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インドで作家業

ベンガル湾と犀川をこよなく愛するプリー⇔金沢往還作家、李耶シャンカール(モハンティ三智江)の公式ブログ

高額紙幣廃止(Note Ban)から五十日

2016-12-30 15:07:08 | 政治・社会・経済
インドに戻ってはや三週間以上が過ぎた。
昨年は金沢で独りきりの年越しだったが、今年は家族とお正月を迎えられることに感謝。
11月8日のディマネタイゼイション(廃貨、500・1000ルピー高額紙幣の流通廃止)から五十日が経過して、ひところのパニック状態からやや落ち着いてはいるが、いまだキャッシュ不足でATMに並んだり、低所得層(農夫や労働者階級)はあおりを食らって、五十日後に平常に戻るとの首相の確約はどこまで果たされたかとの検証が、テレビのニュースや新聞をにぎわせている。

銀行の引き出し上限(一週間に24000ルピー)はいまだ解除されず、政府が個人財産に規制を課すことはデモクラシーに反すると思うが、とにかく来年の早い時期に解禁されることを祈るのみだ。
かねてよりモディ首相が政敵からナチのヒトラー独裁者になぞらえることはよくあったが、前コングレスI(国民会議派)政権のマンモハン・シンがThe Weakest PM、超弱腰首相(首相就任を辞退したイタリア生まれのガンジー家の嫁、ソニア党総裁の傀儡政権だった)と悪口たたかれていたのと一転して、強すぎるトップというのも、独裁色を帯びてよくないものだ。

闇金撲滅と偽札一掃が主目的のノートバン(紙幣廃止)の効果を政府は声を大にして自賛しているが、結局リスク大のギャンブルともいえた86%の流通紙幣を突如廃止するというドラスティックな政策は庶民に多大な不自由を強いた。ATMに長蛇の列を作って並ばねばならぬ疲労から死亡する者や農夫の自殺など、百人を下らぬ死者が出た。

考えてもみてほしい、日本で仮に明日から一万円と五千円札が使えなくなると突然発令されたときのショックを。オーガナイズされてない国だけに国民のショックはマグニチュード大の激震、その後の混乱とパニックは容易に想像がつく。

わたしは日本でのほほんとしていたわけで(11月13日のアルフィーコンサート五日前で胸を躍らせていた)、翌月初めに友人からインドは大パニックに陥っているとの情報をもたらされるまで知らなかったわけで(新札切り替え云々の情報は領事館筋からちらりと入っており、だんなに訊かないとと思いつつ、忙しさに紛れてそのままになっていた)、まさか不在中にここまで激烈な経済政策が採られていたとは予想だにしなかった(殿、ご乱心?とモディの精神状態を疑いたくなった)。

新札の準備が充分行き渡らないなかでの敢行、漸次的にやっていくとかもう少しやりかたがあったように思う。いかにもインドらしい、行きあたりばったりの突発的な政策で、首相が誰にも相談せずに己の独断で斧を振り下ろしたといわれているが、少なくとも新札がふんだんに用意できていれば、国民に多大なる不便を強いることもなかったろう。

それに、汚職撲滅というけど、さらなる汚職を生む結果のやぶへびになったともいえる。土台、バクシーシという賄賂慣行が必要悪の国で、脱税容疑の隠し財産保有者が銀行員を買収しないはずがない。インドはほんと、賄賂でなんとでもなる国なのである。杓子定規の日本から見れば、融通がきき、百ルピー札を何枚か弾むことで事務上の手続きがスムーズに行くこともあるので、便利な必要悪なんである。金額が膨大になれば、汚職だが、小額なら、この制度はあったほうがよく、実際生活と密接に結びついたバクシーシシステムは根絶不可能である。

医者だってバクシーシを弾めばよく診てくれるし、警察・官僚、バクシーシ慣習は当たり前、よって底辺から小さな汚職を一掃することは難しく、膨大な闇金が没収されている今はともかくも、しばらくたてば、またブラックマネーは復活するだろう。

まあ、そんななか、当地プリーは比較的現金が行き渡り、ホテル街も例年通りクリスマス・新年の掻き入れ時だけに満室であることは、恵まれているといっていい。
ヒンドゥ教の聖地であるので巡礼旅行者が多いし、当地は潤った町なのである。

おかげでうちも今現在は特に不自由を強いられることもなく、例年通りの年越しが出来そうで、ありがたい。
夫はモディ首相のファンなので(ヒンドゥ至上主義を標榜するインド人民党=BJP、与党支持)、今回の政策にも賛同している(最初のひと月は大変だったといったが、闇金撲滅には必要との意見)。しかし、私はリベラル派(異教徒共存の世俗主義)なので、汚職三昧の前政権はともかくも、モディには独裁の危機を感じていまひとつ信用がならない。

とにかくいま少し時間をおかないと、ギャンブルの是非は見えてこないようである。
来年二月のウッタルプラデシュ州議選は、この政策が有権者に受け入れられたかどうかのひとつの指標になるだろう。


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モディ政権の荒療治(通貨危機のその後)

2016-12-13 16:16:48 | 政治・社会・経済
さる11月9日からのインドの高額紙幣、500・1000ルピーの無効化については、すでにふれたが、ネットがようやくつながったので、ぼちぼち今日辺りから、Eニュースもチェックし始めている。

以下、どうぞ。
インド、高額2紙幣を廃止 不正資金撲滅へ

突然の高額紙幣流通中止で全インドが混乱! 騒動のなか「漁夫の利」を得たのは?

