NEST OF BLUESMANIA

ミュージシャンMACが書く音楽ブログ「NEST OF BLUESMANIA」です。

音盤日誌「一日一枚」#320 V.A.「THE STORY OF THE BLUES」(COLUMBIA/LEGACY C2K 86334)

2022-09-30 05:00:00 | Weblog

2006年6月10日(土)



#320 V.A.「THE STORY OF THE BLUES」(COLUMBIA/LEGACY C2K 86334)

AMGによるディスク・データ

「ブルースの物語」というタイトル通り、1926年録音のBertha "Chippie" Hill「Pratt City Blues 」に始まり、2001年録音のボブ・ディラン「CRY A WHILE」 に至る、ブルースの歴史をたどる二枚一組のセット。03年リリース。全42曲収録。

この手のコンピは各種出ていて、いろんな編集のしかたのものがあり、どれが決定版というものでもないのだが、この二枚組は、戦前のアコースティック・ブルースにかなり重きを置いている。古いブルースが好きな筆者的には、ツボの一枚なのだ。

トップに64年ガーナ録音、Fra-Fra Tribesmenの「Yarum Praise Songs 」をもってきたのには、意表をつかれる。レコーディング時期は比較的近年だが、ブルースの原初的状態をまだとどめている、その素朴な歌声に新鮮な感動をおぼえた。野外で歌われる労働歌もまた、ブルースの重要なルーツなのだと思う。

おなじみのカントリー・ブルース、フォーク・ブルースの巨人たちの演奏が続く。ミシシッピ・ジョン・ハート、ブラインド・ウィリー・マクテル、チャーリー・パットン、ブラインド・レモン・ジェファースン、レッドベリー、エトセトラ、エトセトラ。単独では音盤がほとんど入手出来ない二線級(といっては失礼だが)のシンガーもいろいろと収録されているのも、聴きどころ。ペグ・レッグ・ハウエルとかバーベキュー・ボブ&ローンチング・チャーリーとかね。

そういった先達たちの、のどかなサウンドは、ブルース=鬱っぽい音楽という世間に流布されたイメージとはだいぶん違うんだよな。

ブルースとは、きわめて多面体的な音楽なんだと、つくづく思う。ときにはフォーク、ときにはジャズ、そして時代が下ってはロックと相互に影響し合い、表現スタイルを徐々に変えつつ、現在に至っている。

でも、そのコアな部分にあるものは、100年経ったいまも、本質的に変わらない。

それは、ブルース=生活に根ざした音楽であり、日々の生活のむき出しの感情こそが、ブルースの表現の核にあるのだということ。

形式的な美しさよりも、人間の心の真実を問うことこそが、ブルースの本質なのだ。

そういう意味で、ボブ・ディランの音楽をブルースに連なるものと考えている本盤の考え方には、大いに共鳴出来る。ディランのあの歌詞、ボーカル・スタイルは、ブルースの存在なしには、おそらく出てこなかっただろう。

まあ、理屈っぽいことを言うはこのへんでやめておこう。ブルースも基本的には芸能、娯楽音楽のひとつだ。しち面倒くさいことなど考えず、そのサウンドに身をゆだねればいいんである。

個人的には、ベッシー・スミス、リリアン・グリン、チッピー・ヒルら女性シンガーの、ジャズィな歌いぶりに惹かれるものがあった。

シカゴ系あたりがお好きな向きにはちょっと物足りないだろうが、たまにはこういうまったりしたオールド・タイミーなブルースもいいもんでっせ。

<独断評価>★★★☆


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音盤日誌「一日一枚」#319 コレクティブ・ソウル「HINTS ALLEGATIONS AND THINGS LEFT UNSAID」(ATLANTIC 82596-2)

2022-09-29 05:31:00 | Weblog

2006年6月4日(日)



#319 コレクティブ・ソウル「HINTS ALLEGATIONS AND THINGS LEFT UNSAID」(ATLANTIC 82596-2)

AMGによるディスク・データ

きょうからは当分、短評形式でいきますので、よろしくご了解のほどを。

コレクティブ・ソウル、92年米ジョージア州ストックブリッジにて結成。翌年、アトランタのインディーズ・レーベル、RISING STORMより本盤にてデビュー。95年には大手アトランティックに移籍して、再デビュー。現在に至るまで、「SHINE」「DECEMBER」などいくつものスマッシュ・ヒットを持つ中堅バンドだ。

一応、ジャンル的にはオルタナということになっているが、実際にその音を聴くと、さまざまな要素を含み持っている。

60年代以来の伝統的なハード・ロックだったり、パンクだったり、そしてR&B/ソウルだったり。

アレンジは今ふうでも、リード・ボーカリスト、エド・ローランドのガッツあふれる歌いぶり、あるいはバックコーラスには、「ブルーアイド・ソウル」の脈々とした流れを、感じとることが出来る。

日本では、残念ながらほとんど知名度がないが、玄人筋ではしっかり愛聴されているようで、現在は解散した「WANDS」の初期のサウンドにも、大きな影響を与えたようだ。

最近のヒットは04年の「BETTER NOW」。これなんかホント、昔のデイヴィッド・ボウイみたいで、カッコいいんだよな。

本デビュー盤は、そんな彼らの原点とでもいうべき13曲を収録。

最初のヒット「SHINE」をはじめとして、イキのいいポップ、ソウル、ロックがつまっている。

いまや死語となってしまった「ブルーアイド・ソウル」ではあるが、コレクティブ・ソウルが活動している限り、その本質はまだ健在だと思っている。

ロバート・パーマー亡き今は、エド・ローランドに強く期待したい。

<独断評価>★★★★


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音盤日誌「一日一枚」#318 ダリル・ホール&ジョン・オーツ「ライヴ・アット・ジ・アポロ 」(RVC RPT-8312)

2022-09-28 05:00:00 | Weblog

2006年5月28日(日)



#318 ダリル・ホール&ジョン・オーツ「ライヴ・アット・ジ・アポロ 」(RVC RPT-8312)

AMGによるディスク・データ

しばらく更新が止まっておりました。スマソ。

ひさしぶりの一枚は、一年ぶりのホール&オーツ。85年リリースのライブ盤である。

タイトルが示すように、ブラック・ミュージックの殿堂、アポロ・シアターにての収録。ホール&オーツおよびボブ・クリアマウンテンによるプロデュース。

アポロ・シアターに出演するということは、ソウル・ミュージックを志す者にとっては、格別の意味がある。何万人も収容するスタジアムで行うライブよりも、はるかに大きな価値を持つのである。

黒人たちにとってアポロ・シアターは、イスラム教徒にとってのメッカの大モスクのようなもの。まさに「聖堂」なのである。

白人ながらソウル命のホール&オーツも、この場所に立つことに、やはり特別な感慨を抱いていた。それがよくわかるのが、A面トップの「アポロ・メドレー」だ。

元テンプテーションズのエディ・ケンドリックス、デイヴィッド・ラフィンをゲストに迎え、テンプス・ナンバーを再演してみせたのである。

一曲目の「ゲット・レディ」、三曲目の「ザ・ウェイ・ユー・ドゥ」ではケンドリックス、二曲目の「エイント・トゥー・プラウド・トゥ・ベッグ」、最後の「マイ・ガール」はラフィンがリード・ボーカルをとっている。

ホール&オーツは完全にバック・コーラスに徹して二人に違和感なく溶け込み、懐かしのテンプス・サウンドを再現しているのだ。

アポロ・シアターへのリスペクトをこのメドレーで表明、オーディエンスのこころを見事つかんでいる。ふだんの彼らとは、ひと味違うライブの始まりだ。

続くナンバーもカバーだ。サム&デイヴのヒット「僕のベイビーに何か」。

先にリ-ドをとるのは、ジョン・オーツ。彼の低めのシブい歌声が実にいいし、ホールとのハーモニーも素晴らしい。

そしてようやくデュオの片割れ、ダリル・ホールがもっぱらリードをとる。「エヴリタイム・ユー・ゴー・アウェイ」だ。

この曲、英国人シンガー、ポール・ヤングのヒットとしておなじみだが、元々はホールの作品。ここでも彼は歌う前に「This is the original」と説明してから、歌い始めている。

ヤングのバージョンも悪くはないが、原作者バージョンもさすがの出来映え。涙ちょちょ切れるぐらい、ディープ、ディープ、ディープな熱唱なんである。

B面は一転、彼らの80年代前半のヒット、代表曲が続く。

まずは「アイ・キャント・ゴー・フォー・ザット」。ホール、オーツ、サラ・アレンの共作。81年リリースのアルバム「プライベート・アイズ」に収録されたヒット。

A面のクラシカルなソウル・サウンドに比べ、よりモダンでファンクな演奏が展開されていく。オリジナル・バージョンにはない、ホールのラップによる聴衆への煽りも聴きもの。

続くは「ワン・オン・ワン」。ホールの作品。82年発表のアルバム「H2O」収録曲。

ホールのファルセットを交えたソフト、でもソウルフルな歌がGOODだ。

お次は再びホール、オーツ、アレンの作品で「ポゼッション・オブセッション」。84年リリースの「BIG BAM BOOM」収録のヒット曲。オーツがリードをとっている。

