NEST OF BLUESMANIA

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音曲日誌「一日一曲」#407 憂歌団「ヘビー・スモーカー」(SHOW BOAT)

2024-05-17 07:43:00 | Weblog
2024年5月17日(金)

#407 憂歌団「ヘビー・スモーカー」(SHOW BOAT)





憂歌団、1981年リリースのアルバム「夢・憂歌」からの一曲。尾関真の作品。有山淳司編曲。

日本のブルースバンド、憂歌団は1970年結成。当時大阪府立工芸高校の生徒だった木村充揮(秀勝)と内田勘太郎によるデュオとして始まった。高校卒業後、大阪阿倍野の喫茶店で定期的にライブ活動を行う。

74年にベースの花岡献治(憲ニ)、ドラムスの島田和夫が加わり、バンドスタイルとなる。

メジャーデビューは75年。トリオレコードのSHOW BOATレーベルからシングル「おそうじオバチャン」、続いてアルバム「憂歌団」をリリース。木村の強烈なダミ声、日本語の歌詞によるアコースティック・ブルースという独自のサウンドが話題となる。

以後、シングル、アルバムをコンスタントにリリース、ライブ活動を精力的に続け、マディ・ウォーターズら米国のブルースマンとも共演を重ねていく。

本日取り上げた「ヘビー・スモーカー」の収録された「夢・憂歌」は5枚目のスタジオ・アルバム。アレンジャーに五つの赤い風船、上田正樹とサウス・トゥ・サウスなどで活躍したシンガー/ギタリスト、有山じゅんじを迎えている。

憂歌団単体の演奏だけでなく、プラスアルファのアレンジが加わることで、サウンドに華やかさ、広がりが出て来た意欲作だ。

このアルバムの中で、「ヘビー・スモーカー」という、妙に歌詞が気になる曲があった。

内容はごくシンプルで、街のタバコ屋の看板娘が可愛くて思わず一目惚れ、彼女会いたさにさほど好きでもないタバコを毎日買いに行っており、いつのまにやらヘビー・スモーカーになっていた、というもの。

「あるある」ネタのごくたわいのない歌なのだが、ちょっとヤバいなと感じるのは、その男が単なる片思いという域を越えて、そのタバコ屋娘に相当執着しており、彼女について身辺調査まがいのことまでやらかしていることだ。

彼女にオトコがいるらしいことまで突き止めていて、「おいおい、そりゃほとんどストーカーだろ!」とツッコミを入れたくなるレベルなのだ。

レコード発表当初のいろいろとユルい昭和時代ならばともかく、コンプラにやたらうるさくなった現代ならば「勘違い乙」「ストーカー乙」「痛いヤツ」と揶揄されてもしょうがないほど、ヤバい内容である。

歌の作者は憂歌団のメンバーではなく、尾関真とある。調べてみるとこの人は、憂歌団のデビュー・アルバム以来、彼らに多くの楽曲を提供して来た人だった。

ざっと挙げると、「ジェリー・ロール・ベイカー・ブルース」「ひとり暮らし」「田舎のメリー」「失恋ブルース」「金持ちのオッサン」「シカゴ・バウンド」「俺の村では俺も人気者」、こんな具合だ。みなさんも聴いたことのある歌が、何曲かはあると思う。

尾関真氏については、あまり詳しいことはわからないのだが、70年代より出身地の名古屋を中心に「尾関ブラザーズ」という、弟の隆氏とのブルース・ユニットで活動をしていたことまでは分かった。

兄が曲を作って歌い、弟がギターでバッキングする、そんなスタイルだった。しかし、弟が若くして亡くなったことにより、残念ながらユニットは終了してしまったという。兄はその後、ラテンバンドに参加したそうだ。

そんな草の根的なブルース・アーティストの曲を積極的にカバーしたのも、憂歌団のユニークさの表れと言えるんじゃないかな。

ただの片思いソングなら、ありきたりなフォークだが、そこに「そのうちきっと/オレのものにする」あるいは「オレのもんだぜ」などといった勝手な思い込み、ストーカー要素が濃厚に加わる事で、この曲はヤバいほどブルースだと感じさせる歌になった。

彼らのお馴染みのナンバー「パチンコ」の一節を内田のギターで再演するなど、クスリとさせるポイントもあって、なかなか楽しい一曲。短いピアノ・ソロもナイスだ。

果たしてこの歌の主人公は、タバコ屋娘を首尾よくゲット出来たのだろうか?

おそらく、名曲「パチンコ」同様、ロクな結末にはならなかったはずだ。

が、とりあえず「あの子を落とす」という意気込みだけは十分なのが、いい。

リスナーの大半を占めるであろう非モテオトコたちの共感を呼ぶ、チャーミングなナンバー。

この曲を口ずさみつつ、世の男は(推定)負け戦におもむくのである。イェイ!

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