NEST OF BLUESMANIA

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音曲日誌「一日一曲」#420 ポール・バターフィールド・ブルース・バンド「Born In Chicago」(Elektra)

2024-05-30 08:08:00 | Weblog
2024年5月30日(木)

#420 ポール・バターフィールド・ブルース・バンド「Born In Chicago」(Elektra)






ポール・バターフィールド・ブルース・バンド、1965年10月リリースのファースト・アルバム「The Paul Butterfield Blues Band」からの一曲。ニック・グレイヴナイツの作品。ポール・ロスチャイルド、マイク・エイブラムスンによるプロデュース。

今回は、プレイヤーのバターフィールド・ブルース・バンドではなく、あえて曲の作者の、ニック・グレイヴナイツの方にスポットを当てたいと思う。

グレイヴナイツは1938年10月イリノイ州シカゴ生まれ。現在も存命の85歳である。

グレイヴナイツは両親ともギリシャ系移民の家庭に生まれた。名字の本来の読み方は「グラヴェニテス」である。彼のニックネームが「ザ・グリーク」である所以だ。家業はキャンディ屋だった。

陸軍士官学校を退学後シカゴ大学に入り、そこでハーピスト、ポール・バターフィールドと知り合い、その影響もあってブルースにハマるようになる。

シカゴのブルース・クラブに通ってマディ・ウォーターズ、ハウリン・ウルフらを聴く一方で、ギターを弾き、自ら曲を作るようになった(当時はまだブルース・クラブは黒人の聖域で、そこに白人が出入りするには、相当な勇気がいったらしい)。

一番最初にレコードとなった彼の作品が、この「Born In Chicago」というわけである。

その歌詞は自分が生まれた地であるブルース・シティ、シカゴでの出来事を歌ったもの。シカゴに生まれ住んでいる人間でなくては、書けなかった曲である。

60年代初頭に、グレイヴナイツはバターフィールドとのデュオを組み、シカゴのクラブで演奏していた頃に、この曲は初めて演奏された。

マイク・ブルームフィールドが64年からバターフィールド・ブルース・バンドに参加したが、本曲を知っていたブルームフィールドが、この曲を取り上げるべきだと主張して、それが通ったという。

彼らの最初のレコーディングは65年4月に行われ、本曲はエレクトラレーベルのサンプラー・アルバム「Folk Song ‘65」に収録された。ボーカルはブルームフィールド。

これが好評だったため、ファースト・アルバムのレコーディングにあたって、同年9月に再録音して収録することになった。そのバージョンではマーク・ナフタリンのオルガン、コーラスとソロの追加がなされて、今日よく聴かれるようなサウンドになったのである。

バターフィールドのバンドのメンバーにはならなかったが、この一曲により、グレイヴナイツは新進のソング・ライターとして次第に注目されるようになる。

翌66年、バンドのセカンド・アルバム「East West」が制作される。このラストに収録された「East West」というインストゥルメンタル・ナンバーを、グレイヴナイツとブルームフィールドが共作している。いわゆるラーガ・ロックのはしりとなった、13分以上におよぶ意欲作である。

グレイヴナイツのことを高く評価していたブルームフィールドは、バターフィールド・ブルース・バンドからの脱退後、ついに自らのバンドにグレイヴナイツを招き入れる。67年結成の、エレクトリック・フラッグである。

このバンドでグレイヴナイツは、リードボーカル兼リズムギターという、フロントマンの大役を得る。また、何曲かのソング・ライティングも担当した。

バンドは2年の短命に終わり、2枚のアルバムを出すにとどまったが、これでグレイヴナイツはプレイヤーとしてもメジャーな存在となったのである。

以降の彼の活動は、プロデュース・サイドのものが中心となる。一番有名なのは、ジャニス・ジョプリンへの楽曲提供だろう。「Work Me, Lord」、そしてジョプリンの死のため歌抜きとなった「Burried Alive In The Blues」などを書いている。

また、クィツクシルバー・メッセンジャー・サービスとの協力関係も強く、彼らのファースト・アルバムをプロデュースしたほか、そのリーダーだったジョン・シポリナとバンドを組んで活動したりしている。

黒人ブルースマンとのつながりもあり、よく知られているのは、オーティス・ラッシュのアルバム「Right Place, Wrong Time」(71年録音、76年リリース)のプロデュースを担当したことであろう。その他、自身のバンド活動、他のバンドとのコラボなど、枚挙にいとまがない。

グレイヴナイツは2020年にドキュメンタリー映画、その名も「Born In Chicago」に出演している。グレイヴナイツが自分はシカゴでブルースと共に育ったんだと語っており、まさに彼の人生の総括ともいうべき一編となっている。エルヴィン・ビショップやダン・エイクロイド、ありし日のブルームフィールドも映画内に登場している。

白人であるグレイヴナイツにとっても、シカゴ・ブルースは心のふるさとであり、生きる糧であったということだ。

彼の作る曲は、黒人ブルースに強い影響を受けながらも、白人ならではの感覚、先進的なセンスが含まれており、それはデビュー作の「Born In Chicago」においても既にはっきりとあらわれている。

新時代のブルース、ネオ・ブルースとでもいうべき、グレイヴナイツのビート感覚溢れた一曲、改めて味わってみてくれ。






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