オーツが歌っているわりに、けっこうハイ・トーンを強調した作りなのが、他のオーツ・フィーチャー曲とはちょっと異質かな。

かなり複雑なフレージングも見事にこなしているオーツ。ボーカリストとして、ホールに決してヒケをとっていないことが、よくわかる一曲。

ラストは「アダルト・エデュケイション」。84年の大ヒットで、オリジナル・アルバムには未収録。これもまた、ホール、オーツ、アレンの作品。

この曲に関しては、未開の部族の怪しげな習俗をモチーフにした、エロティックなPVが妙に記憶に残っているが、曲自体もなかなかいい。

ジャングル・ビートを下敷きにして、彼らなりのハードでモダンなアレンジを加えたサウンド。思わず体が動き出すとは、こういう曲のことを言うのだろう。

以上、いずれもハイレベルの演奏と歌が楽しめるのだが、LP一枚分というのは、ちょっと物足りないかも。やっぱり、二枚組ぐらいのボリュームが欲しいところだ。

78年に、彼らの最初のライブ盤「LIVETIME」が出ているのだが、このときも一枚のみ。

出来れば、この二枚を合わせて一気呵成に聴く、そのくらいがいいような気がするね。(ちなみに、曲のダブりはない。)

最後に余談だが、アルバム中の「アポロ・メドレー」でのステージ写真を見て、「うわー、テンプスのふたりのほうが、ホール&オーツより100倍カッコええやん」と思ってしまったのは、筆者だけであろうか(笑)。

<独断評価>★★★☆


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音盤日誌「一日一枚」#317 クリエーション「RUNNING ON」(東芝EMI WTP-90178)

2022-09-27 05:38:00 | Weblog

2006年4月30日(日)



#317 クリエーション「RUNNING ON」(東芝EMI WTP-90178)

クリエーション、82年のアルバム。竹田和夫プロデュース。

クリエーションといえば、69年にポリドールよりアルバム「BLUES CREATION」でデビュー、84年の「RAINY NITE DREAMER」に至るまでの15年間、ブルース・クリエイション→クリエイション→(休止期)→クリエーションと三たび名前を変えながらも活躍してきた、日本のロックバンドのパイオニアである。前身はグループサウンズのひとつ、「ビッキーズ」。

最初の名前が示すように、スタート時はガチガチのブルース・ロック・バンドであったが、ハード・ロック、そしてポップ・ロックと、そのサウンドも歳月とともに変化してきた。

このアルバムは、その後期(80年~84年)、「クリエーション」としての6枚のアルバムのうちの4作目にあたる。

レコーディング・メンバーはリーダーの竹田和夫(g,vo)を筆頭に、アイ高野(vo,ds)、ヒロ小川(b)、安藤淳(kb)、高木貴司(ds)の五人。

前々作のアルバム「LONELY HEART」にも収録された、同題のシングルがバンド最大のヒットとなり、ポップな路線が定着した彼らの、多面的な音楽性を楽しむことが出来る一枚だ。

まずは、竹田がリードで歌うロックン・ロール「Excuse Me Friend」でスタート。「クリエイション」だった頃は、飯島義昭とのツイン・リード・ギターがウリのひとつだったが、この曲でもオールマンズ・ライクなツイン・リードが聴ける。たぶん、竹田自身の多重録音によるものだろう。

タイトル・チューン「RUNNING ON」は、フュージョン色の強い一曲。パーカッションを前面に押し出したリズムワークのみならず、ギターがいかにもそれっぽい。高野がメイン・ボーカルで、それに竹田がからむ。

ハイトーンのコーラスから始まる「Ticket To The Moon」は、軽快なテンポのポップ・チューン。昔の彼らのハード・ロック時代なんか、みじんも感じさせない「軽み」には、時代の変化を感じてしまうなぁ。

「タイトロープ」も、複数ボーカルをフィーチャーした、フュージョンなナンバー。ほぼ同時期に活動していたAB'Sなども、この手の曲をよくやってたなあと思い起す。

こういう洗練されたサウンドでも、泥臭いブル-スでも、同じようにソツなく弾いてしまうのが、ベテラン竹田らしい。

再び竹田がリードで歌う、ロックンロール・ナンバー、「Mama, Ain't Gonna Be Long」。明らかにオールマンズを意識したサウンドだな。ゲスト佐野行直(元スペース・サーカス、この後、クリエーションの正式メンバーとなる)のスライド・ギター、リード・ギターの掛け合いなど、いかにもいかにもだ。

最後に、竹田のブルースハープもちょこっと聴ける。彼のハープは結構年期が入っていて(デビュー以来)、ハープ専門のひとも顔負けの巧さだ。

B面トップは竹田リード、高野サポートのカントリー・フレーバーあふれるバラード「Walk Away」から。当時の流行最先端のファンク&フュ-ジョンな音より、むしろこういういなたいサウンドに、彼らならではのよさが表れている気がするのだが、いかがであろうか。

演奏が巧いだけなら、他にもいっぱい巧いバンドは存在する。ロック以外にもフュージョン系とか、テクのあるバンドはごろごろしている。でも、巧い演奏はあくまでも、魅力的な「歌」を聴かせるための土台であって、歌がダメなら元も子もない。

そういう意味では、後期クリエーションは、立派に歌で勝負出来るバンドだったと思う。

思うに、このバンドはずっと「歌」で苦労してきている。初代のリード・ボーカル布谷文夫はすぐ抜け、ついで入った大沢博美はいかにも力量不足だったし、さらに彼が脱退してからは、竹田が自ら歌わざるをえなくなる。

フェリックス・パッパラルディをリ-ド・シンガーとして迎えた時期もあるが、「クリエイション」時代は、おおむね竹田が歌うことになる。これは彼にとって、けっこう重荷だったようだ。

新生「クリエーション」としてスタートしてからは、「もっちん」ことアイ高野とのツイン・ボーカル体制となり、曲によってリードを交代、曲によってはハモりメインで行くなど、だいぶん余裕が出来てきた。やはり、竹田は本質的にはギターのひとで、ずっと歌いながら弾くのはそんなに得意ではないのだろう。

他のメンバーも、そこそこコーラスとか出来るメンツなので、新メンバーになったことで、その「基礎音楽体力」はだいぶん上がったといえる。

ようやく、ライブだけでなく、スタジオ録音の出来ばえで勝負できるようになったのだ。

続く「DOUBLE CROSS」は、高野リードのファンク系ナンバー。ボズ・スキャッグス、ボビー・コールドウェルあたりを思い出させる曲調だ。高野の澄んだハイ・トーンの歌声が見事にマッチしている。

「WARP OUT 2052」は、他の曲とはまったく雰囲気の異なる、実験的なナンバー。コズミックでカオスなサウンドといいますか、スタジオであれやこれや試してみましたって感じ。ジェフ・ベックのおなじみのフレーズが飛び出したりする。ま、一種の息抜きですな。

ラストは正統派バラード「宇宙神」で締めくくり。竹田と高野が互角で渡りあうソウルフルなボーカルが、最大の聴きものだ。

こういうオーソドックスなビートだから、重たくブルージィなギター・ソロで来るかと思いきや、竹田の紡ぐのは、意外とフュージョンなフレーズと音色でした。

けっこうメロディアスでいい曲なので、長尺の大作に仕上げる手もありかなと思うのだが、約4分とあっさり終わってしまうあたり、そっけないというか、いかにもポップ的というか。

つまり過去のロックバンドにありがちだった「重厚長大」の傾向を脱却して、良曲をコンパクトにキャッチーにまとめるという方向へ転換したということなのだろう。

古いファンから見るといささか肩すかしっぽいが、この手法で「クリエーション」はリニューアル、そして若い新たなファンの獲得に成功したのだと思う。

これは竹田の音楽的才能によるところも大きいだろうが、新加入の高野の存在も、大いに貢献していること、間違いない。

ロックな竹田と、ポップな高野の邂逅が、CREATIONを再生(RE-CREATE)したのである。

GSの残党の多くが「昔の名前で出ています」的なことしか出来ないのに対して、カップス、クリエーションと、きちんと新しい世界を開拓していった「もっちん」の才能は、格別のものがあった。

アイ高野こと高野元成氏、2006年4月1日逝去。享年55才。

あまりに早いその死に、多くの音楽仲間たちは言葉を失った。

たしかに悲しい。僕らはもう二度と「おまえの、すべてぇ!!」と甲高く絶叫する彼を見ることは出来ない。

でもこうして音盤に針を落とせば、彼のハートフルな高い声に、いつだって接することが出来る。

それこそが、彼への一番の供養だと、筆者は信じて疑わないのである。

<独断評価>★★★☆


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音盤日誌「一日一枚」#316 本田美奈子「キャンセル」(東芝EMI WTP-90433)

2022-09-26 05:41:00 | Weblog

2006年4月23日(日)



#316 本田美奈子「キャンセル」(東芝EMI WTP-90433)

本田美奈子の四枚目のアルバム(オリジナル・アルバムとしてはサード)。86年リリース。ロンドン録音、田中アキラによるプロデュース。

すでにこの世にはいない彼女であるが、弱冠19才(渡英中に誕生日を迎えたようだ)にして果たしたロンドン・レコーディングである。もちろん、そんな例は、ザ・タイガースをおいて他にはない。

バックはアレンジも担当した難波正司をのぞけば、すべて現地のHR/HM系ミュ-ジシャン、モーリス・マイケル(g)、マシュー・レットリー(ds)、ガイ・フレッチャー(kb,arr)、キック・ホーンズ(b)ら。

