ひとり井戸端会議

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消費者団体訴訟について

2008年11月12日 | 民事法関係
 今回は、改正消費者契約法が施行され、新たに盛り込まれた消費者団体訴訟制度についてその概要を述べていきたいと思う。以下、導入までの経緯、団体訴訟制度の意義、消費者団体の行使できる請求権、差止請求権、補足説明の順に述べていく。


・導入までの経緯

 事業者と消費者との消費者契約に関するルールを規定した「消費者契約法」は、平成13年4月に施行された。しかしながら、当初は消費者団体による訴訟制度については規定されていなかった。その一方で消費者契約法を審議した衆議院商工委員会では、「紛争の究極的な解決手段である裁判制度を消費者としての国民に利用しやすいものとするという観点から、司法制度改革に係る検討に積極的に参画するとともに、その検討を踏まえ、本法の施行状況もみながら差し止め請求、団体訴権の検討を行うこと」との附帯決議がなされた。そこで、平成16年4月、国民生活審議会消費者政策部会に消費者団体訴訟検討委員会が設置され、団体訴権導入に向けての審議が開始され、平成18年6月7日に消費者団体訴訟制度を盛り込んだ改正消費者契約法が公布され、平成19年6月7日より施行されることになった(団体訴訟制度については、消費者契約法第3章「差止請求」以下、12条から規定)。

 現在、同法に定める適格消費者団体の認定(13条以下)を受けた団体は、消費者機構日本(NPO法人、東京)、消費者支援機構関西(NPO法人、大阪)、全国消費生活相談委員協会(社団法人、東京)、京都消費者契約ネットワーク(NPO法人、京都)、消費者ネット広島(NPO法人、広島)、ひょうご消費者ネット(NPO法人、兵庫)の計6つである。



・団体訴訟制度の意義

 消費者契約法においては、消費者の契約の取消し(4条)や事業者の損害賠償責任を免除する条項の無効(8条)等について定め、消費者を不当な契約から解放し易いようにし、被害救済に一定の役割を果たしているが、消費者契約においては同一の事業者が繰り返し同種の行為を行い、また、同種の不当な内容を含む約款を使い続けるのが普通である。ということは、消費者個々人の救済に関する規定のみでは消費者被害の発生を防止するには不十分である。そこで、一定の要件を満たした適格消費者団体に一定の権限(差止請求権)を付与し、もって消費者被害の発生の未然防止に貢献するため、消費者団体訴訟制度は存在するとされる。



・消費者団体の行使できる請求権

まず適格消費者団体認定のためには、消費者契約法13条3項1~5号において列挙されている要件を満たさなければならない。

①一般社団法人または一般財団法人である(13条3項1号)※1

②不特定かつ多数の消費者の利益の擁護を図るための活動を行うことを主たる目的として現にその活動を相当期間継続して適正に行っていること(13条3項2号)※2

③差止請求関連業務の遂行のための体制及び業務規定が適切に整備されていること(13条3項3号)※3

④理事会が適切に設置・運営されていること(13条3項4号)※4

⑤差止請求の要否及び内容を検討する部門において、消費生活相談の専門家や法律の専門家が「専門委員」として助言できる体制にあること(13条3項5号)※5

⑥差止請求関連業務遂行のための経理的基礎を有すること(13条3項6号)

⑦差止請求間連業務以外の業務を行う場合には、それらの業務を行うことによって差止請求関係業務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれのないこと(13条3項7号)

 これら要件を満たした消費者団体は、内閣総理大臣から適格消費者団体としての認定を受け(13条1項)、適格消費者団体として差止請求を行うことができる。

 内閣総理大臣から認定を受けた適格消費者団体の行使できる請求権は、一定の行為についての差止請求権である。ここでいう「一定の行為」とは、契約消費者法4条1~3項に定める勧誘行為(12条1項)、同法8~10条に定める契約条項を含む契約の申込・承諾(12条3項)のことである。適格消費者団体の行使できる差止請求権の中身は、ある行為の停止だけでなく、そのような行為の予防、行為に使用した物(パンフレットや契約書面等)の廃棄や除去その他予防のため必要な措置(契約条項の改訂等)を含むものとされる。事業者によって不当な行為実際になされた場合のみでなく、不当な行為がなされるおそれが現に存在する場合にも、差止請求権を行使することができる。ただし、差止の対象となる行為は、不特定かつ多数の消費者に対して行われているか、もしくは行われるおそれのあるものでなければならない。したがって、消費者団体訴訟制度は、個別の消費者被害を救済する制度ではない。



・差止請求訴訟について

 適格消費者団体の行使できる差止請求権は、裁判上以外、つまり裁判外でも行使できる。その場合、適格消費者団体は、口頭もしくは書面によって、事業者やその関係者の行っている不当な行為を指摘して、そのような行為の停止または是正を求めたりすることになる。

 適格消費者団体が差止請求を行使する場合には、被告となる事業者に対し訴えを提起する前に書面により差止請求を行い、書面の到達から1週間が経過している必要がある(41条1項)。書面による事前の請求を怠った場合、訴えは却下される。差止請求の管轄裁判所は、地方裁判所であり、土地管轄は被告の普通裁判籍所在地により決定される(民事訴訟法4条1項)。なお、差止の対象となる事業者の行為のあった地を管轄する裁判所にも、差止請求の訴えを提起することができる(消費者契約法43条2項)。訴額に関しては、差止請求は財産権上の請求ではないため(同法42条)、訴額は160万円となる(民事訴訟費用等に関する法律4条2項)。

 ある適格消費者団体がある事業者を相手取り差止請求を提起し、確定判決が出た場合、原則として、他の適格消費者団体は、同一事業者を相手取り同一内容の差止請求を行うことはできない(諸費者契約法12条5項2号)。ただし、確定判決の内容が、訴えを却下するものである場合と、行使された差止請求が、原告となった適格消費者団体あるいは第三者の不正な利益を図る目的、もしくは当該事業者に損害を及ぼす目的の下で行使されたため訴えが棄却されたのであれば、他の適格消費者団体が同一事業者に対し差止請求を行使することは妨げられない(12条5項2号イ・ロ)。

 差止を命じる判決が確定したにもかかわらず、相手方事業者が判決に従わず差止められた行為を行っている場合には、勝訴判決を得た適格消費者団体は、強制執行の手続をとることができる。差止を命じる判決の執行方法については、間接強制 (※6)の方法による(民事執行法172条)。執行手続を担当する執行裁判所は、差止請求事件を審理した第一審裁判所(地方裁判所)になる(同法172条6項等)。



・補足説明

※1内閣府国民生活局が平成19年6月7日に試行した「適格消費者団体の認定、監督等に関するガイドライン」によれば、法人の社員数は100人以上存在していることを認定の一つの基準にするとある。

※2上記ガイドラインは、「相当期間」とは、原則として2年以上としている。

※3業務規定には、差止請求関係業務の実施方法、情報管理・秘密保持の方法等が定められていなければならない。

※4理事会の構成について、特定の事業者の関係者が理事会の3分の1を超えていたり、同一の業種の事業を行う事業者の関係者が2分の1を超えている場合、公正性を欠くとして、適格消費者団体に認定されない。

※5消費生活相談の専門家としては、消費生活専門相談員、消費生活アドバイザー、消費生活コンサルタントの資格を有していること、法律の専門家としては、弁護士、司法書士、民事法学の教授・准教授等が認められる。

※6間接強制とは、裁判所が被告たる事業者に対し、違反行為を停止しない限り、一定の金銭の支払いを命じることにより、判決に従うことを心理的に強制する強制執行方法である。

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