ものぐさ屁理屈研究室

誰も私に問わなければ、
私はそれを知っている。
誰か問う者に説明しようとすれば、
私はそれを知ってはいない。

暴落はトレンド、トレンドはフレンド 5

2020-04-25 18:00:00 | トレンド・フォロー
duke氏が本書の最後の方で書いているこの文章は、特にどうという事もない常套的な文意で、何気なく読み飛ばしてしまいがちな文章だが、実に象徴的な一文であるように私の目には映る。


<自分のルールを全うする上で重要なのは、「何事も起こり得る。確実なことは何もない」ということを心に受け入れ、確率で考えられるようにすることです。自分の投資法の優位性を「確率的思考」で実行し、売買回数が多くなれば、大数の法則で、最終的には儲かる、勝てると信じることが重要です。>


私が注目するのは最後に<信じることが重要>と書いていることで、これを読んで「ふむふむ、やはりそうなのね」という感を禁じ得なかったからである。やっぱり氏もまたブルース・リー信者であったか、と思ったのである。ここに、ある種の考え方の典型をみたと言っても良い。

あるいは、些細な言葉尻を捕まえて、針小棒大にものを言っているのではないかと取られるかも知れないが、それはここに至るまでの記述の中に、こういった考え方をほのめかす文章がそこかしこに見られたからで、私にはduke氏がついうっかりと<信じる>という言葉を書いてしまったとは、全く思えないのである。例えば、duke氏はさまざまな投資手法を試した手法ジプシー期を経て、ふりーパパ氏の投資手法に出合い、<大きく飛躍>した時のことをこう書いている。


<とはいえ、最初は試行錯誤の繰り返し、疑心暗鬼の連続でした。>

<実際に自分が新高値で買った株式の株価が、さらに上昇していくのを見て、この手法はイケると直感しました。まさにウロコが落ちた瞬間です>


つまり、もうお分かりの方には言うまでもないことだろうが、私が疑問を呈したいのは、「確率」だとか「有意性」(or「優位性」)という言葉は、昨今の投資家なら誰でも普通に使う言葉だが、投資システム(あえて手法とは言わない)の「確率的有意性(or優位性)」というものは、果して「信じる」といった性格のものなのかどうか、果して「直感」で判断する性格のものかどうか、という事である。

これは言い換えると、「確率的有意性(or「優位性」)」の裏付けを何に求めるのかという事であって、勿論、信心や直感に基いて「信じる者こそ救われん」とか「考えるな。感じろ!」と考えるのは勝手だが、相場に置いて「救われる」かどうかは、全く別の話である。私はブルース・リー信者ではないので(というのは勿論冗談だが、いや我ながらくどいね)、理性的合理的根拠による裏付けがなければ、勿論、信用しない。というか、採用しないだけである。

つまり、なにが言いたいのかと言うと、結局ここには、検証という考えが全くもって欠けているという事が言いたいのである。言い換えると、リスク・マネージメントの一環としての検証という事である。これもまた株式投資においては、確率的思考や確率的有意性という言葉の氾濫とは裏腹に、言及されることがほとんどなく、全く軽んじられている重要項目の一つであるが、ネットでの私の狭い見聞範囲でも、株式投資で検証をまともにやっている人を全くと言って良い程見たことがない。

極端な事を言えば、そこにあるのは検証を経ていない借り物の手法や単なる思い付きによる手法の雑多な混淆の群れであって、これではそれらを信じるか信じないかの丁半ばくちになってしまうことになるのも仕方がないと思われる。私がシステムと言うのもこの検証作業を必須の前提とした意味合いで言うのであって、結局、そこには信頼に足る明確なシステムもなければ、それに基づいたルールもないのが実情ではないかと思うのである。この意味において、duke氏が<疑心暗鬼>と書いているのは誠に象徴的であると私の目には映る。或は的確にと言うべきかもしれないが。

であるから、この観点から見ると、duke氏の次のような、いきなりステーキならぬいきなり実弾投入主義的アドバイスは、リスク・マネージメントという意味でも、私には全く受け入れがたいギャンブル・アドバイスとしか思えない。しかも、これは手法ジプシー期を含めてのアドバイスであるから、何をか言わんやである。

<こうした私の失敗から、株式投資の初心者の方にアドバイスするとしたら、とにかく小さい金額で始める事をお勧めします。・・・・投資する金額は小さくてもいいので、退場させられることなく続けていけば、経験値という素晴らしいお宝が得られます。>

