2024年5月3日(金)
#393 ポール・バターフィールズ・ベター・デイズ「Too Many Drivers」(Bearsville)
#393 ポール・バターフィールズ・ベター・デイズ「Too Many Drivers」(Bearsville)
ポール・バターフィールズ・ベター・デイズ、1973年リリースのセカンド・アルバム「It All Comes Back」からの一曲。アンドリュー・ホッグ(スモーキー・ホッグの本名)の作品。ジェフ・マルダー、ポール・バターフィールド、ニック・ジェイムスンによるプロデュース。
ポール・バターフィールズ・ベター・デイズは、ブルースハーピスト、ポール・バターフィールドを中心に結成されたバンド。バターフィールド・ブルース・バンドを71年に解散後、ニューヨーク州ウッドストックに移住したバターフィールドが、当地で出会ったミュージシャンたちと作った。73年にレコードデビュー。
メンバーはバターフィールドのほか、ギターのエイモス・ギャレットとジェフ・マルダー、キーボードのロニー・バロン、ベースのビリー・リッチ、ドラムスのクリス・パーカーの6人。のちにスタッフなどのバンドやソロ活動で注目されることになる、実力派ミュージシャン揃いである。
同年リリースの、セカンド・アルバムのオープニング・チューンが本日取り上げた「Too Many Drivers」だ。
この曲は、直接的にはテキサス出身の黒人ブルースマン、スモーキー・ホッグ(1914年生まれ)の、47年リリースの自作シングル曲のカバーだが、こういう有名なブルース曲のご多分に漏れず、元ネタがある。
1939年にシカゴのブルース・ボス、ビッグ・ビル・ブルーンジーがリリースしたシングルがそれだ。作者はブルーンジー自身とクレジットされている。
歌詞はいわゆるダブル・ミーニングの典型例で、女性を自動車に例えている。魅力的な女性には、乗りたがる運転手(男)が多すぎるという、皮肉でエロティックな歌詞がなんとも可笑しい。
ホッグ版「Too Many Drivers」はテキサスではローカル・ヒットし、その影響からか、ライトニン・ホプキンスが49年に「Automobile」のタイトルでカバーしている(のちに「Automobile Blues」そして「Too Many Drivers」に改題)。
本曲は50年代にはR&Bグループのラークス、ブルースシンガーのウィリー・ラヴらがカバーしているが、なんといっても決定版は、先日も取り上げたばかりのローウェル・フルスンだ。
フルスンはこの曲を53年にスウィングタイムレーベルよりシングルリリースした。でも、より世間に知られているのは、60年代のケントレーベルでの再録音バージョンシングルだろう(66年リリースのアルバム「Soul」に収録)。
これにより、ブルース・ファンの多くは「Too Many Drivers」というと、真っ先にフルスンの名前を思い出すくらいになったのである。
ちなみにフルスンもホッグに敬意を表して、彼の名をクレジットしている。
さて、いよいよ本題のベター・デイズ版であるが、ギターをフィーチャーしたアレンジが大半であった過去のバージョンとは対照的に、バターフィールドのパワフルなハープを全面的にフィーチャーした構成になっている。
ホッグ版、フルスン版、ホプキンス版などよりはぐっとアップテンポで、アッパーなノリが聴く者を大いにエキサイトさせるナンバーである。
バックの演奏もタイトで実にイカしている。70年代らしくアップデートされたブルースだと感じる。
こういうロックの時代を反映したサウンドを生み出せるブルース系のバンドは、他にはなかなか生まれなかった。ベター・デイズは本当に希少な存在だと思う。
ところで、ブルースセッションに長らく関わって来た筆者の感想を述べるならば、日本でハープを吹くブルースミュージシャンは、ギタリストなどに比べると「守旧派」「保守派」が相当多いように感じる。
つまり、昔ながらのシカゴ・ブルース・スタイルをフルコピーして、それで満足している人が多い気がする。当然のように彼らは、バッキングも古いスタイルを好む傾向にある。
しかし、白人ブルース・ハーピストのパイオニア、ポール・バターフィールドは、そういうステージにとどまろうとはしなかった。新たな時代には新たなサウンドを求めて、次なるステージへと進んでいった。その大きな成果が、ベター・デイズのレコードだと思う。
現役時にはいまひとつ注目されることのなかったベター・デイズの音も、改めて聴き直してみると、本当に新鮮であり、際立った革新性を感じる。
日本のハーピストのみなさんも、懐古趣味ばかりに走らず、こういった進化形のブルースにも積極的にチャレンジして欲しいもんだ。
この「Too Many Drivers」は、次にリリースしたウインターランドでのライブ盤でも演奏しており、そちらもスタジオ版以上にパワーアップしたパフォーマンスが聴ける。合わせて楽しんでほしい。