NEST OF BLUESMANIA

ミュージシャンMACが書く音楽ブログ「NEST OF BLUESMANIA」です。

音盤日誌「一日一枚」#381 B. B. KING「BLUES SUMMIT」(MCA MCAD-10710)

2022-11-30 06:11:00 | Weblog
2022年11月30日(水)



#381 B. B. KING「BLUES SUMMIT」(MCA MCAD-10710)

B・B・キング、93年のアルバム。

B Bはシンガー/プレイヤーとしての活動に加えて、後半生はプロデューサー、オーガナイザー的な役割を自らに課して、後進のアーティストとの共演を増やしていく。

例えば、エリック・クラプトンとの共演盤「Riding With The King」がそうだ。

この一枚も、そんなセッション企画アルバムのひとつである。リリース当時、BBは67歳。

共演者には年下のみならず、8歳上のジョン・リー・フッカーも含まれており、最若手のロバート・クレイ(28歳下)に至るまで、男女問わずさまざまな世代ブルース・ピープルが集合、さながらブルース界の「頂上会議」の様相を呈している。

【個人的ベストファイブ・5位】

「Playin’ With My Friends」

シンガー/ギタリスト、ロバート・クレイとの共演。曲はクレイのオリジナル。

クレイは当時39歳。人気も出て来て、中堅シンガーへの仲間入りをした頃ではあるが、ブルースマンとしては、まだまだ若手、ひょっこ。

そんな彼をBBは我が子のように慈愛深くリードしている。ギターも率先して弾きまくり、それがいかにも気持ち良さげである。

ふたりのギターや歌のスタイルの違いがはっきり出ていて、面白い。

【個人的ベストファイブ・4位】

「Call It Stormy Monday」

テキサス・ブルースマン、アルバート・コリンズ(当時60歳)との共演。

曲はブルース・スタンダード中のスタンダード、T・ボーン・ウォーカーの作品。

ギターのプレイ・スタイルはまったく違うふたりであるが、掛け合いにより、見事な緊張感が生まれている。

リラックスした中にも、火花の散るような展開。

これぞベテラン同士の、ガチンコバトルの醍醐味だ。

【個人的ベストファイブ・3位】

「I Pity The Fool」

バディ・ガイとの共演(当時56歳)。曲は、ディアドリック・マローン(ドン・ロビー)作、ボビー・ブルー・ブランドでお馴染みのナンバーだ。

ほぼひとまわり下の後輩との共演は、迫力に満ちたシャウター・バトルになった。

ふたりのハイテンションな歌いぶりに太刀打ち出来る若いブルースマンは、多分いないだろうね(笑)。

【個人的ベストファイブ・2位】

「You Shook Me」

キング・オブ・ブギことジョン・リー・フッカー(当時75歳)との共演。

曲はウィリー・ディクスン作、マディ・ウォーターズの歌やツェッペリンのカバーで知られるナンバー。

当時のブルース界の最長老ジョン・リーとの「対決」は、実にスリリングで、妖しさ抜群である。

歌うというよりは、呪詛をつぶやくように、唸るスタイル。

B Bを挑発するように合いの手を入れる、ジョン・リーがカッコよすぎる。

【個人的ベストファイブ・1位】

「We’re Gonna Make It」

ニューオリンズ出身の女性シンガー、アーマ・トーマス(当時52歳)との共演。

曲はリトル・ミルトンのヒットで知られるソウル・ナンバー。

本アルバムではアーマ以外にもココ・テイラー、エッタ・ジェイムズ、ケイティ・ウェブスター、ルース・ブラウンといった綺羅星の如きベテラン・ディーバと共演しているが、その中では若いこともあってか、アーマの歌声が一番みずみずしい。

なんというか、聴いていて、とても前向きな気分になれる歌なんだな。明日に希望が持てるのだ。

B Bも、軽快なギター・ソロと歌で、アーマの快唱を盛り立てている。

他にもベテラン・ブルースマン、ローウェル・フルスンとの「Little By Little」、シンガー/ギタリスト、ジョー・ルイス・ウォーカーとの「Everybody’s Had The Blues」でのギター・バトルなど聴きどころは多い。

B Bの残した膨大な遺産のひとつ。今から聴いても、十分楽しめまっせ。

<独断評価>★★★★

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音盤日誌「一日一枚」#380 ROBBEN FORD「トーク・トゥ・ユア・ドーター」(ワーナーパイオニア 25P2-2126)

2022-11-29 05:04:00 | Weblog
2022年11月29日(火)



#380 ROBBEN FORD「トーク・トゥ・ユア・ドーター」(ワーナーパイオニア 25P2-2126)

米国のギタリスト、ロベン・フォード88年リリースのソロ・アルバム。

アルバムのコンセプトとしては、過去の有名なブルース・ナンバーを現代のセンスでカバーする企画、といったところか。

すなわちブルースをこよなく愛好する、フォードの原点回帰的作品と言えるだろう。

オープニングのアルバム・タイトル・チューンは、黒人ブルースマン、J・B・ルノアーの代表曲「トーク・トゥ・ユア・ドーター」。

軽快なテンポで繰り出されるギター・ソロ、そしていかにも気持ち良さげなフォードのボーカルで、いい感じにスタート。

次の「ワイルド・アバウト・ユー」はちょっと聴いただけではとても昔のブルースには思えないが、リトル・ウォルターの曲だ。

猛スピードで疾走する、聴いてアドレナリンが溢れまくるナンバー。

3曲目はチャールズ・シングルトン作の社会派ブルース・ナンバー「ヘルプ・ザ・プアー」、というよりはB・B・キングの歌声で有名な曲といったほうが早いか。

歌にせよギターにせよ、フォードにとって実の父親のごとく深く影響を受けた存在なのだろうな、BBは。大いなるリスペクトに満ちたカバーである。

「ナッシン・バット・ザ・ブルース」は、デューク・エリントン楽団のナンバー。1937年に書かれており、おそらく本アルバムの収録曲では一番古い曲だが、ジャズとブルースとの交差点的な味わいを持っている。