私には、この本を読み終わって、duke氏はよくこれで退場しなかったなとしか思えないのであるが、まあ、これはフルタイムの「普通の正社員」という、現在の日本においてはかなり恵まれた給与や付加給付あってのものであろう。つまり、これは「普通の正社員」でも出来る投資法ではなくて、「普通の正社員」しかできない投資法だという事である。一般論として投資家としての退場の成否を分ける最大の要因は、つまり最後に物を言うのは、何と言っても資金量だからである。

ともあれ、私もここでアドバイスをするとすれば、自分のやっていることの確率的有意性について、ある程度の確信や自信がなければ、たとえ利益が出ていようと、即刻実弾投入は止めて、検証作業へと移るべきである。これは実に至極当たり前のことだと思うが、投資以外の実務と同じように、検証→デモトレード→本番トレードという工程を踏むべきである。


というようなことで、NO検証、NO相場LIFE!を強調するために、いささか回りくどい話になってしまったが、ここからは検証へとディペンドして書いていこうと思う。

さて、検証が重要と言っても、検証の目的は検証結果の成否を得る事だけが目的ではない。検証には色々な意味合いがあるが、その最大の効用は、何と言っても、システムに対する疑心暗鬼が無くなるということである。マインド・マネージメントという観点から言っても、このようなダーク・サイド側のマイナス要素は事前に撲滅して置く必要があるのは言うまでもないだろう。この安心感と言おうか、自信と言おうか、猜疑心による動揺の払拭による心の平静さと言うものはちょっと言葉にできないもので、或は検証をやったことのない人にはわからないものなのかも知れない。

さらに、特筆大書きして強調して置きたいのは、検証作業においては、得られたデータを活用・分析することによって、ある程度システムをリファインしていくことができるということである。

この意味では、duke氏が「売買したら日記を付ける」という文章を書いて、ポイントとして挙げていることは、私は高く評価するものである。

<簡単なメモ書きでも、書き続けている内に、必ずいろいろな気付きが得られます。不思議な事に、自分自身の考えや気持ちの整理もできます。心にかかっていたモヤモヤが晴れていくのを実感できるはずです。この効果は計り知れません。・・・・
特に、損をした経験からは、多くの事が学べるはずです。
なぜ損をしたのか。
損切りはルール通りにできたのか。
こうした過ちの原因をメモし、振り返ってみるのです。
そして、そこで得た気付きを、次の売買に生かしててください。
ものごとはこれの繰り返しです。実際にやってみて、反省し、改善点を探す。さらにやってみて、反省し、改善点を探す。それを繰り返していくうちに、徐々に実力が付いてきます。
売買記録をエクセルで管理し、すべての取引を数値化するのもお勧めです。自分の取引記録のデータ集をつくるのです。買い値、売り値、株数、投資額、保有期間、損益率などを記録します。数字は嘘をつきませんから、感覚よりも正しい姿をあなたに教えてくれます。>


ただし、当然のことながらduke氏と私とでは、記録の重要性やその活用法につてのスタンスが異なるので、この文章では大きな不満が残るのも事実である。これでは、よくあるPDCAサイクルのお気軽な総花的一般論的解説の見本みたいな文章でしかない、そう言ったら、あまりにも辛辣に過ぎる感想だろうか。

以下、私なりの観点から記録データの活用法について、もう少し具体的に述べてみたい。

まず、取引記録から勝率と損益比率を計算する。記録を全く取ってない人でも、証券会社にそれらのデータがあるので、この二つの数字は容易に出せるはずである。この二つの数字だけで端的にシステムの特性を知ることができるので、あとはとりあえずは必要ない。つまり、確率的有意性の当否は、具体的にはこの二つの数値ー勝率と損益比率によって明確に知ることができるという事である。言い換えると、私にとって、確率有意性の同義語は検証であり、検証の同義語は勝率と損益比率の数値であると言っても過言ではない。それ程この二つの数字は取り分け重要だということである。計算の基になる期間は、人によって取引量が異なるので一概に言えないが、サンプル数としては大数の法則から言えば1000は欲しい所である。

そして、この出て来た勝率と損益比率という数値によって、自分の実際に行ってきた投資(システム)の現状をまず把握し、そこからこの二つの数値をどう改善できるかを考えていくという手順を踏む。

まず第一に取り組むべきは、平均損失額を減らすことで、大体普通は損失額が大きすぎるのが足を引っ張っているので、最初に損切ルールを見直すという事である。また、損切ルールを変えると損益比率だけではなく、それに伴って勝率も変わってくるので、いろいろとルールを変えてみて、利益が最大になるように最適な組み合わせの数値を探って行く訳である。この時に、何パーセント下がったら損切りするというような自己中心的なと言う意味での主観的なルールを採用している人は、前に述べたように相場に基いたという意味での客観的な基準(例えばATRの何倍とか、いろいろな平均移動線とかにタッチした時点とか、PIVOTとか等々)も検証してみるべきである。

