インドで今人気を二分するヨガのグルといったら、知る人ぞ知る、北で
は「
ディヴヤヨガ」の開祖・ラムデヴ・ジー(ジーは敬称)と、南の「
アート・オブ・リビング」のラビ・シャンカール導師である。
私が旅行者だった二十数年前はインドの聖者といったら、ラジニーシと
クリシュナムルティが有名だったが、すでに両グルとも他界され、超能
力聖者・サイババは最近セクハラ疑惑が持ち上がり、その人気度にいさ
さか翳りが見え始めている。
アート・オブ・リビングは昨年25周年記念の盛大な催しがアシュラム在
のバンガロールで行われたが、ディヴヤヨガはまだ10年かそこらの、比
較的新しい流派。
TVのスピリチュアル専門のチャンネルで、ラムデヴ師主宰のヨガキャ
ンプの模様が流されるや、あっというまにお茶の間の成人病患者のアイ
ドルになってしまった。同師の授けるヨガの体位(アサナ)は超簡単
で、子供・中高年者はいうまでもなく、病人にですら行えるという利点
が大受け、週2-3度の割合でインド各地でヨガキャンプ開催、会場はい
つも何千人という人が駆けつけ大盛況、近頃は国外の米英、アフリカの
奥地にまで足を伸ばしているほど。参加者は中高年者層が主で、子供づ
れの家族も多い。外国の場合は、もっぱら印僑向け。
かくいう私自身も、年初に州都・ブバネシュワールで催されたヨガキャ
ンプに物見遊山半分で、参加した。
ほんと、ヨガ界のアイドルという感じで、とても40越えているとは思え
ない頑健な体にサフランオレンジの腰布をまとったのみ、ポニーテール
に黒々と長いあごひげの師はTVでおなじみの気さくで飾り気のない人
柄、レッスン自体も後ろの人にも見えるよう同時録画の大スクリーンが
前面に数個設置されているため(写真)、メソッドも細かいところまで
よくわかり、この手の大集会にしては、インドにありがちな混乱もな
く、非常によくオーガナイズされていた。
最終日のレッスンが終わった後は、受講者がどっとステージに詰めか
け、野次や歓声を飛ばしたり、携帯やデジカメでパチリ、はては万歳合
唱まで飛び出し、いやはや大変なもてはやされぶりであった。ミーハー
の私はヨガそっちのけで舞台の袖にかじりついて写真を取りまくり、
フィーバーぶりを楽しんだ。
私とディヴヤヨガとのそもそもの縁は実は、わがインド人夫が取り持っ
たいきさつがあった。ヨガに以前から興味を持っていた私は、夫にイン
ストラクターを探してくれるよう頼んでいたのだが、見つからなかった
ようで代わりにディヴヤヨガのCDを借りてきてくれたのだった。これは
師自らが授けるアサナと呼吸法の2枚から成る初心者向けレッスンで、
英語の解説ゆえ、私には願ってもなかった(キャンプはヒンディ語で授
けられる)。
一方の古株、アート・オブ・リビングだが、こちらも定期的に全土で
コースを開催しており、私自身は2004年1月当地の5スターホテルの一室
で行われたベイシックコースに参加したことがあった(6日間計30時間
ほどの内容で600ルピー)。グル自らが指導するわけではなく、師養成
コースで先生の資格をとった人たちが教えるのである。当地の場合は、
地元の年配女性だった。主に呼吸法中心のビギナークラスで、スピリ
チュアルな講義もあり、中身の詰まった充実した内容で、終わるころに
は受講者間に連帯感が生まれ、このままもっと続けたいような名残惜し
い気分にさせられた。最後に、みんなが持ち寄った手作りインド食での
心温まるランチ会や各種ゲーム、プレゼントごっこも楽しかった。
グルが編み出したといわれるスダルシャン・クリヤ呼吸法は一年続ける
と効果がめきめき現れると諭されたが、残念ながら体調悪化で八ヶ月で
中断、が、実施中は体が軽くなったり、エネルギーが充実するような効
果も折々感じた。アドバンス(進級)・コースもそのうちと思いつつ、
ヨガを本格的に習い出したこともあって、いまだに機会を得ず、現在に
至っている。
日本のインド大使館でも、同コースを授けていると聞くので、興味のあ
る方は参加してみることをお薦めしたい。もっとも、日本の場合はさす
がに1500円というわけにはいかず、ン万円の受講料は覚悟しなければな
らないだろうが、師養成コースで資格を取得した日本女性が教えている
というので、言葉の面でも問題なかろう。
息子の大学のあるバンガロールに立ち寄ったとき、遠郊にあるアート・
オブ・リビングのアシュラムものぞいてみたが、さすがに今をときめく
協会だけあって、広大な敷地で、5階建ての壮麗な円錐形神殿では、ちょ
うどベイシックコースが催されていた。360度パノラマが望めるトップ
の円形ベランダから地上を俯瞰すると、スケールのでかさがわかり、森
あり湖ありで、一体どこからどこまでが敷地なのかと、目を見張らされ
た。訪問者には無料でランチが供され、私たち親子も豆とほうれんそう
のシンプルな菜食カレーを堪能した後、ピクニックに来たような気分で
アシュラム巡りを楽しんだ。
後日、当地を訪問されたラビ・シャンカール師を間近で拝見するチャン
スに恵まれたが、女性のように長い髪とあごひげ、繊細な面立ちの痩身
グルを熱狂的に取り囲む信者の壁は厚く、ちらりと一瞥したのみで終
わった。いつもにこにこと穏やかな風貌で知られる師、余談だが、著
名なシタール奏者のラビ・シャンカールとはまったくの別人なので、
間違わないように!
ハリドワールにあるラムデヴ・ジーのアシュラムにはまだ行ったことは
ないが、やはり壮大と聞くので、機会があれば、ぜひ訪問したいものだ
と考えている。
ちなみに南北二大グルは大の仲良しで、若い方のラムデヴ・ジーが己の
ヨガ大学就任式にゲストとして、先輩ラビ・シャンカール師を招待、シャ
ンカール師が茶目っ気たっぷりの若輩に熱く抱擁されての大歓迎を受け、
目を丸くするという一コマもあった。