ものぐさ屁理屈研究室

誰も私に問わなければ、
私はそれを知っている。
誰か問う者に説明しようとすれば、
私はそれを知ってはいない。

トランプ政権の意味するもの(2)

2019-01-26 12:00:00 | 着眼大局
さて、だいぶ間が空いてしまったが、このへゲモンから脱落しつつあるという状況変化に対するアメリカ自身の自覚を象徴的に示していると思われるのが、ハリウッド映画で描かれるヒーロー像の変化である。以前に、アメリカ映画で描かれるヒーロー像の特徴として、「正義」のために戦っているにも関わらず、周りに理解されず、反感を買い、返って「悪」と見做されてしまうといった点を指摘したことがあるが、そのあり方が例えば幾つかのアメコミ映画—―「ファンタスティック・フォー」「アベンジャーズ」「ジャスティス・リーグ」などに見られるように、現在は単独ヒーローものから戦隊ヒーローものに変ってきているのは、私には非常に興味深い。へゲモンから脱落しつつあるという過渡期にあって、他国との協調を余儀なくされつつあるアメリカの現況を実に象徴的に示しているように思われるのだ。





「YOU CAN'T SAVE THE WORLD ALONE.」

とは、アメリカはもはやこれまでのように「世界の警察官」ではいられなくなったということである。



トランプの主張する「アメリカ・ファースト」の根本的な背景としては、第二次大戦後、アメリカが世界最大の債権国から世界最大の債務国へと転落してしまった端的な事実を挙げれば判り易いだろう。つまり、このアメリカの凋落は、これまでのへゲモンとしてのPax Americana(パックス・アメリカーナ)の正当な帰結であるとも言い得るからだ。


第二次大戦における戦勝国の中で、アメリカは経済的インフラの破壊を免れたほとんど唯一の戦勝国であった。1944年にブレトンウッズ体制としての国際金融体制が確立されるのと期を同じくしてアメリカは、ガリオア・エリアの名のもとに日本に18億ドル(無償13億)、マーシャル・プランの名のもとに欧州に102.5億ドル(無償91億)の経済援助を行った。そして1950年代になると日本も欧州も戦争による荒廃から復興することが出来たので、アメリカは資金援助は打ち切ったが、その後も日本や欧州のさらに経済的発展を促進する為に自由貿易の拡大政策を採ったのである。

この自由貿易拡大政策というのはへゲモンたるアメリカの、対外経済援助政策であったと見る事が出来る。

これはどういうことかいうと、自由貿易政策とは、実質的には世界に向けたアメリカへの対米輸出振興策であった訳である。アメリカは消費大国として、低税率で世界中からの輸入をほぼ無制限に受け入れ、他国が高い輸入関税を課して国内産業を保護する一方、アメリカは低い関税で他国からの輸出を促進した。従って例えば、戦後のアメリカの資金援助と自由貿易なくして、戦後から今日に至る「アジアの奇跡」と呼ばれた日本経済の復興発展はなかったと言っても過言ではない。戦後、発展した名立たる日本の大企業の殆ど総ては、アメリカという巨大なマーケット無しにはあり得なかったのである。

このようにして、アメリカはドルを基軸とした国際金融体制の下で後進国や発展途上国経済を先進国へと押し上げし続けてきた。そのためにアメリカは自由主義陣営の安全をアメリカの負担で保障、「世界の警察官」としての役割を果たしてきた。この「世界の警察官」としての多大な軍事力は、大体、アメリカを除いた世界の軍事力の総計のおよそ二倍に達すると言われているが、その膨大な軍事費をアメリカは負担してきた訳である。

現在日本、欧州、そして中国経済はアメリカの経済援助なしでも自律成長出来る段階にまで達している。そして中国や日本が対米黒字国になったのと反比例して、アメリカは世界最大の貿易赤字国になったのである。だからトランプは、自由貿易と言う名の対外経済援助政策は、もはや続ける必要はないと主張するのである。

結果として見ればアメリカは基軸通貨国として、対米黒字国に米国債(アメリカの借金)を売りつけ、貿易赤字との危いバランスをとってきた。この意味において、ここには一種のドル還流システムが存在すると言わなければならない。アメリカにとって自由の拡大とはアメリカのドル市場の拡大であって、それはすなわちドル需要の拡大である。結局のところ、このようなドル還流システムはドル乱発を可能にし、天文学的に増大し続けるアメリカの借金を他国に肩代わりさせることを意味する。