ブラックマネー撲滅、偽札防止が表向きの理由だが、現地の英字紙にも書かれていたように来年二月のウッタルプラデシュ州議選において政敵に政治資金が流れるのを阻止する政治的意図も隠されているようだ。

それにしても、新札の用意がないのに突然の発令という行きあたりばったりのところが、いかにもインドらしい。先進国なら、新札の準備ができてから発令、混乱を避けるはずだ。もう少し用意周到にやっていたら、銀行やATMに駆けつける人々が長蛇の列を成し、大混乱に陥るという事態も避けることが出来たはずだ。
敢行してみたら、予想外のパニックが発生し、斧を振り下ろしたお膝元も泡を食っているといったところだろうか。ある程度混乱事態になることは予測していたはずだが、ふたを開けてみたら、思った以上に甚大だったということだろう。

インドというただでさえオーガナイズされてないカオスの国で、こういう荒療治を断行すると、途方もない混乱に陥る好例といっていい。

予告なしの強行だっただけに、ひと月以上たつもいまだ混乱は収まらず、新札は2000ルピーが出回っているがそれも充分行き渡らず、ATMでの行列も解消されず、一週間に24000ルピーの引き出し上限もそのまま、ここに来て電子マネーを活用せよとの声が急に大きくなってそのための政策も次々展開しているが、カードなんてごく一握りにしか行き当たってないのだから、無理無理、現金優先社会になじんだ一般民は依然不自由を強いられている。

新聞を見ると、カードを受け入れる小売店が増えているようだが、実態はごく一握りだろう。いかにもキャッシュレス社会に向かって進んでいるかのような論調には首を傾げざるを得ない。混乱を収めるための中央政府寄りの偏った報道ではと疑ってしまう。

長時間列に並ぶ疲労から死亡した人もいたし、現金が上限以上引き出せなくて、金策に困り果て自殺した人もいたりして、せっかくのクリスマス・ニューイヤーのお祭り気分が台無しである。
それでも、既に一月以上たったことから、初期の混乱はある程度納まり、国民は比較的平静だ。結婚シーズンたけなわでキャッシュ不足は痛いけど、結婚費用は特別に2ラーク(20万ルピー)までおろせるようなので、例年に比べれば件数は減っているものの、近くの三ツ星ホテルでも、結婚式の豆電飾がきらびやかにガーデンを飾りたて、大音響のヒンディミュージックが鳴り響いている。そういう意味では日常生活は比較的平穏に営まれている。
何が起ころうと、ライフ・ゴーズ・オン、ストップすることは出来ない。

うちのだんなは超楽観的で能天気、ひと月たったこともあるだろうが、まったくこたえてないようで、毎日、ホテル業の合間を縫って隣接する私邸でのんべんだらりソファに横たわって、テレビを見たり、普段と変わらない。

*インドに続けとばかり、ベネズエラも主にドラッグ関連不正資金撲滅理由で100ボリバルの流通が突発的に中止されたらしい。同様にパニックに陥った国民が銀行に殺到し長蛇の列、よりもよってクリスマス前にやらなくてもと国民の不平の声は強まるばかりのようだ。
以下、関連ニュース。
通貨危機のベネズエラが国境封鎖、新紙幣発行前に市民殺到

インドの場合が高額紙幣二種だったのに対し、ベネズエラは小額紙幣一種で硬貨に切り替えられるらしいが、同病相哀れむの感。
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インクレディブル・インディア(ああ無情!)

2016-12-12 14:53:25 | 政治・社会・経済
6日の深夜予定通りデリー着、三泊して9日夕刻のフライトで州都ブバネシュワールへ、そこから車で一時間半かけて午後十一時ごろ、プリーの本宅へ帰着した。途上、結婚式の行進に何度もぶつかり、渋滞した。今は結婚シーズンたけなわ、なんである。
戻ったら、ネットはつながらず、新しく設置したはずの衛星放送も二階だけ映らない、キッチンのヒーターも故障、まあ、長く空けていると、何かしら支障が生じる。夫が在留していても、男手ひとつで手が届かない。

おまけに、帰路の便で重いトランクが左手のみで持ち上がらず(東京駅までの道程のバスの乗降口に上げるのがしんどかったし、ベルトコンベアからトランクを引き上げるときも、両手でないと持ち上がらなかった)、右手を使わざるをえず、昨夏ヨガで傷めた背中と肩がまた悪化した。せっせとインド古来の自然療法、アユールヴェーダの軟膏を擦り込んで、日本で戴いたアルフィーのCD(三十年来のアルフィーファン、Yさんのプレゼント。Yさん、早速聞いてます、ありがとう!!!)を聞きながら、日本滞在中の写真をパソコンに取り込んだり、年内に送らなければならない短編の推敲もついでにやってのけ、今このブログの下書きをワードに書き込んでいる。

今日11日は私の誕生日、アルフィーの高見沢さんと同じ年の62歳になった。
さて、二ヵ月半後に戻ってみると、500ルピーと1000ルピーが使用不可になっているし、まあ、とにかく驚きである。三日に東京で旧友に会って、インドはこの件で大パニックに陥っているからと警告され、夫に国際電話して、どうやら大丈夫そうといったんは胸をなで下ろしたんだが、11月8日に青天の霹靂の勧告で、国民は大パニックに陥ったようだ。考えてもみてほしい、日本で今まで使えた一万円札と五千円札がいきなり予告もなしに明日から使えなくなるといわれたときのインパクトを! 旧紙幣はただの紙切れになり、代わりに2000ルピー新札と、500ルピー新札が発行されたわけだが、発令からひと月以上たつも新札は充分に出回らず、キャッシュ不足、しかも、銀行からは一週間に24000ルピー(約45000円、インドの物価は日本のおよそ五分の一だが、家電と衣類は高め)しか引き出せないという上限つき。それでも、引き出せればいいが、キャッシュ不足を理由に小額しか用意できない州の銀行も多々あるらしい。当オディッシャ州は比較的キャッシュが出回っているが、このクリスマス・新年シーズンで物入り、旅行だってエンジョイしたいのに、現金なしではいかんともしがたい。

新札が充分出回るまで電子マネーで代用せよとのお達しだが(銀行もろくすっぽない貧民の多い農村地帯でカードっていうのも超無理がある。電子マネーにアクセスできるのは中流以上のクラスのみ、私も夫も、カードに頼りがちの息子と違って現金志向である)、やれやれ参った。うちはホテル業で現金が毎日入ってくるので、まだしもなんとかなるが、一般民の不自由度は察して余りある。土台、日常の小物を買うのに2000ルピー札出して、おつりを出すほうも大変である。500ルピー新札は充分に出回っていない分、従来の100ルピー、50ルピーで代用、当然こちらも紙幣不足になる。1000ルピー札がなくなってしまったのは、不便極まりない。

