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エレキテル 22

2011-11-12 20:00:00 | Tyndallナノ
記憶は遥かに遠くなり、定かではなくなったので、その片割れを弄るように虚空に思いをを馳せるが、「想い雲」はあつく垂れ込めてくるばかり。とても雲外蒼天とはゆきそうにもない。

しばらくはホワイトノイズと、付き合わなくてはならないだろうとブラウンな心地する。そのとき目の当たりにした光景がこれであった。Brownian noise can be coloured

微細な球状粒子と周囲の液体とのもつれ―相互作用-の観測に初めて成功したことを解説的に報じている.球状粒子は過去の運動を記憶し、新しい原理の生物物理分野のセンサーに繋がる可能性があると考えている.ブラウン運動のもつれ観測に初めて成功1個のµmサイズのメラミン球を,絞込んだレーザ光で形成した光ピンセットでトラップして実験を行った.

ブラウン運動の縺れ、コロイドが過去の運動を記憶に留めていたのだ!

思い出された「微小粒子のブラウン運動」とか「拡散」などの、お浚いをすました。

いまだ、すみません、それが界面のお浚いです。

ここでは二つの内の、超微視的な界面の方です。

あの“液滴表面上の張力”の図が⑭である。これを表面エネルギーと呼ばれる仕事によって説明せんとして、“内部圧力に打ち勝つための抵抗力(a)、表面の増加のための仕事の消費(b)”、それが図⑮、そのセットで提示されているのだ。

一見見慣れた風景は、何となく安堵感を伴い、見逃してしまうものだが、少しそこで立ち止って見ると、この簡単な図形が何かと気付かせてくれる。

この簡単な模型で表面張力の現象を細部にわたって説明することは難しい、と断りがあるのだが・・・・
この漫画を立ち読みしていると、その文化がその時代が異なるが故にか、何かと注釈を付しておきたくなる。

表面張力のベクトルは、意識して直角であるべきであるし、その表面から液体内部に引き入れるためには、表面張力に抗して、ある力を加えなければならののであってみれば、それは加算されてしかるべきであろう。

さらに大切な事は、仕事を明確にさせておく事ではないか。その結果としてその表面積を増加をも漫画化されてよい。

かくして、等温的な仕事との言及をしたうえで、エドヴェシュの法則とか片山の式(1915)の仕事にも触れ、修正を施したいものである。

片山正夫の提案になる液体の表面張力の温度依存性を与える式。これはエートヴェーシュの式*の変形でもあるが,もっと広い温度範囲で実測値とよく合致する.



さらに、パラコールなどにも一言あってほしいものである。

こうすれば、現在では液体の構造は、むしろ結晶の構造に似たもであると認めれている。たとえば液体中の分子は密に詰められた規則的配列をとろうとする傾向をもっている。したがって、それらの規則的な集団は液体中に短距離引力が存在することを立証するものである。というわけだ。


それからの“表面張力の測定とその値”では、図⑯“毛細管の液体の上昇、液体が壁をぬらす場合”等を割愛して、du Noüy法(リング法)測定子としてリングを用いる du Noüy法は50年程前から普及しおり、今でも一部のJIS規格(K 2241)に掲載されています。

Surface tension 水の表面張力は72.8、エルグ/cm2(ダイン/cm)は、20℃であるがその温度上昇とともに、ほぼ直線的に減少し、臨界温度(約370℃)では、0になる。

しかし、表面に不純物があると、しばしば表面張力を著しく変えてしまう。
表面張力の実験 小1の実験で表面張力の実験をしました。表面張力が弱くなり、一円玉が沈む様子は驚きです。




エレキテル 21

2011-11-09 17:45:00 | Tyndallナノ
道草は楽しいのだが、そろそろ切り上げなくてはならない。そんな時に眼に止まったのが、「水はなんにも知らないよ」(左巻建男)


波動水、磁化水、マイナスイオン水、パイウォーター、トルマリンを使った水、clusterクラスターの小さな水、抗酸化性をうたう水・・・・
世にあふれる“怪しい水ビジネス”を科学の視点で徹底検証!


「水に“ありがとう”と、言うと美しい結晶ができる」
「マイナスイオンは健康に良い」
「磁石で水は活性化する」
・・・・それってホント?