で、目玉はギターのゲイリー・ムーアだ。

アルバムに先行してリリースされた8thシングル「the Cross -愛の十字架- 」に曲を提供(残念ながらアルバムには未収録)しているだけでなく、本アルバムのタイトル・チューン「キャンセル」でもリード・ギターで参加、おなじみのゲイリー節をたっぷりと聴かせてくれる。

皆さんご存じのように、美奈子はアイドル系ポップス・シンガーとして85年「殺意のバカンス」でデビュー。翌年の「1986年のマリリン」で大ブレイク。マドンナ・ライクなへそ出しコスチュームが、当時の彼女のトレードマークだった。一年間で立て続けに4枚のシングル、そして3枚(!)のアルバムを発表。

いってみれば、ちょうど上昇気流に乗ったところで大きな「勝負」に出てきた、そんなフル・スロットルな86年版美奈子の、最大のモニュメントがこの一枚であった。

20年の歳月を経て聴き直してみたが、超多忙なスケジュールの中で生み出されたアルバムであるにもかかわらず、実にしっかりした作りなので感心した。

やはり、ロックの本場、英国のミュージシャンでバックをかためたことが、大いに功を奏したのだろう。

そしてもちろん、美奈子自身の度量によることは間違いない。単なるアイドルにしておくにはもったいないくらいの表現力を備えた歌声。そしてそのチャーミングなルックスと、愛すべき自然体なキャラクター。当時ほとんどの女性アイドルは、当然のことのように「キャラ作り」をしていたことを思えば、彼女の革新性がよくわかる。

あえて「ニコパチ」を避けたジャケ写に、彼女の「脱アイドル/アーティスト指向」が既に読みとれるように思う。

80年代には、浜田麻里、本城美沙子、早川めぐみら何人もの「メタドル=HMを歌うアイドル」が出てきたが、彼女たちの「ケバい(化粧濃い)」「やさぐれた」ネガティブなイメージとも全然違って、美奈子はあくまでもキュートでポジティブ。ワン・アンド・オンリーな存在だった。

本盤の楽曲はデビュ-当初からのライン、秋元康=筒美京平コンビによるものが4曲。クイーンのジョン・ディーコン、リマール(元カジャグーグー)など、あちらのロック・ミュージシャンの曲に秋元が日本語詞をつけたものが6曲と、かなり本格洋楽指向が強い。

そう、「脱・歌謡曲」の試みがはっきりとなされている一枚でもあるのだ。ヒット・シングルをあえてフィーチャーせず、未発表曲でかためている姿勢にも、それは感じられる。

思えば、美奈子のようなシンガーは、それまでまったく存在しなかった。

アイドル女性歌手といえば、成長不良のちんちくりんでコンプレックスの強そうな女か、元ヤンキーなのに無理にそれを隠しているようなぶりっ子か、あるいはやさぐれキャラに居直ったS女のどれかみたいなみたいな感じだった。美奈子のようにのびやかな四肢をもち、よく笑い、物怖じせずに発言し、あてがわれたイメージを演じるようなこともなく、のびのびと行動する、そんなアイドルはいなかった。こうなると、アイドルという呼称でさえ、似つかわしくない。

当然の流れというか、美奈子は翌年末にはアイドル歌手稼業をいったん休止し、その後はガールズバンドを結成したり、ミュージカルにチャレンジしたりするなど、マイペースな活動にシフトしていく。90年代には新譜リリースの間隔もだいぶん空き、いわゆるヒットチャートの流れからは遠ざかるようになる。たまにアニメの主題歌やタイアップもののシングルを出す程度で、活動の重心はあきらかに本格的ミュージカルのほうに置くようになる。アルバムも、クラシックやミュージカル系の曲のカバーが中心になる。

2005年11月6日、38歳で逝去。その死を悼む声は、海外のロック・アーティストからも寄せられる。ことに、クイーンのブライアン・メイとは、ミュージカルやオペラへの指向がともにあったことも手伝い、よき音楽上のパートナーだったようで、彼はその後もミナコ・トリビュートを続けている。

本作でのベスト・トラックは、むろんゲイリーのギターが暴れまくる「キャンセル」だと思うが、他にも佳曲は多い。

秋元=筒美コンビの「止まらないRAILWAY」、リマール他によるB面トップの「24時間の反抗」、ジョン・ディーコン他による「ルーレット」、アイドル=清純の公式を打ち壊すラジカルな歌詞が印象的な「NO PROBLEM」など、永遠のランナウェイ・ガール、ミナコの魅力がつまったナンバーが多数だ。

彼女の魅力の本質とは「あやうさ」にあると思う。それは、安定したもののもつ魅力とは対極にある。ポッキリと折れてしまいそうな細ーい体から発される、意外なほどパワフルな歌声。それがなんともアンバランス、そしてミステリアスなのだ。

けっして「完成形」ではなく、今後さらに成長していくであろうことを予感させる「未完の大器」なんだと思う。

「ロックやな~」というのは、つんく♂氏お得意のフレーズだが、もっともロックやな~と思わせる女性シンガーといえば、彼女だったという気がする。

つまり、ひとところにとどまらない、常に転がり、変化し続けて行く、その生き方において、ロックを体現していた、数少ない女性シンガーだった。本田美奈子というひとは。

あの澄んだ歌声も、またロック。ロックな歌をうたうには、酒やタバコで声をつぶさないとイカンとか本気で思い込んでいるような、「かたち」から入るひとには、ちょっと理解できないと思うけどね。

38歳の生涯を、全速力で、でもにこやかに駆け抜けていった美奈子。ほんの19歳で、これだけの仕事を易々とこなしてしまった彼女だけに、その短い人生も、80、90年と長生きした人以上に充実していたに違いないと思う。合掌。

<独断評価>★★★☆


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音盤日誌「一日一枚」#315 山下達郎「JOY」(アルファ・ムーン 50XM-95~96)

2022-09-25 05:02:00 | Weblog

2006年4月16日(日)



#315 山下達郎「JOY」(アルファ・ムーン 50XM-95~96)

Circustown.netによるディスク・データ

新年度なんで、またフォーマットを少し変えてみます。

山下達郎、89年リリースのライブ盤。81年の六本木ピットインから、89年の宮城県民会館に至るまで、8年分のライブ音源を集大成。CD2枚、22曲がたっぷり楽しめる。78年の「IT'S A POPPIN' TIME」以来、実に11年ぶりのライブ盤。

達郎ライブのクォリティの高さには定評があって、80年代に入って彼がメジャーブレイクして以来、ライブ盤のリリースが熱望されていたものの、なかなか出ずにいた。

ファンの飢餓状態は年ごとに募り、業界内の流出音源による「海賊盤」みたいなものまで登場したぐらい。

ようやくこのアルバムで、それが沈静化されたという、いわくつきの一枚なのである。

構成としては、一回のライブを収録したものでなく、いわば「ベスト・オブ・ライブ・レコーディングス」だから、クォリティはほぼ最高水準といっていい。筆者的には、出来にばらつきがあっても、一回のステージをフル収録したものも聴いてみたい気がするが。

収録曲のほうも、足かけ9年にわたっているから、70年代の昔の曲から、89年当時最新の曲に至るまで、実にバラエティに富んでいる。

個人的にジーンときてしまったのは、86年サンプラザにての「RAINY DAY」、89年宮城での「LA LA MEANS I LOVE YOU」、86年郡山の「ふたり」、85年神奈川県民大ホールの「メリー・ゴー・ラウンド」あたりかな。どれも、それらが発表された当時の、自分の青春(とよべるようなカッコいいもんじゃないが)の一曲だったもので。

ときにはバック演奏を止めさせ、アカペラだけで歌う達郎。また、観客席側に降りて、マイクなしで歌う達郎。

これがまた、素晴らしくいい。ゴージャスなバッキングの曲も、もちろん文句なしのクォリティなのだが、彼の「素」の声の美しさ、張りは、さすがに本物であるな。

どんなに人気が上がっても、ハコの規模は中野サンプラザを上限とし、けっして大規模ホールではライブをやらないというポリシーもさすがだ。今の達郎の人気なら、武道館はいうまでもなく、東京ドームだって満杯に出来るだろうが、絶対そういうことはやらない。音楽はクォリティが命だから。

ポップスによらず、ロックによらず、およそライブをやるアーティストにとって、理想形のようなものが、このアルバムには示されている。

音楽を奏でること、聴くことの喜び、楽しさ、感謝、感動。そういったものを包括した一枚。つまりは「JOY」というタイトルに、すべては集約されているのだ。

日本にファンキーな音楽を根付かせた(おそらく最大の)功績者、山下達郎の「粋(すい)」がここにある。

日本人アーティストが作り出した、あまたあるライブ盤の中でも、五指には入ること、間違いない。サウンド・プロダクション、歌やコーラスのクォリティ、どれをとっても、「妥協」というものがない。

要するに、聴かない手はないよ、ってことです。

<独断評価>★★★★☆


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音盤日誌「一日一枚」#314 ボ・ディドリー「IN THE SPOTLIGHT」(MCA/CHESS CHD-9264)

2022-09-24 05:33:00 | Weblog

2006年4月9日(日)