デリーで毎日二紙の英字紙に丹念に目を通し(それ以外はひたすら寝て、食って、呑んでの三日間、旅の疲れを癒していた)、首相がほぼ独断的に鉈を振り下ろしたこの政策、表向きは闇金掃討作戦だが、来年二月のウッタルプラデシュ州議選(人口二億の最大州で総選挙に多大なる影響を及ぼすかなめの州議選)において、政敵が政治資金をアレンジするのを阻む政治的な意図もあるようだ。
脱税目的で銀行に預けずに大枚手持ちの人もたくさんいたわけで、さぞかし泡食ったことだろう。もう少し、ネットのニュースなども読み込んでみないとわからないが、とにかく、膨大な金額のブラックマネーが没収されていることは確かだ。銀行に預ければ、自動的に新札になるようだが、大金であれば隠し財産ということで、脱税容疑になる。それにしたって、この騒動で経済も減速、お金がなければ市場は振るわないし、ホテル業だって、打撃を食らう。すでに、アーグラーのタージマハルなど、旅行者は二割減というし、ホテルもキャンセルが相次いでいるようだ。

クリスマス・新年の稼ぎ時に、インド政府もようやってくれるよ。これを、闇金狩りの英断とみるか、限りない愚策ととるか、私は後者だが、まあ、過去に北朝鮮やロシアもやったようである。
もう、びっくりしたあ。いない間にこんなドラスティックな経済政策が採られているとは。九月に前インド準備銀行総裁が辞めて、副総裁が後釜に納まったのだが、そのことで政府が口出しやすくなったようだ。経済界のロックスターともてはやされた前総裁、ラグラム・ラジャンはこの件について何か公に発言しているだろうか(後刻、批判していたと判明、世界的な経済学者はおおむね批判しているようだ)。前首相、マンモハン・シンは、経済停滞を憂えている。インフレも納まりつつあったし、7%以上の経済成長も見込めていた好況だったのだから、短期的に見れば、経済への打撃は大きい。
それよりも、いつになったら引き出し上限は解除されるのか。こちとら、来春はまたジャパンだよ。現金が存分に引き出せなければ、ドルも買えない。ああ、ひどいことになったもんだ。インクレディブル・アンプレディクタブル・インディア!!!
先進国経済は少なくとも、こんな荒唐無稽なことはしませんよ。旧友も、すげえことやるなあと、驚いていた。

夕刻、気を取り直して、浜に出た。久々のベンガル海。わがバースデーを祝うように、大きなフルムーン。宵闇が降りるにつれて、神々しいこんじきに輝く。
満潮の波がざんぶと押し寄せる。西の空はほんのりオレンジ色に染まり、街の灯がトパーズの珠玉のようにきらめいていた。

もうひとつ、改装を九月に済ませたホテルに隣接する私邸も私の不在中にペンキ塗り替えでお色直し、15年ぶりにやったので、今までの薄汚かった壁が一新、来る2017年を前にすっきりと、見違えるようにきれいになった。年内に小物の片付けなど、大掃除が控えているが、大元のところは、夫がやってくれたので、楽チン。最初足を踏み入れたとき、夜だったもんで、壁がショッキングピンクに見え、があああんてなもんだったが、明けてみると、悪くなく、やれやれと胸を撫で下ろす。こんなサーカスのような家に住めないと、夫にぶーぶー文句を垂れてしまったが、色盲同然の(赤と黒、白くらいはわかるが、色の区別がつかない人なんである)彼にしてはよくやったと褒めなおしてやりたい。

金沢の狭いワンルームに比べると、悠々自適、本宅は広々してゆったり、やっぱり環境というのは人の精神に影響を与える。広いと、気持ちも伸びやかになるようだ。ただ、金沢は美しく整備された街で、近くに犀川も流れ、文化的催しに事欠かないよさはある。インドに戻ってくると、途端に埃っぽく、汚くなり、ちょっとがっかりするのだ。田舎町には、図書館も本屋もないし。でも、一長一短で互いが互いを補い合って理想の生活に近づければと思う。

成田空港で購入した銘酒「八海山」は、一日で夫の腹に納まりました。ちょっと味見したら、濃厚芳醇、さすが新潟の有名銘酒だけのことはあった。

追記
これから夕食後はアルフィー聞きながら、独り祝い酒。62歳、高見沢さんに追いつきました(若さとパワーではもろ負けるけど。62歳であのヴィジュアル度、美しすぎる!)。州都でGroverの赤と白を手に入れたので、白ワインをからすみ(ベンガル湾産ぼらの卵巣、絶妙珍味は冬季限定)はじめ、野菜スティックや冷やしトマト、かつお梅、柿の種のつまみでやりたい。インドの果物は豊富だし、野菜もおいしい。冬季で大根も入手可。とくにトマトときゅうり、日本ではトマトが高くてびっくりしたし、きゅうりは細すぎて食べた気がしなかった。インドのきゅうりは野太い、水分たっぷりで、食べ応え充分、しゃきしゃきして美味。トマトも、格安でおいしい。
やっぱり、自然食品はインドの方が安くてより自然に近くていいかな。ただし、殺虫剤問題があるけど。朝はおいしい野菜・フルーツジュースで始まり。日本ではミキサーをまだ買ってないので、市販のジュースに甘んじていたが、りんご、オレンジ、ぶどう、にんじん、赤カブ、大根とその葉の自家製ミックスジュースは久々に飲んだだけに超美味だった。朝食後しばらくして青汁代わりの、定番ゴーヤジュースも作ったが、こちらは健康のため常飲しているもの。来年は健康を回復すべく、食品に気をつけたり、呼吸法・瞑想を必ず行うなど、努力したい。

