鉄は超新星からの贈り物。宇宙の歴史を思うと、そんな気がすることがある。
宇宙の始まりに鉄のような重い元素は存在しなかった。恒星は最も軽い元素である水素の反応で輝き、進化の果てに鉄ができる。星が最後に超新星爆発を起こすと、鉄は宇宙空間にまき散らされる。それがめぐりめぐって今、地球上にあるからだ。
超新星どころか「鉄は神様からの贈り物」という研究者もいる。金属学を専門とする東京工業大の竹山雅夫さんだ。第一に地球上にたくさんある。放っておくと酸化鉄として環境に戻る。しかも、温度を上げ下げするだけで結晶構造が変わる。他の材料にはない性質で、「軟らかくて伸び」「強くて硬い」という微妙な兼ね合いが実現できる。
車用の高級鋼板では、この兼ね合いがものをいう。自在に形を変えられ、乗る人の安全も確保できるからだ。その鋼板作りで日本はぴかいちの技術を誇り、車需要が伸びる中国などから引く手あまた。そんな話を聞くと、鉄の見え方がさらに変わってくる。
一方で鉄は、地球温暖化問題の主役でもある。鉄鉱石から鉄を作るのに大量の石炭が必要で、これが温室効果ガスの排出源となる。今春初めて公表された企業別の排出量でも鉄鋼会社は上位を占めた。京都議定書以降の枠組み作りの国際交渉でも、鉄鋼業界をはじめとする分野別の削減目標作りが注目されている。
鉄は時には武器になり、時には私たちの体の中で酸素を運ぶ役目も果たす。鉄とのうまい付き合い方こそ、神様が人類に出題したクイズなのかもしれない。(論説室)
毎日新聞 2008年5月3日 東京朝刊