NBA INS 'N' OUTS

かんたん解説 NBAなんでもとーく

アジャスト

2009年06月07日 | '08-09 プレーオフ

ホントは空気を読まずにドラフトブログにしようかと思ったんですが、さすがにGAME1をスルーしたらその質問が来ちゃうかな?と思って一応書きます。(←なぜかエライ消極的w)
短めに要点しか書きませんけど(やっぱり消極的w)

まあ、点差とか、コービーのスタッツとかばかりが騒がれるんでしょうが、この試合を分けたのはレイカーズのディフェンスですね。
ゲームの最初のポゼッション、ハワードがローブロックで1on1を始めようとすると、レイカーズはどアタマからダブルチームに行くぞという姿勢を見せました。
マッチアップしたバイナムとそれを囲む5人のDの輪が、ハワードの動きに合わせて収縮/拡張します。
これはチームとしての意思表示です。

前回のブログでも言いましたが、ハワードはまだまだ荒削りな選手で、オフェンスパターンもあまりありません。
左右のブロックで1on1を始め、逆サイドの方向へ1ドリブルをついて横移動して、左右のランニングフック。
ただそれだけです。
たまーに、4回に1回ぐらい、横移動すると見せかけてベースライン側にターンし、ダンクを狙いにいく動きもありますが、パターンを変えて意表を突きたい時にしかやりません。

なので、オフェンスのバリエーションはなく、動きは単純なんですね。
だから“守りやすい”んです。
動きは読めるわけですから、後は約束事を決めればいいだけの話です。
レイカーズは、まず第一はポジション取りでなるべくリムより遠くに押し出すこと、そして第二に、ドリブルを始める瞬間を狙ってガード系選手(コービーやアリーザ)が手を出しに行くこと、最後にフィニッシュ地点でもう一人のビッグマン(ガソールなど)が待ち構えてブロックに跳ぶこと、です。

ジャンプシュートのないハワードは、ドリブルをついてリムに近づくしかありません。
だから、マッチアップマンはなるべく外に押し出し、スピードのあるガード系選手がドリブルを狙い、もう一人のビッグマンが“予測可能なシュート地点”で待ち構えるんです。
もしそれでも抜かれてダンクされそうになったなら、最悪ファールをして止める。
絶対にダンクやレイアップはさせない。
実際、ハワードが決めたのは、ゲーム最初の頃のフック1本で、後はすべてミスかフリースローでした。

でもマジックの攻撃パターンは、ハワードがダブルチームを集めて、外のシューターに振り、3Pを沈めるという形ですよね?
キャブスもそれでやられました。
ダブルでついたら、レイカーズもそうなるんじゃない?

セオリーとしてはそうなんですが、レイカーズはそこへの対策もしっかりできていました。
ダブルにいくウィングの選手、コービーとアリーザは、いずれもトップクラスのアスリート。
パスアウトされたら即座にマークマンに戻るスピードがあります。
それを前提に、ダブルに行くのも3Pラインに戻ることもできるギリギリの距離を取り、ハワードがドリブルをつく瞬間を狙ってるんですね。
ハワードは器用な選手じゃないので、パスをするならドリブル前、ドリブルを始めたら最後までフィニッシュ、というタイプです。
なので、「いつでも戻れるぞ」という距離感を保ちながらパスの線を消し、ドリブルをついた瞬間にガッと距離をつめるんですね。

ビッグマンの姿勢も素晴らしいものでした。
象徴的だったのは、ガソールがダンクを決めたシーン。
普通ダンクを決めたら、ガッツポーズの一つも出そうなもんじゃないですか。
でもダンクを決めたガソールは、次の瞬間ハワードをチラっと横目に見ると、歯を食いしばりながら全力疾走でディフェンスにダッシュしていったんですね。
ガソールの喜びの表情を捉えようと追ったカメラが映したのは、顔を紅潮させ、ホッペタを膨らませながら必死に走る顔だけでした。

なぜかと言うと、やるべきことをトコトン徹底してやっていたからです。
徹底していたのは、攻撃が終わったら全力で戻ってハワードより先にポジションを取り、リムから極力遠くに押し出すこと。
それでも押し込まれてしまったら、ハワードの前に立ってパスを入れさせないようディナイをすること。
そしてもしダンクやレイアップをされそうになったら、必ずファールで止めてフリースローを打たせること。
この3つです。
この3つを徹底してやっていました。