#314 ボ・ディドリー「IN THE SPOTLIGHT」(MCA/CHESS CHD-9264)

AMGによるディスク・データ

ボ・ディドリー、1960年リリースのアルバム。59~60年シカゴ録音。

ロックン・ローラー、ボ・ディドリーというと、日本じゃあんまりメジャーではなくて、「あ、あの月亭可朝似のオジさんね」「角型ギターのひと」程度の認識しかされとらんけど、本国アメリカでは、その影響力はものスゴいものがある。下手すると、キング・オブ・ロックンロール、チャック・ベリーをしのぐくらいの。

ミュージシャン、作曲家というと、フツー楽曲、というかその主旋律を作ることで自己表現するのが通例だが、ボの場合、メロディのみならず、その曲の持つリズム、ビートをも自己表現の重要なポイントとしている。

彼のトレードマークは、いうところのジャングル・ビートなわけだが、このリズムに触発されて曲を生み出したアーティストは数限りない。

いちいち挙げていくと際限がないのだが、たとえば、マディ・ウォーターズ、ローリング・ストーンズ、ヤードバーズ、エリック・クラプトン、ニール・セダカ、デイヴィッド・ボウイ、スウィート、リトル・フィート、カルチャー・クラブ。日本では細野晴臣、久保田麻琴、そしていうまでもなく、ボ・ガンボス。

これってホントにすごいことだと思う。リズムは多くの場合、自然発生的に出来たもので、誰それが発明したというものではない。ジャングル・ビートも、もちろんニューオーリンズのセカンド・ラインが源流で、正確にはボ自身のオリジナルとはいえないのだろうが、原初的なセカンド・ラインを彼流にアレンジ、ラテン・リズムも融合させて、他のものとは一線を画した、彼ならではのビートを創出していると思う。

さて、当アルバムは、ボの代表作といっていいだろう。さまざまなアーティスト(その中にはブルースマン、R&Bシンガーもいれば、白人ロックバンド、そしてポップ・シンガーまで含まれる)にカバーされた「ROAD RUNNER」「DEED AND DEED I DO」「WALKIN' AND TALKIN'」を中心とした11曲をフィーチャー。

この中での白眉は、やはりコミカルでポップな「ROAD RUNNER」だろうが、他もバラエティに富んだラインナップで、聴いていて非常に楽しい。

たとえば、N.O.つながりのギター・スリムを意識したようなバラード「LOVE ME」、カリブ風ビートの「LIMBER」、ドゥ・ワップ・コーラスをフィーチャーした「WALKIN' AND TALKIN'」「DEED AND DEED I DO」、いかにもボらしい力強いシャッフル「SCUTTLE BUG」「LIVE MY LIFE」、ジャングル・ビートのショーケースのような「SIGNIFYING BLUES」「CRAW-DAD」、ボ流ロックンロール「LET ME IN」、ピアノをフィーチャーしたインスト・ナンバー「TRAVELIN' WEST」等々、めいっぱい陽気なナンバーが目白押し。

やっぱ、このひとの本領は、アッパー系の曲にありますな。ブルースをやっても、決して湿っぽくならないのがボ・クォリティ。

このアルバムで、重要な役割を果たしているのが、名ピアニスト、オーティス・スパン。「STORY OF BO DIDDELY」「LIMBER」あたりの軽妙なサウンドは、彼のピアノ抜きでは成立しなかっただろう。さりげない名人芸に、脱帽である。

変幻自在のリズムの魔術師、ボ・ディドリーのサウンド・マジック・ショー。とても半世紀近く前のとは思えないくらい、カッコいい音が満載です。ブルースが苦手というひとにも、おすすめであります。

<独断評価>★★★★


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音盤日誌「一日一枚」#313 ジミ・ヘンドリックス「ブルーズ」(ユニバーサルミュージック UICY 3832)

2022-09-23 05:00:00 | Weblog

2006年4月2日(日)



#313 ジミ・ヘンドリックス「ブルーズ」(ユニバーサルミュージック UICY 3832)

AMGによるディスク・データ

ジミ・ヘンドリックスの編集もの。94年リリース。11曲中8曲は未発表音源である。

タイトルが示すように、ジミのあまたある曲の中でも、ブルース色の強いオリジナル、あるいは他のブルースマンのナンバーのカバー・バージョンを集めてある。

ジミといえば「ロックの革命児」的な文脈で語られることがもっぱらで、ブルースマンのひとりとして語られることは稀であるが、まぎれもなく、ブルースに大きなインスピレーションを受けてきたアーティストのひとりである。

子供のころから父親が持っていたブルース、R&Bのシングル・レコードを愛聴して育ったジェームズ・マーシャル・ヘンドリックスは、まさにブルースの申し子なのである。

エクスペリエンスでメジャー・デビューする前は、リトル・リチャード、キング・カーティス、アイズレー・ブラザーズをはじめとするR&B系バンドでギターを弾いてきた経歴を見ても、それは十分わかると思う。

さて、このアルバム、モノクロのジミの横顔に、彼が影響を受けた数々のブルースマンたちが原色でコラージュされているジャケット・デザインがまことに秀逸である。取り上げられた34人の顔ぶれも、実に泣かせる。

マディ・ウォーターズ、アルバート・キング、チャック・ベリー、ハウリン・ウルフ、ジョン・リー・フッカー、アルバート・コリンズ、ロバート・ジョンスン、エトセトラ、エトセトラ。

そう、彼らこそが、ジミにとって音楽的な意味での「父親」たちなのである。

アトランダムに取り上げていくと、筆者的に一番オキニなトラックはM2の「ボーン・アンダー・ア・バッド・サイン」だな。初登場音源。ビリー・コックス(B)、バディ・マイルズ(Ds)とのトリオ編成によるインスト・ナンバー。

7分半を超える長尺で、歌なし、ギター・ソロのみだが、山あり谷あり、超スローなのにいささかのダレも感じさせない。ギターひとつでこれだけ延々と聴かせられるアーティストなど、彼をおいて他にいまい。

リズム隊の粘っこくも安定したグルーヴも○。何度聴いてもあきさせない。

それから注目すべきは、アコースティック・バージョンとエレクトリック・バージョンが対になったセット「ヒア・マイ・トレイン・カミン」(M1&M11)だろう。

前者は67年録音。12弦アコギという、非常に弾きこなすのが難しい楽器をたくみにあやつり、マディ・ウォーターズばりのデルタ・ブルース・スタイルを見事によみがえらせている。

後者は70年録音。アルバム「レインボー・ブリッジ」にて初出のライブ・テイク。12分におよぶ演奏が前者とは対照的に、なんともホットだ。

われらが寿家ファミリーの人気シンガー、マディーさんの十八番「レッド・ハウス」も、ジミにとって重要なナンバーだ。当アルバムではエクスペリエンスのデビュー盤(英国版)に収録されたバージョンが聴ける。ノエル・レディングが何故かベースではなく、チューニングを下げたギターであのおなじみのリフを弾いているのが興味深い。曲によってはベースレスだったりするあたり、なんともブルースではないか。

そのギター・スタイルには、さまざまな先輩ブルースマンの影響が見てとれる。ルーツ・コンフェッションとでもいうべき一曲。ところが、米国版「アー・ユー・エクスペリエンスド?」では、この一曲はオミットされてしまっている。「こんな古いスタイルの曲じゃ受けねーよ」とレコード会社に判断されてしまったのだろうか。なんとも残念な話である。

そういう憂き目にあいながらも、ジミが毎回コンサートで演奏し続けた結果、この「レッド・ハウス」は見事定番曲となり人気を獲得したのだから、なんとも素晴らしい。

なお、本アルバムには同曲のセッション・バージョン「エレクトリック・チャーチ・レッド・ハウス」(68年録音)も収録されていて、こちらも必聴。リー・マイケルズのオルガンをフィーチャーした重厚なサウンドがカッコいい。

エクスペリエンスによる「キャットフィッシュ・ブルース」も目を引く一曲。ロバート・ペットウェイの作品、というよりはジミ的にはマディ・ウォーターズがレパートリーにしていた関係で取り上げたのだろう。

66年、オランダにて収録。非常にハードで粘っこい演奏が印象的。これを聴くと、どうしてもテイストのバージョンを連想してしまう。その重心の低いスローなサウンドがかなり似ている。編成も同じトリオだし。

時代的にはもちろんテイストのほうが後だから、テイストがジミのこの選曲にインスパイアされたのではないだろうか。このテイク自体はあまり一般的でないが、翌年にはBBCで再演されていて、それをロリー・ギャラガーがチェックしていたのでは、そう推理してみたい。

この曲、エンディング部分で、クリームの「スプーンフル」をパクったアレンジをしていて、思わずニヤリとしてしまう。そういえばジミは「サンシャイン・ラブ」もカバーしていたぐらいだから、相当クリ-ムを意識してたんだろうな。

「ヴードゥー・チャイル・ブルース」はおなじみの「ヴードゥー・チャイル」の別テイク。68年録音。有名なアルバム・バージョンを約半分に圧縮した、セッション版。

ブルースという音楽に顕著な情動(エモーション)を一所に集約したプレイは、「すさまじい」のひとこと。名手スティーヴ・ウィンウッドのオルガンが、見事にジミをサポートしている。