☆数時間後
からすみを薄く切ってあぶる程度に焼き網で焼いて、きゅうりとにんじんをスティック状に切ってみそをつけて、かつお梅と柿の種と、ポテトチップス、キットカットのつまみで、八時半バースデーパーティーとしゃれ込んだ。夫も無論誘ったが、ウイスキー派の彼は白ワインを敬遠、ところがせんが固すぎて夫に開けてもらったのは、ワイングラスに注いでみたら濃い赤紫の液体、レッドワインであった。一瞬どうしようかと迷ったが、日本ではずっとチリ産の辛口白ワインを飲んできたし(週一度くらいの割合で)、全日空の機内でも行き帰りとも辛口の白ワインだったので、まあたまには赤もいいかと、せんを開けてしまったことだし、そのまま飲むことに。
赤ワインも、バースデーには華やかでいいかもしれない。来るクリスマスイヴはおのずと、残りの白ワインとなる羽目になったが。とにかく、今年は誕生日もクリスマスも新年も家族と一緒だ。昨年の金沢での独りきりの師走、正月を思うと、感謝あるのみ。還暦厄も、本日62歳の誕生日を迎えたことで、ひとまず抜けたような気がする。
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ビハール州選挙、インド人民党惨敗

2015-11-08 18:36:13 | 政治・社会・経済
本日、ビハール州選挙の結果が公表された。
接戦といわれていたが、ふたを開けてみると、セキュラー(政教分離の世俗主義)三党のグランドアライアンス(大連立)の圧勝、243議席のうち178席で楽々過半数、一方のインド人民党(ほか二党)は58席と首相自らの応援演説も効き目がなく、惨敗(目下開票結果には1,2席の誤差あり)。

予想通りだったが、もう少しネックネックになるかと思っていただけに、意外だった。

しかし、最近つとにコミュナル(偏向)な空気が高まっており、国民一人が牛肉食べてヒンドゥ右翼に殺されているのに、だんまりを決め込んだモディ首相に非難の矢が集中していた矢先でもあり、そういう意味では当然の結果。
宗教・民族・カースト・言語と多様なインド社会では、多数派ヒンドゥのみの論理は通用しない。ヒンドゥ右翼のインド人民党に、有権者はそっぽを向いた感じ。まあ、ビハール州はカーストベースの政治が展開されてきた地域で(農夫などの低カースト51%、ダリットのアウトカースト16%、上位カースト15%、イスラム教徒17%と、バックワードカースト=OBCが67%も占める)、低カースト救済の三党連立が勝利を収めたのもむべなるかな。

しかし、驚いたのは、ラシュトリヤ・ジャナタ・ダルが80と票を伸ばし、最大党に躍り出たこと。州政権を掌握していた時代はジャングルラジ、無法王権と悪名たたかれ、汚職三昧だったが、ヤダブ(牛飼い)カーストの支持を集めてのことである。党首のラルー・プラサド・ヤダブ元州首相は、インド政界のコメディアン、白髪のとっちゃんぼーやとユーモラスなキャラクターで、カリスマ性抜群。しかし、汚職容疑でさすがに州首相復帰の夢は断念、長年政敵だったジャナタ・ダル党首ニティシュ・クマールを首相候補に推したのである。昨日の敵は今日の友、反インド人民党で結託したラルーとニティシュ、あともう一党、国民会議派は27票だったが、こちらも大連立のお仲間である。

というわけで、ニティシュの続投である。ジャングル・ラジから一転良政を敷いたことで州民の信頼を勝ち得ていたことが大きい。

ビハール州選挙の結果は、ある意味、国民がコミュナルなモディ政権にノーを突きつけたともいえ、イスラム教徒見殺しの前歴があり、今回もだんまりで逃げたモディには、大いに反省を促したい。
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トラレンスマーチに繰り出したイタリア人野党総裁

2015-11-03 21:35:05 | 政治・社会・経済
ついに最大野党、国民会議派(Congress I)党首、イタリア生まれのソニア・ガンジー(Sonia Gandhi,ガンジー家の嫁、暗殺されたRajiv元首相の外国人妻で夫の死後、党総裁を十七年務める)が大統領官邸まで、息子の後継者である副総裁ラフール(Rahul)ほか125名の党員を引き連れてデモ行進、インド社会の寛容精神の伝統が侵されつつある事態を憂えて、直談判、報道陣の前でヒンディ語で呼びかけ、非寛容、狭量がまかり通っている昨今の情勢下モディ首相が頑固に沈黙を保っていることを痛烈に批判した。

一方のモディ首相は、1984年のシク教徒粛清、当時のインディラ・ガンジー(Indira Gandhi)女性首相がシクの警備に暗殺されたことに怒り狂ったヒンドゥ教徒の暴徒が三千名のシク教徒を殺戮した過去の悲劇を持ち出し、そもそもの人権乱用党にトラレンスのレクチャーをされたくないと反発、ライター、科学者、歴史学者、音楽・映画関係者など二十名ほどの知識・文化人が表現の自由侵犯を訴え、次々に賞を返還していた騒ぎは過熱化するばかりである。

確かに前政権時代も、コミュナルな紛争はたびたび起こり、そのときは文化人は誰一人として声を挙げなかったにもかかわらず、今になって鬼の首でもとったように騒ぎ立てるのはおかしいとの見方もあり、野党の息がかかった文化人でインド人民党(BJP, Bharatiya Janata Party)アレルギー、ヒンドゥ右翼に過敏な、与党に言わせれば、偽セキュラー(政教分離の世俗主義)ということになるのだが、少なくとも、牛肉を食べてイスラム教徒が殺されるなんてことは前政権時代はなかった。

右翼団体が中央政権掌握を笠に着て、横暴し放題、つとに狭量になっているのである。
マハラシュトラ州のインド人民党と連携するシヴセナ(Shiv Sena)など、パキスタンのミュージシャンがコンサートをしたり、パキスタンのクリケット選手がプレーするのを許さないほどだ(もっとも、シブ・セナの場合は今に始まったことでなく、ビハール・ウッタルプラデシュ・南インド州からの移住民すら迫害、マハラシュトラ州民のみの利害を訴える排他性)

