連載「アメリカよ 新ニッポン論」で、日米の首脳同士が広島と真珠湾を相互訪問するアイデアを紹介した(1月3日朝刊)ところ、各紙に同じ意見が掲載され、意を強くした。
慶応大学の渡辺靖教授(米国研究)は16日の日経新聞「経済教室」への寄稿で、「理想と現実の二兎(にと)を追う」オバマ政権の大幅な核軍縮を目指す決意に応え、日米首脳が広島・長崎と真珠湾で「献花し合うことが提案されてもよい」と提言した。
25日の読売新聞では、米ブルッキングス研究所研究員の飯塚恵子政治部次長が「今、オバマ氏周辺では、大統領訪日の機会があれば広島を訪れるべきだとの声がある」と報じている。
だが、外務省の反応は鈍い。理由は「大統領を広島に呼ぶには、自衛隊のアフガン派遣くらいの条件を出さないと……」「首相は真珠湾へ行く前に靖国神社参拝を、というナショナリズムを刺激してしまう」など。
半世紀前の日米安保改定で、官僚たちが旧条約の本体を残す微調整で乗り切る準備を進めていたのに対し、岸信介首相はひそかに全面改定を構想し、米国に新条約を持ちかけた。
外務省は仰天したが、米国は応じた。冷戦の進化に伴い、日本と新たなパートナーシップを結ぶべきだという時代認識を持ったのと、保守合同を成し遂げ、政権をつかみ、総選挙に勝利した岸に、同盟転換のリーダーシップを認めたからだ。
外交は内政と連動し、時に官僚の小才を超えて動く。次の総選挙後、「対米関係を重視するが追随一辺倒はやめる」という民主党が勝ったら、意外に花束外交が日米のダイナミズムを突き動かすかもしれない。(外信部)
毎日新聞 2009年1月31日 東京朝刊