そのふたつの音楽ジャンルをともに得意とするフォードには、相応しいナンバーと言えるだろう。

「悪い星の下に」はご存知、アルバート・キングの代表的ヒット。フォードは、モダンでファンクなセンスも合わせ持つアルバート・キングに、BB同様、大きな影響を受けたのだろうな。

オーバードライブ・ギターのハードな音に、アルバートへの憧れを垣間見ることが出来る。

「ガット・オーヴァー・イット」はアイク・ターナーの作品。ノリのいいジャンプ・ナンバー。

ここで達者なブルース・ハープを聴かせるのは、フォードの3歳下の弟、マーク。アンプリファイドされた音が、実にスリリングだ。

「リヴェレーション」は本アルバム唯一のインストゥルメンタル。フォードがかつて在籍していたフュージョン・バンド、イエロージャケッツのキーボード、ラッセル・フェランテの作品。

ブルースとはいえないものの、どこかしらゴスペルの匂いを嗅ぎ取ることが出来るナンバー。タイトルも邦訳すれば「啓示」だしね。

フォードの伸びやかなプレイが、存分に楽しめる一曲。

「ゲッタウェイ」はフォードのオリジナル。スロー・テンポのブルースライクなバラード。

ギターだけでなく、フォードの「歌」を聴かせることがこのアルバムの面目なわけだが、歌うギタリストの多くが歌を「二の次」「余技」「副業」的に捉えているのに対して、フォードの場合は結構「本気(マジ)」で取り組んでいるの。

この自作ナンバーを歌うさまを聴けば、それは十分に感じられるはずだ。

もちろん、フォードの歌のスタイルは、多くの黒人ブルースマンのそれとは相当違う。あくまでも、彼流であり、コアなブルースファンにはあまり支持されるとは思えない。

とはいえ、別にそれでいい気がする。

ブルースとは、個性で勝負出来る音楽。

歌い手の数だけ、スタイルがあっていいのではないだろうか。

ロベン・フォードは、いわゆるブルースマンとは呼べないかもしれないが、彼の生み出す音楽、歌い弾く音楽もまた、間違いなく「ブルース」なのだと思う。

ラストはもう一曲、フォードのオリジナル「キャント・レット・ハー・ゴー」。

スタイルはブルースとは違うが、ブルースの「心」をそこに強く感じさせる、ハードでドラマティックなロック・ナンバー。再びマークもハープで兄を盛り立てている。

このアルバムをリリースした後も常にブルースを忘れることなく、プレイし続けているフォード。

特に「トーク・トゥ・ユア・ドーター」はライブでの十八番になっている。

ブルースこそは音楽のAであり、かつZ。

ロベン・フォードの、ブルースへの愛が満ち溢れた一枚である。

<独断評価>★★★★

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音盤日誌「一日一枚」#379 STEVE WINWOOD「バック・イン・ザ・ハイ・ライフ」(Island P35D-20022)

2022-11-28 06:41:00 | Weblog
2022年11月28日(月)



#379 STEVE WINWOOD「バック・イン・ザ・ハイ・ライフ」(Island P35D-20022)

英国のシンガー、スティーブ・ウィンウッドの4枚目のソロ・アルバム。86年リリース。ウィンウッド、ラス・タイトルマンの共同プロデュース。

ウィンウッドといえば洋楽リスナーならば知らぬ者はいないだろうが、あまり日本では固定ファンは多くないという気がする。

特にブラインド・フェイス以来彼と組むことが多い、古くからの友人エリック・クラプトンと比較してしまうと、その感が強まる。

ウィンウッドの音楽的実力、特にその歌のうまさから考えると、不当に低評価じゃなかろうかという気がしてしまうのだ。

でも、彼にもレコードが売れまくった、いわゆる「モテキ」のような時期はあった。

それがこのアルバムから始まる80年代後半の一時期である。

なにせこのアルバム、それまでの3作に比べると、段違いにセールスが伸びた。

本国英国で8位、42週連続チャート・インとなっただけでなく、アメリカでは3位、ゴールド・ディスク、トリプル・プラチナ・ディスクまで獲得したぐらいだ。

また、シングルされた4曲もすべてチャート入りするなど、もの凄いブレイクぶりだった。

それまで、実力のわりには地味なセールスしか記録して来なかったウィンウッドが、何ゆえに86年にブレイクしたのか?

はっきりした原因は分からないが、このアルバム以降、それまでよりは流行寄り、ポップで万人受けしやすい音作りを目指したこと、そしてリスナー側の感性もようやくウィンウッドの音楽性を理解出来るだけの成熟を見せてきた、その両面があるのではなかろうか。

4枚のシングル中の最大のヒットは「ハイヤー・ラブ」である。なんと全米1位に輝き、そのヒットによってグラミー賞でも2部門で最優秀賞の栄冠を勝ち得た。

ダンサブルなエレクトリック・ビート、繰り返しの多い覚えやすいメロディ・ライン、そしてソウルフルだが適度にクールな美声。

こういった要素が当時のパリピな人々に「オッシャレー」と捉えられたんだろうな。

この「ハイヤー・ラブ」路線のダンス向きの曲は他にも何曲かあり、2曲がシングルカットされてヒットしている。「フリーダム・オーヴァースピル」「ファイナー・シングス」がそれである。

もう1枚のシングル曲は「バック・イン・ザ・ハイ・ライフ・アゲイン」だが、これはちょっと趣きを異にしていて、バグパイプをフィーチャーした英国トラディショナル風の曲調である。

いわゆるダンス・ナンバーではないのだが、当時の破竹の勢いで、これもまたしっかりとヒット(全米13位)してしまった。

ウケてる時は、何をやってもウケる。そういうものかもしれないね(笑)。

でも、アルバムの他のナンバーを聴き込むと、以前からやって来たR&B路線の、シブめの曲もちゃんと入っていたりする。

スペンサー・デイヴィス・グループとかトラフィックあたりでやっていてもおかしくないのが「スプリット・ディシジョン」だ。スティーブ・ウィンウッドが何十年キャリアを重ねても忘れることのない原点の音が、そこにある。

