何となく奈伽塚ミント・純情派

不覚にも連続更新ストップ。
少々夏バテ気味だったし
定期更新に切り替えかも?

そんなこんなで奈伽塚ミント

とある雑談から生まれた企画(8)

2004-07-02 21:47:28 | 『テーマ小説』
「――麗奈!」
 僕はその後ろ姿に呼びかけた。
 振り返った麗奈の顔は涙に濡れていた。驚いたような,何が起きているのか理解できていないような。そんな表情が,僕の瞳に映った。

「――好きだっ!」

 荒れる呼吸を整えることも忘れて,僕は力の限りにその言葉を口にした。
 あまりにも単純で簡潔な言葉。だけどそれこそが僕の伝えたかった想いで。僕が麗奈に伝えなくちゃいけなかった想いで。だからただ素直にそれを言葉に乗せた。みせかけの飾りなんて必要なかった。

 そのときの僕は,自分が少しばかり高揚していると思っていた。けれどそういった考えができていたということは,冷静だったんだろう。高ぶった気持ちからくるものではないもの。それを感じながら,僕は麗奈を抱きしめていた――。

 寒空の下を歩いていたせいだろうか? 抱きしめた体はとても冷たくて――。
 けれど僕はそのこと以上に驚くべき事実に気づいた。どうして今まで気づかなかったのだろう?

 麗奈は僕が思っていた以上に小さくて――。

 何だか離してしまったらどこかに消えてしまうような錯覚におそわれて,僕はより強く麗奈を抱きしめた。
「……恭一? 痛いよ」
 麗奈がそう言うのにもかまわず,強く強く抱きしめた。もう一人にはしない――決して麗奈を一人にはしない。その思いを心に強く刻みこんだ。

「――麗奈」
 僕はそっと麗奈に語りかける。
「誰よりも君が好きだ。ようやくそれに気づいたんだ」
 先ほどの告白とは違い,今度は優しく静かに。
 その言葉に答えはなく。ただ,コクリと。小さく頷きが返ってきた。
 それで十分だった。それ以上何も必要なかった。――(続く)(9)へ