検定外教科書の第1人者が、怪しい水ビジネスを徹底検証。
まん延するニセ科学を喝破する!

これらが、そのキャッチコピーなのだ。


はじめに
「水が人の言葉を理解して、きれいな結晶をつくる?」
将来、小学校教員を目指している学生が、ある日こんなことを言ってきました。
「先生、この前、水の結晶の写真が載っている本を読みました。水が言葉を理解してきれいな結晶になったり、きたない結晶になったりするんですね」以下、割愛。


おわりに
その終わりに水が“ばかやろう”に反応!

「言葉の意味が水に影響を与える」という話は、物理学会では相手にされなかったが、1部の学校教員には評判がよく、道徳の授業に使われることもある。人間の体は多くの水を含んでいるので、“ばかやろう”などと悪口を言うと体に影響が出る、というストーリーだ。

「ニセ科学が学校に入り込み、「子供たちを毒している」。中学や高校で理科教師を務め「新しい理科の教科書」シリーズなどの著書がある同志社女子大の左巻建男教授(理科教育)は危機感を抱き、8月と9月に京都と東京で「ニセ科学フォーラム」を開いた。


自然界全般に対する興味・関心を育てるために理科教育の理念を見失った学習指導要領から自由な場での議論を経てつくられた、「やってみて、考える」理科の手引き。小学6年では、植物や動物がの関わりや、自然の現象を探り、考え、自然に働きかけることを納得できるよう解説。

この水に限らず、ニセ科学を見抜く能力を社会全体に広めて、ニセ科学の横行を阻止するのが目的だ。8月26日の京都会場には約110人が、9月2日の東京会場には約160人が集まった。
その会場では、菊池誠・大阪大学教授(物理学)は「生物でないただの水が、人間の言葉の意味に反応するというのは、即座に笑い飛ばす程度の話。なぜこれを科学的な事実だと思い込んでしまう人がいるのか、その理由を考える必要がある。」と語った。
小波秀雄・京都女子大教授(化学)は、数年前に流行した“マイナスイオン”について、「大気中のイオンだと定義はできるが、濃度から言って、人体に何らかの影響を及ぼすと考えるのは無理がある」と効能を否定した。

左巻さんは、「今後もフォーラムを開いて、ニセ科学にだまされない社会を作るにはどうしたらいいのか、真剣に議論していきたい」と話していた。


本書は、ニセ科学の代表格である“波動”系ビジネスを主にとりあげて、筆者の専門である理科教育、科学リテラシーの育成の観点から検証したものです。
信じ込んでいる人を変えるのは難しいと思いますが、「もしかしたら本当ではないか」と迷いをもっている人に判断の参考にしていただければと思います。また水に関しては、さまざまな誤解も存在していますので、それをとくよおうな基本的な知識についても押さえるようにしました。


「クラスターの小さい水は健康によい」は本当?を、読んでみた。


“しかし、松下和弘説は一見わかりやすいので世に広まりました。科学的に否定されているという話は、一般の人にはほとんど知られていません。大河内正一氏と共同研究した上平 恒氏(元北海道大学理学部教授)による「水の分子工学」を読むなどしなければわからないからです。ですから松下説は今も大活躍です。”と無念を滲ませている。




講談社サイエンティフィク
水分子の動的、静的性質を工学向けに解説。
複雑で特異的な水溶液の性質は、水の独特な性質と構造に起因する。その水の性質と構造、水分子の動的、静的性質と相関関係を工学領域の問題解決に役立つよう解説。




参考となるだろうか。
水のクラスター −伝搬する誤解−

NMR測定の正しい使い方
 実際には、17Oのスピン-スピン緩和時間T2は、水の構造の指標にはならず、そのかわり、むしろpHの指標になる。・・・・・・・
なお、17Oスペクトルの半値幅と、pHの関係については、大河内らによって、水環境学会誌vol.16(1993)411-、にも報告がなされており、「水の分子工学」(上平恒、講談社サイエンティフィク、ISBN4-06-153378-9)の102ページに引用されている。