ラストの「マイ・ラヴズ・リーヴィン 」もしっとりしみじみとした佳曲だ。80年代らしいアレンジにはなって るが、彼の音楽の根本にある「ソウル」は変わらない。

「流行」と「不易」。どちらも兼ね備えているからこそ、この「バック・イン・ザ・ハイ・ライフ」は多くのリスナーに支持されたのだ。そう思う。

<独断評価>★★★★

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音盤日誌「一日一枚」#378 ROBERT PALMER「プレッシャー・ドロップ」(Island P32D-25019)

2022-11-27 05:00:00 | Weblog
2022年11月27日(日)



#378 ROBERT PALMER「プレッシャー・ドロップ」(Island P32D-25019)

英国のシンガー、ロバート・パーマーのセカンド・アルバム。75年リリース。スティーブ・スミスによるプロデュース。

パーマーは49年生まれ。R&Bバンド、ヴィネガー・ジョーのボーカリストとして72年、アイランド・レコードよりデビュー。バンドは売れなかったが、歌いぶりを認められて74年同レーベルよりソロデビュー。

このセカンド・アルバムで日本でも少しずつリスナーが増えて来た。というのは、バックミュージシャンが当時5枚目のアルバムを出して人気が出て来た米国のロック・バンド、リトル・フィートだっだからだ。

この取り合わせが実によかった。まさにプロデュースの勝利。

リトル・フィートの引き出しの広いサウンドのおかげで、パーマーも自由闊達に自分の個性を表現出来たからだ。

パーマーはソングライターでもあり、本アルバムも9曲中6曲は自作曲である。他にはニューオリンズのシンガー、アラン・トゥーサン作の「Riverboat」、フィートのギタリスト、ローウェル・ジョージ作の「Trouble」、そしてアルバム・タイトル・チューン「Pressure Drop」はレゲエ・バンド、トゥーツ&メイタルズのカバーである。

セカンド・ラインを基調に、レゲエ、ファンク、ディスコ・ビートなどさまざまなサウンドを取り上げているが、基本はソウル。パーマーのちょっと塩辛い声が、耳に心地いい。

個人的に好きな曲は「Dexie Chicken」の裏バージョンぽい「Trouble」かな。ノリノリのピートで、思わず身体が動いてしまう。「Fun Time」のゆったりリラックス感も最高。

名ベーシスト、ジェイムズ・ジェマーソンもラストの「Which of us is the fool」で参加しているが、これまた文句なしに気持ちいいベースラインでリスナーを恍惚境に運んでくれる。

後ろ姿のヌード女性を前にうつむくパーマー。このアルバム・ジャケット写真も秀逸だな。快楽主義者なパーマーの実生活まんまかな?と思わせて、ニヤニヤしてしまう。

「音を聴くこと」の快感を思い知らされる、一枚。

五十年近く経とうが、その魅力はいささかも色褪せてはいないのだ。

<独断評価>★★★★

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音盤日誌「一日一枚」#377 松田聖子「Seiko-Index」(CBSソニー 30AH 1223)

2022-11-26 05:00:00 | Weblog
2022年11月26日(土)



#377 松田聖子「Seiko-Index」(CBSソニー 30AH 1223)

松田聖子のベスト・アルバム。82年リリース。

80年にデビュー、2枚目のシングル「青い珊瑚礁」でブレイクした松田聖子の80〜82年は、まさに「快進撃」の2年だった。

およそ3か月に1枚リリースするシングルは毎曲ヒットチャートを賑わし、彼女はあっという間にアイドル・シンガーの頂点に登りつめたのであった。

そんな聖子の、ファースト・ラウンドをまとめた一枚。シングルヒットと若干のB面曲、アルバムの人気曲で構成されているのだが、もう全部名曲だらけですわ。

A面は「青い珊瑚礁」から快調にスタート。5thシングルの「夏の扉」がそれに続く。

作曲は前者が小田裕一郎、後者は財津和夫。いずれも初期聖子の世界を作り上げた重要なコンポーザーだ。アレンジはともに大村雅朗。

この大村アレンジはかなり衝撃的だった。洋楽をまんまお手本にしたニューミュージック、シティポップスのサウンドを、アイドルシンガーにそのままぶつけて来たのだから。

トト、デイビッド・フォスター、ジェイ・グレイドンを想起させるハードなバッキング。新しい時代のポップスの誕生、だった。

ファースト・アルバムの人気タイトル曲「SQUALL」に続いて、松本隆の初作詞による「白いパラソル」。6枚目のシングルで組んだこの作詞家は、聖子のアピール・ポイントを完全に把握して、パーフェクトな歌詞を生み出していく。

初期聖子に一貫したテーマ、それは「季節感覚」「色彩感覚」そして「リゾート感覚」だ。松本はそれを初代作詞家の三浦徳子から引き継いで、集大成させる。

次の「いちご畑でつかまえて」は、まさにそんな聖子ー松本ワールドの一典型。メルヘンチックな少女漫画風でありながら、サリンジャーやビートルズの本歌取りみたいな側面もある、実験的作品。

A面ラストはデビュー曲「裸足の季節」。高い歌唱力の片鱗を見せながら、まだちょっと不安定な歌いぶりをそこかしこに見せており、「そこがまた(保護欲をくすぐられて)いい!」というファンが多かったものだ。

彼女の声は決してソウル・シンガーのようには太くない。その線の細さ、高音部を歌うときに少し感じさせる苦しさ、危うさ、これが見事にチャーム・ポイントになっている。ZARDの坂井泉水にも共通しているね、そのあたりは。

さて、B面へ行こう。まずは聖子の評価を決定づけた名曲、「赤いスイートピー」。8枚目のシングルで組んだ作曲家は、なんとユーミン(呉田軽穂名義)。ゆったりとしたバラードでの聖子の安定した歌いぶりは実に頼もしい。