そしてこのドル還流システムは、ドル基軸通貨制とアメリカの「世界の警察官」たる圧倒的な軍事力あってのものである。従って、このドル基軸通貨制とアメリカの「世界の警察官」たる圧倒的な軍事力がパックス・アメリカーナを支える表裏一体の二大要因であると言うことが出来る。


すでに述べたように、トランプはこうしたパックス・アメリカーナを終わらせるために登場した大統領であるというのが私の基本的な認識である。従ってパックス・アメリカーナの二大要因である「世界の警察官」と「ドル基軸通貨体制」をトランプは終わらせることをその二大使命とする。言い換えれば、この二点を押さえておけば、彼のマキアベリズムに翻弄されることなく、その政策の本質を見誤ることもないとも言える訳である。世界を敵に回してのトランプの高関税政策の意図するところも、これも「脱ドル基軸通貨」という文脈から見なければならない。大きな見取り図としては、今後の世界は、アメリカと言う世界の政治・経済のへゲモンがいなくなる中で、国家間の激烈な経済競争や軍事戦争が始まることになるだろう。いわゆる「帝国の時代」から「帝国主義の時代」へと移行していくことになろう。アメリカの世界の警察官放棄は軍事覇権の多極化へ、ドル覇権放棄は国際通貨の多極化へ向かう。その論理的に帰結するところは、第三次世界大戦とIMFのSDR(特別引出し権)である通貨バスケット制による金本位制復活というのが当然に考えられるシナリオであろう。



さて、つい先日の株式市場の暴落は、米十年国債の利回りが3%を越えた事を発端として起ったが、これがなぜ暴落のトリガーとなったのかという明確な説明は、あまり、というかほとんどなされていないようだ。以前からこの利回り3%というのは危険水域だとみなされてきたが、これは端的に言えば、先のドル還流システムに黄信号が灯ったという事である。利回りが上がるー米国債がさばけなくなったという事実の裏には、これまでの主要な買い手であった中国やサウジアラビアなどが手を引き始め出しているという事情がある。残るは日本であるが、今までの米国債の保有国の第一は中国、第二が日本、第三がサウジアラビアであったが 2年程前から中国はキャピタルフライトが止まらず、中国は外貨準備からドル資産(米国債)を減らしてきた。 サウジアラビアも原油価格が 100ドル台から 50ドル台へと下がったために財政赤字に陥り、建国以来初めて国債を発行するなどして手持ちの米国債を減らしている。従って今や日本が世界第一の米国債の保有国となっている。今回の暴落は、以前に橋本総理が訪米した折に「米国債を売りたい欲求に駆られる」と述べて株式市場が小暴落を起したのと大本では同じ理屈による訳である。そもそも株式市場よりも債券市場の方が圧倒的に規模が大きく、リーマンショックも債券市場に端を発して起ったことは記憶に新しいが、このようにドル還流システム=ドル基軸通貨体制には黄色信号が何度か点滅し出している。私見では、恐らく2020年から2025年位に掛けてリーマンショック級のクライシスが再度起るのではないかと見ている。勿論トランプはこの認識を確実に持っていると思うが、トランプ政権は法人税減税、レパトリ減税、軍事予算増額、インフラ公共投資等々の財政主導型経済政策を採用し出している事実を考えれば、第二期トランプ政権末期以降の2025年以降あたりにずれ込むかもしれない。さらにトランプ政権はアメリカの貿易赤字の60%を占める中国の輸入品に高関税をかけて輸入にブレーキをかけ、国内企業の供給量を増やそうとしている。そうすることで貿易赤字を減らし、国内企業を活性化することが出来る。中国のアメリカからの輸入品に対する報復関税で輸出が減る分国内で生産することになりビジネスも雇用も増大する訳である。法人税減税、レパトリ減税はその為にある。

前に<現在出来上がっている体制を「資本=ネーション=ステート(国家)」とする。この概念は、資本とネーションとステートという異質なものがハイフンで繋がれている訳だが、・・・・勿論、この三つは重ならないので、そこからさまざまな現代的な問題が噴出して来ると言うことが出来る>と書いたが、トランプの保護貿易は、単にアメリカの国際収支の黒字化の為だけではない。このようにアメリカと世界にとって今や弊害となる自由主義・グローバル主義を終わらそうとしているのである。