「マニッシュ・ボーイ」はもちろん、マディ・ウォーターズの代表的ナンバー。「エレクトリック・マッド」の有名なバージョンの後を受けて、69年に録音。

マディ版とはうって変わった、アップ・テンポの曲調に注目。歌やスキャットとギターの同時プレイなど、ジミならではの超絶技が堪能できる。やっぱ、スゴすぎます、このひと。

オブリガートの巧いブルースギタリストは大勢いますが、歌とギターの同時進行(しかも違うフレーズ)というのは、なかなか出来るものじゃないすよ。

エルモア・ナンバーの「ブリーディング・ハート」も、なかなかいい出来。特にラフなボーカルに、意外と歌心を感じてしまった。ジミは、あまり歌のほうは高い評価を受けていないように思うが、実はすぐれたブルースの歌い手だったのだと発見。

その他、オリジナルの2曲、スローの「ワンス・アイ・ハド・ア・ウーマン」、アップテンポの「ジェリー292」もそれぞれコテコテのブルース・ナンバーだ。

でもオーセンティックなブルースのフォーマットに乗っかりながら、前者ではディレイやワウ・ペダル、後者ではディストーションが効果的に使われていて、ジミならではのギミックが存分に楽しめる。

以上11曲、ブルースをモチーフとしつつも、そこに展開されているのは、まぎれもなく、ジミ・ヘンドリックス自身のワン・アンド・オンリーな音楽である。ブルースの申し子、ジミはブルースを超える音楽を初めて創造した。

真のイノベーターとは、過去のものを無視して勝手に新しいものを作り出す人のことではない。過去のものの良さをすべて知った上で、換骨奪胎してまったく別のものを作ってみせる人のことをいうのだと思う。

偉大な革命児、ジミ・ヘンドリックスは、また偉大なブルースの後継者でもあった。20世紀の音楽とは何か、知る上で外すことは出来ない一枚。必聴です。

<独断評価>★★★★☆


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音盤日誌「一日一枚」#312 オリジナル・サウンドトラック「Dazed and Cofused」(THE MEDICINE LEBEL 9 24533-2)

2022-09-22 06:18:00 | Weblog

2006年3月26日(日)



#312 オリジナル・サウンドトラック「Dazed and Cofused」(THE MEDICINE LEBEL 9 24533-2)

AMGによるディスク・データ

きょうは、ちょっと毛色の変わった一枚。映画のサウンドトラック盤であります。

「Dazed and Cofused」はリチャード・リンクレイター監督、1993年公開のアメリカ映画。残念ながら、日本では未公開であります。

ときは1976年5月。舞台はテキサスの、とある田舎町。卒業を迎えた4人組の高校生を中心とする、青春コメディ。かの名作「アメリカン・グラフィティ」の70年代版といった感じですな。

筆者自身、まだ映画自体は観たことがないのですが、この映画のバックに使われている音楽がなんともごきげん。70年代前半の、英米ハードロックのキャッチーなナンバーが14曲、てんこもりなんであります。

映画タイトルの「Dazed and Cofused」はもちろん、レッド・ツェッぺリンの代表的ナンバーから引用したわけですが、どういうわけだか、その曲自体は、サウンドトラックには入っていないのです。映画の主題として、象徴的に使われているだけみたいです。

まずはオープニング・ナンバーの「ロックンロール・フーチークー」から。以前にもソロ・デビュー・アルバムを取り上げたことのある、リック・デリンジャーの大ヒット曲。もう、のっけから盛り上がります。

続いて、これまた以前ライブ盤をレビューしたフォガットの「スローライド」。スタジオ・テイクもライブに負けず劣らずへヴィーでカッチョいいです。

お次はアリス・クーパーの「スクールズ・アウト」。筆者の中高生時代のなつかしいヒットが目白押しで、涙ちょちょ切れ状態です。AMやFMラジオでロックを聴きまくったあの頃が、まざまざとよみがえってきますな。

「ジム・ダンディ」はブラック・オーク・アーカンソーのヒット。ちょっとシブいところで攻めてきました。日本じゃほとんど人気が出なかったバンドだけど、今改めて聴いてみると、けっこうイケてますやん。軽快なロックン・ロールが、ハイスクール・ライフそのものといえそう。

続いてはZZトップの「タッシュ」。まだ、ディスコ系のヒットを出す前の、ひたすらなブギなナンバー。泥臭いけど、いい感じであります。

そして、泣かせるのはナザレスのバラード・ナンバ-、「ラヴ・ハーツ」。いやー、実にいいメロディ、ハートにジワーンと来るボーカルでありますわ。

「ストラングル・ホールド」といえば、そう、当時のロック界でも極めつけの野獣派、テッド・ニュージェント(正しい発音はナジェントらしい)のナンバー。ワイルドな彼らしい、スゲえタイトルの曲ですな(笑)。ZEPの「幻惑されて」「ハウ・メニー・モア・タイムズ」あたりのナンバーをほうふつとさせる重量感あふれるアレンジが、なんともカッコいいです。

そして次に登場するのは、な、な、な~んとランナウェイズではありませんかっっ!!

76年、その年にデビューしたばかりの平均年齢16才(!)の5人組、ランジェリー・コスチュームで世の男どもを悩殺(笑)した、ガールズ・バンドのハシり的存在の彼女たち。曲はもちろん、デビュー・ヒット「チェリー・ボム」であります。

この曲は本国アメリカのみならず、この日本でも一大センセーションを巻き起こし、普段ならロックなど聴きもしない中年男性層まで巻き込みましたから、記憶に残っているかたも多いでしょう。あれから、実に30年の歳月が経ってしまったというのですから、いやはやなんともであります(笑)。

ごきげんなナンバーはまだまだ続きます。スウィートの「フォックス・オン・ザ・ラン」、ウォーの「ロー・ライダー」、レイナード・スキナードの「チューズデイズ・ゴーン」、そしてディープ・パープルの「ハイウェイ・スター」。当時の英米の代表的ロックバンド、揃いぶみの感があります。

そしてドラマのクライマックスをかざるのはやはり、当時アメリカで一番の人気を誇ったバンド、キッス。曲はきわめつけの一曲、「ロックン・ロール・オールナイト」!

映画を観ているわけでないのでこれはもちろん推測ですが、この曲は映画のハイライト、卒業生の祝賀会と、新入生の歓迎会をかねたパーティのシーンで使われたに違いありません。この曲以上に、その手のパーティにぴったりの曲はありますまい。とんでもなく盛り上がった様子、目に浮かぶようです。

ラストはブラック・サバスの「パラノイド」。これまた、ハードロック・スタンダードといえる重厚なナンバー。しめくくりにふさわしい一曲ですな。

こういったナンバーが、ほんの5年くらいの間にぞくぞくと登場してきた70年代前半は、まさにハードロックの黄金時代であった、いまさらながらそう思います。
76年の5月といえば、筆者的にも高校を卒業、予備校生生活をスタートしたあたりで、映画の主人公たちの状況ともシンクロしまくりであります。聴いてきた音楽も、筆者自身の青春そのもの。
映画を観たら、間違いなく、感激の涙ちょちょ切れ状態になることでしょう。そのうちぜひ、日本でも発売されているというDVDを、チェックしてみたいと思ってます。

なお、映画「Dazed and Confused」の内容は、下記のサイトで詳しく紹介されています。参考まで。

Dazed and Confused(1993)

Dazed and Confused

<独断評価>★★★★


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音盤日誌「一日一枚」#311 TOTO「ハイドラ」(CBS/SONY CSCS 6019)

2022-09-21 05:00:00 | Weblog

2006年3月19日(日)



#311 TOTO「ハイドラ」(CBS/SONY CSCS 6019)

AMGによるディスク・データ

TOTOのセカンド・アルバム。79年リリース。彼ら自身およびトム・ノックスによるプロデュース。

前年、シングル「ホールド・ザ・ライン」、アルバム「TOTO~宇宙の騎士」をひっさげて華々しくデビューした彼らが、その人気を不動のものとした第二作。

もともとは西海岸の売れっ子スタジオ・ミュージシャンだった彼らの、高い演奏力と作編曲のセンス、クリエイティビティがいかんなく発揮されたアルバム。四半世紀を経た現在聴いても、そのクォリティの高さはハンパではない。

TOTOといえばよく知られるのが、そのレコーディング・スタイル。歌、コーラス以外のトラックは基本的に一発録りで、楽器のパートではツイン・リード・ギターのようなケースでもない限り、めったにオーバー・ダビングをしないという。たとえ、シンセのようなパートでも。

いくつものテイクを切り張りするようなレコーディング法が当たり前となった現在では、前時代的ともいわれかねないやり方だが、この方法のおかげで、彼らのレコードは、まことにライブ感が溢れるスリリングなものとなっている。

リハは念入りに行うが、本番は原則的にライブ同様、一発勝負で、小細工をしない。これは真に実力のあるミュージシャンのみに可能なワザといえよう。

また、TOTOというバンドは、リード・ボーカルとしてボビー・キンボールというメンバーを擁しているが、彼にすべておまかせではなく、他のメンバーも率先してリードをとる。このへんが、バンドの底力というか層の厚さの証しといえる。

なかでも、ギターのスティーヴ・ルカサーは、声のやたら甲高いキンボールとは対照的に、中音域の落ち着いた声で勝負するタイプだが、ある意味「裏リードシンガー」といってもいい活躍ぶりを見せている。