デビューしてわずか2年で、彼女はもはや無敵であった。その成長ぶり、凄まじいのひと言だ。

顔立ちさえも、デビュー当時の頼りなげな感じから変わって、堂々として来た。人気というのは、少女をスターに変えるもんだなと、筆者は感じたものでした。

4枚目の「チェリーブラッサム」、3枚目の「風は秋色」と初期シングルが続く。声も1、2枚目より少しずつ艶っぽく変わっているのがよく分かる。一曲ごとに美しく脱皮していくなんて、そんな凄い歌い手、そうそういませんぜ。

「制服」は「赤いスイートピー」のB面だが、ファンの人気が高い、卒業ソングの隠れた名曲。聖子の泣き節、ここにあり。

「冬の妖精」は4枚目のアルバム「風立ちぬ」の中に収録されたナンバー。一聴してわかる、ナイアガラ・サウンド。そう、大滝詠一のプロデュース曲である。

聖子の伸びやかな歌声は、フィル・スペクターを思わせる懐かしのポップス調にも実によくなじむことが、わかる。

そしてラストは同じく大滝プロデュースの7thシングル「風立ちぬ」で締めくくられる。ここでの泣き節も見事のひと言。

松田聖子のなみなみならぬポテンシャルが、周囲の優秀な作家陣を刺激して、ハンパないクォリティの作品群を生み出したという奇跡。

聖子の才能を最初に見出したプロデューサー、若松宗雄さんの炯眼はホント、敬服に値すると思います、ハイ。

<独断評価>★★★★


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音盤日誌「一日一枚」#376 南佳孝「SEVENTH AVENUE SOUTH」(CBSソニー28AH-1462)

2022-11-25 05:02:00 | Weblog
2022年11月25日(金)



#376 南佳孝「SEVENTH AVENUE SOUTH」(CBSソニー28AH-1462)

シンガーソングライター、南佳孝82年リリースのスタジオ・アルバム。

南も実に息の長い歌い手である。デビューは73年、南23歳である。トリオ・レコードよりファーストアルバム「摩天楼のヒロイン」をリリース。

しばらくのブランクの後、76年CBSソニーに移籍、「忘れられた夏」をリリース。

お茶の間でもメジャーな存在となったのは79年の「モンロー・ウォーク」、81年の「スローなブギにしてくれ」のヒットあたりからだ。わりとスロースターターな南ではあったが、以降は順調にアルバムを発表し続けている。

「SEVENTH AVENUE SOUTH」はアメリカ・ニューヨークでの録音。もちろん、初めての海外録音だ。

ジャケットに使われた印象的な絵画は、エドワード・ホッパーという米国の画家の「Nighthawk」という作品。アルバムタイトルと相まって、いかにも深夜のニューヨークという雰囲気が満ち溢れている。

プロデューサーは南自身と高久光雄。

ミュージシャンは現地のスタジオマンたちで、アレンジはニック・デ・カロと井上鑑(「ルビーの指輪」のひとだね)その他なんだが、とにかくミュージシャンが一流揃いだ。

サックスのデイビッド・サンボーンを筆頭に、デイビッド・スピノザ(G)、トニー・レヴィン(B)、リック・マロッタ(Ds)、ラルフ・マクドナルド(Pc)と、すでに高い評価を得ていた凄腕ミュージシャンたちが名を連ねている。

この最高のメンツをバックに、自作曲をゆったりと歌い上げる南。アルバムのコンセプトは、いうまでもなく「都会の生活」だ。

「夏服を着た女たち」という曲名さながらに、まるでアーウィン・ショーの短編小説の如き、黒一色の夜、あるいは淡彩色の洒落た世界を展開する一枚だ。

筆者的に好きなのは、オープニングの「COOL」、そしてそれに続く「SCOTCH AND RAIN」かな。

前者のサンボーンの咽び泣くようなアルト・ソロ、後者のスピノザのギターやマイケル・チャイムズのハーモニカ・ソロの切ない響きは、一度聴いたことがあるひとなら、いまだに耳に残っているのではないかな。

松本隆による歌詞もいい。都会生活者の優雅で孤独で感傷的な世界を描かせたら、彼の右に出るものはいないだろう。

「波止場」はそんな中でも、出色の出来だと思う。行きずりの男と女が、ひととき心を通わせあう。ふたりとも
どこか訳ありな感じ。でも、お互いに深く尋ねることはせず、恋というには淡い関係を一夜だけ持つ。

実に粋じゃないか。

十代、二十代の若者にはちょっと歌えそうにない、おとなの世界。南佳孝、32歳にして初めて到達出来た境地といえそうだ。

ひとつひとつの曲に、ストーリーがあり、聴く者の想像力をかき立てる、そんな「歌による短編小説集」。

当時、親元を離れて東京でひとり暮らしを始めた筆者にとっても、この上なく重要でお気に入りの一枚。

すべてのニューヨーカー、そして東京生活者にお薦めしたい。

<独断評価>★★★★


http://www.macolon.net




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音盤日誌「一日一枚」#375 BILLY JOEL「THE STRANGER」(CBS CK34987)

2022-11-24 05:47:00 | Weblog
2022年11月24日(木)



#375 BILLY JOEL「THE STRANGER」(CBS CK34987)

シンガーソングライター、ビリー・ジョエルの5枚目のスタジオ・アルバム。77年リリース。

45年も前に発表された大昔の作品ではあるが、いま聴き返してみても、実にみずみずしい出来栄えの良作である。

本作リリースまで日本においてはほぼ無名の存在だったジョエルを一躍スターの座にまで引き上げたのが、このアルバム、そしてシングル「ストレンジャー」の大ヒットである。

ギター・ロックが全盛な70年代後半、ピアノを前面に押し出した大人っぽいジャジーなサウンドは、若きロックファンたちに新鮮な衝撃を与えた。かくいう筆者(当時大学1年)もそのひとりだった。

普段はトッド・ラングレン、リック・デリンジャーといったゴリゴリのロックを聴いていた筆者も、一方ではモダン・ジャズも好んで聴いていたこともあって、すぐにジョエルの音に惹かれて、ハマる様になった。