これ以上の深入りは無用であろう、溺れかねない。

エレキテル 20

2011-11-08 20:00:00 | Tyndallナノ
エッセイ化学論「化学を創ってゆく道すじ」(立花太郎)を、しばしば読みかえしている。

「溶液の中の正負のイオンが共存できるのはなぜか」は、短いので全文を転記しておこう。

食塩や酢酸などの電解質のづ水溶液の中には正イオンと負のイオンが存在する。
私はこの電解質の電離説を中学および高校で教えられた。しかしこれには何となく妙な気がしたものである。
それは正の電荷と負の電荷とは互いに引き合って中和しようとする傾向があることを、すでに小学校か中学校で習って知っていたからである。それで水の中で、どうして正イオンと負イオンが寄り合って中和してしまわないで存在しているのかがわからなかったのである。

私は高校時代に何か参考書でこのことを調べたらしい。というのは、私が高校時代に読んだ化学書の欄外に次のような書き込みがしてあるがからである。文語体で書いてあるのを口語体に直すと、
“反対符号の電気を荷ったものが多数共存できるのはどうしてか。溶媒の絶縁性に起因して反対符号の電気が共存する。水がライデン瓶のガラスのような作用をして正負の中和を防ぐものと理解すべきである。”

これがどういう本から抜き書きしたか、いまは思いだせないが、よほど古い本を見ていたらしい。それにしても、電離説にはだれもが疑問を抱いたらしく、こうした解説が必要だったのである。

この解説では水は単なる絶縁性の媒質としているが、それは誤りで、実は水に物質が溶解するのはすべて水がその物と反応するためであることは大学に入ってから初めて知った。

溶解熱はそのときの反応熱なのであるが、高校のときにはそのことに全く気がつかなかった。またイオンをただの遊離の電荷とこの解説でもしているのは誤りで、実はイオンは化学的実体であることはいうまでもない。

今日では高校の教科書でも、疑問の起こらぬように書いてあると思うが、私の学生時代には電離説は不思議な説だったのである。

アレニウス(S.A.Arrhenius)が1884年に初めて電離説を発表したとき、それに対して当時の有力な化学者から多くの反対があった。その反対説の一つは、私が学生時代に抱いた素朴な疑問と同じであった。私はそれを化学史の本で知ったときには、自分が19世紀の大化学者と同じ意見をもったことに大いに満足したものである。


           

あの「化学の原典」で、解説を上平 恒が担当している。
EdlundのもとでArrheniusは研究を進め、1884年5月に博士論文を提出した。この論文は「電解質のガルバニーニ伝導度に関する研究」という題名でフランス語で書かれており、1884年ストックホルム科学アカデミー報告の第8巻に発表され、2部からなっている。

論文の第部は、WilliamsonやClausius、Hittorfらの電気伝導度に関する実験的研究に基礎をおいた理論であって、ここで電離説が提案されている。

彼は、溶けた電解質分子は活性な部分と不活性な部分から成ると考えている。すなわち、ある水和物(hydrate)は、電解的に活性な部分と不活性な部分から成っていると提案している。そして、これらの部分は溶液中で化学平衡の状態にあり、希釈度が増すにつれて活性な部分が増加し、不活性な部分は減少すると考えている。


Arrheniusの論文は化学にも物理学にも属さないとみなされたが、この時期はまさに、物理化学という新しい学問の領域がこれらの人達によって開拓されていた時代であった。→Clausius、Meyer、Ostwald、van 't Hoff

1887年、ドイツ人化学者ヴィルヘルム・オストヴァルトと共に科学雑誌 Zeitschrift für physikalische Chemie(物理化学誌)を創刊した。スヴァンテ・アレニウスの電解質の理論についても研究し、1889年にアレニウスの式の物理学的根拠を与えた。


エレキテル 19

2011-11-07 09:23:26 | Tyndallナノ
一般に群衆から離れて別の地域で生活するようになった動物種は、生存闘争の敗者であるとされている。たとえば魚類は一般に浅瀬にすむが、それは食物や酸素の供給がよいからである。
これに対して深海にすむ魚類は集団から逃避した種類であると考えられている。その意味では生存闘争における落伍者だったのかも知れない。


「厳しい上陸の条件」に掲げられている図5-1には全生物界の進化系統図である。その始原生物からの多細胞化でもあるような分裂の様は、進化という言葉とは裏腹な、棲み分けのように、想える。

