NEST OF BLUESMANIA

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音曲日誌「一日一曲」#403 ハウリン・ウルフ「Sitting On Top Of The World」(Chess)

2024-05-13 08:44:00 | Weblog
2024年5月13日(月)

#403 ハウリン・ウルフ「Sitting On Top Of The World」(Chess)







ハウリン・ウルフ、1957年録音、58年リリースのシングル・ヒット曲。チェスター・バーネット(ウルフの本名)の作品。レナード・チェス、フィル・チェスによるプロデュース。アルバム「Real Folk Blues」(1966年リリース)に収録。

米国のブルースマン、ハウリン・ウルフは1910年ミシシッピ州ホワイトステーション生まれ。17歳でギターを始めて1930年代にチャーリー・パットンに師事、メンフィスなど南部地域でプロシンガーとして活動後、チェスと契約、52年末シカゴに移住する。

以降ヒットを連発してウルフの黄金時代が始まるわけだが、後の白人ロックバンドにも強い影響を与えることになるシングル・ヒット曲を、いくつか出す。先日本欄でもピックアップした1960年リリースの「Spoonful」、そして本日のメインテーマ、「Sitting On Top Of The World」である。

この曲はウルフの作品としてクレジットされてはいるが、もともとは1930年代に活躍したカントリー・ブルースのバンド、ミシシッピ・シークスの初のヒット曲である。同グループの中心人物、ウォルター・ヴィンスン、ロニー・チャットモンが作り、1930年にシングルリリースされている。

恋人に去られてしまったが自分は大丈夫、世界のトップに立っているからという、やたらと楽観主義な歌詞が特徴的な、ポジティブ・ブルース。

そのタイトルは、1920年代にアル・ジョルスンらにより歌われてヒットしたポピュラー・ソング「I’m Sitting On Top Of The World」に影響されたものと見られている。両者、歌詞的に共通するものはまるで無いのだが。

ミシシッピ・シークスの歌詞に大幅に手を加え、オリジナルではフィドル(バイオリン)をフィーチャーしていたのに対して、ウルフのハープ、そしてヒューバート・サムリンのギターを中心とした典型的なシカゴ・ブルース・サウンドにアレンジして、この「Sitting On Top Of The World」は半世紀ぶりに甦った。

レコーディングメンバーはウルフ、サムリンのほか、ピアノのホセア・リー・ケナード、ベースのアルフレッド・ウィルキンス、ドラムスのアール・フィリップス。

そして、60年代の英国のブルース・ブームにより、白人ロックミュージシャン達もこの曲に注目して演奏するようになる。

いうまでもなく、かのクリームである。

クリームの初の2枚組アルバム「Wheels Of Fire」(68年リリース)でスタジオレコーディングされた本曲は、さらに翌69年にリリースされた「Goodbye Cream」にてライブ版が収録された。

そして、この曲や「Spoonful」をカバーした縁で、1970年にはウルフと元クリームのエリック・クラプトンの共演が実現、「The London Howlin’ Wolf Sessions」というアルバムが翌71年リリースされることになる。

そのアルバムでは、ずっと憧れの対象であったギタリスト、サムリンとともに本曲を弾くクラプトンの様子を知ることが出来る。

ソロパートで、サムリンのトリッキーなスタイルを意識しながらも、少し抑えめに弾くクラプトン。ちょっと緊張しているのだろうか。

この曲、8小節ブルースの定型パターンに手を加えて、9小節にしたアレンジが、ちょっとイカしている。これは、ギターのサムリンの手柄と言えるだろう。

ウルフのどちらのバージョンも、彼のアンプを通さないハープの音色が一番耳に残る。

それはまさに鄙びたミシシッピを吹く風のような響きである。長らくシカゴにいても、ウルフはそのルーツであるデルタを強く感じさせるブルースマンなのだ。

この曲は、60年代にグレイトフル・デッドがカバーしたのをはじめとして、クリームでの歌い手であったジャック・ブルースが80年代に鈴木賢司、アントン・フィアとのセッションで再演したり、2000年代にはストライプスのジャック・ホワイトがアコースティック・アレンジで歌うなど、長い生命を保ち続けている。

いつの時代も、この曲の独特のメロディラインに魅せられるミュージシャンがいることの証明だろう。読者のみなさんにもぜひ、その魅力を再確認していただきたい。









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