そして、翌78年4月の中野サンプラザでの日本初公演には、いそいそと馳せ参じたという次第である。

ライブは実に見事な出来であった。これぞアメリカン・エンタテイナーという感じの、サービス精神溢れるステージ。バック・バンドもサックス奏者をはじめとして、巧者揃いであった。

ロックという枠にはまり切らない、ジャズ、フォーク、ブルース、ゴスペル、ラテンなど、オール・アメリカン・ミュージックともいうべき多様で豊穣な音楽性。

単に歌やピアノが上手いという以上のものがそこにあり、これは我々猿真似ばかりやっている民族にはとうてい到達出来ないものだなと確信した。

要するに「ホンモノ」なのだ。

アルバムは他にヒットした「素顔のままで」「シーズ・オールウェイズ・ア・ウーマン」のほか、「ムーヴィン・アウト」「イタリアン・レストランにて」「若死にするのは善人だけ」「ウィーン」「最初が肝心」など、いずれも親しみやすく美しいメロディの宝庫である。

「ストレンジャー」の前奏に典型的な、哀愁に満ちたメロディ、そしてジョエルの通りのいい高らかな歌声。

これにはわが国のリスナーもイチコロでやられてしまった、ということだな。

ラストの「エブリバディ・ハズ・ア・ドリーム」のゴスペルライクなサウンドは、いかにもすべてのアメリカンが抱く「明日への希望」を謳いあげていて、胸が熱くなるものがある。

「ああ、このひとはこれからもずっとアメリカの心を歌い続けて、国民的なシンガーとなるに違いない」

そう思わずにはいられなかった。

そして45年の歳月が過ぎた。

ビリー・ジョエルは筆者の予感通り、そのとおり唯一無二の歌い手になった。

彼の魅力が凝縮された、若き日の傑作。もう一度聴き返してみよう。

<独断評価>★★★★☆


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音盤日誌「一日一枚」#374 BUDDY GUY「ザ・ブルース・ドント・ライ」〈ソニーミュージック インターナショナル SICP-6492)

2022-11-23 05:42:00 | Weblog
2022年11月23日(水)



#374 BUDDY GUY「ザ・ブルース・ドント・ライ」〈ソニーミュージック インターナショナル SICP-6492)

今年86歳となった大御所ブルースマン、バディ・ガイの4年ぶりの新作アルバム。今年9月リリース。

まず、80代後半にしてオリジナルのフル・アルバムを作り切っただけでも驚嘆に値するが、それだけではない。バディ・ガイは現在もライブ・ステージをしっかりとこなしているのだ。

先日もギタリストの息子を従えてライブを行なっている様子がYoutubeで公開されていたが、晩年のBBのように座って演奏するのではなく、ちゃんと立ってパフォーマンスしているのには感動を覚えた。なんという足腰の強さ!

そんな「超人」ブルースマン、バディ・ガイの新作は、決して過去よりパワーダウンすることのない、熱気に満ち溢れた一枚となっている。

老境とか、枯淡の境地とはおおよそ無縁なんである。

斯界トップの大御所だけに、本アルバムもゲスト・ミュージシャンは実に豪華である。

メイヴィス・ステイプルズ、ジェイムズ・テイラー、エルヴィス・コステロ、ウェンディ・モートン、ボビー・ラッシュ、ジェイソン・イズベルと、錚々たるメンツが名を連ねている。

しかし、どんな有名ゲストがやって来ようが、王者はまったく怯まない。

どの曲も全て自分色に染め上げ、あくまでもバディ・ガイのアルバムとしてまとめあげているのだ。

サウンド的にはいつもの彼のライン、80年代以降のロック寄りの音がメインとはいえ、わりとオーソドックスなブルース・スタイルの曲も何曲かやっていて、オールド・ファンへの気配りも感じる。例えばM10の「House party」とかM11の「Sweet thing」がそれである。

「やっぱり、バディ・ガイの真骨頂はボックス・シャッフルだよな!」という意見の筆者としても、こういうサービスは嬉しい。

ちょっと面白いのはビートルズのカバーもやっていること。M13の「I’ve got a feeling」である。

50年以上前のこの曲を、ガイは「昨日ちょっと聴いたばかりなんだけど」みたいなカジュアルさでパパッと弾いて歌ってみせる。この軽さ、リキみのなさがガイの持ち味であり、いいところなんだと思う。

いつもジョークと笑いで絶えない彼のステージを見れば、それは納得していただけると思う。

ラスト、M16の「King bee」で本アルバムを締め括ったことには、とても感慨深いものがある。

この曲はバディ・ガイが最も尊敬し、慕う先輩ブルースマン、マディ・ウォーターズの代表的なナンバー。

最近のライブでもマディの曲は必ず演奏するようで、マディの存在はガイにとって「原点」であると同時に「目的地」なのだ。

先人へのリスペクトと感謝を常に忘れぬバディ・ガイこそは、現在のアメリカポピュラー音楽のリーダーとして相応しい。

この一枚で、ローリング・ストーンズだってまだまだガキに見えてしまうくらいの老人パワーに圧倒されてくれ。

独断評価>★★★★

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音盤日誌「一日一枚」#373 LITTLE MILTON「シングス・ビッグ・ブルース」(ユニバーサルミュージック インターナショナル UICY76557)

2022-11-22 05:23:00 | Weblog
2022年11月22日(火)



#373 LITTLE MILTON「シングス・ビッグ・ブルース」(ユニバーサルミュージック インターナショナル UICY76557)

ブルース、そしてソウル・シーンでも活躍するシンガー/ギタリスト、リトル・ミルトン、66年のアルバム。

チェス・レーベルでは2作目に当たる本作品では、アルバム・タイトルが示唆するように、ビッグな(著名な)ブルース・アーティストのビッグな(有名な)曲をカバーしている。

