NEST OF BLUESMANIA

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音曲日誌「一日一曲」#397 カルロス・ジョンスン「I’ll Play The Blues For You」(P-Vine)

2024-05-07 09:02:00 | Weblog
2024年5月7日(火)

#397 カルロス・ジョンスン「I’ll Play The Blues For You」(P-Vine)





カルロス・ジョンスン、2007年2月リリースのライブ・アルバム「Live At B.L.U.E.S. On Halsted」からの一曲。ジェリー・マーロン・ビーチの作品。高地明、マサキ・ラッシュ、ジョンスン自身によるプロデュース。シカゴのブルースクラブ「B.L.U.E.S.」にて録音。

米国のブルースマン、カルロス・ジョンスンは1953年、シカゴ生まれ。70年代よりブルースギタリストとして活動していたが、広く名前を知られるようになるのはかなり遅く、2000年、ハーピストのビリー・ブランチ率いるザ・サンズ・オブ・ブルース(SOB)に参加して、アルバムにも名を連ねたあたりからだろう。

ルリー・ベル、カール・ウェザーズビーといった前任のギタリストに代わって、無名に近いが技術・フィーリング共に卓越したギタリストが登場したことで話題になる。またリードボーカルも2曲担当しており、歌うことにも積極的な姿勢が感じられた。

彼は実は1989年、女性シンガー、ヴァレリー・ウェリントンのバックミュージシャンとして来日、ライブ演奏を披露していた。その時一部のコアなファンには、そのギタープレイを注目されていたようだ。

SOBでのレコードデビューに続き、翌2001年にはソロ・アルバム「My Name Is Carlos Johnson」をブルース・スペシャルレーベルよりリリース。

以後はブランチとのデュオによる「Don’t Mess With The Bluesmen」を2004年、またセカンド・アルバム「In And Out」を同年にリリースしている。

本日取り上げた一曲が収められたライブ・アルバムは、日本のブルースレーベル、Pヴァインが企画制作した。日本にも熱烈なジョンスンのファンが増えて来ており、その希望に応えたということなのだろうが、その理由は何かといえば、間違いなく2004年のジョンスン来日が引き金だろう。

2004年春のジャパン・ブルース・カーニバルの目玉は、ベテラン・ブルースマン、オーティス・ラッシュの出演だった。

ところが、その年の初めにラッシュは脳梗塞で倒れており、その後遺症で立つこともギターを弾くことも叶わず、来日公演が危ぶまれていた。

しかしなんとか公演は実現する。代任ギタリストとして、ジョンスンに白羽の矢が立ったのである。

筆者もそのブルース・カーニバルでラッシュとジョンスンを観ることが出来たのだが、渾身の力で歌い切るラッシュに感動したのはもちろんのこと、そのバックで火が出るようなプレイをするジョンスンにも、胸を熱くしたものだ。

筆者だけでなく、他のオーディエンスにもジョンスンの名は強く刻まれたのである。

そんな背景のもと、ジョンスン本人のほか、ラッシュ夫人で日本出身のマサキさん、Pヴァインの創始者高地氏がプロデューサーとなって、ジョンスン地元のシカゴでのライブをレコーディングした。これが、実に良質のブルース・アルバムとなったのである。

演奏メンバーは、ジョンスンのほか、ベースのサム・グリーン、キーボードのデイヴ・ライス、ドラムスのジェイムズ・ノウルズ、そしてホーン・セクション。

このバンドが生み出すサウンドが、この上なくブルースそのものなのだ。

本日取り上げた一曲「I’ll Play The Blues For You」はもちろん、アルバート・キングが72年にリリース、R&Bチャート1位の大ヒットとなったシングルナンバー。

作曲者はジェリー・ビーチ(1941年生まれ)。彼は自身もブルースミュージシャンであったが、この曲をキングに提供したことによって、ソングライターとしての最高の栄誉を獲得した。同曲はグラミー賞にノミネートされ、2017年にはブルースの殿堂入りも果たしている。

キングのオリジナルバージョンは、終始ゆったりとした静かめなムードにアレンジされているが、ジョンスンのライブは、わりと起承転結がはっきりとしている、非常にドラマティックな構成だ。

前半はジョンスンのギターソロから始まり、彼の歌に続く。

ライスによるピアノソロ、オルガンソロがそれを引き続くが、ここまではわりとジャズィなスタイルで、落ち着いた大人なブルースである。

しかし、再びジョンスンがギターソロに入ったあたりから、彼本来のスクウィーズ・スタイルが炸裂して、オーディエンスにも熱が飛び火していく。まさに、ブルースの醍醐味だ。

そこでちょっとクール・ダウンした後、後半の怒涛の展開に突入。

執拗なスクウィーズの繰り返しが、ライブ会場全体を興奮の坩堝に叩き込む。

えげつないまでにギターの音色は歪み、本曲は最高潮のうちにエンディングを迎えるのだった。

ジョンスンは、左利きのギタープレイヤーのひとりだが、レフティ用に作られたギターではなく、通常の右利きギターを逆に持って弾くというやり方を取っている。

そう、これはジョンスンも敬愛するふたりのレフティ・ブルースマン、オーティス・ラッシュとアルバート・キングが弾いているスタイルなのである。

そのふたりが乗り移ったかのような、白熱のプレイ。掛け値なしにスゴい。間違いなく、現役ブルースマンの中で、最高峰のギターを弾くひとりだと言える。

カルロス・ジョンスンは、その抜きん出た実力に比べて、知名度、レコードの枚数、セールス実績など、すべてが過小評価されているアーティストである。来日公演も途絶えて久しい。

今年71歳。ブルースマンとして、そろそろ集大成となるアルバムを出してもよい頃合いだ。ぜひ新作をリリースして、われわれブルース・ファンを喜ばせてほしいものだ。






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