NEST OF BLUESMANIA

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音曲日誌「一日一曲」#421 ウィリー・コブス「You Don’t Love Me」(Mojo)

2024-05-31 07:53:00 | Weblog
2024年5月31日(金)

#421 ウィリー・コブス「You Don’t Love Me」(Mojo)



ウィリー・コブス、1960年リリースのシングル・ヒット曲。コブス自身の作品。ビリー・リー・ライリー、スタン・ケスラーによるプロデュース。

米国のブルースシンガー/ハーピスト、ウィリー・コブスは1932年アーカンソー州スメール生まれ。10代半ばの47年に初めてシカゴに行き、リトル・ウォルターやエディ・ボイドといったブルース・ミュージシャンと知り合い、クラブで一緒に演奏するようになる。アーカンソー州兵の兵役を経てシカゴに戻り、音楽活動を続ける。

初レコーディングは58年。シカゴのルーラーレーベルからシングルをリリースしたが、不発に終わる。

その後、郷里アーカンソーに帰って、地元のクラブに出演する。その時期に作った曲が、本日取り上げた「You Don’t Love Me」である。そしてこの曲は、地元の観客からは高い人気を獲得する。

コブスはこの自信作を、テネシー州メンフィスのレコード会社、ホーム・オブ・ザ・ブルースに売り込んだ。オーナーの返事は「ノー」であったが、2人のプロデューサー、ビリー・リー・ライリー、スタン・ケスラーが曲を聴き、プロデュースを申し出たことにより、曲は世に出ることになる。

レコーディングは1960年、メンフィスのエコー・スタジオにて行われた。メンバーはボーカルのコブスとピアノのエディ・ボイド、ギターのサミー・ローホーン、テナー・サックスのリコ・コリンズ、ドラムスのウィルバート・ハリス(ベースは不明)。

ライリーの経営するモジョレーベルより同年リリースされたシングルは、メンフィスではナンバーワン・ヒットとなる。そこで次は全国展開だということで、ライリーは前述のホーム・オブ・ザ・ブルース、そしてヴィー・ジェイレーベルにもマスター音源を売ったのである。

これでいよいよ、「You Don’t Love Me」は全米的ヒットになるかと期待された。が、実際にはそうはいかなかった。

その理由は、コブス自作のはずの本曲が、ある有名アーティストの過去曲にあまりに似ていたことによる。

その曲とは、ボ・ディドリーの1955年リリースのセカンド・シングル曲「Diddley Daddy」のB面に収められた「She’s Fine, She’s Mine」である。

2曲を聴き比べてみると、その歌詞やメロディ、コード進行やギターリフなど、かなりの部分が共通している。

「She’s Fine, She’s Mine」がたまたまB面曲でチャートインもせず、ほとんど世間に知られていなかったため、この酷似性はレコード会社から見逃されていたのだが、もし「You Don’t Love Me」が全米ヒットしてしまうと、オリジネーターのボ・ディドリーから訴えられることは間違いなかっただろう。

結局、メジャー・シングルとしてのプロモーションは中止となり、この曲の全米ヒットは幻のものとなってしまった。

しかし、この曲の強い魅力を、他のアーティスト達は見逃すことはなかった。

翌61年にルイジアナのインスト・バンド、メガトンズが「Shimmy, Shimmy Walk, Part 1」というタイトルでシングルリリース、のちにチェッカーレーベルでも出て、全米88位を獲得している。これは実はライリーの仕掛けによるものだ。

これを皮切りに65年のジュニア・ウェルズ版、67年のジョン・メイオール&ブルースブレイカーズ版、68年のアル・クーパー/スティーヴン・スティルス版、69年のマジック・サム版、72年のバディ・ガイ版といったように、ブルース、ロックを問わず多くのアーティストがこぞってこの曲をカバーするようになった。

それらの中でもリスナーの記憶に強く残っているのは71年の、オールマン・ブラザーズ・バンドのフィルモア・イーストでのライブ・バージョンだろう。19分余り、LPレコードの片面をまるまる使った力作が、この曲をブルース・ロックのスタンダードたらしめたのだ。

これらはいずれのバージョンも、クレジットはウィリー・コブスとなっている。つまり、カバー・バージョンを数多くもったことにより、この曲は「コブスの作品」として、しっかりと世に認められたのだと言っていい。

ボ・ディドリーのオリジナルは、アイデア、コンセプトとしては素晴らしいのだが、その表現スタイルとしては、いまひとつ未消化な印象がある。

トレモロを効かせた彼のギターは、それはそれで独特の魅力があるが、全体にタイトさが欠けていて、散漫な感じは拭えない。たとえA面にしても、ヒットはあまりしそうにない感じだ。

一方、コブスの方は、下敷きとしたオリジナルを踏まえながら、よりビートの効いた、リズミカルなアレンジに仕上がっている。その最大の功績は、ローホーンの切れ味のいいギター・プレイにあると言っていいだろう。

従来のブルースのパターンを超えたこのヒップなサウンドが、黒人ブルースマンだけでなく、白人ロック・ミュージシャンにも強く支持される理由であった。

現在もブルース・セッション、あるいはオールマンズのトリビュート・バンドなどで頻繁に演奏される「You Don’t Love Me」。

オリジナルを超えた、もうひとつのオリジナル。ウィリー・コブスの快唱と、バックのごきげんな演奏を楽しんでくれ。






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