例えばM1の「Feel so bad」はオーティス・ラッシュの熱唱で知られるナンバー。

ミルトンは同じシンガー/ギタリストであるラッシュを相当意識していたようで、その後も「I can’t quit you baby」をカバーしていたりする。

ボーカル・スタイルも同じシャウターということで、「良きライバル」と見なしていたんだろうね。

当然ながらカバー曲のほうも、ラッシュに負けじ劣らじの気合い入りまくり、実にグレイトな出来である。

M2も極め付けのビッグ・ブルースマン、ローウェル・フルスンの曲をカバー。「Reconsider baby」である。

フルスンもミルトン同様、ピュア・ブルースというよりは、ソウルとかファンクにも近しいジャンルのシンガーだから、ミルトンは格別の親しみを込めてトリビュートしているようだ。

M3は大先輩格のT・ボーン・ウォーカーのカバー「Stormy Monday」。さまざまなシンガーが取り上げている超有名曲だが、ミルトンは本家ウォーカーよりもどちらかと言えばボビー・ブランドに近いソウルフルなスタイルで歌い上げている。言わば、一曲でふたりのビッグ・ネームを同時にトリビュートしている感じ。Waw

M4は、ビッグと言えば外しようのない「あの人」が登場。もちろん、ブルース界最大のスター、B・B・キングである。曲は「Walk up this morning」。

軽快なビートでグイグイと、ご本家に迫る「イカり節」を聴かせてくれます。

M5。B・Bとくれば次はこれでしょ、とばかりに聴かせるのはアルバート・キングの「Hard luck blues」。

スモーキーでソフトなアルバートとは対照的な、激しいシャウトでキメるミルトン。

M6はオーソドックスなブルースが続いたところに意表を突いて、ジェームズ・ブラウンの「Please please please」を。なるほど、これもそのゴスペルっぽい節回しが広義のブルースと言えなくはない。JBもまた、ブルースの眷族なのだ。

そんな感じでA面をまるまる紹介してみたが、B面はM7でB・Bの「Sweet little sixteen」を再びやっている以外は、ややマイナーなアーティストのものが多い。

でも曲自体はけっこうヒットして、多くのリスナーの耳に刻まれているのがM8の「Fever」、そしてM12の「Part time lover」あたりだ。

前者はリトル・ウィリー・ジョンがオリジナル。でもペギー・リーやマドンナ、ビヨンセのバージョンの方がよく知られているだろう。

後者はリトル・ジョニー・テイラーの曲だが、オリジナルを聴いたことのある人は稀に違いない。筆者も、ファビュラス・サンダーバーズで初めて聴いたクチだが、その切ない歌詞がなかなか泣かせるので好きな曲のひとつだ。

ミルトンは歌唱だけでなく、もちろん本芸のギターも弾いているのだが、あくまでも曲本来の味わいを壊さないよう、控えに弾いているのがなんとも微笑ましい。

ゴリゴリの弾きまくりは無いけど、これもまたブルース・ギターのありかただなと、思った次第です。ハイ。

70年代以降のブルーズンソウルなリトル・ミルトンもいいけど、たまにはどっぷりブルースに浸ったミルトンも悪くない、そう感じさせる一枚でした。

独断評価>★★★★

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音盤日誌「一日一枚」#372 THE ROLLING STONES「ベガーズ・バンケット」(ABKCO UICY-20001)

2022-11-21 05:00:00 | Weblog
2022年11月21日(月)



#372 THE ROLLING STONES「ベガーズ・バンケット」(ABKCO UICY-20001)

音盤日誌「一日一枚」ではこれまで約一年間、ずっと過去投稿分の再収録を続けてきた。

が、昨日で過去分すべてのアップを完了したので、きょうからはいよいよ、リアルタイム更新を始めたいと思う。

改めて、よろしく。

さて、リアタイ版第1回、記念すべきファースト・ステップはこれ。

ストーンズ、68年リリースのオリジナル・アルバム「べガーズ・バンケット」である。

この一枚について語り出したら、いくら字数があっても足りないのだが、今回は簡潔にまとめよう。

「べガーズ」こそはストーンズ黄金時代の魁(さきがけ)となる一枚である。

前年の「サタニック・マジェスティーズ」の意味不明な迷走っぷりを完全に払拭して、「ストーンズは死なず」「ストーンズここにあり」と彼らのファンのみならず、全ロックファンを納得せしめた、名アルバムなのだ。

のちにライブでの定番となる「悪魔を憐れむ歌(M1)」「ストリート・ファイティングマン(M6)」を基軸に、ストーンズの本来の魅力、すなわち全ての既成概念に対して「ノー」を突きつける暴力性、不良性が全面に押し出すことに成功している。

サウンド的には、彼らのお家芸であるロックンロール、ブルース・ロック的なものに固まることなく、時にはアコギ中心でドラムを使わないなど、カントリーやフォーク、あるいはアコースティック・ブルースなスタイルを試みており、非常にバラエティに富んでいる。

これらに共通して言えることは、いずれも彼らのルーツ・ミュージックと呼べる音楽スタイルだということだろう。

それ以外で特に注目すべきは、プレイヤーとしてのキース・リチャーズの成長ぶりだろう。

かつてはバンド創始者ブライアン・ジョーンズが音楽性をリードしていたストーンズであったが、ジョーンズの私生活の乱れに伴って次第に求心力を失っていったのが67から69年頃であった。

ソングライターチームとしてのジャガー=リチャーズがめきめきと力をつけ、ギタリストとしてのリチャーズもどんどん腕を上げていった。

オープンチューニングによるスライドギター、これもジョーンズよりリチャーズのプレイの方が精彩を放つようになった。(例えばM5「ジグソー・パズル」がそうだ)

もはやバンドは、単なる厄介者のジャンキーを必要としなくなっていたのだ。

そしてリチャーズは歌の方にも手を伸ばすようになる。

アルバムラスト(M10)の「地の塩」では、ミック・ジャガーと共同ではあるが、リードボーカルに挑戦しているのだ。

上手いと言うよりは、枯れた味わいがあるというべきその歌は、リチャーズの後年のソロ活動にも繋がっていく第一歩と言えるだろう。

最後に、このアルバムの成功の陰の立役者を紹介しておこう。

その人の名は、ジミー・ミラー。

本作より73年の「山羊の頭のスープ」に至るまで、ストーンズのアルバムを制作し続けたプロデューサーである。

元々はドラマーで、トラフィック、ブラインド・フェイスをはじめとするバンドのプロデュースを手がけている男。

表にこそ登場することはないものの、このミラーという男の確かな感性が、ストーンズを「中興」へと導いたことは、その後のアルバムの内容も聴き合わせてみるに、間違いない。