それが象徴的に表れたのがさっきのワンシーンだったわけです。
おそらくガソールの頭の中にあったのは、「ダンク=やったぜ!」ではなく、「ダンク=ディフェンスに戻るまで一番遠い位置にいる」という意識だったと思います。
ダンクをするということは、相手陣内の一番奥にいるわけですから、自陣のゴール下までは一番遠い距離なわけです。
ダンクを決めた直後にハワードをチラっと見たのは、自分がどれだけハワードに後れを取っているかを確認するためです。
だから、既に自分より前方を走り出していたハワードを見て、「ヤバイ!」という表情すら浮かべて必死に駆け戻っていったわけです。

こういう一つの動きや表情だけを見ても、レイカーズのディフェンス意識がいかに徹底されていたか、コーチの指示がいかに全員に浸透していたか、ということが読み取れます。
前にも言いましたが、ディフェンスというのは個々の能力ではありません。
スティール何本か、ブロック何本か、ということが重要ではないんです。
5人のディフェンダー全員がいかに同じマインドを共有し、約束事を徹底できるか、が一番大事です。
1人のディフェンダーがバラバラに頑張るんではなく、マークにしても、ヘルプにしても、全員がやるべきことしっかりやる。
そして、5人が一つの大きな輪みたいな動きになって、自由自在に形を変えてボールマンに襲い掛かるようなチームディフェンスが理想的です。

一方のマジックは、ディフェンスに工夫がありませんでした。
やはりゲームの最初のポゼッションに着目して、どう守るのかという方針を見ていると、コービーに対してシングルカバーでいっていました。
いいディフェンダーであるコートニー・リーやマイケル・ピートルスを1対1でつけてみて、まずはどれぐらい抑えられるかを試したかったのかな?と思いました。
それはそれで間違っているとは思いません。
それでうまくいくならその方がいいし、事実ルブロンはそれである程度抑えられたわけですから。

でも、コービーの最初の数回のオフェンス機会を見れば、1on1では止められないことが明らかでした。
マジックはその時点で「あ、やっぱシングルカバーじゃ無理だな」と判断して、ダブルチームなり何なり、ディフェンス方針を変更すべきでした。
でも何度やられても、どんだけやられても、試合を通してずっと方針が変わることはありませんでした。

前にも言いましたが、プレーオフはアジャスト合戦。
このやり方がダメだったらこっち、この選手がミスマッチだったらこっちの選手、という具合に、どんどん切り替えてアジャストしていかなければなりません。
通用しないとわかった時点ですぐにアジャストし、早い段階で弱点をつぶしていく・・・・
いかに早く、その都度その都度アジャストしていけるかが勝敗の鍵を握ります。

ピック&ロールに対するディフェンスも問題でした。
レイカーズは、何度も何度も同じプレーを繰り返していました。
ガソールがコービーのマークマンにスクリーンをかけにいき、引っかかったディフェンダーが一歩遅れたところで、フリーになったコービーがジャンプシュート、というパターンです。
ここでリーやピートルスがスクリーンに引っかかるののは仕方ありません。
問題はそれをカバーすべきスクリーナーのマークマン、ハワードの動きです。

本来ピック&ロールに対するディフェンスは、スクリーナーのマークマンがフリーになったボールマンの前に一時的に立ちはだかり、フリーで打たせないよう邪魔しなければなりません。
そこで一瞬でもボールマンの動きを止めれば、スクリーンに引っかかっていた本来のマークマンが追いつく時間を稼ぐことができます。
しかし、ここでそういうカバーの動きをすべきハワードが、コービーに対してプレッシャーをかけないんですね。
そこが問題です。

ハワードはショットブロッカーであり、ゴール下専門のディフェンダーです。
抜かれることを心配して、タイトにマークにいくことができずにいるんですが、このケースではたとえ自分を犠牲にしても、何よりもまずコービーをフリーにしないことが第一です。
そこでショットを決められたら、そのポゼッションは終わりなんですから。
でもハワードは間合いを詰めず、コービーに十分なスペースを与え続けました。
その結果、コービーはショットを決め続けたんですね。

これもさっきと同じなんですが、アジャストができていません。
2~3度同じことをやられたら、その後の対処法を考えなきゃダメです。
抜かれるのを覚悟でプレッシャーをかけたり、ダメ元でも違ったやり方を試してみなければダメです。
それをやらなければ、ディフェンスが対処法を見つけるまで、攻撃側はずっと同じ攻めを繰り返してきます。
ハワードが間合いを詰めず、スペースを与え続けた結果、コービーは同じ攻めを繰り返し、フリーでシュートを決め続けたんですね。