普通はこれだけの作業でも数字は劇的に改善される場合が多いが、これが終わったら次には平均利益額を増やすことの検証で、これも同様に利食いルールを見直すことで、最適解を探って行くのは、損失の場合と同じである。また、この時には、先の客観的な基準に加えてブレイク・イーブンだとかトレーリング・ストップも検証すると良いだろう。主に、前者は勝率の、後者は損益比率の改善に寄与するはずである。

そして、最後に見直すのはエントリー・ルールで、特に損失で終ったトレードは、そもそもエントリー自体が問題である場合が多いので、エントリー・ルール自体の見直しもそうだが、それだけでなく、エントリーに何らかのフィルターを掛け、エントリーを厳選することも検討すべきである。

そして、このエントリー・フィルターとして最も重要なのは相場認識の技術であるが、これはかいつまんで説明することが出来ない性質のもので、前にも少し述べたがより高次の大局観が重要であるということである。至極単純化して言えば、例えばマクロの局面がダウントレンドなのにも関わらず、ミクロの局面のアップトレンドで買いで入るから、損切が頻発することになるといったことである。ファンダメンタルだけをエントリー基準にしている人は、往々にしてこういったバリュー・トラップの袋小路に嵌り易いので、特にそうである。ここでは、日本の相場格言ー「着眼大局、着手小局」を紹介するに止める。


とまあ、以上の三つの段階を踏むことによって、バルサラの破産確率表と照らし合わせて、破産確率がゼロとなるような勝率と損益比率の数値に持っていくのが理想であるが、以上の概略説明からも容易に想像されるように、検証には膨大な作業が必要とされることは覚悟しておかなければならい。期間も、まあ最低でも半年はかかるものと考えるべきで、それでも結果が保証されている訳ではないので、検証の結果として、リファインしたにもかかわらず結局使えないシステムだったという事も十二分にあり得る。まあ、これは投資に限らず検証と言うものに付物の<経験値という素晴らしいお宝>であるから仕方がないとも言える訳だが。


ということで、以上でもって、私の考える検証作業というものについての基本的なアウトラインを述べてきた訳だが、これを読んで、果して実際に検証をやってみようという人がどれだけいるだろうか、という疑義を私は拭い去る事が出来ないのも事実である。

恐らく、実際にやってみる人は殆どいないのではと想像するが、結局のところ、「投資」と言うのは、出来合いの「手法」に一か八か懸けてみるか、(金銭的に余裕のある人は実弾で)試行錯誤しながら、自分でオーダーメイドのシステムを作り上げていくかの二択しかないというのが厳然たる真実であって、検証がその分水嶺になるという事実は動かせない。要は、この眞實にどう向き合うかということである。

前に、「淡々と実行できなければ」と書いたことやシステムという言葉から、或はインデックス投資を連想した人がいるかも知れない。私に言わせればインデックス投資というのは、投資システムとして見れば、一方においては範とするべきものであって、普通はその成果に満足できないから、パッシブではなくアグレッシブ投資を行っている訳であるが、今回の暴落で、アベノミクスで積み上げて来た利益の多くをを一挙に吐き出すことになった人も多いだろう。過去の例からいづれ回復してゆくと考えて、ホールドに徹するのも一案であるが、今一度再考してみることも必要であろう。つまり、インデックス投資の成績(大体、年率5~7%)を今後も確実に陵駕出来る自信がないと考えるのであれば、これまでやってきた「投資」に懸けてみる(という「投機」)よりは、インデックス投資の方が、はるかに賢明な選択肢である事は言うまでもないということである。


さて、以上でもって理論編の”まくら”を終えたいと思うが、結果的にduke氏に批判的な文章になってしまったので、duke氏の苗字が東郷ではないのを祈るのみである(狙撃されたくはないので。ズキューン!あっ。)。ただ、私としては目に見えぬ伏字を復元しようと努めただけの事であって、そのために日本の株式投資では普通語られることのない、原理原則に関する項目や考え方(太字で示して置いた)を取り上げることになってしまった訳である。ここまで読んでこられた奇特な方には、或は聞きなれぬ事ばかりで頭の芯がいささか疲れたかもしれない。しかし、知っている人にはごくごく基本的・初歩的な事柄ばかりなので、ご苦労さんでしたと言いたいところだが、肝心要の演目はこれからである。

ということで、次回は今回の暴落での実践編へと移りたいと思う。


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