「サタニック〜」の失敗を踏まえて、自分たちが本来あるべき路線へと大きく舵を切り直したストーンズ、そしてジミー・ミラーは、掛け値なしに凄い才能の持ち主だと思う。

単なる流行りもののバンドから、「本物」へと変身を遂げたモニュメントな一枚だ。必聴。

<独断評価>★★★★★





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音盤日誌「一日一枚」#371 THE YARDBIRDS「ROGER THE ENGINEER」(Epic FE 38455)

2022-11-20 05:09:00 | Weblog
2000年11月某日



#371 THE YARDBIRDS「ROGER THE ENGINEER」(Epic FE 38455)

ジェフ・ベック在籍時、すなわち第三期のヤードバーズのオリジナル・アルバムである。これでようやく、三大ギタリスト揃い踏みってことですな。

1966年発表時には12曲収録、後にリイッシューされた盤ではジミー・ペイジ加入後の「サイコ・デイジーズ」「幻の十年」も加わって14曲となったこのアルバムでは、インストの「ジェフズ・ブギー」をはじめとする多くの曲で、ベックのトリッキーでトンガったプレイを聴くことが出来る。

すなわち「サイケデリック・サウンド」の誕生である。知っている人しか知らない話だが、東芝音楽工業から初めてリリースされたときには「サイケデリックのエース」なんてトンでもなタイトルがついてたんだぜ(笑)。

それはともかく、このアルバムにも、ヤードバーズに多大の影響を与えたスタンダード・ブルースが2曲おさめられている。クレジットこそメンバーの名になっているものの、「ナッズ・アー・ブルー」はまさしくエルモア・ジェイムズ(さらに言えばロバート・ジョンスンだが)の畢生の名曲、「ダスト・マイ・ブルーム(ス)」そのものである。ちなみに、この曲では珍しくベックがリード・ヴォーカルをとっており、また、この「ナッズ(究極という意味)」というタイトルから、トッド・ラングレンがデビュー時のグループ名をつけたという小ネタもある。

もう1曲、「ラック・マイ・マインド」もメンバー名義になっているものの、実はスリム・ハーポことジェイムズ・ムーアの「ベイビー、スクラッチ・マイ・バック」の歌詞だけをかえたものである。以上の2曲はともに、「BBCセッションズ」というアルバムでは、原曲のタイトルと歌詞で収録しているので、そちらも聴いてみて欲しい。

発表当時、クリームと並んでもっとも先進的なサウンドを追求していたヤードバーズ、というかジェフ・ベックだが、やはりブルースから得たインスピレーションには多大のものがあったことが伺える1枚である。

<独断評価>★★★★☆


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音盤日誌「一日一枚」#370 HUMBLE PIE「SMOKIN'」(A&M UICY-94069)

2022-11-19 05:00:00 | Weblog
2000年11月某日



#370 HUMBLE PIE「SMOKIN'」(A&M UICY-94069)

オリジナル・メンバーのピーター・フランプトンが脱退し、かわりに元コロシアムのギタリスト、デイヴ・"クレム"・クレムソンが加入したパイ中期、72年のアルバム。

ピーターがいた頃はどこか木に竹をついだ感じで中途半端にジャズっぽかったサウンドも、完全にブルース一色に塗り直されている。気合いの入った一作。

いわゆるスタンダード・ブルースに当てはまるのは「オールド・タイム・フィーリン」(トラッド)と「アイ・ワンダー」(ギャント/レビーン)くらいだが、白人ロックンローラー、エディ・コクランの名曲「カモン・エブリバディ」もここではまっ黒け状態。絡み合うツイン・リードのソロがカッコいい。数あるカバー・ヴァージョンの中でもベストの出来栄えである。

その他のオリジナル、たとえば「ホット・ン・ナスティ」「穴ぐらの30日間」なども首まで泥水につかったかのようなディープさ。スティーブ・マリオットのソウルフルな歌いっぷりは、一度聴いたら忘れられない。「アイ・ワンダー」の熱唱には、思わず鳥肌がたってしまう。その早すぎる死が惜しまれる人だ。

ハンブル・パイは、その強烈なブラックミュージック・マニアのイメージが災いして、セールス的には今ひとつだったが、 今聴いてもまったく古臭いという感じはない。最近の形骸化したHM/HRよりよっぽど中身がつまってまっせ。

<独断評価>★★★★☆



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音盤日誌「一日一枚」#369 DEREK & DOMINOS「LAYLA & OTHER ASSORETED LOVE SONGS」(Polydor POCP-1151)

2022-11-18 05:00:00 | Weblog
2000年11月某日



#369 DEREK & DOMINOS「LAYLA & OTHER ASSORETED LOVE SONGS」(Polydor POCP-1151)

デレク&ドミノス。1970年にエリック・クラプトンが結成した4人組グループ。このファースト・アルバムではゲストに"スカイ・ドッグ"デュアン・オールマンを加え、緊迫感あふれる演奏、そして、リラックスしたクラプトンのヴォーカルを聴くことが出来る。

この邦題「いとしのレイラ」なるアルバムでも、数曲のスタンダード・ブルースが取り上げられている。

まずはJ・コックス作曲の「だれも知らない」。夭折の天才R&B歌手、サム・クックのヴァージョンで知られているこの曲を、クラプトンはよりブルージーにアレンジして歌っている。

次には、「ハイウェイへの関門」。これは多作で有名なビッグ・ビル・ブルーンジーの作品だが、マディ・ウォーターズも「ロンドン・セッション」で自分の曲ということにして歌っている。著作権に関していい加減なのはZEPだけではないということか。フェード・インで始まる演奏は、延々とエンドレスな乗りで続く。デュアンの空間を切り裂くようなスライド・プレイが光る名演。