コービーを止めるのは簡単なことではありません。
うまく対処したとしても、完全に抑えることはできません。
しかしそれでも、適切な手を打ち、対策を打っていかなければいけません。
明らかに見えている課題から、対処していかなければいけません。

レイカーズが大勝したのは、マジックをどう抑えるのか、試合が始まる前から対策ができていたからです。
それはゲームの最初のポゼッションから見えていました。
マジックはその戦術面で立ち遅れました。
レイカーズがハワードをどう抑えるべきか決まっていたのに、マジックはコービーをどう抑えるべきか決まっていなかったからです。

でもこれで課題が見えました。
おそらくマジックは、GAME2以降コービーにダブルチームを仕掛けてくるでしょう。
というか、そうしなきゃダメです。
後はどういう形でダブルチームを仕掛けるか、そしてピック&ロールをどう守るか。
レイカーズがハワード対策で見せたような“約束事”を、マジックがコービーに対して見せなければいけません。

プレーオフはアジャスト合戦です。
アジャストすることさえできれば、勝つチャンスは必ず巡ってきます。
あとは、いかに有効な対処法を見つけられるか、そして、それをいかにしっかりとチーム全体で実行できるかどうかです。
GAME1はレイカーズがアジャストしました。
GAME2はマジックがどうアジャストしてくるのか、注目しましょう。



レイカーズのハワード対策は徹底していました



今度はマジックがアジャストをする番です


最新の画像もっと見る

12 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ぐりーん)
2009-06-07 13:46:01
更新お疲れ様です。


僕の中で最も気になったのは、ハワードです。
ハワードはペイント近くでボールもらって、せっかくゴールに正対しているのに、すぐに背中を向けてゴリ押しを繰り返します。
いやいや、バイナムも離してくれてんだからピュッと打っちゃえよ!!と歯がゆくなりました。
ジャンプシュートって練習しないんでしょうか?もうNBAに入って何年も経つのにオフェンスパターンこれだけ?ユーイングは何を教えてるの?と思っちゃいます。(ユーイングのプレーをしっかり見たことがないのでわかんないですが…ダンクとフックだけの選手じゃなかったですよね?)

ってか、あんなにリングから近けりゃ練習しなくても入るだろ!と思う僕でした。
返信する
ガソル (bbb)
2009-06-07 18:07:08
解説お疲れ様です。

バティエがミドルはずした後に、ガソルさん楽にミドル決めちゃってましたね。
ガソルは、試合見ててファウルアウトにならんかなって思ってしまう厄介な選手で、
昨年のパーキンスを避け気味だった時とは違いました。
眠気の中見たので、あいまいですが。


これドラフトのネタとして使ってください!
http://www.youtube.com/watch?v=NVDWqxA4Y_0&feature=related
返信する
アジャスト (ティム)
2009-06-07 18:48:21
マジックの第二戦のポイントは、コービーへのダブルチームの徹底と、ハワードの出来がどうかってとこだと思います。

オフェンスのムーブが少ないのは今更しょうがないので、どれだけゴール近辺でボールをもらえるか、オフェンスリバウンドに地道に絡んで、レイカーズフロントコート陣からどれだけファウルを引き出せるかで試合内容も変わってくるんじゃないでしょうか?

その為には自らのファウル数は極力抑えて、最後までコートに立っていてほしいと思います。

あとは3Pの復調かな~。ラシャードもっと頑張ってほしいです。
返信する
Unknown (314)
2009-06-07 21:01:18
だいぶ前にコメントさせていただいた314です。久しぶりにコメントさせていただきます。

レブロンは抑えられたマジックですが、神戸へのディフェンスはちょっと厳しいかなと思います。ただ単純に突っ込んでくるレブロンには対応できたピートラスも変則的な神戸にはちょっと合わないかなと。ボウエンとかみたいにべったりだったり、徹底ディナイとかしないと。それよりかガソル、オドムと他をプレイヤーを抑える事に重きをおいたほうがいいかもしれません。

マジックのオフェンスは入ったれ入ったれみたいな感じだから、入るか入らないのは始まんないとわかんないですからね~。よくなればいいんですが。ちょっとマジックは甘く見すぎてたと思ったGame1でした。

これだけ盛り上がったプレーオフなので最後の最後まで好ゲームを期待です!!