自由貿易・グローバル化前は賃金が経済成長の牽引車であって、賃金上昇と経済成長はある程度パラレルであったが、自由貿易・グローバル化後は国際競争力を競うために、賃金は単なる経済上のコストになってしまった。その結果、グローバル化で企業は内需と外需の両方で規模を拡大出来たが、賃金は低迷し続けることになり、その一方で、国家経済は潜在的に財政破綻化することになってしまった、いわゆる「先進国病」である。いささか十把一絡げに大雑把な言い方をすれば、先進国の国民の生活水準はピークに達していて、これといった革新的な大きなイノベーション期待もなく経済は構造的に デフレ体質が定着している。この様な中で、設備投資欲の期待が持てないところに金融緩和をしても、株と土地の価格が上がるだけで実体経済そのものには殆ど効果が上がらない。減税で企業に余分な資金を与えても結果は金融緩和と同じで、株と土地の価格が上がるだけで設備投資は増えないでいる。 結果、経済的格差が拡大し、実体経済には一向に効果がないということになる。この点は、アベノミクスなども同様あって、戦後最長の好景気が続いているというのが表向きの政府発表であるが、購買力平価によるGDPの日本の世界順位は下がり続けている。以下に見る様に、現在はインドの次の第四位、一人当たりの購買力平価GDPでは第三十位であるが、米国や欧州と共に今後さらに順位を下げていくことは想像に難くない。日本のジャーナリズムでは米中貿易戦争による中国経済崩壊論が未だに根強いが、これなぞは一種の希望的観測でしかないのであって、今後は中国ロシア、それに勃興するアジアアフリカ中東諸国を加えた所謂BRICSを中心に世界は回っていくと思われる。世界主要国会議もG7からG20、G30へとその重点が移っていくことになろう


世界の購買力平価GDP(USドル)ランキング

世界の一人当たりの購買力平価GDP(USドル)ランキング



次に外交政策を見てみると、トランプ政権の2018年の外交成果としては、主なトピックとして目に付くのは、

●米朝首脳会談実現、

●中東シリアからの米軍撤退

であろう。

これらは「脱世界の警察官」という文脈からみると勿論、繋がっている。今後トランプは世界中の米軍を撤退させ、引き上げていくだろう。その第一弾は中東シリアであった訳だが、アフガンからもこれから撤退していき、中東からも完全に手を引く事になろう。そして、次は欧州、極東という流れになるのは明らかである。米朝首脳会談実現も極東から米軍撤退を撤退させる政策の一環として見ることが出来るので、今後、米朝間で平和条約が締結されれば、在韓米軍の必要性がなくなるのは言うまでもない。恐らく、今年あたりから、在韓米軍撤退という話題が表面化して来るのではないかと思われる。そして、その次は在日米軍撤退という流れになるだろう。

その時、日本はどうするか。

日本国憲法9条は、アメリカの核の傘とセットでこそ成り立ちえたのであって、近い将来この核の傘がなくなるということである。安倍政権が憲法改正を急ぐのも、トランプ政権のこの在日米軍撤退方針を知っているからこそと思われる。というか安部・トランプ関係の蜜月が伝えられて久しいが、そもそもこの点で基本的な見解の一致を見ているがこその蜜月関係であろうと私なぞは考えるのであるが、在日米軍撤退によって憲法改正による日本軍再軍備化へと向うのは避けられないだろう。

そして、中東からの撤退は、「脱ドル基軸通貨」という文脈から見ても、将来、石油の決済通貨としてのドル離れ、いわゆるペトロダラー(現在、OPECの原油の取引通貨はドル独占)からの脱却を意味することになろう。これに対しても勿論アメリカは着々と手を打っているのであって、アメリカのエネルギー政策としてシェールガス革命による石油自給率の向上が挙げられる。アメリカはシェールガス革命で原油生産量が2005年以来急速に伸び、現在では天然ガスではロシアを抜き世界一、原油もサウジアラビアの世界シェア13%(ロシアも13%)に肉薄する11%にまで上がってきている。このシェールガス革命によって、アメリカは石油輸入国から石油輸出国へ転換しつつある訳である。











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