もう1曲はB・マイルズ作の「愛の経験」。これはクラプトンの敬愛するフレディ・キングの超熱演ヴァージョンが有名だが、クラプトンも思い切りディープに歌い込んでいる。

もちろん、オリジナル曲も、形式こそオーソドックスなブルースではないが、ブルース・スピリットに満ちあふれている。

アルバムタイトルともなった「いとしのレイラ」。ここでのオールマンのスライド・プレイは、すべてのスライドギター奏者の琴線に触れるパーフェクトな出来であると言えるだろう。そして忘れていけないのは、クラプトンの渾身のシャウトだ。かつて歌が上手いとは言われなかった彼が、ここまで成長するとは誰が想像しただろう。

「リトル・ウィング」は、クラプトンにとって最大のライバルだったジミ・ヘンドリクスの作品。ジミ版とは異なったアレンジに、ECの「意気地」を感じる好トリビュートである。

一方、コーラス・ワークが充実しているのが、このバンド、そしてこのアルバムの際立つだった特長だ。「テル・ザ・トゥルース」にせよ、「キープ・オン・グロウイング」にせよ、「エニーデイ」にせよ、クラプトンの相方としてのボビー・ウィットロックの歌唱力無くしては、成立しなかった曲だと思う。

全14曲、まったく捨て曲のない密度の高い内容。ロック・スタンダードとして永久に残る1枚と言えそうである。

<独断評価>★★★★★

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音盤日誌「一日一枚」#368 CREAM「FRESH CREAM」(ATCO SD 33-206)

2022-11-17 05:11:00 | Weblog
2000年11月某日



#368 CREAM「FRESH CREAM」(ATCO SD 33-206)

クリームは66年から68年にかけて活躍したグループだから、もうオールディーズみたいなものだが、そのサウンドは依然として新鮮さを失っていない。まさにこのアルバム・タイトルのように。

クリームの凄いところは上げていったらキリがないが、ブルースを型にはめず、さまざまなアレンジを加えて、革新的なポップ・ミュージックに仕上げていったところが意外に言及されていないように思う。

その到達点がアルバム「クリームの素晴らしき世界(Wheels Of Fire)」であろうが、その萌芽はすでにデビュー・アルバムである本作に見ることができる。全11曲中、5曲がスタンダード・ブルースというコテコテ状態なのだが、聴いてみるとさほどでもない。ライブとは違った、ヴァラエティ豊かな編曲の賜物であろう。

クリームの代表曲といえば、なんといっても「スプーンフル」である。ライブでも名演を残しているが、コンパクトなスタジオ録音版でも、ジャック・ブルースの熱唱とクラプトンの粘っこいソロが聴ける。

「猫とリス」は、知る人ぞ知るマルチ・ミュージシャン、ドクター・ロスのカバー。ブルースは得意のハープをご披露。

「フォー・アンティル・レイト」はかのロバート・ジョンスンの作品。シビアな歌詞の割りに妙に陽気なカントリー調の曲。あまりにも有名な「クリームの素晴らしき世界」収録の「クロスロード」とはガラッと趣きを異にして、リラックスした感じの演奏である。

「ローリン・アンド・タンブリン」はマディ・ウォーターズの代表曲。ベースレスでブルースがハープを吹きまくる、きわめつけの熱演。「ライブ・クリーム」にも収録されている。

「アイム・ソー・グラッド」はスキップ・ジェイムズの作品。ジンジャー・ベイカーを加えた三声コーラスが聴ける、珍しい曲。デビュー・シングル「包装紙」もそうだが、クリームは米国市場を相当意識しているようで、コーラスやピアノの使い方に英国のグループらしからぬアメリカンっぽさがぷんぷんと漂っている。

この66年発表の1枚が、ブルース・ブームの後押しにきわめて大きな役割を果たしたのはいうまでもない。

<独断評価>★★★★☆

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音盤日誌「一日一枚」#367 LED ZEPPELIN「LED ZEPPELIN II」(Atlantic 7567-82633-2)

2022-11-16 05:03:00 | Weblog
2000年11月某日


#367 LED ZEPPELIN「LED ZEPPELIN II」(Atlantic 7567-82633-2)

ファースト・アルバムを紹介した以上、セカンドにも是非言及しておきたい。

1969年の末、ファーストから1年おかずに早ばやとリリースされたこのアルバムはアメリカ、本国イギリスのみならず日本でも、前作以上に大ヒットし、いまだにコンスタントに売れつづけているモンスター・アルバムでもある。

このアルバムにも、(クレジット上は彼らのオリジナルとなっているが)ブルースのスタンダードと言ってもよい2曲が収録されている。「ザ・レモン・ソング」と「ブリング・イット・オン・ホーム」である(推薦盤のページ参照)。

ともに、オリジナルの歌詞を加えたり、テンポ・チェンジをしたりで、原曲とは一味違った仕上がりになっているが、根幹の部分はシカゴ・ブルースそのものである。前者については、作曲者のハウリン・ウルフことチェスター・バーネットより盗作のかどで訴えられたものの、非公式に解決している。製造年度によっては、アルバムジャケットに「キリング・フロア」と記されているのがあるのも、そのためである。

さらには、アメリカでシングル・ヒットともなった「胸いっぱいの愛を」では、歌詞をウィリー・ディクスンの「ユー・ニード・ラブ」からまるごとパクっている。これも、近年のマキシ・シングルではメンバーの名とともにディクスンの名を併記することでトラブルを解決している。

黒人ブルースのやや単調な曲構成やリズムを、彼ら流の複雑で技巧的なものに置き換えながらも、ブルース本来の野趣を失わない(いいかえれば泥臭い)演奏・歌唱をしたことが、アメリカ人に大いにアピールしたといえそうだ。その意味では、ロバート・プラントはまさしくエルヴィス・プレスリーの正継なのである。

<独断評価>★★★★★

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