嘆かわしいことに、現在ビハール州選挙の応援演説に駆けずり回っているモディ首相は、ジャナタ・ダル党と国民会議派ほか一党の連立政権が成立したら、低カーストの優遇策がイスラム教徒に回されるなどとほざいて低カースト層の不安をあおり立て、パキスタンに爆竹をあげさせるなとコミュナル発言(ヒンドゥ右翼のインド人民党が負けたら、イスラム政権のパキスタンは爆竹祝いをするという意味)、モディの正体見たりである。

インド人民党側の弁明は、牛肉騒動にしろ、知識人殺害にしろ、国民会議派州政権下起こったことで、一国の首相がいちいち口出ししたら州政府への干渉になるというのだが、だんだん問題が大きくなりつつある今、沈黙を守り続けている首相の胸のうちがつかめない。

何を言っても、野党の息のかかったBJPアレルギー連中には揚げ足取られるのがおち、ここは沈黙を保ったほうが無難とでも思っているのだろうか。
一国の首相としての、厳格な戒めが欲しいところだが、それがないため、騒ぎはエスカレートするばかり、ついには大統領や準備銀行理事まで懸念を洩らす始末だ。

まあ、十年牛耳った国民会議派前政権も、途方もない汚職でひどかったし、どっちもどっち、結局、国民はいずれに転んでもわりを食らう、まさしく、deep seaとdevilの板ばさみ、選択の余地がないんである。

昔は国民会議派シンパだった私も、十年間の悪政にげんなり、名門政治家一家ガンジー家はある意味癌である。ガンジーに偏りすぎることから来る弊害、それにソニア・ラフール母子はひと昔前の社会主義信奉者、今の国民の豊かになりたいとの希求を汲み取れない、化石頭である。
しかしこうなると、モディもいや、である。

別に、外国人居住者で選挙権のない私にはどうでもいいんだけど、昨今のつとに狭量、非寛容になっている風潮には懸念を覚えるので、引き続き政治的な発言を少しさせてもらった。

*なんにせよ、言語・民族・宗教・カーストと多岐にわたる社会ゆえ、これらの相違に端を発するいさかいは絶えず、インドという国は本当に問題の多い国である。
息子も折にふれ不満を洩らすが、民主主義国家ということがまたネックになっていて、12億余の民のうごめく全土を統治し良政を敷くのは並大抵の技じゃない。

*本日のタイムズ・ナウ・ニュース・ディベートでは、面白い論点が語られていた。そもそも、イントラレンスという言葉が急にここに来て浮上しているが、1947年の独立以前も(英支配下にあった植民地時代)、それ以後も、今非寛容と非難されているような事件は発生していたのであり、前政権時代にもアウトカーストの殺戮事件ほか数々のコミュナル紛争があったのに、知識人は誰も抗議の声を挙げなかったことを突いて、アンカーのアルナブ・ゴスワミは、セレクティヴな抗議で似非文化人と看破していた。

戒厳令やシク殺戮、この68年数々の弾圧行為や異教徒粛清があったが、知識人は沈黙してきたのに、BJP政権になった途端、さも今になってイントラレンスが醸成されたかのように賞返上の抗議、それなら前政権時代、似たような事件が起こったときなんで声を挙げなかったのかとの疑問である。
野党・国民会議派が鬼の首でもとったように、扇情している部分はあるかなと思った。結局、政治に振り回されているんである。故インディラ・ガンジー、故サンジェイ・ガンジー(インディラの次男)時代に比べ、政治の独裁傾向が薄らぎ、声を大にあげられる時代になったという意味では、民主主義の謳歌といえるのではとの声もあった。
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モディ政権の功罪

2015-11-02 21:45:39 | 政治・社会・経済
鳴り物入りのナレンドラ・モディ(Narendra Modi)・BJP(Bharatiya Janata Party,インド人民党)政権が成立して、一年半。
経済改革・繁栄を謳い上げ、豊かになりたいミドルクラス層の希求を汲み取って、大いに期待されたが、ふたを開けてみると、前政権同様の国会麻痺で法案が通らず、掛け声だけは高いのだが、実態が伴わず、国民の間に失望感も芽生えている。

それと、ヒンドゥ至上主義を理念に掲げるため、関連右翼団体(RSS=民族義勇団:Rashtriya Swayamsevak Sanghなど)が、キリスト教徒やイスラム教徒を攻撃、最近では牛肉を保存しているとの理由でイスラム教徒が殺戮されたし、その前には偶像崇拝の迷信を批判した学者が殺されたり、ライターや映画・音楽関係のアーチスト、いわゆる知識・文化人が言論の自由侵害を憂え、次々賞を返還する騒ぎに発展し、国内はコミュナル(Communal)な傾向がつとに高まっている。

コミュナルとは、宗教・カースト・言語・民族の相違によるいさかいで、インドの場合、宗教紛争という意味で用いられることが多い。

プラナブ・ムクヘルジ(Pranab Mukherjee)大統領やラグラム・ラジャン(Raghram Rajan)・インド準備銀行理事まで、現在の趨勢に懸念を洩らすとあって、いやな世の中になったなと、外国人居住者の私も憂慮を募らせている。

モディ首相は弁舌に長け、対外的には高い評判をとっているし、経済改革をぶち上げて全階層含めての発展を掲げているのはいいのだが、口ばかり大きく、海外訪問が多すぎ、ファッションコンシャスでカメラを気にするなど、前BJP政権のバジパイ(Atal Behari Vajpayee、在任期間96,98-2004)首相に比べると、器が小さい感じ。

