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音曲日誌「一日一曲」#395 ジ・アロウズ「I Love Rock’n’ Roll」(Rak)

2024-05-05 09:14:00 | Weblog
2024年5月5日(日)

#395 ジ・アロウズ「I Love Rock’n’ Roll」(Rak)





ジ・アロウズ、1975年リリースのシングル・ヒット曲。アラン・メリル、ジェイク・フッカーの作品。ミッキー・モストによるプロデュース。

英国のロック・バンド、ジ・アロウズは1974年、米国出身のボーカル/ベース、アラン・メリル、同じくギターのジェイク・フッカー、英国出身のドラムス、ポール・ヴァーリーの3人がロンドンにて知り合い、結成。

同年、シングル「Touch Too Much」でRakレーベルでデビュー。プロデューサーは、アニマルズ、ハーマンズ・ハーミッツ、スージー・クアトロなどのプロデュースで著名なミッキー・モストだ。

ファースト・シングルが全英8位となり、まずまずのスタート。アロウズはポップなサウンドで、ミーハーな10代女性リスナー向けの、アイドル・バンド的な立ち位置であった。

そんな彼らがロック史上、重要な価値を持つ曲を翌75年に出した。それが、本日取り上げた「I Love Rock’n’ Roll」である。

この曲の大半を書き、またメインの歌い手でもあったアラン・メリルについて、少し語らせていただこう。

メリルはその名が示すように、名ジャズシンガーのヘレン・メリルの長男である。1951年、ニューヨーク・シティに、ジャズサックス奏者アーロン・サクスとヘレンの子、アラン・プレストン・サクスとして生まれる。

メリルは、スイスやLAなどで両親とも離れた生活を送ることが多かったが、母が在日勤務のドナルド・ブライドン氏との再婚により渡日したこともあり、10代後半、60年代末に日本に移住。

ニューヨークにいた頃よりプロのミュージシャンを目指していたメリルは、日本で外国人GS、ザ・リードに加入。バンドはまもなく解散してしまい、メリルは日本を離れて渡欧するも成功は得られず、再来日する。

70年に渡辺プロと契約、ソロ活動を開始する。同事務所のロック・パイロット、タイガースとも共演。翌71年にはソロアルバム、シングル「涙」をリリース。

その作曲者、かまやつひろしや大口ヒロシらと72年にウォツカ・コリンズを結成、翌年ファースト・アルバムをリリースする。同バンドではかまやつと共にリードボーカルもつとめた。

こうして、日本のミュージック・シーンに馴染んできたメリルだったが、渡辺プロとの契約問題が発端で、再び日本を離れることになる。行く先は英国ロンドン。

そこでメリル主導のバンド、アロウズを作ったのであった。ファーストとセカンドシングルのヒットで人気バンドとなり、彼らのバンド名を冠したテレビのレギュラー番組まで持ったものの、1stアルバム「First Hit」はさしたるセールスを上げられなかった。

やはり、シングル主導型のティーン向けポップ・バンドということで、多くのロック・リスナーはソッポを向いていたのである。

実は「I Love Rock’n’ Roll」という曲は、最初のシングルリリース時(75年)は「Broken Down Heart」というソングライターによる曲のB面であった。それまでにリリースされたシングル3曲も、A面は全てバンド外のソングライターによるものであった。

メリルは75年当時リリースされたローリング・ストーンズの「It’s Only Rock’ n’ Roll」への茶化し、カウンターソングとしてこの曲を書いたという。

そしてオリジナルゆえに思い入れがひときわ強かったのだろう、メリルは再録音してAB面を入れ替え、翌年再度シングルリリースしたのである。このアクションなくしては、のちの時代にカバーされるようなことはなかったに違いない。

つまり、アロウズは「I Love Rock’n’ Roll」で初めてバンドとして主体的に自作曲を世に送り出したのである。

その影響は、6年後、一枚の超特大ヒットというかたちで実を結ぶ。

ガールズバンドの先駆け、ザ・ランナウェイズ出身のギタリスト、ジョーン・ジェットと彼女の率いるザ・ブラックハーツによる、カバーシングルである。

82年1月にリリースされたこの曲は、全米7週連続1位という輝かしい記録を打ち立てた。

ジェットはランナウェイズ在籍中の76年、英国ツアー中にアロウズの冠番組を観てこの曲を知ったという。

そして、バンド解散後、79年に元セックス・ピストルズのスティーヴ・ジョーンズ、ポール・クックと共にこの曲をレコーディング、シングル「You Don’t Own Me」のB面としてリリースしている。

ジェットはよくよくこの曲を気に入っていたのだろう、81年末にブラックハーツをバックに再録音して、世に出したのである。

つまりこの曲は、本当に世間にアピールし、ビッグヒットとなるまでに、再三レコーディングを繰り返されて来ている。それだけ、魅力と生命力のあるナンバーなのだ。

その後もこの曲は、ブリトニー・スピアーズ、ドラゴン・アッシュ(「I Love Hip Hop」とタイトル変更)といった様々なアーティストにカバーされて、永遠のロック・スタンダードとなった。

2020年にコロナ禍の犠牲者となり、惜しまれながら69歳でこの世を去ったアラン・メリルが残した、最大の遺産。それはもちろん、この「I Love Rock’n’ Roll」にほかならない。

ロック・ミュージックの一大アンセム(賛歌)として、今後も多くのアーティストに愛され、歌い継がれていくに違いない。






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