その一番顕著な例が、当アルバムの3曲目、スマッシュ・ヒットとなったバラード、「99」だろう。

これはTOTOの音楽的リ-ダーといえる、デイヴィッド・ペイチの作品。このうえなく美しいメロディをもつこのラブソングを、ルカサーは淡々と歌いこんでいる。

これが実にいい味わい。デビュー・ヒットの強烈な印象のおかげで、TOTOイコール「キンボールの激しくリキんだような歌声」と理解していた我々リスナーにとって、この一曲が新鮮なショックだったのを、昨日のことのように思い出しますわ。

キンボールのハイトーン・ボイスも、TOTOの個性の重要なポイントであることには違いないのだが、流行りものの音楽としては、いまいち万人ウケのする声でなかったような気がする。

それが証拠に「99」以降のヒット曲は、「ロザーナ」「アフリカ」のような、中音域を中心にしたものが多い。キンボールの声が前面に出ているのは「グッバイ・エリノア」くらいかな。

やはり、声の好みというのは重要な問題で、作曲者はまったく同じでも、リードシンガーが変わることで、バンドの人気が大きく変化するものなのだ。たとえば、シカゴとか、ヴァン・ヘイレンとかがいい例だろう。

TOTOも、いかにもプロフェッショナルっぽいキンボールより、素人っぽいルカサーやペイチの歌声のほうが、万人ウケしたということである。

超プロフェッショナルな、一分の隙もない演奏、でもどこかトーシロっぽい歌声、このへんのギャップが意外とよかったのかもしれないね。

さて、当アルバムは、わりとポップでキャッチーなところもあった前作に比べて、よりハードでプログレッシヴなサウンドになっている。

たとえばタイトル・チューンの「ハイドラ」しかり、二曲目の「St.ジョージ&ザ・ドラゴン」しかり。神話/伝説の世界にモチーフを求めたこの二曲は、特にハードでヘビーな仕上がりだ。

後半の「ホワイト・シスター」もその系統の一曲だろう。この手の曲は、おもにキンボールが、その張りのある高音で、バンド全体を牽引している。

一方、ファースト・アルバムからの流れといえそうな、ポップな味わいのナンバーもある。「ロレイン」「オール・アス・ボーイズ」がそうだ。後者とかは、クイーンっぽい雰囲気さえある。こういう曲では、キンボールのかわりにルカサー、ペイチが歌で活躍しているのが、興味深い。

ヒットシングル「99」には、クラシックの要素がふんだんに盛り込まれているが、「ロレイン」の前半部にもそういうアレンジがなされていて、一筋縄ではいかないものを感じる。

そうかと思えば、フュージョンぽいメロウなノリの曲もあったりする。「ママ」がそれだ。やたら凝ったリズム・ワーク、アレンジは、どう考えても並みのプログレ・ハード系のバンドからは出てこない音だ。

このへん、引き出しの多さでは他の追随を許さない彼らの、面目躍如といえそう。

現在もバリバリ活躍中のミドルエイジ・ハードロック・バンド、TOTO。その一番生きのよかった頃の演奏がここにあります。出来るだけ、ボリュームを上げて、楽しむべし。

<独断評価>★★★★


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音盤日誌「一日一枚」#310 クライマックス・ブルース・バンド「サンプル・アンド・ホールド」(ビクター音楽産業 VIL-6033)

2022-09-20 05:33:00 | Weblog

2006年3月12日(日)



#310 クライマックス・ブルース・バンド「サンプル・アンド・ホールド」(ビクター音楽産業 VIL-6033)

クライマックス・ブルース・バンド、通算14枚目のアルバム。ヴァージン移籍後初のアルバムでもある。83年リリース。ジョン・エデンおよび彼ら自身によるプロデュース。

クライマックス・ブルース・バンドほど息の長いバンドも珍しい。結成は67年、英国スタッフォードにて。69年にアルバム・デビュー。

当初の「クライマックス・シカゴ・ブルース・バンド」というバンド名を71年に「クライマックス・シカゴ」と変え、さらに73年に現在のバンド名に再変更と、脱皮を繰り返しつつ成長してきた。

オリジナル・アルバムの制作は88年の「DRASTIC STEPS」が最後になっているが、2003年にはウィリー・ディクスンのカバー集「BIG BLUES」もリリース、現在もオリジナル・メンバーのコリン・クーパー(66才!)を含む5人編成でライブ活動を行っている。なお、中心メンバーであったピーター・ヘイコックは、ソロ・ギタリストとしてIRSからアルバムを出している。

クライマックス・ブルース・バンド(以下CBB)といえば、76年に出したアルバム「GOLD PLATED」に収録されていた「クドゥント・ゲット・イット・ライト(COULDN'T GET IT RIGHT)」が大ヒット。翌年、全米3位にまでのぼりつめているが、良くも悪くもこの曲が、以後の彼らの道のりを決定したといっていい。

実力のわりには、なかなか人気にもヒットにも恵まれなかった6、7年を経て、大ヒットを出し、誰もが知っているバンドになったことで、バンド活動に余裕が出てきた反面、なかなか冒険は出来なくなり、以前のようなクリエイティビティは失われていった。このへん、先日取り上げたロッド・スチュアートにも共通するものがある。

ショービズに入った以上、誰もが憧れ目指す「成功」ではあるが、いったんそれを手にしてしまうと、「守り」に入らざるをえなくなる。結局、何かを得たかわりに失うものも大きいのだ。

CBBの場合、それでも何年かはクリエイティビティを維持し、81年には再びスマッシュ・ヒット「I LOVE YOU」(全米12位)を出して意気軒昂なところを見せているが、それが限界だったようで、以後はまったくヒットと無縁になる。

トップを走り続けるということは、かくも難しいことなのである。

さて、このアルバムはレーベルも移籍して、新しいCBBサウンドを出そうとそれなりに模索している一枚だと思う。

オーソドックスなR&Bをベースにしたポップ・ロックということでは以前と大きな違いはないが、以前のような若さ、パワーを前面に出したスタンスではなく、メンバーが40代に突入したこともあってか、もっと大人の余裕や貫禄を出した音作りを目指しているようだ。

個人的には元フリーのアンディ・フレーザーと英国のシンガー、フランキー・ミラーの作品、「アイム・レディ」のカバーが一番ツボかな。タイトルからわかるように、マディやディクスンへのトリビュート的ナンバー。ここでのコリンの歌声はソウルフルで、実にシブい。

「ヘヴン・アンド・ヘル」のブルース・ロックなノリもいい。ヘビーなギターに絡むブラスや、オルガンがなんともブルーズィ。イントロが「ふたりの愛ランド」にパクられたとおぼしき「サインズ・オブ・ザ・タイムズ」はブギ・ビートがノリノリで心地よい。

「クドゥント・ゲット・イット・ライト」の路線をもっとも踏襲しているのは、「フレンド・イン・ハイ・プレイス」かな。当時流行のオージー・ロックふうの軽快なビートに、おなじみのオクターブ・ユニゾンのボーカルが乗っかって、いかにもキャッチーな作りだ。

「ウォーキング・オン・サンセット」や「シャイン」も、ダンサブルでノリのいいナンバー。コリンとピーターの異質な声同士のハーモニーがいい個性を生み出している。

一方、メロウでメロディアスな曲も充実している。たとえば、コリンのハスキーな歌声とサックスをフィーチャ-した「ムービー・クィーン」も、ちょっとテンポが速すぎるきらいはあるが、いい雰囲気だ。

いかにも「ソウル・バラード」な「ドゥーイン・オールライト」は、テンプスみたいなコーラス・ワークがなんとも泣かせる。

また、ラストの「ジ・エンド・オブ・ザ・セブン・シーズ」も、ストリングス、コーラスやツイン・リード・ギターを多用、スケールの大きいサウンドがまことに印象的なスロー・バラード。この一曲だけ聴くと、ムーディ・ブルースみたいなプログレ・ハードなバンドかと思ってしまう。

「クドゥント・ゲット・イット・ライト」一曲のイメージだけ、あるいはブルース・バンドという呼称だけで単純に捉えられがちなCBBだが、そのサウンドは多面的であり、極めて奥が深い。さすが、長~いキャリアはダテじゃない。

あくまでも原点であるブルース、R&Bへのリスペクトは失わず、でも一方で新しいビート、新しいサウンドも遠慮なくガンガン導入していく、いい意味での節操のなさ、器用さが、CBBの身上だといえるだろう。

逆にいうと、「これこそCBB!」といえるような、決定的な個性が欠けていたともいえるんだけどね。

ぶっちゃけいってしまうと、歌声にあまりオリジナルな魅力がない。そのへんは、曲作り、サウンド作りのうまさでカバーしていたといえよう。職人肌のバンドなのだ。

決して王者にはなれなかったが、小味ないいバンド、それがCBBだと思う。

たまには音盤を引っぱり出して聴いてみたくなる。筆者にとっては、そんな存在なのである。

<独断評価>★★★


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音盤日誌「一日一枚」#309 TINBIN「Toccata(夜明け)」(ワーナー・パイオニア 06L5-4095)

2022-09-19 05:10:00 | Weblog

2006年3月5日(日)




#309 TINBIN「Toccata(夜明け)」(ワーナー・パイオニア 06L5-4095)