牛肉騒動でイスラム教徒が殺戮されたり、デリー在住のケララ政府経営の食堂が牛肉フライを供しているのに二十人も警官が急襲したことに対しても(デリーは連邦直轄地で警察は中央管轄、また首都では牛肉は禁止されているが、ケララ食堂のはバッファロー、水牛だった。インドではビーフステーキを供しているレストランもあるが、水牛のことが多いのである)、沈黙を守り通し、一国の首相としての厳格な発言があってしかるべきだと思うのに、なんか逃げてずるいなという感じ。
モディ自身も、ヒンドゥ偏向のコミュナル、グジャラート前州首相時2002年のグジャラート騒動(列車焼き討ちテロに怒ったヒンドゥ教徒のムスリム粛清)で二千名のイスラム教徒を見殺しにした前科がある。十年前のバジパイBJP政権のときは、ヒンドゥ右翼というので心配したのだが思いがけず賢政が敷かれたので、今度も大丈夫と思ってたら、当てが外れた感じだ。

まだ一年半でもうしばらく様子を見ないとわからないが、公約の経済繁栄のほうも、今のところ実地が伴わない。ただ、モディ首相になって、インフレがやや収まって、海外投資が急増、株価も上がったことは確か。産業界は大いに期待していたのだ。そういう意味では、モディ効果はあったといえるが、現実に思ったより跳ね返ってこず、繁栄からはほど遠く、一般民は失望気味である。

脱税目的で海外の架空名義口座に秘匿されている一説に600兆ルピー(約1140兆円)という闇金も没収して、国民一人頭5ラーク(lakhは十万ルピーの単位、約95万円)還元すると公約したが、無論1ルピーすら戻ってきていない。

ビハール州選挙の結果がまもなく公表されるが、旧来カースト偏向だった同貧困州を発展のスローガンを掲げ、モディ首相自ら応援演説に駆けつけ、勝利に導こうと必死だが、どうなるだろう。ハングパーラメントもありそうだ。
私は従来どおり、低カースト・少数派寄りの社会党ともいうべきジャナタ・ダル(Janata Dal)党首、ニティシュ・クマール(Nitish Kumar)前州首相の続投ではないかとにらんでいるのだが(ほかに元政敵Lalu Prasad YadavのRashtriya Janata Dal、国民会議派=CoingressIとの三党連立、政界では昨日の敵は今日の友、ご都合主義でくっついたり離れたり、インドは特に節操がない。ちなみに、ラルー元州首相は汚職三昧、ジャングルラジといわれるジャングル王権の悪政でつとに悪名高く、往時ビハール州の治安は白昼強盗や銃殺など、最悪だったが、ニティシュになって改善された)、モディ攻勢でインド人民党が勝てば、昨年四月の総選挙で大勝したインド人民党政権の後押しになる。

モディとニティシュは、宿命の政敵なのである(過去連携を組んでいたが、たもとを分かった。ニティシュはコミュナルなモディが首相になるのを反対していた)。

個人的には、モディ首相には少し落胆しているだけに、今後の盛り返しに期待したいが、コミュナルな雰囲気が醸成されるのは困る。

宗教紛争や言論弾圧などコミュナルな情勢下の経済発展はありえない。
多様なインド社会は、宗教・民族、カースト・言語の相違に左右されない寛容精神の伝統性あってこその、世界最大12億の民のデモクラシーなのである。
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インドの殺人ミステリー

2015-08-29 23:46:16 | 政治・社会・経済
今月末締めの投稿ノルマを果たして、ほっとひと息、ビールを飲みながら、ビル・エヴァンスの「アンダーカレント」を久々に聞いている。
肩のこらない記事を書くときや、青空文庫を読むときのBGMに最適。

本日は浜にも出ずに、パソコンに向かっていた。

両肩に重い疲労がよどみ、少し痛い。

もうすぐ八月も終わりだ。

日本から戻って、はやひと月が過ぎようとしている。

蒸し暑かった陽気もこのところの雨で、一段落。

来月あたりから、そろそろ新作にとりかかりたいと思っているが、どうなるだろう。

今、インドのメディアをにぎわせているのは殺人ミステリー。
メディアタイクーンの美人妻(結婚歴三度)が、16歳のときの初婚でできて夫には妹と偽っていた娘を、二番目の亭主に扼殺させた事件だ。3年間お蔵入りだったのが、急に浮上してきた。この殺された娘は三番目の現亭主が前妻との間にもうけた息子と出来ており、現夫は逮捕された二番目の亭主の娘(殺されたのは最初の夫の娘)を実子のように可愛がっていたという、錯綜した関係。

財産がらみとか邪魔になったとか、現夫の息子との関係に反対していたとか、さまざまに取りざたされているが、子殺しの嫌疑がかけられている妖婦には、もう一人最初の夫との間にできた息子がおり、彼のことも殺害予定だったとか。

2012年の事件だが、圧力がかかってもみ消しもあったらしい。

インドでは時々、このように小説のプロットになりそうな、殺人事件が起こる。歯医者の父親が、ティーンエージの娘が年の離れた使用人と出来てしまったのにかっとして、ゴルフのクラブをふるって両者を殺害した事件も、当初はしらを切りとおし、後年両親(夫をかばって妻は証拠隠滅)が逮捕され、現在服役中(いまだに無罪を主張している)。これなんか、一種の名誉殺人、オーナーキリング、サーバントとのみだらな関係をしかったら娘に自分の浮気を批判され、かっとなって手を下したともいう。ちなみに、写真で公表された14歳の娘は、早熟で超色っぽかった。

政治家の再婚妻の殺人事件も、迷宮入り。最初自殺と報道されていたが、検視段階で不正があったようだ。私は国会議員の夫が限りなく怪しいとにらんでいるのだが。殺された妻はクリケット賭博にからむ秘密を握っていたらしく(夫はオーナー株主の一人)、ばらされたらやばい筋が消したことは間違いない。

グラマラスな匂いが付き添う事件だと、マスコミは飛びつく。

今回の殺人事件の、加害者と被害者の母娘も、色白の美人で、リッチとくれば、世間の好奇をそそる材料がそろっている。

プロットを仕組んだといわれる主犯の母は、インドの法の網を潜り抜けられるだろうか。
リッチでパワーがあれば、インドではうやむやになるのが常。
はてさて……。

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故天才数学者夫妻の数奇な生涯

2015-05-26 22:51:15 | 政治・社会・経済
ハリウッド映画「ビューティフル・マインド」(ロン・ハワード監督、ラッセル・クロウ主演、動画はこちら)にもなった、統合失調症のノーベル経済学賞受賞(1994年)数学者、ジョーン・ナッシュ氏とその妻・アリシア夫人が5月23日、交通事故死した。

最後の最後までドラマチック、氏にふさわしい終わり方だ。

自動車激突事故死という暴力的な終焉で幕を閉じる波乱の一生だった。

精神の病を克服し、天才数学者としての名声をなした人で、崇敬の念を覚える。

人間の力、というのは改めてすごいもんだと感じる。

偉業に敬服を表するとともに、心から合掌!