よく知らた説ではあるが、植物が上陸を図った足場は河口付近に広がる湿地帯であったとされている。
魚類に関しても似たような関係性が指摘されて、干潟などへと幾度となくうちあげられての、試練に馴化した変種であったのであろう。
かくして、様々な環境変化への生き残りの果てに、われわれのような陸生化してきたのであるか。

イメージとしては足元にある、今治市孫兵衛作にある医王池(通称 蛇越池)に、その面影を認められるのかも知れぬ。

様々な試練の1つは「乾燥との闘い」であろう。それゆえにか陸生の動植物における体の表皮はクチクラ(キューティクル、角皮)と呼ばれる層で覆われている。(ロウや脂質等)

さらに必要な事が、空気呼吸。
その呼吸代謝は、いわばエレクトロニクスであるから、そこでは多量の電子が生産される。元来、電子は有害であるから、通常にはこれを酸素と結合させ、さらに水素イオンと反応させることにより無害な水としている。こうして
生産される水を代謝水といい、必要な水として活用しているのだ。

これからの事だが、寒冷地にすむ、泥鰌などは、慢性的な酸素不足の状態におちいり、ひたすら運動量を減らし、無酸素代謝(発酵)を用いて、生きのびるためのエネルギーを生産するのだ。

ともあれ「生命にとって水とは何か」(中村運)を、一読した時の印象はあたかも「平家物語」でも読み終えたかのように感じたけれども、それは彼の化学進化論でもあるのだ。
その水球観は、コロイド観に通じているように想える。

知られざる素顔といって良いのであろう。
それが「膜進化説」である。その発想は化学進化論に求められるが、その契機はあのマーグリス「真核細胞の起原」、共生説にあった。

マーギュリスが唱えた説の内容は、
1.細胞小器官のうち、ミトコンドリア、葉緑体、中心体および鞭毛が細胞本体以外の生物に由来すること。
2.酸素呼吸能力のある細菌が細胞内共生をしてミトコンドリアの起源となったこと。
3.スピロヘータが細胞表面に共生したものが鞭毛の起源となり、ここから中心体が生じたこと。
4.藍藻が細胞内共生して葉緑体の起源になったこと


それを熟読してみて、これは間違っている!!との、動物的な、化学者としての臭覚を想わせる直覚である。
それから5年後の1975年に発表したのが「膜進化説」である。その概要は「日経サイエンス」1997年5月号にて読める。



本件は別の機会に検証してゆく。
自らが増殖する人工細胞我々のグループは、ショスタック(2009年ノーベル賞生理学・医学賞受賞)らが2001年に提唱した要件を満たす人工細胞を、有機化学的方法によって構築することに、世界で初めて成功した。

エレキテル 18

2011-11-06 09:05:16 | Tyndallナノ
水和量および水の物理状態の測定法にもふれておきたい。

それらの方法によって、測定される量が長い時間の平均値か、それとも短い時間におこる変化を観測しているかによって、得られる水和量や水の状態は一致しない。
図4ー1には水和量の測定法と時間スケール、情報との関係が「外科と代謝・栄養」16(1)、3(1982)上平恒から転記されているのだ。


熱力学、X線解析、光散乱→固体の老化と対応して            +2(sec)

温度、圧力、ジャンプ→化学反応、高分子固体中の拡散           0(sec)

誘電分散とか超音波吸収、NMRなど→水素結合の寿命、水溶液中のプロトン移動あるいはタンパク質のコンホメーションのゆらぎ等                 -2〜-12(sec)

IRラマン、非弾性的中性子散乱→水溶液中の水分子の並進および回転緩和、分子運動
                                  -14(sec)


熱力学的方法では十分長い時間における水分子の平均状態が測定される。
一方NMR法では10のー12乗〜10の-6乗secの間の短い時間での分子の運動状態がわかると言うわけだ。


図4-2では生体表面の水の状態についての分類が示されている。
緩和時間との関係は大きく3段階に分けられている。

10の-12乗secは、   自由水またはバルク水

10の-9乗secでは、  自由水・凍結水・結合水そしてガラス状の水が併記される

10の-7乗secには 不凍水・凍結水となる。



「膜 」 Vol.8 , No.6(1983)pp.351-359 「生体中の水の挙動 」 上平 恒
               

生体膜の水和 Fig. 4 界面の水の状態

Fig.4はある極性面上での水分子の配列をモデル的に示したものです.
界面に接している水分子は界面との相互作用により一定方向に配列しています.