そしてドラフト全然チェックできてないのでmanuさんお願いします。
返信する
manuさんのおっしゃる通り ()
2009-06-08 09:53:33
最初にハワードがフックを決めた場面でのことですが、ハワードにボールが入った瞬間に全員がハワードに注目し、キュッと収縮してましたね。しかも、ドリブルを着いた瞬間にカバーに行く。これを見たとき、ハワード今日は得点出来ないなと思いましたよ(笑)

あと、ハワードと控えのインサイド陣が出てる時間帯が気になります。例えばバティが出てるとき、バティは中にも外にも居場所がない感じです。だから、ミドルらへんでボールをもらい、しかしディフェンスに離れて付かれているのでどうしようも無く、ミドルを打たされてる場面が目につきました。
ファウルトラブルで仕方なく…てのもあるんでしょうが、ポゼッションを無駄にしてる気がしてならなかったです。
返信する
ぐりーんさんへ (manu)
2009-06-08 22:16:05
いや、打たないんじゃなくて、打てないんですよw
シャックと同じで、ジャンプシュートは打てないんです。

オフェンス面ではまだまだ発展途上で、覚えることは多く残されてるんです。
だからそんな未完成の選手が、ゲームを“支配する”なんてことはない、とキャブスとの最終戦で書いたんです。
それはハワードに“支配された”んではなく、キャブスが“支配させてしまった”んです。

まあ、そのうちショートジャンパーぐらいは身に付けるでしょうけど、そうやってレパートリーを増やしていくことが、ハワードがプレイヤーとして一回り成長することにつながると思います。
ショートジャンパー1つ身に付けるだけで、ディフェンスは的を絞れなくなりますからね。
逆に言えば、今はそれがないから、やり方一つで簡単に守れちゃうんですね。
レイカーズが今やってるように。
返信する
bbbさんへ (manu)
2009-06-08 22:21:14
ガソールはキーになるプレイヤーですよ。
去年からだいぶフィジカルも鍛えたみたいですしね。

動画ありがとうございまーすw
返信する
ティムさんへ (manu)
2009-06-08 22:27:35
コービーへの対応は、アノ手コノ手が必要ですね。
毎度毎度ダブルチームしろとは言いませんが、変化はつけないといけないでしょう。
少なくとも、「次はどうくるんだ?」と迷わせなきゃダメです。

ハワードには、別にオフェンス面で貢献してほしいとは思ってませんし、技術の足りなさを責めてるわけでもありません。
ただ、ハワードのパターンがバレバレなことと、レイカーズならそれを読んでディフェンスしてくることをちゃんとわかって、それに対してアジャストするということです。

問題はハワードというより、シューティングでしょうね。
アウトサイドの。
まだGAME2見てませんが(笑)
返信する
314さんへ (manu)
2009-06-08 22:31:48
ええ、コービーを完全に抑えるなんて端から無理ですね。
ただ単純にシングルカバーやってるだけじゃ、なおさらダメです。
工夫はしないと。

GAME1を見る限り、ピートルスはすごくよくマークついてると思いますよ。
動きに最後までついていけてますから。
リーはちょっとやられてますが・・・・
それより、せっかくちゃんとマークつけてるのに、最後のゴール下でビッグマンのヘルプが来ないとか、全員でコービーを守るぞという包囲網がないのが残念です。

ガソールやオドムを抑えないと、というのはその通りです。
コービー抑えるよりも、そっちの方が確率高いでしょうし。
ガソールに対してはゴータットが結構いいDをしていたので、もっと多めに使ってもいいんじゃないかと思いました。
返信する
@さんへ (manu)
2009-06-08 22:36:10
>ハワードにボールが入った瞬間に全員がハワードに注目し、キュッと収縮してましたね。しかも、ドリブルを着いた瞬間にカバーに行く。

ええ、これがまさに僕が上↑で言おうとしてたことです。
その辺に着目して見てもらえると、ゲームの理解度は高まりますよ。

バティに限らずですが、ちょっと選手起用のタイミングが良くないなあとは思いますね。
レイカーズのその時のメンバーに対応したメンバーチェンジをしてほしいです。
バティやゴータットはガソールがいる時に出すべきだし、オドムが出ているならルイスやターコルーをつけるべきだし。
返信する