ひとり井戸端会議

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雇用制度の構造を改革せよ

2009年03月08日 | 社会保障関係
定額給付金から漏れるネットカフェ難民…住民登録拒否へ(読売新聞)

 ネットカフェ業者らで作る日本複合カフェ協会(東京都千代田区)が、「ネットカフェ難民」への定額給付金支給に必要となる店舗での住民登録を受け入れない方針であることが分かった。
 自治体側も大半が住民登録を認めることに消極的で、全国約5400人(2007年、厚生労働省調査)とされる「ネットカフェ難民」の多くに給付金が行き渡らない可能性が高くなっている。
 同協会には233業者の1367店が加盟、総務省の昨年調査では全国店舗の6割以上に相当。定額給付金について2月下旬、理事会が「居住環境を提供しているわけではない」などとして、9業者の理事全員一致で、店での住民登録は認めない方針を決めた。業態として宿泊施設でないのに、自ら認めることにもなりかねないため、配慮したとみられる。近く、決定を加盟業者に伝える。
 国は「ネットカフェ」などでの住民登録に一定の理解を示し、川崎市や新宿区のようにケース・バイ・ケースで対応することにしている自治体もある。しかし、店側が協力しない限り、住民登録は困難とみられる。
 協会非加盟の店舗でも、住民登録受け入れの動きは今のところ広がっていない。大阪、千葉市など店舗を多く抱える自治体の大半も、今回住民登録を認めれば、国民健康保険料など他の事務にも影響するとして認めない方針だ。
 ネットカフェ難民やホームレスらへの定額給付金支給を求める「生活保護問題対策全国会議」事務局長の小久保哲郎弁護士は「彼らには住民登録できない事情がある。相談窓口を設置し、氏名や生年月日などの申請で支給できるようにすべきだ」としている。



 まず結論から言って、ネットカフェに住民登録をすることは、ネットカフェ側が認めない限り、不可能である。以前、公園内にテントを設置して生活していたホームレスが、公園を所在地として住所の登録を申請した事件において最高裁が、「社会通念上、テントの所在地が客観的に生活の本拠としての実体を具備しているものと見ることはできない。」と判示し、原告側の主張を退けたことからして、たとえ「ネットカフェ難民」がネットカフェ側を訴えたとしても、勝てる見込みは皆無だろう。

 以前から述べてきたように、定額給付金はただのばら撒き政策であり経済立て直しに貢献しないが、真に(たとえ12000円といえども)定額給付金を欲しているこういう人たちに行き渡らないのであれば、もはやそれはばら撒きの名にも値しない愚策ということになる。

 あれだけすったもんだを繰り返した定額給付金である。こうした事態は当初から予見できていたのではないか。そもそも官僚や政治家たちは、今本当に貧困の底にいる人たちに、住所があるとでも思っていたのだろうか。こうした状況を見ると、国民の関心を大いに集めておきながら制度的不備があるにもかかわらず、国民からの批判を恐れて見切り発車した感が否めない。



 「ネットカフェ難民」という言葉は共産党がネーミングしたものであり、言葉的にも正確な実情を反映しなくなる恐れがあるので使用を控えたいが、いくら定額給付金を支給したところで、こうした人たちが出てくる雇用制度自体を改革しなければ、また同じことを近い将来に繰り返すことになるだろう。

 ここで言う雇用制度とは、具体的には企業が正規社員を解雇することに対する規制が強すぎるという点である(正社員解雇の要件はこちらが詳しい)。労働契約法第16条は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定め、これは解雇権濫用の法理と呼ばれている。

 判例上、現在企業が行っている整理解雇について、人員削減の必要性、解雇回避努力を尽くしたかどうか、解雇対象者の人選基準とその適用の合理性、労働者側との協議などの手続の妥当性を要件としている。解雇回避努力とは具体的には、たとえば企業側が、配置転換・出向・希望退職の募集などといった他の手段を講じたかということである。



 しかしながら思うに、こうした正社員解雇のための諸要件は厳格過ぎるのではないか。このような厳格な(そして煩雑な)解雇のための要件は、企業の積極的な人材獲得のための行動を委縮させ、そのことによって正社員採用枠が減少し、枠からあぶれた人たちが出てくるという、まさに今のような状況を生みだしてりるのではないか。だから企業は、非正規労働者を増やすことによって、跳ね上がる賃金の増加を抑制してきたと考えるのが自然ではないか。

 「ネットカフェ難民」の年齢構成をみると、20~30歳代が41.5%、40~50歳代が45.5%となっていることからして全ての「ネットカフェ難民」について言えることではないが、半数の「ネットカフェ難民」は1990年代から2000年代初め頃に就職期を迎えた世代であって、この層がまさに先述した正社員解雇の厳格な要件の被害者になっているのではないか。

 つまり、厳しい正社員の解雇要件があるために、企業としては正社員よりも派遣労働者をはじめとした非正規労働者のクビのほうが切り易いため、このような状況が発生し、正社員と非正規労働者との賃金格差を拡大させているのである。定職に就けず、いつまでもフリーターのままでは技術の蓄積も乏しいことは明白だ。これでは日本の経済力は間違いなく低下する。

 厳格な解雇要件は一見すると不況の強い味方のように思われるが、実はこれこそが不況を悪化させている原因なのではないだろうか。すなわち、労働力が流動的に動くことを阻害し、一回正規雇用者の枠からはみ出してしまうと、その立場が固定し、また這い上がることを難しくしている。だからいつまで経っても賃金格差は解消されず、『蟹工船』が流行ることにもなる。



 今政府が行うべきことは、定額給付金の支給ではなく、こうした雇用制度にメスを入れることではないのか。

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