第1層の水分子の緩和時間は10-7~10-6secくらいで.先程のアミノ酸の回りの水分子の緩和時間は10-12secのオーダーで,純水中の水分子の熱運動よりもほんの少し遅い程度でした.

界面に接すると何故こんなにも遅くなるか?
水分子が密接して配列し,界面と水分子との相互作用の他にも水分子間の相互作用が加わってきますから、そのために水分子全体の運動が遅くなると考えられるのです。

そして2層目,3層目にもなりますと熱運動のために、その配列がだんだん乱れてきます.

なおBiological membrane生体膜の場合には(+)と(-)の極がありますから,それぞれの極の周りでは水分子の方向は逆になっています.タンパク質の表面についても同じように考えることができます.

エレキテル 17

2011-11-05 20:00:00 | Tyndallナノ
「水は万物のみなもとである」(カナアン出土の粘土片)
「五行は河から始まる、万物の由って生ずるところのもの、元気のエキスである(元命苞)
「水は万物のプラエレメント(根源)である」(ミレトスのタレス)

水の重要性に関する認識は古くからあったが、生物にとって水がどのような役割を果たしているかに関しては、あいまいなままであった。
19世紀後半から20世紀の初めにかけて、コロイド化学の成果に基づいて、生物学者達は、生きている細胞は半透膜に囲まれた希薄な溶液であると考えた。
したがって、水の主な役割は、生体内化学反応を行うための溶媒であるという点にある。
引き続いて1950年代までに、いろいろな膜理論が提案され、種種の生理現象を説明することができたが、生体系の水に関する認識は、細胞内の水は希薄電解質水溶液と同じであるという段階にとどまっていた。

しかし、物理学や物理化学の進歩により、水そのものが単純な液体ではないことが明らかとなり、さらに生理学や生物学の発展によって、上記の膜理論では説明できない現象が数多く見出され、これらの理論の妥当性について疑問が生じてきた。そして、水の特異性が生物にとって本質的なものであるという認識が生じた。


水のX線解析はの最も詳しい研究は、NartenとDanford、Levyによるものである。4〜200℃の広い温度範囲にわたって彼らが得た水の動径分布曲線の結果からわかったこと
①室温付近で中心分子から0.8nm以内にある分子配列が存在する。0.8nm以上では、観測値は1になるので水分子の配列は完全に乱雑である。
②十分長い時間について平均をとると、中心分子から0.29、0.45〜0.53、0.64〜0.78nmの位置に水分子が分布している。
③動径分布曲線の第1のピークの位置は、4℃の0.282nmから200℃の0.294nmまでずれる。すなわち、温度とともに、最近接分子間距離が増す。
④曲線の第1ピークの下の面積から計算した最近接分子数は一定で、4.4である。
⑤0.35nm付近にある小さなピークは、厳密な正四面体配列では説明できない。
参考記事Properties and Structure of Water化学と教育 43(8), 494-500, 1995-08-20

これらの結果から、室温付近の水の近距離秩序に関しては、基本構造として氷Ihの正四面体配位をとり、そのため空孔の多い構造を形成している。そして0.35nm付近に無秩序な分布に対応する水分子が存在する。

①混合物モデル 水と水素結合によって結ばれたクラスターと、水素結合していない自由な水分子との混合物とみなして、その間に熱力学的平衡が成立していると考える。

           熱い氷
図は縦軸に温度(摂氏と絶対温度)、横軸に圧力 (GPa) を取った。1 GPa は大気圧の1万倍である。例えば、10 GPa では数百度という高温の氷VIIが存在することが読み取れる

② 割り込み分子モデル Samoilovが、Ihの結晶構造がかさばって空孔の多い構造であることに注目して、これらの空孔の一部分が水素結合していない自由な水分子によって占められているというモデルを提案した。
上記の⑤における0.35nm付近の小さなピークは、この間隙内の水分子によるものであると考える。
このモデルは、FrankとQuist、NartenとDanford、Levyによって定量的に表された。