以下、ブリンストン在住の冷泉彰彦氏(『ニューズウィーク』日本版のコラムニスト)が、コラム「プリンストン発 日本/アメリカ新時代 」でジョーン・ナッシュ氏の訃報に寄せた記事をどうぞ。
数学者ジョン・ナッシュ夫妻の訃報

かいつまんで引用させていただくと。

ジョン・ナッシュ氏と言えば、著名な数学者であると同時に、ゲーム理論に関して大きな功績を残したことで有名です。特に彼の証明した「ナッシュ均衡」というのは「ゲーム参加者の相互が非協力的」である場合、例えば「囚人のジレンマ」のようなケースで、個々のプレーヤーが自分の選択によって利得を最大化することの限界を数学的に証明したものとして、よく知られています。

 出身はウェストバージニア州。学士と修士はカーネギー工科大学(現在のカーネギーメロン大学)、博士号はプリンストンで、西海岸のシンクタンクであるランド研究所、MITの教員を経てプリンストンの教員となっています。

 その生涯は映画『ビューティフル・マインド』(ロン・ハワード監督、ラッセル・クロウ主演)並びに、その原作で描かれており、統合失調症による闘病生活、そしてアリシア夫人との夫婦関係といったエピソードも含めて世界的にも広く知られることとなりました。

 特に、中年期になってナッシュ氏の症状が重かった時期、とりわけ「自分は南極王国の王になる」的な妄想に取り憑かれている時期には、アリシア夫人は籍を抜いてナッシュ氏と距離を置きながらも、遠くからナッシュ氏を見守り続けたこと、そしてナッシュ氏の症状が落ち着いた後年には、あらためて2人は結婚して現在は一緒に静かに暮らしていること、そうした「夫婦の物語」も有名になりました。

ナッシュ氏の「ゲーム理論」に関する業績は若い時代のものですが、世界的な評価が進んだのは後年で、ノーベル経済学賞が1994年に授けられています。また、ノーベル賞に数学の賞がないことの埋め合わせ的な意味もあってノルウェーがアーベル賞(ブログ著者注/顕著な業績をあげた数学者に対して贈られるノルウェーの賞で賞金額はスウェーデンのノーベル賞に匹敵し、数学の賞としては最高額)である。という賞を、21世紀になって創設しているのですが、今年2015年にはこれを受賞しています。
そのアーベル賞は先週ノルウェーで授賞式があり、ナッシュ氏と、NYUのルイス・ニーレンバーグ氏が受賞したのでした。授賞式の後、5月23日の土曜日の昼のフライトで、ナッシュ夫妻とニーレンバーグ氏は、ニュージャージーのニューアーク空港に帰国したのです。

 その際に、報道によればナッシュ夫妻は「その日になって当初予定より5時間早いフライト」に変更をしたそうで、その変更については、予約してあった「ハイヤー会社にも連絡した」そうです。ところが、空港の出迎えを5時間前に変更することが確認できないまま、飛行機に乗り(おそらくオスロ=ニューアークのUA直行便)で戻ってきたのでしょう。ニュージャージーに戻ってみると、どうもハイヤーの変更はできていなかったようです。そこで仕方なく「イエローキャブ」の「タクシー」に乗ったことが運命の分かれ道になってしまいました。

 その運転手は、ほんの2週間前までは「アイスクリームの屋台」をやっていた男性で、新しく個人タクシーの会社を立ち上げたばかりだというのです。そのタクシーは、私の家のすぐ近くにある高速道路の出口近辺で、追い越しに失敗してスリップ事故を起こし、ガードレールに激突してしまったのでした。

 おそらくはシートベルトをしていなかった夫妻は、ショックで車外に投げ出されたようで、ほぼ即死状態だったそうです。運転手は負傷して病院に収容され、生命の危険はないということですが、報道によれば「そんな著名人を乗せていたとは知らなかった」と言っているそうです。

一部のメディアでは、フライトを変更したことでハイヤーの予約が使えなくなり、タクシーを選択したことの結果が「全てを失うこと」になったことから、人生の最後にあたってはゲーム理論が生かされなかった、などという皮肉を言う人もあるようです。

 ですが数奇な運命を辿ったこの夫婦が、最後は高速道路での事故、しかも即死に近いかたちで一緒に亡くなった、それもノルウェーでアーベル賞を授賞された帰途だったというのは、ある種幸福なエンディングだったという考え方もできるかもしれません。ナッシュ氏は86歳、MIT時代の教え子であったアリシア夫人は82歳でした。


*終わりに、氏の訃報を伝えるニューヨーク発のニュース画面も掲げておく。
John Nash, Inspiration for Film 'A Beautiful Mind,' Dead in Car Crash
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アンチレイプ関連動画

2015-04-04 20:00:53 | 政治・社会・経済
遅ればせながら、デリーバス内集団強姦事件(2012)の動画をチェック、被害者が美しい女性だったことにショックを覚えている。額の広い聡明そうな(理学療法士をめざす准医学生だった)、彫りの深い顔立ち。病院のベッドに横たわる顔は虫の息、もうすでに瞳孔が開きかけていた。

すでに被害者の名前は割れていてジョティ・シン(Jyoti Singh、23歳歿)さん、以下関連動画を掲げる。
先ごろBBC放送のドキュメンタリーで放映された、犯人の一人である死刑囚のインタビューも掲げておく。



被害者に責任を擦り付ける凶悪レイプ犯。
両家の娘は夜九時以降は外出しない、抵抗せずに黙ってなすがままにされていたら、殺されることはなかったと自己正当化の暴言、男尊女卑の風潮が生きるインドの一般男性観を如実に示したものでもあった。まずは、封建的なインド男性が変わることが肝心。
"India's Daughter" documentary director flees India

ダムニ(被害者は実名が伏せられるため、ダムニ=光、ニルバヤ=恐れを知らぬ、などの愛称で呼ばれた)は搬送されたシンガポールの病院で逝去、13日の勇敢な死との闘いの果てにあえなく若い命を散らせた
Damini Death Video....

