さて、次の歌詞に移りましょう。
에 - - - 에헤 - 에이야- 얼럴럴 거리고 방아로다.
エ --- エヘ-イヤ- オルオルオル コリゴ パンア-ロ-ダ
景福宮打令(タリョン)で繰り返し現われる歌詞で、この曲の印象を決定づける重要なフレーズです。上記では敢えて日本語の訳詞を書かず、現地語発音で書きましたが、この歌詞の意味するころを見てみましょう。
まず、얼얼얼 거리다ですが、どうしても意味が分かりません。回りの韓国人に尋ねましたが、知らない、分らない。「景福宮打令って何ですか?」と答えた人もたくさんいました。万策尽きたので、ここはパン先生にお願いして調べてもらうことにしました。
結論としては、2つの意味があり、まず一つは、ワイワイ、ガヤガヤといった、大勢の人が集まって賑わっていることを表す擬態語であるとのこと。もう一つは、イヨッ!、ソレ!といった、曲の合間で雰囲気を盛り上げる合いの手(추임새)であるとのこと。
日本語で表現すると、ソレソレソレソレ!といったところでしょうか?
次に방아로다ですが、国語辞典で방아(パンア)を引くと「穀物を搗(つ)いたり、挽く装置の総称(水車·唐臼·精米機など)」とあります。ほとんどの韓国人が방아ときいて想像するのは次の3つ。いずれも、蒸気機関が無かった当時においては、生産力を象徴するものですで、全国各地に방아(パンア)に関する民謡(パンア打令、パンアタリョン)が残っています。
まずは水車。一般的には물래(ムルレ)です。民謡や歌曲の題材によく使われますが、私はまだ一度も見たことがありません。
次に碾き臼。こちらも実物を見た経験はありません。
3つめが踏み臼です。こちらは民族村等で見ることができます。
さて、ここで言う방아(パンア)が何であるかを示すカギは、後の女声部の歌詞にあります。
덜커덩 소리가 웬 소리냐 경복궁 짓느라고 회(灰)방아 치는 소리냐
ドスンドスンの音は何の音だ?景福宮を建てようと灰방아(パンア)をつく音か?
ここで、灰방아(パンア)という言葉が出てきます。灰방아(パンア)とは石灰、黄土、そして砂を混ぜ合わせ、臼でついてこね合わせること。早い話が、今でいうセメントを作ることです。
つまり、ここでいう방아(パンア)は水車ではなく、杵(きね)で韓国式の漆喰(しっくい)をこねること。
古建築に関する資料がないので確証は無いのですが、あれだけの建造物を作るのですから、我々が想像する餅つき用の杵といったヤワなものではなく、数人で使用する下記のような道具で作業を行なったと推測します。(ちなみに下記は、地面を押し固めるための胴突きという道具です。)
あるいはこんな感じ。
参考までに下記は百済時代の築城法ですが、基礎工事については景福宮の時代も大きな差はなかったと思います。
①木で四角形の枠組みを作り、その枠の中に土を盛ります。
②その枠に土を入れ、上記の「胴突き」で押し固めていきます。やがて、土が乾燥すると、あたかも煉瓦のような強固な構造になります。
何となくイメージがわいてきました。あともう一つ、有力な解釈は灰방아(パンア)といった特定の道具や仕事を指し示すのではなく、下記のような騒々しい景福宮建築現場の光景全体を表すと解釈するものです。
韓国の民謡で、穀物をつく杵は生産性や生命力を象徴する題材として、よく登場します
実際の景福宮再建では、直接的に建設に従事する人以外にも、その人たちの食事を準備したりする人もいたはずで、さぞかし騒々しいものだったでしょう。私も建設に関連した業務に従事していますが、建設現場の雰囲気そのものは時代を超えて共通していると思います。
カンカン、コンコンという音に混じって、あちこちで土を練るための杵以外にも、穀物をつく杵の音が響いていたはずで、この歌でも、そういった現場の雰囲気全体を表現したものであると解釈するのです。
適切な日本語が思い浮かびませんが、ここでは방아(パンア)を杵(きね)と訳すことにしましょう。そのまま韓国語でパンアと言ってしまうのが自然かも知れません。最後に로다とは体言の語幹について詠嘆の意味を表す言葉ですから、방아로다とは、「杵かなあ~」というぐらいの意味になると思います。
直訳すれば、「杵だな」という感じですが、日本語としてはやや不自然なので、ここは原曲の曲想、あるいは前後の文脈に合致した表現を使いたいところです。
結論として、私なりの日本語訳はこんな感じでしょうか?
에 - - - 에헤 - 에이야- 얼럴럴 거리고 방아로다.
エ --- エヘ-イヤ-、ソレソレソレソレ、エーンヤコーラ