③ 連続体モデル BernalとFowlerは、水を不規則な4面体配位をもつと考えてX線回析の結果を説明した。このモデルは水に関する最初の物理化学的理論である。Popleはゆがんだ水素結合を考えに入れて、水全体は水素結合で結ばれているというモデルを提案した。
この理論はBernalとFowlerの理論を発展させたものと考えることができる。Popleはゆがんだ水素結合モデルは、計算機実験によるモデルへと発展した。

またLuckは、OH基に注目して、少なくとも一つのOH基は必ず水素結合で結ばれているという連続体モデルを提案した。

これらのモデルは、水のついて異なるV構造を考えているが、いずれのモデルも水の動径分布曲線をよく再現する。これらのモデルは適当な数のパラメーター(多いものでは18個)を含んでおり、実験値を再現するからといって、そのモデルが正しいと簡単に結論するわけにはいかない。

参考文献「生体系の水」上平 恒

エレキテル 16

2011-11-04 20:00:00 | Tyndallナノ
解説は荒川 泓

Laue、Bragg父子の研究(1913年)に始まるX‐ray diffractionX線回析法は、本来最も秩序性の高い系としての結晶を対象としたものであった。
Warrenの約40年にわたるX線回析研究の中心的課題は、それを無秩序性を含む凝縮系、すなわち液体、ガラス状態、結晶における格子不整などへと、それの適用対象を拡大し、その方法を確立することにあったといってよいであろう。

この論文を通じて、MorganーWarenの名は、X線回析分野のみんらず広い範囲にわたって知られるようになった。いうまでもなく、水の液体構造の問題が、水溶液、生体高分子などに関わる広範な領域の研究者にとって、共通の課題となってきたからである。

MorganーWarenの実験の結果は、その後30年を経て、Nartenらの研究でその基本的な正しさが再認識された。


しかし依然問題は残されている。
第1ピークから求めた最隣接分子数についてみるならば、常温でMorganーWarenの値は4.4〜4.6、Nartenらそれは4.4であるのに対して、最近Hajuらは3.8〜3.9の値を与えている。

MorganーWarenの水の構造モデルは、4面体構造における第1隣接位置と第2隣接位置との中間に“filling in”した分子の存在を示した。水の構造を“irregular fourーcoordinated structure”であるとするBernalーFowlerモデルの4面体構造性を基本的に受け継いだうえで、“filling in”した分子の存在という形で、問題を一歩進めたのである。


水の液体構造は、それを「最も単純な形で表現するならば、その数が連続的に変わる隣接分子との部分的な4面体的結合を含む構造」
「4面体的に結合する傾向を有するが、同時にその結合はたえず消滅・再構成を繰り返し、その結果、ある瞬間において分子は平均的に4個より少ない分子と結合しており、他の隣接分子は連続的に分布した状態にある。」

1950年代以降、動的諸物性に関わる研究、すなわち超音波物性、誘電吸収、磁気共鳴、中性子散乱などの研究の成果と、一方液体論の進歩を土台として1970年代以降、成果をあげつつある計算機実験の結果などは、以上の結論を確認しつつあるといってよいであろう。

注記;Narten(1972)は自からsmall clusterである。“near-neighborモデル”を提案するに至っている。Rahman-StillingerのMD法,Lentz-Hagler-ScheragaおよびArakawaらによる理論, Hendricksらの間接的ではあるがX線小角散乱の結果、Tempelhoffの中性子非弾性散乱,そして著者ら(1977)のND解析によって,sma11clusterとする立場が確立されて来ている。大友詔雄





日本コンピュータ化学会
電気工学やシステム論から生物の自立性を眺めるに至った私にとって,化学反応とはとても魅力的に思われます.
その魅力とは,「実験者が動く仕組みを設定せずとも,物質がそれ自身の都合で勝手に振舞う.」という点にあります.
例えば,計算機によるシミュレーションを考えると,その時間発展を展開するためには運動の素過程を私達が設定する必要があります.しかし化学反応は,反応の素過程に私達が介入しなくとも,分子自身が状況に基づいて自ずと結果を導き出します.それらの差は,「計算をしているのは誰か?」という問いの下に明確に現れます.生命の自立性を考える上で,この「物質の計算としての化学反応」の性質はとても強力な方法論となる可能性を秘めていると考えられます.
公立はこだて未来大学 複雑系知能学科  櫻沢 繁