白ベリ、ZONEにならなかった少女たち

きょうは珍しく、シングルである。TINBINのサード・シングル。89年リリース。

TINBIN(ティンビン)は87年にデビューした、わが国ではきわめて珍しいガールズ・インストゥルメンタル・グループ。音楽ジャンルとしては、フュージョンに入るだろう。

メンバーは5人。大半のレパートリーの作曲も手がけるリーダー格の上野千佳(KB)を中心にした、キーボード×2、シンセ×2、そしてドラムスという、ちょっと特異な編成である。

筆者はこのシングルが出た89年に、彼女たちを代々木公園の野外ステージで初めて観たのだが、「スゲエ!」と思い、さっそくこのシングルを購入した記憶がある。

当時のメンバーは一番年長の上野が17才、最年少のプヨこと乗富由香は15才。まさにのちのモー娘やZONEのようなアイドル年齢だったのだ。

そんな見た目はいかにも子供子供した5人が繰りひろげる演奏は、SQUARE、カシオペアあたりにもひけをとらない本格派フュージョン。

聞けば彼女たちは、84年ころから(つまり上野が中1のころから)本格活動しており、その年にはNHK「朝の体操」のテーマソングを作曲していたという。さらにさかのぼれば、どのメンバーも5才くらいから音楽レッスンをはじめており、シンセやドラム演奏に親しんでいたという。そのスクール仲間からTINBINは生まれた、とこういうことなのだ。

以前取り上げたデビー・ギブソンにも匹敵する、早期教育によって見い出された、きわめて才能のある少女たちだったのだ。

今だったら、それこそ「スウィングガールズ」や「カーリング娘。」ではないが、マスコミにもっとアイドル視され、大々的にクローズアップされてもおかしくないが、当時はちょうどアイドル冬の時代。

87年におニャン子クラブが解散して以来、ガールズ・グループは退潮気味だった。

またTINBIN自身も、もともと才能教育の流れから出てきたバンドなので、そういうアイドルもどき的な扱いを潔しとしなかったといえる。

TINBINは3枚のシングルを発表後、しばらくは地道な(草の根的ともいえる)コンサート活動を続けていたようだが、メンバーの進学やら何やらで、活動停止というか実質解散へとむかったようである。

最年長の上野は現在34才。ネットで検索してみたら、どうやら音楽大学へ進学して、現在は作編曲の仕事にたずさわっているようだ。他のメンバーについては、まったくわからない。

さて、バンドの紹介ばかり長くなってしまった。このシングルについて書いておかねば。

A面の「Toccata(夜明け)」、B面の「Mountain Dance」、ともに上野千佳の作曲、アレンジはTINBINの全メンバーによるもの。

まずは「Toccata(夜明け)」。シンセによる荘厳なオープニングに続いて、突如始まるのは、激しいシンコペーションの嵐。早いパッセージのキーボード&シンセ・ソロが続き、とどめは重量感のあるドラムソロ。もう、ハンパなくカッチョえーのである。

「Mountain Dance」もシンコペてんこ盛りのナンバー。哀感あふれるピアノ・ソロ、ブラス風の重厚なテーマに導かれ、またもハデなソロの応酬の連続。頻繁にテンポを変え、流れにメリハリのあるアレンジも素晴らしい。

これをパッケージをふせて聴けば、誰も15、6才の少女たちが演奏しているなんて思わんでしょう。「え、これ、デイヴ・グルーシン?」、なんて訊くに決まっている。

もちろん、まだ若く未熟な面もないではない。まだ、リズムが機械的というか正確すぎて、微妙なニュアンスというか、シーケンサーなどには出せない「グルーヴ」を出すまでには至っていない。ソロもまだ、頭の中でひねりだしたような感じではある。

でも筆者が彼女たちの年齢のころに、これだけのレベルの演奏なんか、逆立ちしても出来なかったことを思うと、素直にすげー!と思ってしまう。(今だって、出来ないしぃ(笑))

若いガールズ・バンドの代表だったWhiteberry、ZONEだって(ライブのときはどうだったかしらんが)レコーディングのときには、スタジオ・ミュージシャンの助けを借りざるを得なかったが、彼女たちはまったくそんな必要もなく、すべて自分たちだけでやってのけているのである。

「才能」「TALENT」とは、こういうもののことを指すのであるよ、本来は。

まあ、相変わらず見てくれだけの人間に、「下駄」をはかすことしか考えていない、わが国のショービズ・システムでは、本物の才能ある人間がクローズアップされることは稀だろう。

白ベリ、ZONEに「なれなかった」のではなく、あえて「ならなかった」TINBIN。その残したわずかな音源は、いまでも十分に筆者の耳を楽しませてくれている。

十代くらいで、ちょっとバンドをやって「オレたちけっこう上手いじゃん」なんて自惚れているキミたち、これでも聴いて、世の中上には上があるってことを思い知るべし。

<独断評価>★★★☆


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音盤日誌「一日一枚」#308 エクストリーム「THE COLLECTION(THE BEST 1200)」(ユニバーサルミュージック UICY-9916)

2022-09-18 05:19:00 | Weblog

2006年2月26日(日)



#308 エクストリーム「THE COLLECTION(THE BEST 1200)」(ユニバーサルミュージック UICY-9916)

エクストリームのベスト盤。2002年リリース(日本ではTHE BEST 1200シリーズのひとつとして2005年リリース。初回生産限定)。

エクストリームといってもピンと来ないかたもおられるかもしれないが、今をときめくスーパー・ギタリスト、ヌーノ・ベッテンコートが在籍していた米国のハード・ロック/へヴィー・メタル・バンドといえば、おわかりいただけるだろう。

エクストリームの活動期間は約11年。85年に結成、89年にアルバム・デビュー、セカンド・アルバムにも収録されている「モア・ザン・ワーズ」が全米チャート1位のヒットとなり、トップ・グループへと躍り出る。96年に解散。

ポルトガル出身という異色のギタリスト、ヌーノの超絶技巧プレイをフィーチャーした演奏は、テクニカルのひとこと。とにかく、どんなスタイルのサウンドでもさらりと演奏してしまうのだ。

大ヒットした「モア・ザン・ワーズ」はアコースティック・バラードだが、彼らの本領はむろんスピーディでアグレッシブなハードロック・ナンバーにある。

本盤でいえば「マザー」「リトル・ガールズ」「キッド・イーゴ」「デカダンス・ダンス」あたりがその代表例といえそう。

ベースはごくオーソドックスな、エアロスミス、ヴァン・ヘイレン的な陽性アメリカン・ハードロックなのだが、これにヨーロッパ的なクラシックの香りを溶かし込んだウルトラハイテク・ギターが絡んで、90年代ならではのネオHR/HMとなっている。きわめてアメリカンな音である一方、時にディープ・パープル、レインボー、クイーンのような英国系のセンスも感じられる。

常にコーラスが前面にフィーチャーされている、ハデめな音なのも彼らの特徴で、そのあたりはキッスとかボン・ジョヴィ、ミスター・ビッグなどの先輩バンドの影響が色濃く感じられる。

つまるところ、それまでの先行バンドのおいしいところを全部取りしてトッピングした、スーパー・プレミアム・アイスクリームってとこか。

それもこれも、メンバー4人全員の抜群の演奏力と歌唱力あってこそのことなのだが、裏を返せばとてつもなく「器用貧乏」なバンドといえなくもない。

なんでも出来てしまうため、逆にいうと「これっきゃできません」みたいな、エクストリームならではのオリジナリティは、ほとんど感じられない。どこか聴いたことのあるフレーズ、アレンジが多いという印象はぬぐえない。

そんな過去の名曲クローン的なナンバーが多いなか、ナンバーワン・ヒットとなった「モア・ザン・ワーズ」は演奏テクニックに頼らず、メロディそのものの美しさだけで勝負しているのが、好感が持てる。

70年代の大ヒット「天国の階段」に相当する、90年代ロックの代表的ナンバ-といってもいいだろう。

他の曲が「作り込み過ぎ」の感が強い中で、ライブ演奏に近い音録りをしているのも、成功の原因といえる。

筆者はもうひとつのアコースティック・ナンバー「ホール・ハーテッド」も結構好きだ。ブルース感覚をうまく隠し味にしているのがいい。

ホーンも導入、ファンクをうまく自分たち流に料理したナンバー「ゲット・ザ・ファンク・アウト」も面白い。ヌーノのトリルばりばりなギター・ソロは、ファンキーな曲調とじゃなんか違和感があるけどね。

「ソング・フォー・ラヴ」は、ミスター・ビッグの「トゥ・ビー・ウィズ・ユー」をなんとなくほうふつとさせるバラード。さらにいえば、源流はビートルズかもしれんが。ここでのコーラスは、厚みがあって超強力だ。日本のバンドじゃ絶対出来ないね、こういうのは。

オレはヌーノのギターを堪能したいんじゃあ!というむきには「キューピッズ・デッド」がおすすめ。いわゆるリードギターでなく、リフを延々と弾いているんだが、その抜群のリズム感は圧倒的!のひとこと。

「ウォーヘッズ」も、ギタ-キッズ必聴の一曲。全編、アップテンポでゴリゴリ弾きまくるヌーノは、カッチョいいのひとこと。

筆者的には、あのトリルとかタッピングみたいな装飾過剰なフレーズよりも、リフの弾き方のカッコよさにしびれている。結局、ハードロックのキモは、いかにキャッチーなリフを作れるかにあると思うので。

