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インドで作家業

ベンガル湾と犀川をこよなく愛するプリー⇔金沢往還作家、李耶シャンカール(モハンティ三智江)の公式ブログ

中上健次の娘の書いた小説

2013-08-06 22:24:22 | 著書関連ニュース
エッセイ賞作品の掲載されたアジア文化社発行の「文芸思潮」誌夏季号が先般手元に届いたが、巻頭小説は中上紀の「あたらしい花嫁」という作品だった。

文末の経歴で、彼女がかの高名な故中上健次の息女であることを知って、期待して読み始めたが、見事に裏切られた。
実は、中上健次の娘が作家として出ているとは知らなかったので、改めて、ネットで当たってみると、28歳ごろにデビューして、作家歴14年ほどとわかった。
ミャンマーに関する旅エッセイがデビュー作だが、小説はすばるの新人賞を獲った「彼女のブレンカ」。

アジア派で、夫は察するに、マレーシア人、でなかったら、インドネシア。
「あたらしい花嫁」でも、そのアジア人の夫が登場するが、時差三時間、一夫多妻国とあるだけで、どこの国かは記されていない。

ネットで当たっても、出てこない。

で、想像するに、マレーシア説が強力浮上。
しかし、作者がモデルと思われる二児の子持ちである主人公は、夫の国に暮らしているわけでない。
夫は日本で勤務しているのだ。
夫の祖国に出向くのは、彼の里帰りに伴ってである。
そのアジアの一国での婚家との交流、異質の生活習慣を、感性的につづったものだが、どうも生ぬるい内容だ。

ほかの作品を読んでみないと、なんともいえないが、ネットの下馬評によると、中上の娘にしては才能がないとのこき下ろしも。

若い頃書いた作品の筋書きや、帯の文句を読むと、感性は悪くない作家のように思えるので、これ一作だけで決め付けずに、また日本に帰ったら、ほかの作品を紐解いてみようと思う。

ちなみに、中上健次の奥さんも怪奇小説家だった。
血は争えない、蛙の子はやはり蛙である。
被差別出身の路地の文学を書いた中上は、ある一時期から路地を捨て、海外(主にアジア)への放浪に向かう。
娘の紀も、フィリピンなどに同行したという。
その辺から、アジア派女流が誕生したようだ。

しかし、これまで、そうした事情に疎かった私は、へえというようなもので、うなってしまった。
願わくば、次作に期待したい。

二世作家は結構多いが、三島由紀夫の子息はさすがに、作家として出るというおろかな過ちは犯していない。父が天才三島じゃ、荷が勝ちすぎる。常に比べられて、こき下ろされるのがいいとこ、そういう意味では、中上紀も、常に重たいものがかぶさって、気の毒である。あまり偉すぎる人を父に持つと、子は大変だ。損な役回りを引き受けさせられる。
中上健次の娘という目で常に見られ、先入観を持たれ、正当に作品を評価してもらえない。
しかし、そういう事実を抜きにしても、「あたらしい花嫁」はだめである。

むしろ、同人雑誌まほろば賞の候補作品に、ぴかりと光る才能を見た。
朝日カルチャーセンター主宰の小説作法講座の同人誌「私人」の掲載作品、「のぞみ」が秀逸。
読者投票もあるので、一押ししたいが、ほかの候補作も読んでみてから、決めたい。
巻頭に持ってきてもおかしくない、才気あふれる作品である。

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