NEST OF BLUESMANIA

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音曲日誌「一日一曲」#415 ミック・テイラー「Red House」(Maze Music)

2024-05-25 08:48:00 | Weblog
2024年5月25日(土)

#415 ミック・テイラー「Red House」(Maze Music)




ミック・テイラー、1990年リリースのライブ・アルバム、「Stranger In This Town」からの一曲。ジミ・ヘンドリックスの作品。テイラー本人、フィル・コレラによるプロデュース。

英国のギタリスト、ミック・テイラーはいうまでもなく、ローリング・ストーンズに69年6月から74年12月まで在籍して、ストーンズの黄金期を支えた重要メンバーだ。本名・マイケル・ケヴィン・テイラー。

1949年12月、ハートフォードシャー州ウェリンガーデンシティに生まれる。10代になるとバンド活動を開始、地元では注目を集めるようになる。

1966年4月にジョン・メイオール&ブルースブレイカーズのライブを観に行き、飛び入り演奏でクラプトンの欠場を埋める。

これがきっかけで、翌67年、ピーター・グリーンが脱退した後のブルースブレイカーズに加入、弱冠17歳でプロデビュー。アルバム「Crusade」のレコーディングにも参加する。

69年6月、メンバーのブライアン・ジョーンズが急死し、後任ギタリストを必要としていたストーンズに、メイオールがテイラーを推薦したことにより、急遽参加が決定する。

アルバム「Let It Bleed」から「It’s Only Rock’ n’ Roll」に至るまで約4年半、ギタリストとして活躍するも、74年末に脱退を表明して、グループを去った。

その後はジャック・ブルースに誘われて彼のバンドに参加したり、リトル・フィートのライブにゲスト参加したり、フランスのバンド、ゴングとコラボするなど多様な活動を続ける。

ソロアーティストとしての本格的な活動は、77年から始まる。同年コロムビアレーベルと契約、制作に数年をかけたファースト・アルバム「Mick Taylor」を79年6月についにリリースする。テイラー、齢29にしての初ソロである。

このアルバムではインスト曲が多いが、それだけではなく、テイラー自身がリードボーカルをとったナンバー(「Leather Jacket」など)も収められており、ストーンズ時代はほとんど歌わなかった彼が、実は歌うことにも意外と前向きであることがはっきりと分かったのであった。

その後はなかなか続編が出ず、以前「一枚」の方で取り上げた「Shadow Man」を含めても数枚しかリリースしていない。そのかわり、ライブ・アルバムを比較的多めにリリースしている。

本日取り上げたのは、その中の一枚、1989年夏のスエーデン公演、ドイツ公演、同年冬の米国フィラデルフィア公演を収めたアルバム、「Stranger In This Town」の一曲、おなじみのジミ・ヘンドリックス・ナンバー「Red House」である。スエーデンにてレコーディング。

バックのメンバーは、ベースのウィルバー・バスコム、ドラムスのエリック・パーカー、キーボードのマックス・ミドルトン。

オリジナルは1966年、ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスによりレコーディングされ、彼らのデビュー・アルバムに収録された。

以来、多くのブルースやロックのミュージシャンによりカバーされて、ブルース・スタンダードのひとつとなっている。

テイラーはこの曲を、オリジナルにかなり忠実なフレージングで丁寧にカバーしている。愛器のレスポール・スタンダードがなんとも艶っぽい音色だ。

そして、何より注目すべきなのは、ボーカルをテイラー自身がとっていることだ。長いギター・ソロの後半からギターとのユニゾン・スキャットを始め、その後歌に入る。

この声がなかなかにシブくて、いい感じなのである。

リードシンガー向きの、いわゆる華のある声ではないけれど、ディープでブルースを感じさせる声質。

聴く者にしみじみと感じさせる、サムシングがあると言いますか。

途中、ブルース・スタンダード「Goin’ Down Slow」の歌詞も織り込みつつ、ゆったりと思い入れたっぷりに歌うテイラー。大物ブルースマンの貫禄、ハンパない。

ギター・プレイの方も、約30年のキャリアを感じさせる出来映え。彼は指弾きだけでなく、スライド・ギターも得意とすることでよく知られているが、一曲の中、いやひとつのフレージングの途中でも指からスライドにスピーディにスイッチすることで、よりエモーショナルなプレイを生み出している。

この絶妙なスイッチ・プレイは、彼のライブ映像を観るとよくわかるので、そちらで確認していただこう。

テイラーは生前のジミ・ヘンドリックスとも顔馴染みであったという。自分よりもさらに凄いギターを弾く男として、テイラーもまた、彼を強くリスペクトしていたのだろう。

ヘンドリックスへの畏敬の念が滲み出たカバー・バージョン。テイラーも、ヘンドリックスに負けず劣らず、とてつもなくスゴいギタリストであることが、この一曲からもよく分かる。

そして、その歌も含めて、超一級のミュージシャンであることも。




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