オルタナ、グランジ系をハンパに意識した「ヒップ・トゥデイ」はあまり成功しているとは思えないが、同様の系統でも「ゼア・イズ・ノー・ゴッド」はなかなかイカしてると思う(いずれも95年リリースの「ウェイティング・フォー・ザ・パンチライン」収録)。

メロディよりもリズムを重視、コーラスを極力省いてソロ・ボーカルにスポットを当てたそのサウンドは、初期のエクストリームにはほとんど見られなかったタイプのものだ。これが、筆者的にはけっこうツボだったりする。

ただし、ここではヌーノのギターはほとんど出番がない。オルタナには華麗なるリード・ギタリストはいらんってことなのだ。

かくして、バンドは曲がり角を迎え、翌年には解散する。ヌーノは自らのギターをより生かすべく、ソロ活動に入ることになる。

バンドのサウンドの変遷も感じられて、なかなか興味深い一枚。どの曲も演奏クォリティは高く、これで一曲80円は安い! お買い得です。

<独断評価>★★★★


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音盤日誌「一日一枚」#307 V.A.「SUMMER BREEZE」(トリオ/SHOW BOAT 3B-20003)

2022-09-17 05:16:00 | Weblog

2006年2月19日(日)



#307 V.A.「SUMMER BREEZE」(トリオ/SHOW BOAT 3B-20003)

(1)初夏の香り(久保田麻琴と夕焼け楽団) (2)ISLAND GIRL(かまやつひろし) (3)DOMINICA HOLIDAY(西岡恭蔵) (4)ハイサイおじさん(喜納昌吉) (5)ここでひとやすみ(南佳孝) (6)SUMMER GIRL(かまやつひろし) (7)ムーンライト・フラ(久保田麻琴&夕焼け楽団) (8)MOONLIGHT OCEAN(小坂忠) (9)ALL OF ME(憂歌団) (10)星くず(久保田麻琴&夕焼け楽団) (11)フライングソーサー(小坂忠) (12)GOOD NIGHT(西岡恭蔵)

皆さんは「SHOW BOAT(ショーボート)」というレコード・レーベルを覚えておいでだろうか。オーディオ・メーカーのトリオ(現・ケンウッド)が持っていたレーベルだ。現在ではSKY STATIONという会社が原盤権を持っており、過去の音源の一部をCD化している。

このショーボート・レーベル、小レーベルながら日本のポップス史上、非常に重要なアーティストを何組も輩出しているのだ。

たとえば久保田麻琴と夕焼け楽団(サンセット・ギャング)。たとえば南佳孝。そして憂歌団。

いずれも、ひとくせもふたくせもある連中ばかり。一般ウケはあまりしないが、好きなひとは猛烈に好きという、超個性派の集団だ。

他にも、ムッシュことかまやつひろし、 荒木一郎といったベテラン組、友部正人、三上寛、小坂忠、西岡恭蔵といったフォーク系のシンガーもいれば、吉田美奈子なんてひともいる。実に多士済々なのだ。

到底、ひとつのカラーでは括りきれないんだが、不思議とコンピレーションで聴いても違和感がない。そこが面白いところであるね。

なんていうのか、共通項は今流行りの言葉でいえば、「ロハス」な音楽をやっているというところかな。

83年にリリースされた本盤は、タイトルが示唆するように「夏」がテーマ。夏の息吹きを感じさせるトラックを12曲、つめこんである。

筆者的に「懐かしい!」と思うのは、まずはムッシュの「SUMMER GIRL」かな。「オレンジ」改め「FLAT OUT」というバンドがバックをつとめている。このバンドにはタケことギターの横内健享や、のちにソロデビューする山本達彦(KB)もいた。

南佳孝の「ここでひとやすみ」もいいねえ。ティン・パン・アレイのメンバーや矢野誠(アッコちゃんの最初の旦那ね)らと、リラックスしたセッションを繰り広げている。南サンの声が実に「若い」んだよなあ。この曲の入った「摩天楼のヒロイン」って名盤だと思うよ。

久保田麻琴さんも、実は個人的にけっこう影響を受けたひとだ。筆者が高校生のころ、彼を意識してステージネームを「麻琴」にしてみたことがあったくらい(笑)。

彼の新しいサウンドを探すアンテナは、ホントに敏感だよね。ケイジャン・ミュージックというか、セカンド・ラインみたいな音楽は、まず彼を経由して知ったような記憶がある。「初夏の香り」や「ムーンライト・フラ」を収めた「ハワイチャンプルー」、今でもスゴいアルバムだと思う。

もちろん、憂歌団も、初めて聴いたときはすごいショックを感じたもんだ。このコンピには残念ながら一曲しか入ってないけど、憂歌団の全盛期はショーボート時代、こう断言して間違いないと思う。

これだけいいアーティストを多数擁し、いいアルバムを沢山産み出したということは、ショーボートに、音楽を真に愛し理解していた素晴らしいスタッフが多数いたからなのだろうけど、彼らはいまはどこでどういうふうに音楽に関わっているのだろうか。とても気になることではある。

いずれにせよ、セールスとか、大衆ウケとはちょっと異なった視点で、グッド・ミュージックを作り続けたレーベルが、ショーボート。こういう姿勢を、同好の者のひとりとして、見習っていきたいと思っている。

最後に、現在のショーボートのサイトを紹介しておきますので、皆さんもぜひチェックしてみてください。

「SHOW BOAT」の公式HP 

<独断評価>★★★☆


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音盤日誌「一日一枚」#306 ロッド・スチュアート「HANDBAGS & GLADRAGS」(MERCURY 528 823-2)

2022-09-16 05:13:00 | Weblog

2006年2月12日(日)



#306 ロッド・スチュアート「HANDBAGS & GLADRAGS」(MERCURY 528 823-2)

ロッド・スチュアート、マーキュリー時代のベスト・アルバム。95年リリース。

この1月で61才を迎えたロッド。スモール・フェイセズ~フェイセズの看板シンガーをつとめながらも、一方でソロ活動も行っていた69年から74年までの、彼のソロ・レコーディングを集大成した一枚だ。

ロッドといえば元祖スーパースターのひとり。そのキャリアは40年以上にも及ぶ。今でも昔と変わらぬスリムな体型を保ち、トレードマークの嗄れ声を聴かせてくれるのだが、正直言ってここ20年以上、その作品に見るべきものはないように思う。

多数のヒットを出し、スーパースターとしての地位を盤石にしたあたりから、その音楽の成長は止まってしまった。

ソロ・アルバムの出来ばえ(クリエイティブな意味での)としては、ロッドが30代にさしかかったばかりの、75年の「アトランティック・クロッシング」、76年の「ア・ナイト・オン・ザ・タウン」あたりがピークだったという気がする。

やはり、彼が昇り調子だった70年代前半にこそ、傑作アルバムの大半が生み出されていたのである。

たとえばなつかしの「ガソリン・アレイ」、そして「エブリ・ピクチャー・テルズ・ア・ストーリー」。日本でも、ロッドの名前を一躍メジャーなものとした作品群である。

本盤には前者から9曲中の6曲(ただし「イッツ・オール・オーバー」はシングル・バージョン)、後者からは8曲中5曲を収録。

全37曲、「マギー・メイ」をはじめとするおなじみのヒット・チューンもほぼ完全網羅しており、アルバム約4枚分のボリュームは聴きごたえ十分だ。

個人的に好きなのは、アルバム・タイトルにもなった「ハンドバッグス&グラッドラッグス」「ガソリン・アレイ」「マギー・メイ」、そしてその流れを汲んだ「ユー・ウェア・イット・オール」といったアコースティック・サウンドのナンバーかな。優しいアコギやピアノの響き、シンプルなドラミング。ちょっとフォーキーでいなたいサウンドが、ロッドのハスキーな声に意外とマッチしている。

カバーものにも、良曲が多い。たとえばボブ・ディランの「オンリー・ア・ホーボー」、ティム・ハーデンの「リーズン・トゥ・ビリーブ」、エルトン・ジョンの「カントリー・コムフォート(故郷は心の慰め)」、そしてボビー・ウーマックの「イッツ・オール・オーバー」といったところ。心にしみるバラードあり、ノリのいいナンバーあり、実にツボをおさえた心憎い選曲ばかりだ。

もちろん、ロッドお得意のロックン・ロール路線の曲もたっぷり楽しめる。ストーンズの「ストリート・ファイティング・マン」、サム・クックの「ツイスティン・ザ・ナイト・アウェイ」、チャック・ベリーの「スウィート・リトル・ロックン・ローラー」などなど。聴けば思わず、体が踊り出しまっせ。

のちのスーパースター然とした、一流モデルや女優をとっかえひっかえ付き合う、どこかスカしたロッドとは違った、素朴で気取りのない音楽。これが実にいい感じだ。

フォ-ク、トラッド、R&B、ロックン・ロールといった、自身のルーツ・ミュージックを素直に追求しているロッドにこそ、彼本来の魅力がもっともあらわれていると思うのは、筆者だけであろうか。

曲の魅力、歌声の魅力、どれも一級品ぞろい。いなたくも新鮮さにあふれていた時代のロッドを、この一枚で堪能してほしい。

<独断評価>★★★★


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