まっていたせいか,体が冷えきってしまっていた。
「……来るはず,ないよね」
その呟きは私の耳にしか聞こえないほどに小さかった。
いい加減に諦めよう。もう過ぎてしまったことなんだ。そう言い聞かせて,私は再び歩き出した。
――その瞬間,待ち望んでいた声が耳に届いた気がした。半信半疑のままに,私は振り返っていた。
そこには,いつもと変わらぬ,笑顔の恭一が,いた。
恭一は肩で息をしていた。走ってきたのだろうか? 熱を持った全身から,白く立ち上るものが見える。
――どうして恭一がここにいるんだろう? 今頃車で家路についているはずなのに。これは,夢? 幻?
本当は嬉しくてたまらないはずなのに,私はまだこれが現実なのだと信じられずにいた。
頭の整理もつかぬまま,それでも何か口に出そうとした。けれど恭一が先に叫んでいた。荒い息はそのままに,力の限り叫んでいた。
その言葉は冬の空気を震わせて,私の心に染み入った。恭一の。恭一の想いと共に。
私がその想いをしっかりと受け止めきる間はなかった。冷えきった体が温まるような感覚に気づいたときには,私の体は恭一の腕の中にあった――。――(続く)
(8)へ
――どれくらいそうしていただろうか? あまりにも短かったようで,それでいてとてつもなく長かったようで。
立ち止まっていたせいか,体が冷えきってしまっていた。
「……来るはず,ないよね」
その呟きは私の耳にしか聞こえないほどに小さかった。
いい加減に諦めよう。もう過ぎてしまったことなんだ。そう言い聞かせて,私は再び歩き出した。
――その瞬間,待ち望んでいた声が耳に届いた気がした。半信半疑のままに,私は振り返っていた。
そこには,いつもと変わらぬ,笑顔の恭一が,いた。
恭一は肩で息をしていた。走ってきたのだろうか? 熱を持った全身から,白く立ち上るものが見える。
――どうして恭一がここにいるんだろう? 今頃車で家路についているはずなのに。これは,夢? 幻?
本当は嬉しくてたまらないはずなのに,私はまだこれが現実なのだと信じられずにいた。
頭の整理もつかぬまま,それでも何か口に出そうとした。けれど恭一が先に叫んでいた。荒い息はそのままに,力の限り叫んでいた。
その言葉は冬の空気を震わせて,私の心に染み入った。恭一の。恭一の想いと共に。
私がその想いをしっかりと受け止めきる間はなかった。冷えきった体が温まるような感覚に気づいたときには,私の体は恭一の腕の中にあった――。――(続く)
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