エレキテル 15

2011-11-03 09:19:32 | Tyndallナノ
“みずからを”知るべしと、想いを定めてはみたが、如何にして定めるかまでは知恵がまわりかね、ハタ!!と困ってしまった。

困った時のかみだのみ!
「化学の原典」がよかろうと、その“電解質の溶液化学”をパラパラめくるうちに、「水の構造のX線解析」に出くわしたのだ。

知れたことよと、たかをくくってかかったが・・・。
もしかすると、“みずから”溺れてしまった!ということになりかねぬ。
ハテサテ如何すべきか迷宮にいりかねぬ、まま想い定めて飛び込んだ!!


知れたことだ!
「氷が溶けるときには、分布曲線からみれば、隣接分子間距離は実際には2.76Åから2.90Åへと大きくなるにもかかわらず、体積は9%減少する。このことは、いまわれわれが、ある物質の密度というものが、その物質を構成する粒子の間の距離だけではなく、その粒子の充填状態ないし配位数にもよるという事実を思い起こすならば、見かけほど異常な現象ではないことがわかる。
Ice氷は配位数4という事実に示されるように、普通の個体結晶にに比して異例といってよいほど疎な構造を有している。融けて水になると、この構造の4面体的な基本的枠組みが部分的に破壊され、隣接分子間距離も様々な価に分布することになる。

このことは事実上、隣接分子数の増大させることと等しく、換言すれば、この嵌入(filling in)効果が分子間距離の増大による密度の減少を補償して密度増大をもたらすのである。

さて、水の温度が0℃から上昇してゆくとき、われわれはここで2つの相反する効果が進行すると考える。4配位の4面体構造が次々と破壊されて隣接分子数がふえ、この嵌入効果が密度増大をもたらす。同時に、分布曲線の温度依存性にみられるような分子間距離の増大は、密度の減少を引き起こす。
4℃で水の体積が極小となるのは、これら2つの相反する効果の結果である。

水の構造は、『破壊された氷様構造』(broken down ice structure)と名づけられるであろう。この言葉は、各分子は氷の場合と同様、4個の隣接分子と4面体的に結合する傾向を有するが、同時にその結合はたえず消滅・再形成を繰り返し、その結果、ある瞬間において分子は平均的に4個より少ない分子と結合しており、他の隣接分子は連続的に分布した位置にある、という状況を表明しているものである。

擬似液体層の理論と雪結晶Quasi-liquid layers and snow crystals佐藤 加奈子 立教大学

冬になると目にする雪結晶の様々な形の生成メカニズムは,まだ完全には理解されていない.そこには,氷の表面構造が深く関与していると考えられている.この数十年間で氷の表面には擬似液体層があることが実験的に明らかになってきた.ここでは,1972年に Lacmann と Stranski が考案した擬似液体層のモデルを軸に,擬似液体層の性質を解析し,雪の相図を説明する.
Growth forms of snow crystals are closely related to the surface structures of ice. Over several decades, various experiments have revealed the existence of quasi-liquid layers on ice surfaces. In this paper we introduce a macroscopic model of the quasi-liquid layers proposed by Lacmann and Stranski in 1972. Based on this model, we analyze the properies of these quasi-liquid layers and explain the phase diagram of snow crystals.

氷の表面に擬似液体層があることを最初に指摘したのは,今から140年以上前のFaraday(1859)だった.当時のThomson兄弟が圧力融解の説でこれに反論し,論争が巻き起り,いったんはThomsonの説が教科書にも採用され主流となった.

その後100年たって,イオン結晶の表面電気二重層からの類推で,Weylが擬似液体層の存在を定性的に指摘した.これが刺激となり,20世紀に入って飛躍的に進歩した様々な物性の測定技術によって,多くの実験が行われ,擬似液体の存在が証明されることとなった.
こういった歴史をふりかえるとやはり,雪の結晶の形の解明にも,様々な科学の分野の進歩が密接にからみあい,大きな役割を果たしていくのだろう。