市民女性の怒りが沸騰! 大掛かりなアンチレイプデモが全土を席捲、被害者の訃報には泣いてキャンドル行進
Gang Rape Girl, dies in Singapore hospital

以下は、未認可バスに乗ったことを人生最大の過ちだったと語る被害者に同行していた恋人男性(二人は結婚間近だったとも伝えられた)
The Interview - Awindra Pandey, friend of India gang-rape victim Jyoti Singh

日本の関連記事。
インド女性暴行死事件、恋人男性が絶望を語る



最後に息子(サミール26歳、コンピュータ技師の傍らラップミュージック活動。芸名はビッグディール、インドで五指に入るラッパー)がアンチ女性暴力のメッセージをこめた新作ラップも、再紹介しておく。
Heroine - Women Empowerment Anthem | Big Deal & June Neelu
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インドは世界一の鬱国家?(写真入り)

2015-03-22 17:00:24 | 政治・社会・経済
三月も下旬に入り、次第に夏の兆しになってきた。
まだ冷房運転はほとんどないが、熱のこもった大気は蒸し暑く感ぜられる。

本日午後、ニューデリー・テレビジョン(NDTV)でディプレッション(鬱)についての、特別報道番組を組んでいたので、興味深く観た。
WHO(世界保健機構)によると、インドは世界一の鬱病大国ということになるらしい。

が、カミングアウトするのは恥という閉ざされた社会の風潮があり、自らも鬱を体験したという二十代のヒンディ映画(ボンベイ本拠地のためハリウッドをもじってボリウッドの愛称がある)のトップ女優、ディーピカ・パドゥコーン(28歳)が女性アンカーとして高名なバルカ・ダットのインタビューに答えて、自己体験を率直に明かしていた。

ボリウッドのトップ若手女優、ディーピカ・パドゥコーン、
モデル出身のスリムな美人女優で、父は有名なバドミントン選手だった。



ある朝目覚めると、空白感を覚え、胃にぽかりと穴が空いたような虚しさで、起き上がる気がせず、食欲減退、泣いてばかりの毎日が始まる。家族のサポートでカウンセラー、精神科医の専門治療を受け、服薬で回復したとのこと。

毎日十五時間働き尽くめのトップスターとしての過重労働、オーバーストレスもあったのだろう。去年はヒット続きでNO1にのし上がった美人女優だった。

ディーピカは全土に六割いるとされる母国の鬱患者を助けるために、非政府組織の団体を立ち上げたとのことだ。

インドでは人口の六割が貧困層、農夫の自殺が多いのである(旱魃による凶作で借金を苦に農薬自殺のケースがマハラシュトラ州を筆頭に頻発)。
明るくたくましいイメージで捉えられているインド人だが、内面はセンシティヴ、低経済層にとっては苛酷な生活で将来を悲観して自害に走るケースも少なくないのだ。

日本も年三万名以上の自殺大国であるが、文明社会にありがちの要因で、インドとは違う。インドの場合、生活苦が殆どの原因なのである。

今や日本、インドを問わず、鬱病は国民病(北欧諸国も日照時間が少ないため、鬱病患者が多いと聞いた)、インドは糖尿病大国でもあるのだが(6,7000万の患者)、成人病対策に比べ心のケアはなおざりで、スティグマ(恥辱)を取り払って早急に対策を講じなければ、伝染病のように蔓延するとディーピカを治療した精神科医も警告していた。

やはりカウンセラーや専門医に相談してのメディケーション(服薬治療)が一番、ディーピカも、セレブレティであろうとなかろうと、誰もがかかる病気、最初は専門医に診せることに抵抗があったという彼女だが、治療を受けたことで回復したことから、欝で苦しむ患者に恥ずかしいことでないのだから臆せず、診断を受けて欲しいと呼びかけた。

*足の怪我で私も目下気分がロー、落ち込んでいるが、朝起き上がれないとか、何もやる気が起こらないというのではなく、食欲もあるし、浜に出れないのと(ドクターから禁足令、解禁になるのが待たれる)、ヨガがやれないのがつらいが(シャバアサナ・屍ポーズで肩鼻交互呼吸法10-15回と気が向くと、上半身のみの軽い体操)、なんとかかんとか日常生活をこなしている。今まで病理学的な意味での鬱は体験したことのない私、ディーピカはサッド(悲観的)な状態とディプレッションは明らかに違うと言っていた。

そういえば、瀬戸内寂聴も一年のうち二ー三ヶ月は鬱状態とのたもうていたっけ。怪物めいた精力さは案外、躁のせいかと思ったりする。九十歳以上の高齢で夜も寝ずに仕事をするなんて、並大抵のパワーでない。老体がついに悲鳴をあげて圧迫骨折を再発してしまったみたいだが。

躁鬱気質と作家は無縁でない。北杜夫は躁で気が大きくなって、大借金したというし、躁も、結構周囲の家族に迷惑かけるもんである。吉行淳之介も、鬱病で半年ほど入院している。夏目漱石の神経症はいわずもがな、宇野浩二は短期間だが精神病を患っていた(梅毒のせいだったともいわれる)。
線描気質の作家は、神経が繊細、躁鬱などの精神疾患は作家の職業病といえなくもない。

上記の番組でも、クリエイター(作家のみならず、音楽家、画家をも含めた一般的なアーチスト)と鬱の関連性を精神科医が指摘していた。

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