「鎌倉時代の武士たちは、『たのもしさ』ということを、たいせつにしてきた」。これは、司馬遼太郎さんが小学校6年生の教科書に書いた「二十一世紀に生きる君たちへ」の一節。文章は続く。
「人間は、いつの時代でもたのもしい人格を持たねばならない。人間というのは、男女とも、たのもしくない人格にみりょくを感じないのである」
社史研究家、村橋勝子さんの「カイシャ意外史」(日本経済新聞出版社)は逆境下で起業した人々の軌跡を描いた好著で、勇気づけられる。
総合食品メーカー、味の素の土台を築いたのは、農家から嫁いだ鈴木ナカ。夫に先立たれた後、薬品の原料となるヨードを海藻から抽出製造する事業に乗り出す。築いた資産は死後、息子が始めた大事業(グルタミン酸ナトリウムの工業化)を支え、味の素は今年、創業100周年を迎える。
不況を理由に各企業が人員削減を進める中、日本電産は社員約1万人の賃金を1~5%カットする。社長の永守重信氏は「雇用は、城にたとえれば天守閣」(4日付読売新聞)と言う。
人減らしは絶対にしないという、強い意志に基づいた経営判断であり、痛みを感じつつも、安心する社員は少なくないのではないか。
昨年5月まで駐米大使を務めたプロ野球の加藤良三コミッショナーは言っている。「日本にはオプチミズム(楽観主義)が足りない。決断、決意をもってすれば、事態は打開されるというエネルギーが日本にはあっていい」(9日付毎日新聞)
頼りになるのは「さもしい」ではなく「たのもしい」だ。(運動部)
毎日新聞 2009年1月17日 東京朝刊